自室には今、私と妹がいる。珍しい光景……と、かつてなら言えたかもしれない。
「フランは最近、毎日私の部屋に来るわね」
「何か問題が?」
「いや、気になっただけよ」
昨日も一昨日もそのまた昨日も、そして今もフランはこうして私の側にいる。
確か、地下室を開放した時から。
何か理由があるのだろうか?
もしかしたら私の顔を見たいから……なんて淡い期待を込める。
「……外を見るためさ」
期待は呆気なく崩れた。悲しい。
「外を?」
「そう。私には外出の許可がない。だけど外をこの目で視てみたいの。そこでお姉様の部屋というのは、この紅魔館で最も高い場所に位置している。よって私はお姉様の部屋に毎日足を運んでいるの。決してお姉様に会いたいとかそういう感情ではない」
「そうなの、フラン。ごめんね。貴女が満足するまで好きなだけ眺めていきなさい」
私は妹を外に出してやれない悲しみと、こんなにも理知的に立派に育ってくれた嬉しさで涙しそうになる。
そうかそうか。外の景色を見たいがために私の部屋に通いつめていたのだな。
□ □ □
それから幾ばくもしない内にフランは外から目を背け、私に歩み寄って来る。
「あら、もう外はいいの?」
「ん」
フランは短く返事すると、私の膝の上に跨り、おもむろに抱きついてきた。
子供特有の高い体温がフランから伝わってくる。
「何故、フランは毎日私に抱きつくの?」
そういえば、これも毎日の事だ。
昨日も一昨日もそのまた昨日も、そして今もフランはこうして私に抱きついてくる。
確か、地下室を開放した時から。
何か理由があるのだろうか?
もしかしたら私に甘えたいから……なんて淡い期待を込める。
「心音を聴くためさ」
心音を聴くため?
「ふむ、確かに私の胸に耳を当てているわね。しかし何故?」
「紅魔館のトップが倒れ込んだら一大事だよね。だから私はお姉様の心音を検査、体調を管理しているのさ。勿論、個人的な感情はない」
「なるほど」
妹が聡明に育って嬉しい。
判り易く、理路整然としていてスムーズな会話運びだ。
私の事を心配をしてくれているようには感じなかったのが残念だけども。
「そんな事よりお姉様。早く頭を撫でてもらわないと」
「あら、それはどうして?」
「理由は一緒。今度は脈を測る」
「まぁフラン! 貴女は頭で脈が測れるというの?」
「……測れる」
「すごいのねぇ」
「いいから早く」
声に凄みが増したので大人しく撫でる事にしよう。
撫でる。
膝の上に抱っこして頭を撫でると、まるで子供を寝かしてつけるようだ。
ややあってフランは帽子を脱いだ。こうすると精度が上がるのだそうだ。
いやぁ、しかし役得だ。紅魔館のトップをやってて良かった。
「もっと優しく……そうそう、その調子ぃ……」
……なんか、随分眠たげな声ね?
大丈夫かしら。ちゃんと脈は測れてるのかしら。
□ □ □
「……」
頭を撫で続けて小一時間。腕が疲れてきました。というか痛い。
「ねぇ、フラン。まだ測れないの? 姉様、腕が疲れたわ」
「…………ぐぅ」
……寝てる? あの、ぐっすりと眠っていませんかフランさん。
「フラン。貴女寝てない? ちょっと、起きて頂戴」
「…………」
「フラン」
頬をペチペチと叩いてみた。
「フラン」
「……あ? ……うるさいなぁ、邪魔しないで。集中出来ないでしょ」
「もうかれこれ一時間以上撫でてるのだけど、まだ測れないの?」
「え。そんなに時間経っちゃったのか……」
「ん? 今何て?」
「い、いや! 測れた! 今測れた」
「あら本当に。どうなの?」
「えーあー……正常」
「あらそう」
「正常」
「うん」
一時間以上掛かって「正常」で終わりかぁ。 いや、異常があったら問題だけど。
ただ、いたく呆気ないと思っただけ。
「次。反対の手でもう一時間撫でて」
「え」
「はよ」
「ち、違いはあるの?」
「ある。ほら、さっさとやる」
「……はい」
フランの髪は細く柔らかい。ふわふわして何とも気持ち良い。それを糧にして頑張りましょう。
□ □ □
食事に苦労した。ナイフとフォークを持つと腕に鈍痛が走るのである。
妹を可愛いがる(曰わく体調管理、だったかしら?)のは幸せな事だが如何せん、体力を消耗する。特に腕。
今日は早く寝ようと、さっさと棺に潜る。
軽く溜め息をついて目を開くと、見慣れた天蓋……ではなく私の棺桶を覗き込むフランと目が合った。
「わっ!」
「お姉様」
「…………フラン。びっくりしたじゃない。部屋に入る時はノックしなさいとあれだけ……」
「一緒に寝て欲しい」
「今度は何の検査?」
可愛い妹と添い寝。願ったり叶ったりだが……その理由が私の健康管理とは何とも機械的で悲しい。
「一緒に寝て欲しいから……じゃ駄目?」
そう、フランは困った顔をして小首を傾げた。
「…………」
「駄目……かな?」
正直、不意打ちだった。
可愛い。可愛すぎる。あまりの愛しさに言葉を失ってしまったじゃないか。
ある種、悩殺されたと言ってもいい。
「し、仕方ないわねぇ……さ、入りなさい」
フランはそれを聞いてパッと笑った。天使の笑みだ。それを見ているだけで全てが癒やされた気がした。
狭い棺の中、フランは甘えるように私に寄り添った。
ふふ、可愛いじゃないか。
『実はフランは天使なんだよ』と言われたら何の疑いもなく信じてしまうだろう。
「腕枕」
「…………」
「腕枕」
「…………ん?」
「腕枕して欲しいの」
「…………」
やはり悪魔だった。この子には悪魔と天使の羽が生えているに違いない。
伊達に悪魔の妹を名乗っているだけの事はある。
「あ、あのね、フラン。悪いけど姉様、今日は腕が疲れちゃって……?」
「そう……なの……」
ああああ……天使の顔が曇ってゆく……。
「と思ったけどそんな事なかったわ。さぁ、頭を置きなさい。私の事は一切気にせず、一思いに置いて頂戴」
パッと笑顔、天使降臨。
正直、腕は限界に近いけど、こうして甘えられているのだ。頑張らない訳にはいかない。
「空いた片手で背中ポンポンして欲しいの」
腕の感覚が無くなってきた。
もう頑張れないかもしれない。
「フランは最近、毎日私の部屋に来るわね」
「何か問題が?」
「いや、気になっただけよ」
昨日も一昨日もそのまた昨日も、そして今もフランはこうして私の側にいる。
確か、地下室を開放した時から。
何か理由があるのだろうか?
もしかしたら私の顔を見たいから……なんて淡い期待を込める。
「……外を見るためさ」
期待は呆気なく崩れた。悲しい。
「外を?」
「そう。私には外出の許可がない。だけど外をこの目で視てみたいの。そこでお姉様の部屋というのは、この紅魔館で最も高い場所に位置している。よって私はお姉様の部屋に毎日足を運んでいるの。決してお姉様に会いたいとかそういう感情ではない」
「そうなの、フラン。ごめんね。貴女が満足するまで好きなだけ眺めていきなさい」
私は妹を外に出してやれない悲しみと、こんなにも理知的に立派に育ってくれた嬉しさで涙しそうになる。
そうかそうか。外の景色を見たいがために私の部屋に通いつめていたのだな。
□ □ □
それから幾ばくもしない内にフランは外から目を背け、私に歩み寄って来る。
「あら、もう外はいいの?」
「ん」
フランは短く返事すると、私の膝の上に跨り、おもむろに抱きついてきた。
子供特有の高い体温がフランから伝わってくる。
「何故、フランは毎日私に抱きつくの?」
そういえば、これも毎日の事だ。
昨日も一昨日もそのまた昨日も、そして今もフランはこうして私に抱きついてくる。
確か、地下室を開放した時から。
何か理由があるのだろうか?
もしかしたら私に甘えたいから……なんて淡い期待を込める。
「心音を聴くためさ」
心音を聴くため?
「ふむ、確かに私の胸に耳を当てているわね。しかし何故?」
「紅魔館のトップが倒れ込んだら一大事だよね。だから私はお姉様の心音を検査、体調を管理しているのさ。勿論、個人的な感情はない」
「なるほど」
妹が聡明に育って嬉しい。
判り易く、理路整然としていてスムーズな会話運びだ。
私の事を心配をしてくれているようには感じなかったのが残念だけども。
「そんな事よりお姉様。早く頭を撫でてもらわないと」
「あら、それはどうして?」
「理由は一緒。今度は脈を測る」
「まぁフラン! 貴女は頭で脈が測れるというの?」
「……測れる」
「すごいのねぇ」
「いいから早く」
声に凄みが増したので大人しく撫でる事にしよう。
撫でる。
膝の上に抱っこして頭を撫でると、まるで子供を寝かしてつけるようだ。
ややあってフランは帽子を脱いだ。こうすると精度が上がるのだそうだ。
いやぁ、しかし役得だ。紅魔館のトップをやってて良かった。
「もっと優しく……そうそう、その調子ぃ……」
……なんか、随分眠たげな声ね?
大丈夫かしら。ちゃんと脈は測れてるのかしら。
□ □ □
「……」
頭を撫で続けて小一時間。腕が疲れてきました。というか痛い。
「ねぇ、フラン。まだ測れないの? 姉様、腕が疲れたわ」
「…………ぐぅ」
……寝てる? あの、ぐっすりと眠っていませんかフランさん。
「フラン。貴女寝てない? ちょっと、起きて頂戴」
「…………」
「フラン」
頬をペチペチと叩いてみた。
「フラン」
「……あ? ……うるさいなぁ、邪魔しないで。集中出来ないでしょ」
「もうかれこれ一時間以上撫でてるのだけど、まだ測れないの?」
「え。そんなに時間経っちゃったのか……」
「ん? 今何て?」
「い、いや! 測れた! 今測れた」
「あら本当に。どうなの?」
「えーあー……正常」
「あらそう」
「正常」
「うん」
一時間以上掛かって「正常」で終わりかぁ。 いや、異常があったら問題だけど。
ただ、いたく呆気ないと思っただけ。
「次。反対の手でもう一時間撫でて」
「え」
「はよ」
「ち、違いはあるの?」
「ある。ほら、さっさとやる」
「……はい」
フランの髪は細く柔らかい。ふわふわして何とも気持ち良い。それを糧にして頑張りましょう。
□ □ □
食事に苦労した。ナイフとフォークを持つと腕に鈍痛が走るのである。
妹を可愛いがる(曰わく体調管理、だったかしら?)のは幸せな事だが如何せん、体力を消耗する。特に腕。
今日は早く寝ようと、さっさと棺に潜る。
軽く溜め息をついて目を開くと、見慣れた天蓋……ではなく私の棺桶を覗き込むフランと目が合った。
「わっ!」
「お姉様」
「…………フラン。びっくりしたじゃない。部屋に入る時はノックしなさいとあれだけ……」
「一緒に寝て欲しい」
「今度は何の検査?」
可愛い妹と添い寝。願ったり叶ったりだが……その理由が私の健康管理とは何とも機械的で悲しい。
「一緒に寝て欲しいから……じゃ駄目?」
そう、フランは困った顔をして小首を傾げた。
「…………」
「駄目……かな?」
正直、不意打ちだった。
可愛い。可愛すぎる。あまりの愛しさに言葉を失ってしまったじゃないか。
ある種、悩殺されたと言ってもいい。
「し、仕方ないわねぇ……さ、入りなさい」
フランはそれを聞いてパッと笑った。天使の笑みだ。それを見ているだけで全てが癒やされた気がした。
狭い棺の中、フランは甘えるように私に寄り添った。
ふふ、可愛いじゃないか。
『実はフランは天使なんだよ』と言われたら何の疑いもなく信じてしまうだろう。
「腕枕」
「…………」
「腕枕」
「…………ん?」
「腕枕して欲しいの」
「…………」
やはり悪魔だった。この子には悪魔と天使の羽が生えているに違いない。
伊達に悪魔の妹を名乗っているだけの事はある。
「あ、あのね、フラン。悪いけど姉様、今日は腕が疲れちゃって……?」
「そう……なの……」
ああああ……天使の顔が曇ってゆく……。
「と思ったけどそんな事なかったわ。さぁ、頭を置きなさい。私の事は一切気にせず、一思いに置いて頂戴」
パッと笑顔、天使降臨。
正直、腕は限界に近いけど、こうして甘えられているのだ。頑張らない訳にはいかない。
「空いた片手で背中ポンポンして欲しいの」
腕の感覚が無くなってきた。
もう頑張れないかもしれない。
良かった
全力でにやにやしちゃいました。そして癒されました!
あぁもう本当可愛いなぁっ!
ああああああああああ畜生可愛いな!!!!!!
いや、なんか可愛い不死が二人も!
いや、悪くないっていうか凄くいい!
フランちゃんは本当に理知的で聡明なお方……