※ややオリキャラ注意です。
そこは幻想郷の地下世界、地底のとある場所にある居酒屋、そこには食ったり飲んだり騒いだりが好きな妖怪達が、昼夜を問わず好き勝手に集まったり集まらなかったりしている。
とある日の夕方、この日はあまり客もおらず店主の妖怪はそれはそれは退屈そうに呆けていた。
「おじゃまするよー」
星熊勇儀はカウンターに腰を下ろす。
「いらっしゃいませー?」
折角の来客も、何故か店主は微妙な表情で出迎える。
「はっはっは!そんな微妙な顔しなくとも今日は飲むだけじゃなくてちゃんと食ってくよ!まあ適当に見繕ってくれ」
彼女は普段、何も注文せずにただ酒を飲む場として使っているようだ。カウンターの横においてある新聞を手に取り、適当に席につく。店主がお通しを出しつつその様子を見て「新聞なんて読まれるんですか?似合いませんねぇ」などと抜かしたためカウンターテーブルに添えつけられている箸が彼の後頭部めがけて飛んで行った。
「こんばんはー!」
「横いいです?」
そう言って勇儀に歩み寄ってきたのはキスメと黒谷ヤマメ、先客はこの二人だけらしい。
「おお、いたのか。座れ座れ」
そう言って隣に座るよう促す。店のカウンターの中の方から「伝票持って席移ってくださいねー」と声が飛んできた。
「へいへーいっと」
「最近よく会いますね」
「いい店になったよね!勇儀さんやヤマメちゃん達のおかげだね!」
にっこりわらって二人の間に座ったキスメが両隣を見回す
「はっはっは!まあ結構あたしらの好きなように建てたからね」
「居心地はぱーふぇくとだ!うぉるたー!」
「あはっみんなで住んじゃう?」
「勘弁してください。っていうかヤマメさん、そんな横文字どこで覚えたんですか」
店主が勇儀に料理を差し出す。勇儀は「ん」と返事を返しただけですぐに目線を手元の新聞に戻した。もう片方の手には普段から持ち歩いている盃を傾ける。
「あんた自分の店にあるものも覚えてないの?そこの本に出てくる奴が言ってたからマネしてみただけだよ、漫画っつったっけ?ところで勇儀さんが新聞とか読んでるとか似合わないですねー、なんか面白い事でも書いてあります?」
勇儀の左ジャブが顔面めがけて飛んだが紙一重でヤマメはそれをかわして勇儀の持っている新聞を覗き込む。
「いや、ほらここ」
勇儀はそう言って新聞の一面の隅の方にある広告記事を指さす。
「おや、香霖堂じゃないですか、何か面白い物でもありました?」
こちらも先ほどから気になっていたのだろう、居酒屋の店主も顔を出して覗きこむ。
「この写真のここにあるコレなんだけどさ」
そう言って店の外装の写真の片隅、店に立てかけてある大きな棒を指差した。
「金棒・・・?誰をミンチにでもするんです?勇儀さん今更凶器なんて必要ないでしょう、今でも全身凶器みたいなものですしね、はっはっ・・・」
居酒屋の店主はどうも一言二言多いらしく、彼曰く凶器である勇儀の拳が店主の顔面に突き刺さった。よく見ると彼のおでこには風穴が開いている、どうやら先ほど勇儀が投げた割箸がしっかり貫通していたらしい。
「これ昔あたしが使ってた奴なんだ、なんだか懐かしくてねぇ」
「へぇ~」
「まだ人間やら他の妖怪やらと楽しくドンパチしてた頃かな」
「その店なら行った事あるので今度地上に買い出しに行く時に様子見てきましょうか?というか欲しいなら買って帰りますけど」
綺麗に窪んだ顔面の凹部分からややこもり気味に店主の声が聞こえる、不気味な絵面だが誰も気にする者はいない。
「ほんとかい?あたしゃあんまり金なんて持ってないし、代わりになるようなもんも持ってないけど・・・」
「気にしないでください。この店建ててもらった時のお礼がまだあんまりできてないですし。おっと、次のお酒お持ちしますね」
店主はそう言って店の奥に戻り、酒瓶を漁り始めた。
「あ、ねぇねぇ!じゃああたしにもなんか買ってきてよ!あたしもこの家建てた一人だよ?あとその酒くれ!」
ヤマメが手をブンブン振り回してアピールする。
「あー、はいはい。菓子折りでも持って帰りますよ」
「わーい!人間の作るお菓子美味しいから好きなんだー!いっぱい買ってきてね?あ、でもでも店主さんが作るお菓子も好きだよ?」
キスメは嬉しそうに両手を上げて喜んだがヤマメの方はやや不服そうである。
「私はもっと心のこもった贈り物を所望する!」
「はぁ・・・菓子折りには心がこもらないと申されますか、何が欲しいんです?」
店主がため息をつきながら酒瓶をヤマメに向かって放り投げた。
「えーっとそうだねぇ、例えばそうね~金剛石のぉ・・・」
「金剛石のこん棒とかですか?あははうぐぅっ!」
ぐちょっという生々しい音と共に先ほど勇儀が開拓した彼の顔面の窪みにヤマメの拳がめり込んだ。
「でも勇儀さんが昔を懐かしむって確かにちょっとイメージと違うね!」
「キスメまでそんなこと言うかい、鬼に横道はない・・・ってのは誰が言ったか忘れたけど振り返る道くらいあるさ、あの頃は楽しかったな~とかね」
「そういや萃香さんもそんな感じで出てったんですよねー」
ヤマメは手についた返り血をおしぼりで拭き取りながら勇儀の方を見る。
「まあ、あたしゃあいつほど頑張って昔に戻ろうとは思わなかったけどね。今も十分楽しいし」
「でもほしいんだ?」
「まあね、あって損する訳でもなしタダで手に入るなら持っておきたいかな?とかその程度さ。という訳で店主、今度あんたが買い出し行く時はあたしもついてってやるよ、荷物持ちくらいしてやる」
店主に声をかける、が返事がない
「ああダメダメ、息してないよ今」
店主を見ると立ったままほとんど動かない、コンティニュー・・・生き返るには少し時間がかかりそうだ。
「立ったまま死んでるの?器用だなぁ・・・」
「はっはっは!うっかり殺っちまうなんてヤマメは酷い奴だなぁ」
「いえ、あたしがやる前から随分弱ってましたし勇儀さんの方が酷いですよ」
「はぁ・・・貴方達二人どちらも大差ないですよ、全く」
ため息と共に背後から彼らに向かって話しかけるのは幻想郷を担当する閻魔、四季映姫だった。
「閻魔じゃないか、何しに来たんだい?」
「休暇をどう過ごそうと私の勝手でしょう?・・・完全に事切れてるじゃないですか」
言いつつ勇儀の隣に腰を下ろす。
「大丈夫大丈夫、多分あとちょっとしたら復活するって」
と、ヤマメ。
「確かにそのようですが・・・」
「気にしない気にしない!とりあえずこれ今日のお通しだってさ、疲れてるみたいだし茶でも飲んで力抜いたら?そんなんで酒飲んで悪酔いされてもやだし」
言いながらヤマメは勝手に店の厨房に潜り込み映姫にお通しの漬物と、茶の入った湯呑みを渡す。
「ありがとうございます、この時期は仕事自体は少ないのですが・・・」
「そうなのかい?心なしか疲れてるように見えたからね」
ヤマメは映姫の顔を覗き込んでから言う。
「貴女に見抜かれるようでは私もまだまだ修行が足らないということでしょうか・・・はぁ」
「素直じゃないねぇ全く」
「閻魔どもの間でも色々あるんだってね、こないだあんたのとこの赤い髪の色々でかい死神が言ってたよ」
「えぇまぁそういう感じですね、今話したところでお酒を不味くしてしまうだけでしょうからやめておきます・・・ん?小町が・・・?」
茶を啜る手が止まる。
「あれ?あたしなんか変な事言ったかい?」
「・・・えぇと、小町がここに来たのはいつ頃の事かはわかりますか?」
「ん~・・・一昨日だったかな?昼過ぎにここでばったり会って一緒に飲んでたかねぇ」
それを聞いた瞬間、映姫の湯呑みにヒビが入る。
「成るほどまた仕事中に酒を・・・もっと詳しくお聞かせ願えますか?」
「あたしよりそいつに聞いた方がわかるだろうね、ほれ息吹き返すまで一緒にどうだい?」
勇儀がまだつっ立ったままの店主の亡骸を指さした後、にっと笑って映姫に酒を勧める。
「ふむ・・・そうします。私も今日明日と休みなのでお付き合いしますよ、でもほどほどにお願いしますね」
そう言って勇儀から盃を受け取る。
「おお!飲みねぇ飲みねぇ、地獄の沙汰も酒次第っつってねぇ!」
映姫はため息混じりだったが、勇儀はそんな事を毛ほども気にする様子もない。
「そんな沙汰があっては地獄もおしまいですよ。」
そう言って軽く俯いた映姫の頬に何か冷たい物が触れた。映姫は思わず「ひゃっ」と声を漏らした後、その元凶を軽く睨めつける
「成功~♪まあとりあえず細かい事は気にせずに・・・ね?飲むんだったらとりあえず楽しくやろうよ」
ヤマメはいたずらに成功した子供のような笑顔を見せる。厨房に潜りこんで勝手に店の酒を持ちだしたようである。映姫が一升瓶を受け取ると、再びごそごそと物色し始めた。
「あら、閻魔の私の目の前で窃盗ですか?」
「ん~?大丈夫大丈夫、お代っぽい物はいつもちゃんと渡してるから~♪あんまり気になるならほれほれ」
ヤマメはそう言いながら映姫にお酌をする。
「これで同罪だね」
そう言ってヤマメはにっと笑う、地底の妖怪というやや暗いイメージとは遥かにかけ離れた明るい笑顔で。
「・・・仕方のない妖怪ですね」
つられて笑いかけたのを隠すように映姫は酒を煽る。
「・・・私としては百歩譲って酒を勝手に持ちだしたのはともかく、傷害とかその辺で罪に問うてやりたいところですがね」
店主がここでようやく息を吹き返したらしい、折れ曲がった鼻の角度を調整している。
「そりゃひ弱なあんたが悪い」
「そこそこ頑張ってるつもりなんですがね、貴女方にはとても敵う気がしません」
そう言って店主はやや達観気味に虚空を見つめる。
「あら、こちらの鬼はともかくそこの土蜘蛛にも手も足も出ないというのは如何なものかと思いますよ?もっと気合いを入れて鍛えた方がよろしいのでは?」
「四季様まで・・・」
店主はやや肩を落とす。
「まぁまぁ、その辺にしてやんなよ。こいつまだ若いんだし、あたしもこいつくらいの年の頃は多分こんなもんだったさ・・・多分・・・きっと・・・どうだっただろう?」
映姫とヤマメの肩をポンポン叩き、首を傾げつつ勇儀は言う。あまりフォローにはなっていない。
「そうそう、小町の事を聞きたいのですが・・・」
ここで映姫は思い出したように店主に尋ねる。
「小町さんですか?彼女なら今日も来てましたよ?」
「今日・・・『も』・・・?」
店主の口から出た言葉の中から、気になった部分を強調して言う。
「えぇ、2~3日毎にですが、お昼時にこちらに来てはお酒を飲んでいかれてますよ」
「ああ、今日も来てたのかい?あの死神」
「えぇ、あの人は大体夕刻くらいまでにはお帰りになるので丁度それくらいに来る事の多い勇儀さん達とは大体入れ違いになってますね。」
「それで小町は何か言っていましたか?」
「えぇ、今日もそれくらいの時間にこれから仕事だからと言ってパッと消えられましたね」
映姫は店主のその言葉に「そうですか」と、やや胸をなで下ろした。
「一升瓶を数本抱えて」
それを聞いたとたん映姫の持っていた盃の酒がすべて気体と化した。
「すみません、この店ツケはできるのでしょうか?」
「えっ・・・えぇ、構いませんよ」
「それでは私と彼女達がこれから飲食する分を一緒に勘定してください」
「おりょ、いいのかい?あたしら遠慮なんかしないよ?」
と、勇儀。
「えぇ、なるべく近いうちに伺いますよ・・・小町が」
映姫は最後の一言に目一杯の怒気を込めて言い放つ。もはや怒気というより殺気に近い。
「何?今の・・・!?」
そのあまりの怒気にキスメが桶から恐る恐る顔を出す。映姫が来てから今までずっと桶に籠っていたようだ。
「キスメ、あんたどうしたの?ずぅっと桶に隠れてたけど」
その様子を見てヤマメは尋ねる。
「あぅ・・・その・・・閻魔様っておっかないって聞いてたから・・・」
キスメはおそるおそる隣に座っている映姫を見上げる。
「あら・・・怖がらせてしまいましたか?ごめんなさい」
「あたしは別に怖いとは思わないけどね、ただちょっと話が長いくらいかねぇ?まあそんなもんは飲んでりゃどうでも良くなるけど」
と、ヤマメ。
「忘れたの?前にヤマメちゃんが言ってたんじゃない、閻魔が釣瓶落としを見つけたら・・・むぐっ!?」
「あはははほらほらそんな顔してるとあたしが説教しちまうよ!ほれほれ飲んだ飲んだ~うりうり」
キスメが何かを言い切る前にヤマメが彼女の口に一升瓶を数本突っこんだ。こぼれた酒でキスメの桶がいっぱいになるまで貯まる様子を見て映姫は「ぷっ」と吹き出す。
「いいねいいね、今日はタダで旨い酒が飲めるんだ、目一杯楽しく飲もうじゃないか。おい店主!!一番高い酒をよこせぇ~うまい飯も一緒に頼むぞ~」
後日小野塚小町が訪問し、伝票を見て一時卒倒しかけたもののきっちり支払いを終えて帰った。それから暫くの間、彼女が弾幕ごっこで小銭を使った弾幕を使う事はなかったそうな。
しかし、こんな適度にフランクな映季様は珍しい。
普段はガチの堅物として書かれる事が多いからなぁ……。
可愛いのに。
誤字報告
勇儀
映姫
です