Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

あーたーらしぃ朝が来たっ

2012/03/19 23:30:36
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オッス!オラ阿求!

 もうすっかり暦じゃあ春が近づいてんな。風邪ひいてねえか?
土の中からは植物の芽が顔をだし、
そろそろ雪の中に隠れていた動物たちも待ち望んでいた春の訪れに心躍らせる季節だ。
そして。
オラが頑張って書いた書籍、みんなはもう読んでくれたか!
そうかそうか、それは良かった!オラも頑張って書いた甲斐がある。
 白蓮とか神奈子とかな、ヤベー連中と渡り合った記憶、今思い出してもすげーわくわくしてきやがったぞ!

・・・して、き・や
が、ががが

 
 「かーめーはーめーはーーーッ!!」

ぐるぐるぐるっと紙をまるめて壁に投げつけた。いつもだったら中々のスピードを上げて阿求家を飛んでいく紙にまで、力がこめられていない。
「尻尾握られると、パワーがでねぇんだ・・・」

勿論妄想である。
阿求には元々尻尾などない。
初っ端から快調に東方の世界観を無視していくこのお話の中にも、さすがにそんな馬鹿みたいなミスは出てこない。

実際のところ、彼女は満身創痍だったのだ。

先ほどから死んだまま泳ぐ目がさだまらない。
頭の中は、脈絡なき妄想が蝶のごとく乱舞する素敵な花畑。
連日徹夜からの寝ずの執筆が頭をおかしくさせれば、
先ほどのような珍奇なあとがきを書き出してしまうのも仕様がない。

「み、みんな。オラ、いや、私に力を、力を分けてくれッ」

 唐突に両手を上げてみた。このポーズはそう、貴方もご存じ私もご存じ元気玉。
わたくし稗田阿求本日ここから元気玉をモリモリ食べて元気力を回復したいのだ。
いや回復するの仙豆だったか。まあこまけえことは気にすんな。

一縷の希望を託して目を閉じる。目を閉じたまま暫く精神を研ぎ澄ませる。
心の中に、お前だけの元気玉を思い描くのだアキューよ。いかんこれでは別の漫画だ。
しかし非情な現実は力を与えてくれなかった、
残念なことに逆に眠気ばかりが猛烈な勢いで脳へと差し込んできやがったのである。

主に脇の下あたりから。

脇巫女に今度会ってみろ、キミィだらしなく露出している其処からごそっとやる気が抜けおちてその有様なのだよと指摘を行ってやる。
そう思いながら急ぎ両手を下げ、その手で頬を叩く。ビタンビタンと何度も繰り返し。

 「ちくしょう、ちくしょーーーーーっ」

ほっぺた赤くしながら叫ぶ。この声帯で強力若本の再現は中々に難しいな。
いやしかし本当に、幻想郷の連中は冷たい。
この私の為に両手をほんのちょっぴりとも上げてくれるものさえいないというのか。
ちくしょうこうなったらディスってやる。
顔を合わせれば笑みを浮かべつつ愛想良いあいさつするけれど、本文の中ではこいつら血も涙もない妖怪と人間と妖精って事にしてやる。
その中で可憐な私が必死に生き延びるサバイバル物語にしてここから始まる無法な幻想郷アピールしてやるーーッ。
「・・・はーあ」
頭がショートしてバチバチと火花を上げていることにようやく気付いたのか、阿求脳内の理性が止めにかかった。
ちとブレイク。そう思って席を立つ。

暖かいお茶でも飲もう。

お茶を飲んだら少し落ち着いた。あふぅ、なんて溜息ついてみたりして乙女。
しかし落ち着くと、現実を考えてしまうのだ。
そして現実は私にいつだって過酷な選択を押しつけてくるのだ。
始めよう、過酷な現実を乗り越えるために、脳内会議による打ち合わせを。
 話題はさっきのあとがきから始める。

そーいや、なんかさっき調子こいてあとがき書いてたようでザマスが阿求さん。
いやいやワタクシまだ本文すら十分に書けてないのですわよ。
さらに言えばね阿求さん、締切今日の午後1時でザマス。
あはははは。今午前3時。未だ半分もできてないですわよ。
詰んでるザマスね中々に。
うふふふふですわよーーー
アハハハハハッでザマス。

 不毛な脳内会議 おしまい。
 一応予定としては。八雲紫による原稿チェックが本日午後1時からあってさ。これを通れば隙間経由で私の書籍が印刷されて出来上がる寸法。でももう間に合う線はないよね。
 遅れたら私どうなるのかしら。どうなるどうなる君ならどうなる。まあ最低でもスゲー怒られるでしょうね。下手すりゃ拷問されるかしら殺されるかしら食われるかしら。マジ死んだ方がましって思えるくらい怒られるかもねアルカポネ。
 何がヤベーってさ。私実は先週一回あいつに原稿見せてるのよね。そんでさ、そん時も半分ぐらいの量だったわけ。でさー、つまるところさーぐだぐだしてるうちに何もせず一週間たってしまったのよ。あんときはね、私も出来ると思ってたわけさ。一日どのくらいやればできるって量まできちんと算出して、毎日そこが終わるまで寝なきゃ達成できるんじゃねあたし頭いいじゃんとか思ってたさ。ああそうさ馬鹿だったともさ、しかもそれを何で紫の前で言っちまったんだかあいつ満足げに頷いてたよストイック宣言か私逆にいま追いつめられてるじゃないか少なくとも阿呆だ阿呆以外ありえない稗田阿呆死んでしまえそして腐ってしまえこのまま海に飛び込んでしまえって海なんか幻想郷にはないですよ知らないってそもそも前提から知るわけないですよね、メタな文脈ばかりでごめんなちゃい。

 心揺れる。

今日今から午後1時まで全力で頑張り、それを言い訳に謝るか。そもそも勝負を捨ててお酒をどばどば。幻想郷の住人だからお酒は仕方ないっすよねメンゴメンゴでいくか、あるいはすべてを捨てて逃げだすか。
 最初のがいい、と頭に残ったわずかな理性が自動採択した。そうすれば少なくとも紫相手に今日の午後ガクブルせずに済むではないか。頑張ったんだ仕方がねえやい、やいやい紫のババア。私の頑張りを見てなお、努力が足りねえと申すか。これが阿求の全力よお。悔しけりゃてめーで書いてみやがれ豚のケツ。ぶーだ。

しかし待てよ私の頭。冷静に考えよ。





――――それは凡そ2日前私が「到達」した結論(サイゴノコタエ)ではなかったか





その際もわたしの灰色の細胞は確かにあの選択を正しいとした。神の一手であった。まさに聖人君子稗田阿求。聖人のこの姿勢には紫もほだされ、仕方ないわね頑張ったんだものとしばらくの怒りののち茶の一杯でも出してくれるやもしれんと思うと私の心はやけに落ち着いたのだった。そして気付けに酒を一杯やって後は頑張ろう、うん。たったの一杯だけだもん。クリエイターには適度な飲酒が効果的とのデータもあるらしいし。後は頑張れよ酒飲んだ後の私。とか考えたのだ。己の快楽を最も優越すべきものと結論付けてしまったのだ。
薄々気づいていたがまあ一杯で終わるわけがねえので、始まったのは一人酒盛り。青ざめて目覚めたのが先日昼の4時。泣きながら原稿の今だ。



―――――――――ああ



実際最初から何度これを繰り返しているのだ。私はまさに屑の中のクズだ。今更大反省だ。実際のところ余裕がなければ焦って実力を出せず。余裕があれば甘く見て手を付けずを何度も繰り返し繰り返しての今の阿求さんだ。ああもう嫌になる。私のような人間が、そもそも文章書きなぞやるものじゃないのだ。




―――このまま、全てを捨て永遠の安息(トワナルネムリ)へとその身を委ねたい




仕事道具を机に乱雑に撒いたのち、寝巻の袖をはたり、机の上に体を投げかける。腕の上に顔の体重を委ね、顔を横向きにして瞳を閉じる。これで仕事をしていたのねお疲れ様阿求さんスタイルの完成だ。寝るべ寝るべ。




――――――――しかし




心臓がドキドキして全く眠りにつけなかった。
小心者の私に、夜明けはまだ遠い。









既に4時であった。

 どうせ眠れないのなら、とぐだぐだしながらも本文へ思いを馳せ、取り組みだしてみる。やることは始めれば見つかるものなのだ。新しい表現を加えながら、古い文章に手を入れ、新しく付け加えていく。そうしているうちに、前にぶつかっていた部分が意外なほど簡単に解消したことをきっかけに、気分も少しずつ回復してきた。私の全盛期が戻ってきた。いつもの落ち着きも心なしか戻り始めている。今ならば秘封倶楽部のCDのジャケットにだって採用されてみせるという堂に入った心持である。
 そうして2時間の時がたった。6時。一服入れようと休憩をはさむ。かつて1週間前に紫と決めた工程表を再度確認する。
まだ3日分しか終わっていなかった。初期の計画の辺りを見て溜息をつく。そうだそうだ、あの部分ですっごく悩んじゃって、文章を書く手が止まっていたんだ。今ちょうどそこを解決したけどまだ分量的には4日分残っていた。
実は冷静になれる話ではない、4日をあと5時間でケリをつけようって話なのだ。4日で使える時間を48時間と見積もると10倍もの高効率を要求されている訳だ。
ふぅ、落ち着け阿求。
深夜のあのテンションはだめだ。あれは疲れるだけで私に何ももたらしはしない。落ち着いてこの奥歯の内側に設けられた・・・加速装置はなかった。ア9ではあったがアイボーグ009の略ではない。
焦った状態で仕事をつづける。朝ごはんなど、もはや喉を通るはずもないのだ。焦りはルーチンワークを早めてくれる効果はある。しかしながら創造的仕事をこなす時の焦りは有益な何物をも、もたらしてはくれない。私から思考のすべてを奪い取ってしまうだけなのだ。
「想像通りの悪夢・・・」
やはり、といったところだろう。続けていくうちに文面上の難局に差し掛かった。頭を抱える。書くべき言葉が頭の中に全く出てこない。目を閉じても深呼吸しても、頭がまるで空っぽにでもなってしまったように何も考えてくれなくなってしまった。
それでも私は粘った。ここで心折れ諦めようとも、誰も私を助けてはくれない。ぶるぶる震える腕と考えすぎて熱を持った頭を叱咤激励し、唸りながらとにかく先へと文を進めた。その様はまるでのたうつミミズのようではあったが、私をとにかく前進はさせてくれた。
しかし時は、その悩みの間も刻々と進んでいく。午前10時。残された3時間であと3,5日分の仕事量。
この辺りから、分ごとに首のあたりの皮をつねり、歯を食いしばりだすようになる。抗いがたい眠気までもが敵となって襲いかかってきたのだ。
眠気部署は勝手に瞳を閉じるよう誘いはするが、理性を事前に根回しし説得することをしないので、理性部署が慌てて恐怖を脳髄に叩きこんで私の背筋と顔と手に冷たい汗を流しこんでむりやり起こしてくる、結局私は眠れない。

どちらかにしてくれと言いたい。

脳は体を支配するのではなく、体の中間管理職であると実感する瞬間である。
更に仕事の能率は下がっていく。そうやって時計を見上げると。すでに時は11時。3時間しか残されておらず、残量は3日分。恐慌と眠気と混乱と疲労が、体内でピークに達して、

 ぷちん、と糸が切れた。

唐突に阿求は無言でその筆に、たっぷりと墨をしみこませると、顔にベタンベタンと塗りだした。美しいおべべに墨がかかろうと、まるで気にする気配もない。
こは少女なのか、否これは少女にあらず。
一人の少女としての尊厳を捨てさり、獣となろうとしているのだ。

理性は人を進化させてくれた。しかし進化の欲望とはつまるところ苦しみとのトレードオフにすぎぬ。過ぎた苦しみから逃れるために人は時に理性を捨て、ひとつの獣に戻らねばならぬ。

顔に墨を塗り終えたのち、ぽたりぽたりと紙に墨を落としながら、新しい紙に、次々と文を書きつけていく。

(原文)
   偶因狂疾成殊類 災患相仍不可逃
   今日爪牙誰敢敵 当時声跡共相高
   我為異物蓬茅下 君已乗 気勢豪
   此夕渓山対明月 不成長嘯但成

(意訳)
社会的な価値観がある。 そして阿求の価値がある。
昔は一致していたが その2つは現在では必ずしも一致はしていない。
阿求と社会はかなりズレた価値観になっている。 だが真の勝利への道には阿求の価値が必要だ。
それがもう見える筈だ、このまま走って確認しろ光り輝く道を。 私はそれを祈っているぞ、そして感謝する。

――――――――――――――――――――――――――ようこそ、獣の世界へ


「なーおーうーッ」
両手を地面に着く。体がそれほど強くなく、体躯に恵まれたわけでもない私は、足はけして早い方ではない。
「稗田阿求は既に失われた。紫に伝えておくがよい家人よ」
四足歩行で走り出す、行先もわからぬまま。暗くもない昼の中を。紫に縛られたくないと逃げ込んだこの昼に。どこまで行くのだろうか、阿求の昼。

私は町を出て走り続ける。そうどこまでもどこまでも行こう。

と思ったが、残念なことに町を出ることすらできなかった。
出た瞬間スキマに飲み込まれたからである。

「新手のスタンド使いかッ」
ショックであっさりと獣の言葉は放棄してしまった。

まあ単純なことである。
やっこさん既に、網を張っていたのであった。

先ほどから、スキマ内の視線が突き刺さる。肩身も心も狭い。

正座の足がしびれはじめてしばらくたったころ、
奴は現れおもむろに一杯の茶を差し出した。
顔を上げるのが怖いこともあって、うつむいていると声がかかる。
「連絡したわ」
思いの外穏やかな声だった。顔を上げると紫も一杯の湯飲みを両手で持っている。それをゆっくりと飲むと、はぁ、と溜息を吐きだした。
「午前中はずっと関連先を回っていたの。貴方がちゃんとしてくれないと困る人はいっぱいいるわ」
「な、なにゆえそれを」
紫は扇で口元を隠す。

「まあ、明け方から少しスキマで観察を?」

勇者は、ひどく赤面した。
ちなみに阿求が紫に原稿を見せてそれが外の世界で書籍になっているという公式設定は、ないですよ
ご安心くださいませ
明壁
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
このノリとテンションが好きです
2.名前が無い程度の能力削除
きさま! 見ているなッ!
3.名前が無い程度の能力削除
一気に読みました。まさに徹夜のテンションww
あきゅんかわいいよあきゅん。
4.名前が無い程度の能力削除
このネタで書いておきながらこんぺに遅刻だなんてメタすぎる……