「いや、友達の話なんだけどさ――」
いつもは元気いっぱいなあなたが、その日は少し戸惑いながら、おずおずとそう切り出した。
「そいつが、友達の誕生日に何を贈ればいいかって迷ってるみたいなんだ。相談されたんだけど、私も困っちまって」
静かな茂みに暮らす私をときどき訪ねて、話し相手になってくれる、黒尽くめのあなた。いつも聞こえるのは木々の奥までよく通るピンと張った声だけど、今日は妙に、静かにやわらかな声で語りかけてくる。
「どうしてあたしに相談するわけ?」
「いや、私、そういうのダメだからさ」
「嘘」
黒尽くめの見てくれで、人間にあまりいい印象はないけれど、そこに隠れたあなたの器用さ、知性、愛らしさを私は知っている。すごく物覚えはいいし、スマートに何でもこなすし、ひょうきんで楽しい。綺麗なものを見つけてくるのだって、上手。
「嘘じゃないさ。お前の方がよっぽど、いろんなことに才能あると思うぜ」
あなたはそう言うけれども、私は、必要なことをそれなりにこなせるだけ。能力も、容姿も、必要だから備わっているだけ。生きていくのが上手なだけ。恵まれているだけ。とてもつまらない。
「そうね、一般論になっちゃうけど、受け取る方の好みが解れば一番ね」
「ああ、そうだな」
「でも、そのコの一番好きなものって、何か深いこだわりがあるかもしれないから、贈り物にするのは難しいのよね」
「うーん」
「その次くらいに好きで、今欲しそうなものを選べばいいと思う」
「おいおい、難しいな」
「それなら、思い切って、贈り主が好きなものでいいんじゃないの? 贈り物なんて、気持ちだもの」
「そうか。まあ、そうだよなあ」
あなたはそれなりに納得した様子でうなずいて言った。
「けど、意外ね。あんたに、そんな友達がいたなんて。どういうコなの?」
「……器用なくせに、不器用な奴でさ。黒尽くめの、見た目以上に繊細で、それでいて知的で、寂しがり屋でさ」
ふうん。
まるで、あなたみたいね。
「けど、立場も身分も、違う相手と仲良くなっちまって。迷うことも、ときどきあるんだ。相手のコは、すごい力を持っている上に、みんなから大事に大事にされているんだとさ。おまけに、宝石のように綺麗で――」
「いいんじゃない?」
私はあなたの不意を突くように答える。
「きっとそんな風に特別扱いされることが普通になっているコにとって、何気なく同じ目線で、近くによりそってくれる友達って、すごく大事なものよ」
「そうか」
「ええ。だから、そのコは、そのコらしく、自然体で付きあえばいいと思うわ」
「……そうか、そうだな。解った。ありがとう。邪魔したな」
それだけ言うと、黒尽くめのあなたはそそくさと席を立つ。
「あら? もう行くの?」
「ああ。じゃあ、またな」
あなたは振り返りながらそれだけ言って、何かに急き立てられるように飛び立った。
「……変なの……」
ひとりになった私は、後片付けをしながら、ふと、あなたの座っていた辺りに置き去られていた小匣を見つけた。
「あら……忘れ物かしら」
けれども、ひとこと、私へ宛てたと思わしき文言があった。
〝誕生日おめでとう〟
小匣に入っていたのは深緑の半透明に輝く綺麗な宝石。
翡翠の首飾りだった。
ああ、そうか。私自身が、こういうことに無頓着ではあったが、そう言われれば誕生日というのは。
見上げた空に、ひとこと、微笑みかけた。
「……ありがとう」
遠くで一羽の鴉の、照れ臭そうに啼く声がした。
(了)
霊夢と魔理沙はこういう関係がすごく似合いますね。