Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

わたしのうた

2012/05/04 13:06:12
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     1.

 向こうまではまだまだかかりそうだねぇ。暇潰しに何か話そうか。
 そうだ、この話をしてやろう。なに、そんなに長くはかからないよ。
 昔々のお話さ。


     *


 昔々、ごく普通の女の子がいました。
 女の子には夢がありましたが、親に反対され、家を出て森で一人で生活するようになりました。
 研究に没頭したり、宴会に顔を出したり、異変解決に奔走したり。
 概ね良好と言えた女の子の日常は、ある時を境に大きく変わりました。

 女の子は魔法を使いましたが、魔法使いではありませんでした。
 年をとるし、食事や睡眠は欠かせません。
 女の子は研究にのめり込むあまり、そのことを忘れてしまっていたのです。
 空腹と睡眠不足で倒れた女の子を介抱したのは、同じ森に住む魔法使いでした。
 魔法使いは女の子を対等の存在とは見ていませんでしたが、その努力や能力には一目置いていました。
 女の子は介抱のお礼がしたいと言いました。
 魔法使いはしばらく悩んだ後、「星が見たい」と返しました。
 星を生み出すのには慣れています。普段から研究を積み重ね、弾幕にも用いているのですから。
 しかしそれでは足りない。そう思った女の子は試行錯誤を重ね、ようやく完成に至りました。
 女の子はその夜魔法使いを呼び出し、空いっぱいに星をちりばめました。
 その煌きは、今まで誰も見たことのないほど素晴らしいものでした。
 息を呑む魔法使いを満足げに見ていた女の子は、ふいに糸の切れた人形のようにぱたりと倒れました。
 無理がたたったのか、魔法の負担が大きかったのか、あるいは両方か。
 小さな体は軽く、冷たく。
 その魂は彼岸へと渡りましたとさ。


     *


 悲しい話だと思うかい?
 確かに結末は悲しいかもしれないが、優しい話だと思うよ。
 その魔法使いがどうなったかって?
 ……それは、お前さんが一番よく知ってるだろう?





     2.

 お前さん、なかなか良い人生を送ったようだね。もしかしたら天界に行けるかもしれないよ。
 え、天界は嫌? 冥界がいいって? 物好きだねぇ。
 閻魔様が決めることだから、どうなるかはわからないけどね。
 そうだ、ちょいと昔話をさせとくれ。
 私のじゃないよ。今までに運んだ誰かの、さ。


     *


 昔々、人形遣いがいました。
 人形遣いは森で一人静かに暮らしていましたが、時折訪ねて来る人がありました。悪魔の館に仕える従者です。
 従者は忙しい仕事の合間を縫って、週に一度は人形遣いのところに顔を出しました。
 何度戸を叩く音を聞いたでしょうか。
 いつしか人形遣いは、その音を心待ちにするようになったのです。
 ところがある週、従者は顔を見せませんでした。
 それが二週、三週と続き、ついに二月が経ちました。
 館を訪れた人形遣いを待っていたのは、現実。
 枯れ枝のような腕、水分の少ない肌に刻まれた皺。
 もう長くはない。
 誰の目にも明らかな事実を受け入れられず、人形遣いは逃げるように館を飛び出していきました。
 立つこともできなくなった従者には、ただその背を見送るしかできませんでした。
 健康そのものだった人形遣いは、従者の死から程なくひっそりと息を引き取りました。
 自殺ではありません。
 心が耐え切れなくなっただけなのです。


     *


 心ってのは、体より脆いものだから。
 悲しみが大きすぎると、立ち直れなくなるんだよ。
 この人形遣いは従者が二人目だったから尚更だろう。
 ……いや、別にあたいがサボってたからあんたの方が後になったわけじゃ……そ、そんなに怒るなって。
 異変のせいで忙しくて順番がごちゃごちゃになったんだよ。そう責めてくれるな。
 あ、ほら、もう岸に着くよ。





     3.

 ここへ来る生きた人間は大抵自殺したい奴……なんだけど、お前さんは違うみたいだね。
 見送り? 遅かったね、みんなもう送ったよ。
 しかし、あんたが一番長生きするとはね。そんな気はしてたけど。
 魔法使い、人形遣い、従者。
 お前さん、誰を見送りたかったんだい?
 ……そう。残念だったね。
 おや、もう帰るのかい? 歌でも聴いて行きなよ。
 どんな歌って、決まってるだろう。
 餞の歌、だよ。
渡しのうた。



突発的に小町の話が書きたくなったので。
1.はアリスが送られていて、女の子は魔理沙、魔法使いがアリス。
2.は咲夜で人形遣いがアリス、従者が咲夜。
3.で現れたのは霊夢です。
実は咲アリも好きなんだ……。

さて、少し補足を。
魔理沙があっさり死んでますが魔法って結構体力(?)使いそうなのでこんなものかなぁ、と。
魔理沙が死ぬのが二十代半ばぐらい、咲夜がアリスの元を訪れるようになったのは
魔理沙の死から十年ほど後なので享年は四十代後半~五十代前半。
早すぎな気もしますが、紅魔館での激務で……というのはありえると思います。

そろそろあやれいむ書きたいなぁ、とか思ってますが、その前に短編入る、かも?

少し暗い話になりましたが、お楽しみいただけたなら幸いです。
文羽
コメント



1.露草削除
こう、上手く言葉に出来ませんが…好きな話です。
2.名前が無い程度の能力削除
雰囲気が良いですね