Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

寅丸星が無くすと一番困るもの

2012/03/24 23:06:24
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「そうねぇ……やっぱり、宝塔じゃないの?」

一輪が、最初に意見を述べた。

「そうだよねー。星さんから宝塔を取ったら、牙のない虎だよねー」

村紗が、肉野菜炒めをパクつきながら言う。
肉は、本日しめたばかりの鶏である。

「それは言い過ぎというものですよ、ムラサ。宝塔がなくても、星が有能であることは変わりません」
「まあ、聖の言うことは正しいだろう。ただ、宝塔を無くすのは腕を一本失うようなものだ」

白蓮が優しく弁護し、ナズーリンが正しいと思われる例えを挙げる。

「えー、それって、もう負けてるようなもんじゃん。片手で取っ組み合いしても負けるでしょ?」

ぬえが、右の下唇にご飯粒をつけながら反論する。

「そうだな。でも、ご主人はそこからでも逆転できる能力はある。無能ではない」
「要するに、宝塔を無くさなきゃいいだけの話だよねー」

村紗のもっともな意見に、全員が笑って同意した。

現在、命蓮寺では夕食の時間だった。
ここでは、すべての食事は、居間にある大きなちゃぶ台に一堂に会して取ることになっている。
しかし、今日は寅丸星の姿はなかった。人間の里に住む『稗田』という家の九代目当主が、近々新しい歴史資料をまとめるというので、その取材のために呼ばれているのだ。

帰ってくる時間が少し遅くなっているので、星の話題が出たのだ。
いろいろと話が混線して、ナズーリンが「ご主人が無くしたら一番困るものはなんだろう」とポツリと言い出した。
白蓮の復活の際に、一番重要な毘沙門天の宝塔を紛失したため、星はことあるごとにからかわれていた。
それで、星の不在をいいことに、皆でいいように言っているのである。

「他に、なんか星さんが無くしたら困るものはあるかな?」

村紗が、さらに意見を求める。

「うーん……お金とかかしらね。姐さんがお寺やってくには、お布施がなきゃね」
「お金の管理は、全部ナズがやってるじゃない。星さんは大金を無くしようがないでしょ?」
「まあね。ご主人にはちゃんと小遣いをやっている。無くしても差し支えない程度に」
「なんか、ナズは星の奥さんだね」

ぬえが無邪気な感想を言うと、皆が笑った。

「違う。私は、ご主人の仕事を代行しているだけだ」
「別に照れなくていいよ」
「照れてない」
「あー、そっか。寅丸さんが一番無くしちゃいけないのは、ナズだね」
「なるほど! 確かに、いなくなると困るわ!」

村紗の的を射た意見に、一輪が手を打つ。

「私をモノ扱いしないでくれないか?」

不服そうに口を尖らせながら、ナズーリンは白米を口に運ぶ。

「そうですね、ナズーリンは大切な命蓮寺の一員です。損得を考えてはいけません」

白蓮が、たしなめるように言う。

「あー、でも、星が無くすものは、モノじゃなくてもいいわけだ」
「あ、なるほど! 発想を変えるわけね! あんた、意外に面白いこというじゃん!」
「一言多い」

村紗が、ぬえの意見に感心する。

「寅丸さんが無くしちゃいけないものねぇ……やっぱり、真面目さかしら」
「あー、そうだね。昼ごろまで寝てる星さんなんて嫌だ」
「勤勉な性格は、ご主人にとって一番の美徳だな」
「そうだよねー、あいつは頭にクソが付くくらい真面目だよねー」
「しかし、星は固いだけではありません。その場に応じて対処できる柔軟さも持っています」
「なんだかんだ言って、寅丸さんは頭がいいわよね」
「なんだかんだって……一輪、ひどいこと言うね」
「な、何よ、ムラサ。別に、悪気があるわけじゃないわよ」
「となると、星が一番無くしちゃいけないのは、知恵かなー」
「そんなの、誰が無くしてもいけないだろう。ご主人に限ったことじゃない」
「そういえば、そうかー」
「私が思うに、星に一番無くしてほしくないのは、努力する心ですね。今の地位にいるのも、あの娘が努力して掴み取ったものです」
「おぉ、さすが聖! 言うことが違う!」
「確かに、努力しなくなった寅丸さんを見るのは嫌だわー」
「でも、一ページ分書いた日記に一個誤字があったからって、全部書き直さなくてもいいと思うんだよ、私は」
「ねー、星さん、鉛筆絶対使わないもんねー。筆のほうが書きやすいとか言って」
「なんか、変なこだわりを持っている人よね」
「まあ、そこが星らしくていいじゃありませんか。筆を使っているのも、書き損じしないようにと戒めているのでしょう」
「うぇ~、そのくらい気を抜いてもいいと思うんだけどね~」

ぬえが本当に嫌そうな声を上げたので、皆が笑った。

と、そこに障子の向こうから足音がした。

「ただいま戻りました。遅くなって、申し訳ない」

障子が開き、話のネタの人物が現れた。

「おー、おつかれさまー」
「ご苦労様です」
「おつかれー」
「遅いぞ、ご主人」
「寒かったでしょう。コタツに入って。すぐにご飯用意するわ」

全員で星を迎える。そして、白蓮の隣の定位置に座った。

「星さん、星さん。いまさー、星さんの話してたんだよ」
「え? 私の話ですか?」
「うん。星さんが無くしたら困るものって何かなーってみんなで話してたんだよ」
「ま、またそういう関係のことですか……もう許してくれませんか」

星は、頭を掻いて苦笑いを浮かべた。

「ねえ、星さん自身は、何を無くしたら一番困る?」

村紗が、口の先を少しつり上げて聞いた。

「いや、そんなの決まっていますよ」

すると、星は即答した。

「ここにいる、みんなです」

星がそう言った瞬間、居間になんともいえない空気が漂った。

「え? ……な、なにか、変なこと言いましたか?」

星は、一人困惑している。

「……ご主人。どうやら、ご主人は羞恥心というものを無くしてしまったようだね」

ナズーリンがそう言うと、居間が笑いに包まれた。

「え? ……え?」

そんな中、星は一人狐につままれたような表情をしている。

「あはは、おかしいわぁ。寅丸さん、すぐにご飯持ってくるわね。大盛りにしとくわ」
「あ、いえ、ほどほどでいいですよ」
「星さん! このお肉、すっごく美味しいの! 食べてみて!」
「ほほう、そうですか。では、賞味しましょう」

不可解な顔をしていた星だったが、皆がいろいろ話しかけてくるので、どうでもよくなったようだった。

命蓮寺の食卓は、いつもより暖かい空気に満ちていた。
この作品は、twitterにて『#一番すごいもの無くした寅丸が優勝』というタグであげられた皆様の回答を参考にさせていただいています。
風呂の中でアレコレ考えているうちに話がまとまったので、ジェネリックに投稿してみることにしました。

星さんは、白蓮復活の際に宝塔をなくすという大ポカをやらかしたことによって、紛失属性が付いてしまいましたが、私は有能だと思っているのです。
いつか、みなさんが「星さんSUGEEEEEEEEEEEEEEE!!!」と賞賛するSSを書きたいものですw。
東雲
[email protected]
http://www.geocities.jp/sinonome_615/
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
温かい雰囲気で満ち溢れてました
2.名前が無い程度の能力削除
キャー星さんステキー! みんな星さん大好きですね!
3.名前が無い程度の能力削除
俺も星さんを思わず賞賛したくなるSSが読んでみたいですww
4.名前が無い程度の能力削除
b
5.名前が無い程度の能力削除
星さんはアホの子というよりは糞真面目な子って感じの方ががしっくりきますね
カリスマを垂れ流す星さんとかも見てみたいですw
6.名前が無い程度の能力削除
星さんが一枚上手でしたね。よい命蓮寺でした。
スッキリまとまっていて読後感が良かったです。
7.名前が無い程度の能力削除
星ちゃんの狐につままれたような顔……なるほど、これが寅の羞恥心を狩る狐か。
8.名前が無い程度の能力削除
星さんSGEEEEEEE
9.名前が無い程度の能力削除
やはり毘沙門天代理は格が違った。
10.名前が無い程度の能力削除
初っ端から肉食っててわろた
11.名前が無い程度の能力削除
単なる雑談なのに面白いわー
こんだけ登場人物がいて会話だらけなのに、どの発言が誰のか明確なのもいい
蕎麦を食べるようにスルリと読めた
12.名前が無い程度の能力削除
イイハナシダナー
そのTwitterでの解答が気になります
13.名前が無い程度の能力削除
b!
14.名前が無い程度の能力削除
星さん男前やなぁ
15.名前が無い程度の能力削除
恥ずかしいことをサラっと言っちゃう星さんSUGEEEEEEEEEE!

大変心がほっこりとするお話でした。
16.名前が無い程度の能力削除
自由な寺だなー。
会話を面白く感じさせるのは流石。