Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

永琳先生のはちみつ診療~草津の湯でも治せない編~

2012/04/18 21:03:10
最終更新
サイズ
8.5KB
ページ数
1

分類タグ

「……あの、霊夢さん」
「……何よ」
「……この状況は一体?」
「……知らない。永琳に聞いて」

 まだまだ境内に、そして木々の梢に白い綿が残るこの時期にしては、ぽかぽかお日様があったかいとある一日。
 わたしは博麗神社のいつもの居間で、こたつに潜りながら、霊夢さんに抱きつかれていた。

 事の次第は、霊夢さんから『私、病気になったみたい』と言う連絡が来たことによる。
 大慌てで食事に救急箱にタオルにと看護グッズを調え、全速力で神社にやってきた矢先、出迎えに出てくれた博麗霊夢さんが、わたしにむぎゅっと抱きついてきたのが始まりである。

「えっと……動きづらいんですけど」
「わかる。すっごくわかる。
 けど、我慢して」
 霊夢さんはわがままな子猫のように、わたしに懐いてくる。
 一体、彼女にどんな心境の変化があったのだろう。
 いや、まぁ、わたしの望む『新婚生活』と言うものはこんな具合なのだが。しかし、だからと言って、唐突なこの事態を受け入れることは出来なかった。
 わたしが望んだ霊夢さんの変化――好感度0の『お友達』から始まり、中盤のフラグイベントでルート解放、手をつなぐことから始めてキス→家に遊びに行って一緒にご飯→ラッキーイベントで一緒のお布団→デート→初めての手作りお弁当で大失敗☆――だけどうまいことそれをフォローしてエンディングルート解放→そして、ついに……!
「……この変化がまだ楽しめてない」
「? 何か言った?」
「あ、いいえ。何でも」
 とりあえず、『ラッキーイベントinお布団』はすでに達成しているわけだから、残すは濃密な展開が待ち構えている、その次からのルート。
 数多の肌色多目の電脳紙芝居をクリアしてきたわたしですら、なかなか困難な道のりが待ち構えているそれに立ち向かい続けて早数ヶ月――。
 ……この展開って、それをすっ飛ばしてるのよね。
「えっと……何で『永琳さん』が話しに出てくるんですか?」
 まずはそこから。
 彼女の会話にあった、謎の単語の意味を解明しなくてはならない。
 わたしの問いかけに、彼女は、器用にわたしに抱きついたまま卓の上の湯飲みを手にとり、ずず~、とお茶をすすってから、
「えっと……」
 これまたどこかから取り出される霊夢さんの診断結果が書かれた、一枚の書類。
「何かさ、この頃、妙に熱っぽくて体調が悪いから永琳のところに行ったのよ。
 最初は『風邪かな~』とか思ってたんだけど、なんか永琳が神妙な顔つきになって、『霊夢さん。それは大変な病気です。風邪などと甘く見ていたら命に関わりますよ』って。
 それで、こんなの渡してきたのよ」
 どれどれ?
 手に取り、それを一読する。

『博麗霊夢 殿

 診断結果

 病名:DHKS
 原因:S.N.E分の著しい欠乏
 
 おおきな問題として、上記、S.N.E分の著しい不足が本病気への罹患の原因となっている。
 おかえりになる前にイナバ薬局にて下記に記す薬を受領すると共に
 うどんげに病気への対処法について記した書類を渡してあるので、そちらも熟読のこと。
 その上で、上記書類及び薬を使用してください。
 お会計の金額は下記に記してあります。支払いの際は現金のみに限らず、現物でも可です。なお、検査の際に
 しかいが狭まってきていることも併せて確認しております。次回、受診の際には、
 あわせて眼底検査等も受けられることをお勧めします。
 わたしは来週、人里に回診に出るので、よろしければその時にでも検査等、承ります。出張診療所は人里の
 にし側会館です』

「……うわぁ」
「え?」
 病名のところや原因のところに記されているものを見ると、いかにもそれらしい病気にかかっているように感じるが、その下の文章と来たら。
 ……あ、いや、これ、わたしならわかるのであって霊夢さんならわからないのか?
 この人、色々なところに知見があったり物事冷静に見たりするくせに、『新聞の付喪神』なんていうものに慌ててたらしいし……。
「何か永琳らしくない診断書だとは思うけどさ。
 ……いや、あいつの診断の結果も怪しいとは思うんだけど、何かこう……紫にも話をしたら『霊夢、それは大変な病気よ』なんてマジな顔するし……」
 ……ひょっとして、この人って、案外と騙されやすい人なんだろうか。
 わたしの疑問などどこへやら。霊夢さんは『そういうわけなのよ』と、わたしに一層、擦り寄ってくる。
「……で、何でわたしに?」
「永琳が、『体も冷えていますから、しっかり温めるように』って言ってたし、もらった薬に、服用後、2時間は早苗にくっついてないと効果が出ないって書いてあったし……」
 ちなみに、その薬の袋には『一番大事な人の近くにいることで効果が高まる新薬』と書かれていた。
 嘘くさい。すごく嘘くさい。
 というか、こんな表記も素直に信じちゃう霊夢さんがかわいいと思う。
 ……偉い人の言葉って、本当に、無意味な説得力があるものだ。
「……だから」
「まぁ……わかりました」
 というわけで、わたしはこの日一日、霊夢さんにくっつかれることとなったわけである。

「霊夢~、遊びにき……悪い、邪魔したな」
 この寒い中、風を切ってやってきた魔法使いさんが、縁側からわたし達を見るなり、慌てて退散していった。

「あややや! こ、これは何というスクープ! 一枚、写真を……!」
「文、お別れよ」
「ちょっとはたてさんそれ違う人の必殺技ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 天狗の記者さんが、その隣につれてきた人に襟首つかまれ、竜巻の中に飲み込まれてどこかへと放り投げられていった。

「無意識のうちにこいしちゃん参上っ!
 お姉さん、お菓子ちょうだい♪」
「はい、どうぞ」
「わーい。
 あ、お姉ちゃんに怒られるから秘密にしといてあげるね」
 何しにきたんだろう、あの子は。

「ねぇ、早苗。
 早苗が持ってきてくれたおでん、美味しいね」
「諏訪子さま特製ですから」
 とりあえず、ほとんど身動きが出来ない状態なので、今日のわたしの消費カロリーはひどいことになっているだろう。
 お鍋の中に用意されたおでんの中で、なるべくカロリーの少ないものを選んで食べていたわたしと違って、霊夢さんは『病気の時は栄養を摂るのが一番』と美味しそうに牛すじや卵なんかを食べていた。
 我が家の神様二号、諏訪子さまが作る料理はどれも格別。こういう鍋物に対する入れ込みも大したものである。
「ふぅ、おなか一杯」
 食事には割りとうるさい霊夢さんを満足させたおでんは、まだ半分くらい残っている。残りは今日の晩御飯にも登場させよう。
「……よいしょ」
 そして、霊夢さんは、わたしの膝を枕にすると、その場にころんと横になる。
 病気の時は、一杯食べて、一杯眠るのが一番とはよく言ったもの。
「……割と恥ずかしいっす」
「ま、まぁ……それはお気になさらずに」
「……お休み」
 こたつの暖かさも味わいながらすやすやと。
 そんな彼女の寝顔は、これまたとってもかわいらしい。
 思わず、その髪の毛をさらさらとなでてみる。悔しいけれど、彼女の髪の艶やかさや肌のきめの細かさなんかには、わたしはまるでかなわない。
「家の掃除をしてあげたいけど、きっと、離れたら怒るんだろうな」
 ほんと、困った『病人』である。

「ちわーっす、ミスティア屋でーす。
 霊夢さんのつけの取立てに来ましたー」
「あ、はーい。あの、霊夢さん、病気で寝てますので静かに……」
「おっと、こりゃ失敬。邪魔しちまいましたね。
 んじゃ、病気とその寝顔に免じて、つけは払ったことにしときますよ」
 粋な屋台の店主さんは、そう言って、『病気の時は栄養を摂るのが一番だ』と脂のたっぷり乗ったうなぎの蒲焼を二つ、置いて去っていった。
 ……病気の時にこういう重たいものはどうかなぁ、とは思うんだけど。

「霊夢が病気になったんですってね」
「あ、幽香さん」
「これ、栄養たっぷりのフルーツジュース。少しあっためて飲むといいわ」
「ありがとうございます」
「……何の病気よ、全く」
 霊夢さんのほっぺたつつき、つぶやく花妖怪さんの笑顔には、『全くです』と同意してしまう。

「やあ、霊夢が病気になったと聞いてこんなものを持ってきたよ」
「うわ……大きな掛け布団ですね……」
「代金は、僕からの気持ちと言うことで結構だ」
「ありがとうございます」
「この神社はそれなりに広いからね。夜はやはり、寒いのだろう」
 なかなか乙女心を理解している道具屋さんは、そう言って、ふかふかの掛け布団を置いていってくれる。
 ……どう見てもダブルサイズなのよね、これ。


「うん。しっかり寝たから、熱も下がったみたいですね」
「……かな」
 心なしか霊夢さんの顔が赤いのは、『お熱測定』方法が、おでことおでこをごっつんこ、だったからだろう。
 時刻はすでに夜。
 晩御飯もすでに終えて、お風呂で体をあっためて。
 さて、あとは寝るだけである。
「……移しちゃったらごめんね?」
「その時には、霊夢さんに看病してもらいますよ」
 霖之助さんが持ってきてくれた、ふかふかの掛け布団があったかい。
 寝床のダブルサイズ布団に二人、横になり、しんと静まり返る部屋の中で目を閉じる。
「……あったかい」
「今年は寒いらしいですから」
「早苗って、体温、高め?」
「どっちかっていうと低い方です」
「何でこんなにあったかいのやら」
「霊夢さんの体の中が、しっかりあったまった証拠ですよ」
 移してしまったら悪いから、と霊夢さんがわたしに抱きつくのは、わたしの背中。
 前に回された彼女の腕が、しっかりと、わたしを抱いて離さない。
「……おやすみ。
 何か、今日、寝てばっかりだけど」
「病人はそういうものです」
 ――すぐに聞こえる彼女の寝息。
 それが首筋に当たって、何だか少しくすぐったい。
 こんな風に甘えてくる彼女はとてもかわいらしい。なるほど、紫さんが、ついつい面倒を見てしまうのもわかろうかというものだ。
 しかし、霊夢さんの病気とは一体、何だったのやら。
 医者から渡されたと言う診断書。ふとした気持ちから、軽く火であぶってみたら、『寒い時の特効薬は愛ですよ』なんて文字も浮かび上がってきた。
 医者のお茶目につき合わされたのか。
 はたまた、本当に何かの病気だったのか。
 ……まぁ、今となってはどうでもいい。
 ――この日のことをネタに、彼女をからかえそうだな、なんて。
 ふと、わたしは思ってしまった。
さなれいむの基本はベタ甘です。
愛だよ、愛。
haruka
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
とてもベタ甘で癒されました
2.名前が無い程度の能力削除
八意先生、”せ”が抜けていますよ!
そこ以外は甘々でよかったと思います。
3.名前が無い程度の能力削除
ペロッ、これは甘すぎる!!
4.名前が無い程度の能力削除
騙されやすい霊夢さん可愛い
ミスティアをはじめ、皆優しいね
5.名前が無い程度の能力削除
sweetの名に恥じない甘さ、うーんいいね
そしてこんなところにもお別れ会がw
6.名前が無い程度の能力削除
ヤ・バ・イ
騙されやすい霊夢さん可愛い
7.宵霧削除
せ、だけ見つけられなかった
書き忘れかな?
8.名前が無い程度の能力削除
愛ですな、愛
はたてってばあの投げ超必をマスターしていたのか…
63214*2+Cですねわかります…
9.ふともも削除
病名はなんの略なんだろうな?
ミスティア屋さん店主の素敵っぷりが最高
10.名前が無い程度の能力削除
病名もせがない理由もわからなかった
霊夢には早苗にくっつくのが一番の特効薬ってことですね