林檎を食べたのは誰?
私?
あなた?
それとも彼女?
こんなに真っ赤で、こんなに毒々しいのに、それなのになんで食べてしまったのかしら?
分かっている筈でしょう、あなたほど頭がいい人なら。
それは毒。
救いようの無いほどの深手を与える、不可逆な作用を及ぼす毒物。
ええ、誰だって間違えることはあるわ、それは確か。
でも、だからってこれは致命傷。
あまりにも救いようの無い間違い。
断崖から飛び降りた人間を、いったいどうやって助けられるのかしら?
それはもう、終わってしまったということ。
できるのは、直下に柔らかな地面がある幸運を祈ることだけ。
だから、そもそも落ちなければ――食べなければいいだけのことなのに、どうしてそんなあやまちを?
もう助けられない。
誰もあなたを救えない。
あなたは闇夜を独りで彷徨い、
内からの劫火に身を焦がし、
醜い屍をさらすだけ。
そう、あなたが踏み入れたのは無限の地獄。
どこにも、蜘蛛の糸は垂れていない。
そんなのは、御伽噺だけのもの。
自分の姿を見返してごらんなさい?
あなたの在り方と、そのイマの立ち位置を確かめてみなさいな。
そうすれば、分かるでしょう。
いったいあなたが何処へ向かって船を漕いでるのか。
そこは断崖。
そこは絶望。
そこは毒素の巣にして一片の光明も射さない永劫の常闇。
ああ、なんて愚か。
なんて暗愚。
なんて暴走。
あなたが捨てたはずのものが、巨大な迂廻軌道を描いて戻ってしまった。
あなたが無視したものが、いつの間にか目の前にあった。
それが、どれだけ貴重で暖かいのか、今更になって分かってしまった。
それが、あなたの罪。
それが、致命傷。
無知と無視が産みだした、あまりに当然で必然的な帰結。
――――ええ、そうね、いつの日にか、やっぱりそれは来たのかもしれないわね。
知と血と智を幾億と折り重ね、見渡すことも一苦労するタペストリーを作ったというのに、あなたはそれを自分で引き裂いた。
生を否定し、情を否定し、想を否定し、精緻に組み上げ続けた『それ』を、ただの一撃で壊してしまった。
壊れてしまった。
あなたがそこで得たのは壊れた知性。
間違った方向性。
不毛に整備された情報網。
狂いそうな情動に、知覚する己の醜さ。
未来への絶望
――そして……あたたかい涙。
狂おしいほどに欲する甘い傷。
狭かった自分が壊され、波間に漂い傷つき傷つけられる万華鏡の世界。
色彩の世界。
恋するあなたは何を得るのかしら?
林檎を食べたのは誰?
私?
あなた?
それとも彼女?
ねえ、パチェ。
私たちきっと、とても愚かだわ……
私?
あなた?
それとも彼女?
こんなに真っ赤で、こんなに毒々しいのに、それなのになんで食べてしまったのかしら?
分かっている筈でしょう、あなたほど頭がいい人なら。
それは毒。
救いようの無いほどの深手を与える、不可逆な作用を及ぼす毒物。
ええ、誰だって間違えることはあるわ、それは確か。
でも、だからってこれは致命傷。
あまりにも救いようの無い間違い。
断崖から飛び降りた人間を、いったいどうやって助けられるのかしら?
それはもう、終わってしまったということ。
できるのは、直下に柔らかな地面がある幸運を祈ることだけ。
だから、そもそも落ちなければ――食べなければいいだけのことなのに、どうしてそんなあやまちを?
もう助けられない。
誰もあなたを救えない。
あなたは闇夜を独りで彷徨い、
内からの劫火に身を焦がし、
醜い屍をさらすだけ。
そう、あなたが踏み入れたのは無限の地獄。
どこにも、蜘蛛の糸は垂れていない。
そんなのは、御伽噺だけのもの。
自分の姿を見返してごらんなさい?
あなたの在り方と、そのイマの立ち位置を確かめてみなさいな。
そうすれば、分かるでしょう。
いったいあなたが何処へ向かって船を漕いでるのか。
そこは断崖。
そこは絶望。
そこは毒素の巣にして一片の光明も射さない永劫の常闇。
ああ、なんて愚か。
なんて暗愚。
なんて暴走。
あなたが捨てたはずのものが、巨大な迂廻軌道を描いて戻ってしまった。
あなたが無視したものが、いつの間にか目の前にあった。
それが、どれだけ貴重で暖かいのか、今更になって分かってしまった。
それが、あなたの罪。
それが、致命傷。
無知と無視が産みだした、あまりに当然で必然的な帰結。
――――ええ、そうね、いつの日にか、やっぱりそれは来たのかもしれないわね。
知と血と智を幾億と折り重ね、見渡すことも一苦労するタペストリーを作ったというのに、あなたはそれを自分で引き裂いた。
生を否定し、情を否定し、想を否定し、精緻に組み上げ続けた『それ』を、ただの一撃で壊してしまった。
壊れてしまった。
あなたがそこで得たのは壊れた知性。
間違った方向性。
不毛に整備された情報網。
狂いそうな情動に、知覚する己の醜さ。
未来への絶望
――そして……あたたかい涙。
狂おしいほどに欲する甘い傷。
狭かった自分が壊され、波間に漂い傷つき傷つけられる万華鏡の世界。
色彩の世界。
恋するあなたは何を得るのかしら?
林檎を食べたのは誰?
私?
あなた?
それとも彼女?
ねえ、パチェ。
私たちきっと、とても愚かだわ……