「ゆーゆーこー。いるー?」
ドンドンと白玉楼の戸を叩く音と幽々子の名を呼ぶ声が聞こえる。
妖夢は永遠亭の妖怪兎と一緒に買出しに行っているので、いない。
幽々子はふわふわと玄関へと向かい、そーっと戸を少しだけ開ける。
「いるわよ。で、用は何? 卑猥なことを言う、もしくはするなら帰って頂戴」
「いやいや、相談したいことがあって」
「…ふーん、貴女が相談だなんて珍しいわね。とりあえず上がって」
幽々子と紫は居間へと向かう。
お茶と少量のお茶請けをコタツの上に置き、二人は向かい合わせで座った。
「それで、相談って?」
「うーん。ちょっと恥ずかしいんだけど…」
「でも言わないと分からないわ」
紫は顔を少し赤らめてもじもじしている。
こんな表情を見るのは長い付き合いの幽々子でも数えるほどしかなかった。
幽々子は紫が口を開くまで、様子を見ていた。
そして、紫は重々しく口を開く。
「えっと、幽々子にね(ピー)したり、(ピー)したり、(ドギャン)したりするにはどうすれば良いのかなって…」
「……わ、私さっき言ったわよね? そういう事言うんなら入れないわよって」
放送禁止になるくらい恥ずかしい単語を羅列し始める紫をなんとか抑えた。
だが、幽々子はあからさまな嘘をつく紫とその発言に赤面し、狼狽した。
あたふたを慌て始める幽々子を慈しむかのような表情で見つめる紫。
こんな状況なら通常、妖夢や霊夢に制裁を加えられ中断させられるところなのだが、ストッパーである妖夢・霊夢が不在のため、紫の暴走は止まらなかった。
「最初は恥ずかしいかもしれないけどね、それも最初だけよ。ねぇ…幽々子…」
「いやっ! それ以上聞きたくないっ! そんな話するんだったら帰って!」
心の底から拒絶している幽々子を見て紫の顔は紅潮していた。
どうやら、紫はこれが目的だったらしい。
幽々子にわざと猥談をもちかけ、嫌がる顔を見ようという魂胆のようだ。
…賢者、と呼べるのか疑問を抱いてしまうほど色好みな妖怪である。しかも、相手が親友。
だから月の民に穢れが多いと言われてしまうのでは無いのだろうか。
そんな紫の暴走は止まることを知らない。
対面に座っていたはずの二人がいつの間にか隣り合って座っている。
淫靡な瞳で幽々子を見つめる。
「ねぇってば~…ゆゆこ~…」
「そっ、そんな猫撫で声出しても……!!」
「幽々子は私の事嫌い?」
「いや、そういうわけじゃ…」
「じゃあ、ね?」
「いやいや! ちょっと、服を脱がさないで脱がないで!」
いよいよ幽々子一人では収拾がつかなくなってしまっていた。
紫は、自分の服と幽々子の服を脱がそうと尽力している。
スキマを使わないのは、簡単に脱がせてしまっては逆に興ざめしてしまうと言う理由らしいが定かではない。
しかし、それが本当にしろ嘘にしろ、紫が変人(妖)に変わりは無いだろう。
「ぅあっ…だから、もうやめてってばぁ…!」
「良い…良いわよ、その表情、声…へへへ……」
紫一人の努力で、お互いの服は殆ど肌蹴ていた。
幽々子は必死に抵抗するものの焼け石に水だったようで、妖怪の力にかかれば元人間だった幽々子が力で負けるのは当然の話だった。
それを知っている紫は、幽々子の腕を押さえつけ、それ以外は何もせずに敢えて焦らせていた。
対する幽々子は「いや、いや…」と、涙目で生娘のように怯えているばかりであった。
「おい、紫。何してるんだ、こんな所で」
突然隣から声がした。
二人同時に顔を向けると、そこには霧雨魔理沙が仏頂面で立っていた。
静かな憤怒の気を感じる。
どうやら相当怒っているようだ。
「お前、私との約束を破って他の女と遊んでいたって訳か。まぁ、幽々子との関係は知っていたが…そんなに深い間柄だったとはな」
紫の表情は徐々に曇る。
口から漏れていた唾液もいつの間にか引っ込んでいた。
その点幽々子の方は先ほどとは違う涙を流していた。
恐らく安堵の涙だろう。
「で、でもね魔理沙。幽々子が常日頃から誘ってきてるから…ね?」
「なっ!?」
安心していたのも束の間。
紫の口から胡散臭い嘘が漏れる。
その嘘は、魔理沙の怒りの炎に薪をくべるようなものだった。
「お前……まだ、そんな出まかせを……!! 幽々子がお前の事を誘うわけが無いだろ!?」
しかし、魔理沙の最後の一言を聞いた途端紫が立ち上がる。
「幽々子が私を誘うわけが無い…ですって? どうしてそんな事が言えるのかしら」
「だって、幽々子は霊夢の事が好きなんだろ? だったら、お前の事なんか…」
「ちょ、ちょっとストーップ!」
幽々子が魔理沙の口を押さえる。
これ以上謂れもない事に巻き込まれたくないという一心だった。
魔理沙がもがもがと苦しそうに悶えたあたりで手を放してやった。
「何で私が霊夢を好きにならなくちゃいけないのよ!?」
「だって、ちょくちょく神社に行ってるって聞いたぜ。妖夢からな」
「それだけじゃ理由にならないわよ」
「いんや。理由も無しにあんな辺鄙なところに行くわけがないだろ? じゃあ、その理由は何かって言ったら『霊夢に会いに行ってる』くらいしか思いつかない。違うのか?」
「ちがーう!」
「ほらね。やっぱり、親友であるこの私が……」
「貴女も違うっ!」
「がーん」
紫は畳に臥して泣いていた。
もちろん、嘘泣きだ。
一方魔理沙は、少々気まずい表情になっていた。
人の意中の相手をあれだけ豪語してその結果が違っていたのだ。
恋の魔法使いとしてこれほど気まずいことは無いだろう。
幽々子も赤面し辟易していた。
何より、色恋沙汰などの経験が皆無の幽々子にとってこの手の話となれば、耳を塞いでしまうほどとても疎いのだ。
まぁ、紫に襲われるなんて論外なのだが…。
「ほらっ、今日はもう帰って! 魔理沙はこれをどうにかして!」
「ん、分かったよ…。よっと」
魔理沙は紫を肩に担いで、いつもの通り箒で帰っていった。
姿が見えなくなると、幽々子は全身の力が抜けたように畳にくずおれる。
それからしばらくした後にやっと妖夢が帰ってきた。
手には買い物袋を携えて白玉楼の居間へと戻る。
「幽々子様~ただいま戻りました~」
「あっ、ようむ~! 遅かったわよぅ…!」
幽々子が泣きながら妖夢の胸に飛びつく。
突然飛びついてきたせいで、買い物袋を畳に落としてしまった。
そして、妖夢の表情は驚くのかと思いきや思い切り綻んでいた。
子供をあやす母親のような顔だった。
「どうしたんですか? 何か怖いことでもあったんですか?」
「…うん。」
抱きついたまま鼻水をずずっと音を立ててすすって答える。
妖夢の顔に徐々に黒い笑みが見える。
幽々子を抱きかかえ、奥の部屋へと移動する。
「そうですか…それはそれは、お困りでしょう…奥の部屋でじっくりじーっくりお話しましょうねぇ…」
「えっ、奥の部屋って…?」
「相談室ですよ。フフフふ……」
奥の部屋の襖が閉められると、すぐに一人の女の悲鳴が聞こえたという……
ドンドンと白玉楼の戸を叩く音と幽々子の名を呼ぶ声が聞こえる。
妖夢は永遠亭の妖怪兎と一緒に買出しに行っているので、いない。
幽々子はふわふわと玄関へと向かい、そーっと戸を少しだけ開ける。
「いるわよ。で、用は何? 卑猥なことを言う、もしくはするなら帰って頂戴」
「いやいや、相談したいことがあって」
「…ふーん、貴女が相談だなんて珍しいわね。とりあえず上がって」
幽々子と紫は居間へと向かう。
お茶と少量のお茶請けをコタツの上に置き、二人は向かい合わせで座った。
「それで、相談って?」
「うーん。ちょっと恥ずかしいんだけど…」
「でも言わないと分からないわ」
紫は顔を少し赤らめてもじもじしている。
こんな表情を見るのは長い付き合いの幽々子でも数えるほどしかなかった。
幽々子は紫が口を開くまで、様子を見ていた。
そして、紫は重々しく口を開く。
「えっと、幽々子にね(ピー)したり、(ピー)したり、(ドギャン)したりするにはどうすれば良いのかなって…」
「……わ、私さっき言ったわよね? そういう事言うんなら入れないわよって」
放送禁止になるくらい恥ずかしい単語を羅列し始める紫をなんとか抑えた。
だが、幽々子はあからさまな嘘をつく紫とその発言に赤面し、狼狽した。
あたふたを慌て始める幽々子を慈しむかのような表情で見つめる紫。
こんな状況なら通常、妖夢や霊夢に制裁を加えられ中断させられるところなのだが、ストッパーである妖夢・霊夢が不在のため、紫の暴走は止まらなかった。
「最初は恥ずかしいかもしれないけどね、それも最初だけよ。ねぇ…幽々子…」
「いやっ! それ以上聞きたくないっ! そんな話するんだったら帰って!」
心の底から拒絶している幽々子を見て紫の顔は紅潮していた。
どうやら、紫はこれが目的だったらしい。
幽々子にわざと猥談をもちかけ、嫌がる顔を見ようという魂胆のようだ。
…賢者、と呼べるのか疑問を抱いてしまうほど色好みな妖怪である。しかも、相手が親友。
だから月の民に穢れが多いと言われてしまうのでは無いのだろうか。
そんな紫の暴走は止まることを知らない。
対面に座っていたはずの二人がいつの間にか隣り合って座っている。
淫靡な瞳で幽々子を見つめる。
「ねぇってば~…ゆゆこ~…」
「そっ、そんな猫撫で声出しても……!!」
「幽々子は私の事嫌い?」
「いや、そういうわけじゃ…」
「じゃあ、ね?」
「いやいや! ちょっと、服を脱がさないで脱がないで!」
いよいよ幽々子一人では収拾がつかなくなってしまっていた。
紫は、自分の服と幽々子の服を脱がそうと尽力している。
スキマを使わないのは、簡単に脱がせてしまっては逆に興ざめしてしまうと言う理由らしいが定かではない。
しかし、それが本当にしろ嘘にしろ、紫が変人(妖)に変わりは無いだろう。
「ぅあっ…だから、もうやめてってばぁ…!」
「良い…良いわよ、その表情、声…へへへ……」
紫一人の努力で、お互いの服は殆ど肌蹴ていた。
幽々子は必死に抵抗するものの焼け石に水だったようで、妖怪の力にかかれば元人間だった幽々子が力で負けるのは当然の話だった。
それを知っている紫は、幽々子の腕を押さえつけ、それ以外は何もせずに敢えて焦らせていた。
対する幽々子は「いや、いや…」と、涙目で生娘のように怯えているばかりであった。
「おい、紫。何してるんだ、こんな所で」
突然隣から声がした。
二人同時に顔を向けると、そこには霧雨魔理沙が仏頂面で立っていた。
静かな憤怒の気を感じる。
どうやら相当怒っているようだ。
「お前、私との約束を破って他の女と遊んでいたって訳か。まぁ、幽々子との関係は知っていたが…そんなに深い間柄だったとはな」
紫の表情は徐々に曇る。
口から漏れていた唾液もいつの間にか引っ込んでいた。
その点幽々子の方は先ほどとは違う涙を流していた。
恐らく安堵の涙だろう。
「で、でもね魔理沙。幽々子が常日頃から誘ってきてるから…ね?」
「なっ!?」
安心していたのも束の間。
紫の口から胡散臭い嘘が漏れる。
その嘘は、魔理沙の怒りの炎に薪をくべるようなものだった。
「お前……まだ、そんな出まかせを……!! 幽々子がお前の事を誘うわけが無いだろ!?」
しかし、魔理沙の最後の一言を聞いた途端紫が立ち上がる。
「幽々子が私を誘うわけが無い…ですって? どうしてそんな事が言えるのかしら」
「だって、幽々子は霊夢の事が好きなんだろ? だったら、お前の事なんか…」
「ちょ、ちょっとストーップ!」
幽々子が魔理沙の口を押さえる。
これ以上謂れもない事に巻き込まれたくないという一心だった。
魔理沙がもがもがと苦しそうに悶えたあたりで手を放してやった。
「何で私が霊夢を好きにならなくちゃいけないのよ!?」
「だって、ちょくちょく神社に行ってるって聞いたぜ。妖夢からな」
「それだけじゃ理由にならないわよ」
「いんや。理由も無しにあんな辺鄙なところに行くわけがないだろ? じゃあ、その理由は何かって言ったら『霊夢に会いに行ってる』くらいしか思いつかない。違うのか?」
「ちがーう!」
「ほらね。やっぱり、親友であるこの私が……」
「貴女も違うっ!」
「がーん」
紫は畳に臥して泣いていた。
もちろん、嘘泣きだ。
一方魔理沙は、少々気まずい表情になっていた。
人の意中の相手をあれだけ豪語してその結果が違っていたのだ。
恋の魔法使いとしてこれほど気まずいことは無いだろう。
幽々子も赤面し辟易していた。
何より、色恋沙汰などの経験が皆無の幽々子にとってこの手の話となれば、耳を塞いでしまうほどとても疎いのだ。
まぁ、紫に襲われるなんて論外なのだが…。
「ほらっ、今日はもう帰って! 魔理沙はこれをどうにかして!」
「ん、分かったよ…。よっと」
魔理沙は紫を肩に担いで、いつもの通り箒で帰っていった。
姿が見えなくなると、幽々子は全身の力が抜けたように畳にくずおれる。
それからしばらくした後にやっと妖夢が帰ってきた。
手には買い物袋を携えて白玉楼の居間へと戻る。
「幽々子様~ただいま戻りました~」
「あっ、ようむ~! 遅かったわよぅ…!」
幽々子が泣きながら妖夢の胸に飛びつく。
突然飛びついてきたせいで、買い物袋を畳に落としてしまった。
そして、妖夢の表情は驚くのかと思いきや思い切り綻んでいた。
子供をあやす母親のような顔だった。
「どうしたんですか? 何か怖いことでもあったんですか?」
「…うん。」
抱きついたまま鼻水をずずっと音を立ててすすって答える。
妖夢の顔に徐々に黒い笑みが見える。
幽々子を抱きかかえ、奥の部屋へと移動する。
「そうですか…それはそれは、お困りでしょう…奥の部屋でじっくりじーっくりお話しましょうねぇ…」
「えっ、奥の部屋って…?」
「相談室ですよ。フフフふ……」
奥の部屋の襖が閉められると、すぐに一人の女の悲鳴が聞こえたという……