※本作品は他所で過去に公開していたものを加筆・修正したものです。
願はくは 花の下にて 春死なん その如月の 望月の頃 ――西行法師
かつて、誰もが愛したという一本の桜の木がそこにはあった。
毎年その桜が花をつけ、やがて満開に咲き誇ると、それを一目見ようとどこからともなく人々は集まったという。
満開となったその桜はこの世のものとは思えない美しさだった。その美しさはそれこそ見る者全てを魅了した。まるで何かの魔法にでもかかったかのように、人々はその桜の虜になった。
そしてその桜に強く魅入られてしまった者は、やがてその満開の桜の下で死ぬことを望み、そしてその通りに死んでいったという。
それはまるで、その桜に誘われるかのように。
そうして死んでいった人々の血を吸い続けた桜は、そうするうちにやがてただの桜の木ではいられなくなってしまった――。
――そしていつしかその桜は、人を死に誘う妖怪桜、《西行妖》と呼ばれるようになった。
それはまだ寒々しく雪積もる、如月の話――。
「妖怪さん……ですか?」
自身を妖怪と称した相手を見ながら、ただの人間である西行寺幽々子は首を傾げるようにして疑問の言葉を発した。
幽々子の目の前にいる相手は、人間である幽々子とそう変わらない外見をしている。
妖怪という名は、幽々子とて全く耳にしないわけではない。噂話程度には、妖怪の話を聞くことも決して少なくはなかった。
しかし幽々子が話に聞く妖怪というものは、およそがまるでこの世のものとは思えないおどろおどろしい姿をしているものだ。
だからこそ目の前の相手がいくら自身を妖怪だと言ったところで、幽々子はそれを簡単に信じることは出来ないのである。
「ええ、そうよ。私は妖怪の八雲紫……といっても貴方はきっと信じないでしょうけどね」
八雲紫と名乗った妖怪は、幽々子の疑いの眼差しを受けてか、口元に笑みを浮かべながら言う。どうにも胡散臭い相手だと、そう幽々子は思った。
「それで、その妖怪の紫さんが……一体私に何の御用でしょうか?」
「私のことは紫でいいわ。……そうね。貴方への用事、というかお願いは一つだけよ」
そこで紫は言葉を切り、そして一呼吸置いてから、その言葉を発した。
「――あの桜を、切ってくれないかしら?」
紫は幽々子にそう言った。あの桜とは当然、西行妖のことだ。
それは幽々子にとって大切な桜だった。かつて父が愛したその桜を、幽々子も同じく愛している。
しかし紫はその桜を切れと、突然訪ねてきて言うのであった。
だから当然、幽々子の返答は――。
「――お断りします」
拒否。
「……まあ、貴方はそういうと思っていたわ」
紫は片手で頭を抱えるようにして、ため息を一つついた。
「ご用件はそれだけでしょうか。それなら早々にお引取りを」
幽々子はその怒りを隠さず、しかしそれでもあくまで冷静にそう言った。
しかし紫はそんな幽々子の調子を気にした様子も無く口を開く。
「あなたは気付いていないかも知れないけれど……あの桜の木は、すでにどうしようもなく穢れているのよ。今のあの桜は、無自覚の内に人を殺すわ。無意識の内に人はあの桜に誘われ、そして死に至る。あの桜はもう、人の世に在ってはならないものなのよ」
紫はただ冷静にそう言った。どこまでも冷静に、淡々と。
その紫の様子はどこか異様なもののように、そう幽々子は感じた。
桜の木が人を殺すことなど、少なくとも人間の常識ではあり得ない。確かにそういった噂話の類は幽々子も聞いたことがある。しかし所詮は噂話だと、幽々子はただ冷静に聞き流していた。周囲の人々がどう思っているかはともかく、幽々子にとってその桜は大切なもので、特別なもので。だからその桜が人を殺すなんてことは、到底信じられないのであった。
しかし、そんなことを話した紫の様子には、少なくとも嘘を吐いているといった雰囲気はない。そして何故かそのことがどうにも異様に感じられて、だから幽々子は、もしかしたら紫は本当に妖怪なのではないかと、そんなことを思うのであった。
しかし、だからといって幽々子の返事が変わるわけでもない。
「そんなことを言われても、簡単に信じられるわけもないでしょう。それにあの桜は、私にとって大切な木です。私にとって特別な木――いえ、それ以前に、あの木は私の父の墓でもあるんです。それを切ることなんて、私には絶対に出来ません」
確かな意志を持って、幽々子は紫に正面からそう告げた。
そんな幽々子を見た紫は、その感情を覗かせない口調で言う。
「――その桜が、本当に人を殺しているとしても?」
「……はい」
幽々子は紫の言葉の意味をよく考えた上で、それでもそう返事をした。
「そう――まるで親心ね」
「はい?」
突然わけのわからないことを言う紫に、幽々子は驚きのまま疑問の声を出した。
そしてそれに答えるように紫は言う。
「たとえば、自分の子供が人を殺したと言われても、大抵の親はそれをすぐに信じたりはしない。やがてそれが事実だと知ったとしても、それでも親は子供の味方でい続ける……まるで、今の貴方のように」
「………………」
そうして幽々子が黙っていることを確認してから、紫は続ける。
「――でもあの桜は貴方の子供じゃないわ。そんなかわいいものなんかじゃないのよ。あの桜は、それをどんなに大切に思ったところで、その心に報いることは決してない。それどころかただ残酷に、桜のことを大切に思っている人間を殺すのよ。――そしてそれは、貴方だって例外じゃないのよ?」
そう言ったとき、それまで淡々と話していた紫の表情が変わった。その表情は、どうにも楽しそうに、そしてどこまでもいやらしく――笑っていた。
その表情はどんな鬼の形相よりも明確に、人間に対して恐怖をもたらすだろう。
「あの桜が私を殺す、ですか」
表情にも口調にも出さなかったが、何て馬鹿馬鹿しい話だろうかと、ただそんなことを幽々子は思った。しかしそんな反応は予想通りだと言わんばかりに、紫は口元にそのいやらしい笑みを浮かべながら言う。
「貴方が信じるかどうかは自由よ。でも事実としてあの桜は遠からず貴方の命も奪うことになるわ。あの桜が次に満開の花を開くとき……それが貴方の最期になるとしても、それでも貴方はあの桜を切らないって言えるかしら?」
笑う紫。
対して幽々子は、何も言うことが出来なかった。
「ふふ――また来るわ」
そんな幽々子に紫はそう言い残して、次に気付いたときにはすでにどこかへと消えてしまっていた。
それは花々がつぼみをつける、弥生の話――。
「あら……貴方、随分と弱っているみたいじゃない」
「……一体どこから入ってきたのですか、紫さん」
寝室で床につく幽々子の隣に、いつの間にか座している紫に幽々子はただそう訊ねた。
「言ったでしょう、私は妖怪だって。そしてこうも言ったはずよ。私のことは紫でいい、とね」
どことなく胡散臭い紫の物言いではあったが、しかしそれを言うのはあまりにも今更だった。
「……紫。それであなたは、一体私に何の用ですか」
「ふふ――貴方の気が変わったのではないかと、何となくそう思ったのよ」
紫はいやらしい笑みを浮かべながらそう言った。
白々しいと、それを聞いた幽々子はそう思った。
紫が何となくそう思ったなんて、そんなことは嘘に違いないのだから。
今月に入ってから幽々子の体は突然、医師にさえ原因不明の病魔に侵された。
そして紫がそれを知らずに訪ねてきたなんて、そんなことはあるはずがないと幽々子は思っている――それは確信とさえいえた。
「……残念ながら、私の気は変わりませんよ。あの桜を切ることは絶対にしません」
「あら、本当に残念だわ。こんなことで、貴方を失うことになるだなんて」
どこか冗談めかした紫の物言いではあったが、しかしそれが事実を表していることは他ならぬ幽々子こそが一番よく理解していた。このままだと幽々子は遠からず、紫の言うとおり死ぬことになる。それはすでに確信だった。
そしてそれは幽々子が大切にしている、あの桜が原因なのだということも当然幽々子は分かっていた。
「……それでも、私はあの桜を切りません。そして私の存在がここにこうして在る間は、たとえどんなことが起きようとも、あの桜をあなたに切らせはしません」
「……そう。まあ、せいぜい頑張ることね」
幽々子はその強い意志を確かに示したけれど、それでも紫はどこか余裕を見せながらそう言った。
幽々子のその意志を、理想を、信念を、紫はきっと信じてはいないのだろう。
それは幽々子にも分かったが、だからといって何を思うこともなかった。
――信じるかどうかは、それこそ紫の自由なのだから。
それは桜が花開きやがて散り行く、卯月の話――。
――西行寺家のお嬢様は、もう長くないらしい。
その噂も、随分と広まったものだと幽々子は思った。しかしそれが噂などではなく暦とした事実であることは、誰よりも幽々子自身が知っていることである。
おそらく幽々子は、この一両日中に死ぬことになるだろう。
それはすでに体を起こすことさえ困難な現状からくる、正確な認識だった。
幽々子の部屋からは見えないけれど、おそらくあの桜はすでに満開に咲き誇っているのだろう。幽々子は静かにそんなことを思った。
「結局貴方は最後まで、あの桜を切ることを良しとはしなかったわね」
そんな紫の声がした。
声の聞こえた方に目を向けると、そこにはやはり神出鬼没の紫の姿があった。
最近は毎日のように幽々子の元を訪ねては、桜の木を切る気になったかと訊ねて帰っていた紫。
その紫が、そんな諦めるような言葉と共に確かに言った。
――最後まで、と。
「また来たのですね、紫。……当然です。私は言ったでしょう……何があっても、絶対にあの桜は切らない、と」
しかしその結果、確かに紫の言うとおり幽々子の命は、あの桜を切らなかったことが原因で失われるのだ。
紫の言うことは、最初から全てが真実だった。
紫は、確かに正しかったのだ。
「どうして貴方は――」
紫が何かを言いかけたが、しかしそれを幽々子は制した。
「――その前に、私の話を聞いてくれませんか?」
「………………」
その紫の沈黙を肯定と取った幽々子は、ゆっくりと体を起こして座り、そして少し間を置いてから話し始めた。
「本当は、最初から私は知っていたのです。全部知っていて、それでもあえて何も気付いていない振りをしていたのです。紫、あなたが正しいということを。あの桜がすでに、人を死に誘う妖怪桜になっているということを。そして何より――私自身があの桜と同様に、人を死に誘う存在になってしまっているということを」
――幽々子は人を死に誘う存在となっている。
幽々子は確かにそう言って、なおも続ける。
「紫は、それに気付いていたのでしょう? だから何度も、あの桜を切ることを私に迫った。あの桜を切れば、少なくとも桜が人を死に誘うこともなくなるでしょう。そしておそらく、あの桜の木の影響で私に宿った人を死に誘うという、この悪しき力も消えるのでしょう――そうすれば私は、もう何も思い悩むことなくその残りの一生を過ごすことが出来る。紫は最初から誤解を生むようなことばかり言っていたけれど、そう思って本当は私を助けようとしてくれたのよね……違うかしら?」
「……馬鹿馬鹿しい。私は妖怪なのよ? それがどうして貴方を助けるようなことをすると思うのかしら」
紫は睨むようにして幽々子を見た。そんな表情の紫を見るのは、幽々子も初めてだった。
だからこそ、おそらくその指摘は正しかったのだろうと幽々子は思うのだ。
「私があなたを信じるかどうかは私の自由、でしたよね?」
「………………」
「……でも、ごめんなさい。私はあなたの厚意に報いることは出来ません。私にはどうしても、あの桜は切れないのです」
「それは、貴方の父が愛した桜だから?」
「ええ、そうです。私の父が愛し、その下で眠ることを望んだ桜だから――そんな桜が、ただ人を殺すだけの妖怪桜になってしまったなんて、私は絶対に信じたくはないのです。それをまるで親心だとあなたは言いましたが、あるいは本当にそうなのかもしれません。私はあの桜が人を殺す桜だと知ってもなお、いつかまた美しいただの桜に戻ってくれるのではないかと、そんなことを期待してしまうのです」
幽々子は、父が愛した桜がただ人を殺すだけの妖怪桜に成り下がり、そしてそのまま終わってしまうことを認めることが出来なかった。
だから桜は切らないと、そう決意したのである。
そうすることでたとえ、自分の命を失う結果になるとしても――。
「紫……あなたに最後に一つ、お願いをしても良いですか?」
「何かしら?」
「私を、あの桜の下まで連れて行ってください」
「……そんなこと、お安い御用よ」
紫は幽々子に手を貸すようにして立たせ、そして肩を貸しながらゆっくりと表に出た。
その桜はそう遠くない場所で、すでに満開の花を咲かせていた。
「……この桜の下に、私の父は眠っているのです。そして父以外にも、父を慕った人や、父と同じく桜に魅入られた人たちがたくさん眠っています。……だからこの桜が人を死に誘うようになってしまった原因を辿れば、それは私の父のせいになるのでしょう」
幽々子は満開に咲いたその桜を見ながら静かに言った。紫は何も言わなかった。
それが紫の優しさだと思いながら、幽々子は続ける。
「それならば、その責任は私が取らなければならないと考えました。それはまだ寒々しく雪積もる、如月の話です。そしてちょうど、あなたが私を訪ねてきたときでもあります。だから私は――あなたに謝らなければなりません」
幽々子は紫の目を真っ直ぐに見てそう言った。
そして幽々子が何を謝ろうとしているのか、紫には分かってしまった。
――それが少しだけ、悲しかった。
「あなたがこの桜を切ってくれと頼んだとき、私はすでに自分の命を自らの能力で絶つことを選んでいました。あなたが救おうとしてくれたこの命を、私はすでに捨てることを決めていたのです。……だから私はあなたの厚意に報いることが出来なかっただけでなく、それを踏みにじるようなこともしてしまいました。……ごめんなさい」
この桜を切らない。そのために自分の命を自ら絶つことを決心していた幽々子。
だからこそ幽々子は、紫が差し出した救いの手を取ることが出来なかった。
そのことをただ、謝った。
自らの死の間際まで、紫のことを考えて――。
「……そんなこと、私が勝手にしたことでしょうに。それに貴方のためだなんて、私は一言も言っていないわよ」
「……そうですね」
紫の言葉に、幽々子はただそれだけの返事をした。
そして幽々子は思った。八雲紫という妖怪は、人に感謝されたり謝罪されたりすることに慣れていないのではないだろうか。実際は優しいけれど、それ以上に照れ屋だからこそ、いつも他人に誤解されるような事ばかり言ってしまうのが、本当の紫なのではないだろうか。
しかしそんなことを口に出しても、どうせ紫は否定するだけだろう。
だから幽々子はそれを心の中に、そっとしまうことにした。
――信じるかどうかは幽々子の自由なのだから。
「最後に私はこの身を鍵にして、この桜に封印を施します。そうすることでこの桜が人を殺すことはなくなるでしょう。そして同じく人を死に誘う力を持った私も、転生することはなくなります」
幽々子はそう言って、ただ紫に笑いかけるだけだった。
そして最後に――。
「――ありがとう、紫。もしまたいつか会うことがあったら、そのときは友達になりましょうね」
「……ええ、約束するわ」
紫がそう返事をしたのを満足そうに確認すると、幽々子は白い光に包まれながらその桜と同化するようにして消えた。
「……私の完敗ね。どうして貴方は、それほどまでに強くいられたのかしら」
幽々子は知っていたはずなのだ。紫が正しいということを知っていて、それでも自身の心を真っ直ぐに貫き通した。
幽々子には理想があった。信念があった。そしてその意志には嘘がなかった。
だからこそ幽々子は強かったのだろうと、紫はそんなことを考えていた。
きっと幽々子は、正しさだけでは救われなかったのだろう。
「正しさの正当性は、一体どれほどのものなのかしらね――」
正しいことだけが全てではない。正しいということに、一体どれだけの価値があるのだろうか。
そんな独り言を呟きながら、完全に西行寺幽々子という人間を読み違えてしまったと、紫は一人反省した。
――そして幽々子の施した封印は、どうやら成功したらしい。
西行妖と呼ばれた人を死に誘う妖怪桜は、その満開に咲かせていた花を、まるで吹き荒れる吹雪のように散らし始めた。
薄紅色の花降るその場所で、八雲紫は一人静かにたたずんでいた。
そして長き時を経て、白玉楼での話――。
「んー。やっぱり桜を見ながらのお酒は格別ね、紫」
「――ええ、そうね」
幽々子にそう話しかけられ、紫はふと我に返った。
白玉楼の庭には西行妖と呼ばれる、決して満開に花開くことのない桜がある。
その桜を見ながら、二人は酒を飲み交わしていた。それは俗にいう花見に相違ない。
紫は隣で美味しそうに酒を飲む幽々子を見て、また少し昔のことを思い返す。
幽々子は西行妖に封印を施すために、自らの能力を用いてその桜の下で自害した。しかしその後幽々子は亡霊となって、また紫の前にその姿を現した。
けれど亡霊となった幽々子は、生前の記憶を全て失っていた。
紫は幽々子の記憶をどうするべきか悩んだ末に、未だに結論を出すことが出来ずにいる。
どうすることが幽々子にとって、本当の幸せなのか。
それは紫にさえ分からないことであった。
そして、そんな紫の悩みを知る由も無い幽々子は、思いつきのように言う。
「せっかくだから、満開の桜を見て花見がしたいわね。ねえ、紫は知っているかしら? この桜には、よく分からないけど何者かが封印されていて、その封印のせいでこの桜は満開に咲けないんだって。古い書物にそう書いてあったのよ」
「――へぇ、そうなの」
そんなことは当然知っていたので、紫は適当な返事をする。
というよりも、その書物を幽々子無き後の西行寺家の為に書き残したのは他ならぬ紫なのだから。
そんな紫の心の内を知らない幽々子は、無邪気でただ楽しそうに話を続ける。
「ねえ、紫。この幻想郷中の春を集めたら、もしかするとあの桜が満開に咲いたりはしないかしら?」
幽々子のその言葉を聞いて、紫はただ言葉を失った。
もし西行妖がまた満開の花を咲かせたりしたら、おそらくその封印は解けてしまうだろう。そしてそうなれば、封印の鍵となっている幽々子の肉体は解き放たれる。仮にそうなってしまったら、幽々子は亡霊で在り続ける事は出来なくなってしまうのだ。
紫の感情では、断固としてその幽々子の提案は退けるべきだった。
しかし紫は考えてしまう。
このまま永遠に亡霊として在り続けることと、輪廻の輪に戻り普通の人間として転生すること。
どちらが幽々子にとって、本当の幸せなのだろうか。
まだ紫にはその答えを出すことが出来なかった。
「――まあ、貴方がやってみたいっていうなら、やってみたらいいんじゃないかしら?」
だから紫はそんなことを言った。
もし幽々子の試みが成功して、亡霊の幽々子が消滅するというならそれはそれだ。
逆に幽々子の試みが博麗の巫女らによって阻止されてしまったとしても、それは今と何も変わらない日々が続くだけのことだった。
ひらひら、ゆらゆらと、ゆっくり降り注ぐ薄紅色の花を見ながら、手に持ったお猪口で紫は酒を一口飲んだ。
そして飲んでから、その酒に桜の花びらが浮いていたことに気付く。
それは確かに珍しいことだと、そんなことを考えながら紫は呟く。
「……まあ何事も、なるようにしかならないわよね」
「……?」
紫の言葉の意味が分からない様子の幽々子は首を傾げる。
――しかし紫は舞い散る桜の花びらを見ながら、ただ静かに酒を味わうだけだった。
だから正直、今更感が凄いする
これじゃ、ありきたり過ぎてつまらない
もっとオリジナリティを増やして面白みを付けて欲しい
だがおもしろいじゃないのさ。