掴まれて、抱きしめられた。
私より小さく骨ばった手が、忙しなく動き回る。
ずずいと近付かれ、口元に集まる視線。無言の圧力。
「んむっ」
「んちゅぅ……」
赤子のように無我夢中で吸い付かれる。
いや、たとえの話であって赤子に吸い付かれる感覚なんて知らないんだけれど。
唇同士をくっつけ、すりあわせる。境目を舌でなぞられる合図で私は口を開く。
んくぅ。
鼻から音が漏れ出して、笑われた気がした。
えっちな音
誰が出させてんだか
さぁ、出してるのはみなみつでしょうに
うっさい、ばか!
声には出さない。覚りの能力でもない。
目を見て、舌を絡ませて、肌を重ねて、相手の言いたいことを読み取る。
忍び込んできた舌を甘く噛んだ。
もっともっと奥まで、口腔内の全てを舐め尽くそうと赤い蛇は蠢く。
私のナカで好き勝手に暴れて、私の理性はもう、ぐずぐずになっちゃうのだ。
ぁ、ぃっ――
ぬえの牙が当たる。ちくっと針が刺さるような痛みを感じる。
痛いけど、それが嬉しい。必死な証拠だから、私はそれの回数を馬鹿みたいに数えている。
たまにやすりで歯を削っているのを知っている。私を傷つけないためなんだってさ。
どうせ興奮したら伸びちゃうくせに。かーわいいの。
湿った呼気と生ぬるい唾液が流れ込んできて、喉奥を越えて内蔵まで達して私の一部になる。
きっと私の呼気と唾液もぬえのナカに入っていってる。
キスは唾液交換のための行為じゃないのに、なんだか笑ってしまう。
抱き寄せられて一層近くなって、また牙が当たった。1、2……あ、3回目。
このままもっと深く、自分の全部をさらけだして愛し合った回数は数知れず。
キスに至っては星の数ほど。
私はたくさんの事柄を、可能な限り数えている。
生死の概念のない無限に続く時間に存在する私は、同じく無限に続く数で不安を紛らわす。
かぞえて、自分の中を満たして、有限を無限であるような錯覚を起こすのだ。
相変わらずのぬえムラで安心した。
いつかは牛乳飲もうの話みたいな、長めのものも読みたいものだ。