「私は誰かと共に歩むつもりはないわ。もちろんレミリア、あんたともね」
「れ、霊夢…」
くっ!
まただ。
霊夢と共に歩む未来を模索しながらもそれが叶うことも無く通産32回目の失敗。
何故。
私は彼女と共に過ごすことは許されないとでも言うの?
否。
そんなはずはない。
必ずそこに至る道はあるはず。
まだまだ可能性はある。
それらを模索していけばよいだけ。
再び指を運ぶ。
33回目ともなれば慣れたもので、短時間で道筋をたどっていく。
今度の結末は…
「幻想郷の維持者として、同じ系統の力を持つものとして、共に歩めるのは紫しかいないわ」
「っ!!」
「悪いけどレミリア、あんたとは一緒に行けない」
………。
ちょっと泣けてきた。
よりによってあの隙間とだなんて!
しかし、ここまで交錯しない運命が続くなんて。
夜の王たるこの私が、運命の担い手たるこの私が!
たった一人の人間と共に歩む道すら見つけられないというの?
無力感。
私の能力はこの程度のものだったのか?
咲夜と共に歩む道はあれほど簡単に視る事が出来たのに。
そう。
咲夜と歩んだ8つの道はどれも素晴らしかったわ。
他人と肩を並べて生きることがどれだけの幸せをもたらすか。
幸福を得られる方法を知っている中で、あえてそれに目を向けず道を模索することに意味はあるの?
もういっそのこと霊夢のことはあきらめて…
バカな!
得がたいものだからこそ、手にしたときの喜びも大きいのだろう!
そもそも簡単にあきらめられる程私の思いは弱くない!
必ず道を見つけ出す!
だけど、このままでは効率が悪いのも事実。
おそらく私には道に至るまで情報が不足しているのだと思う。
運命を操る力といえど万能ではない。
私自身が思い至らないものまで視る事など出来ないのだから。
ならば話は早い。
他者の力を借りればいいのだ。
力を借りることを恥だとは思わない。
自身に不足していることや、面倒なことは他者にやらせればいいのだ。
上に立つものは、それらを上手く統率する事こそが重要。
もちろん相応の力がなければ統率など出来ないが。
ともあれ情報が足りないなら補えばよい。
すぐそばに適任者がいるのだから。
「パチェ!いるの!?」
「あら、レミィ。1週間ぶりくらいかしら」
「いたいた。ねぇパチェ、ちょっと力を貸して欲しいわ」
「来るなり唐突ね。一体なにかしら?」
本を置き興味深そうに視線をこちらに向ける友人。
私が頼み事をするなんて珍しいから当然といえば当然か。
「この1週間、私は霊夢と共に歩む道を模索し続けたわ。でも、いまだにその足がかりすらつかめていない」
「全然姿を見かけないと思ったらそんなことしてたのね。頑張るわね」
「結果が出ない努力など無意味だわ。とにかく私には何かが不足している。その何かを一緒に考えて欲しいの」
手をとり真剣な眼差しで訴える。
それが伝わったのか、同じく真剣な様子で彼女は語った。
「レミィ、あなたの気持ちはよくわかるわ。ちょうど1年前、私もあなたと同じように道が見えなくなったときがあったから」
驚いた。
パチェも何か悩んでいた事があったんだろうか。
「私は絶望したわ。目の前の壁を打ち砕くための方法がまるで思い浮かばなかった。決して少なくない時間を知識獲得に費やしたというのに、それらがまるで役に立たなかったわ」
「そんな…パチェですら歯が立たない問題があったなんて」
「自分のこれまでが否定された感じだったわ。あの頃の私はホント塞ぎこんで酷かったと思うわね」
気持ちはわかる。
私自身、運命を操る能力が役に立たない現状には絶望感が襲ってくるのだから。
だが、パチェは今はごく普通に生活をしている。
つまり、乗り越えたのだ。
「それほどの状況をどうやって打破したの?」
「答えは1冊の本だったわ。それを読んだことで私に対する障壁はすべて取り除かれたわ」
「パチェらしいわね。やっぱり私にもそういった何かきっかけが必要なのかしら」
読書なんてしない私には本がきっかけになる可能性は極めて薄い。
パチェの話から察するに、身近なものに何かヒントがあるのかもしれないけど…。
「ふふ…。きっかけも何もないわ。その本はおそらくレミィが抱えてる問題の道標にもなるはず。文字通りね」
「え?ど、どういうこと?」
パチェは何を言ってるのか?
特定の運命を導き出すための道標になる本?
そんなものが存在するというのか?
「そ、そんな本があるの?」
「百聞は一見になんとやら。小悪魔、G-2810を持ってきて頂戴」
どこからとも無くやってきたと思えばすぐに飛び去る司書を眺めつつ、疑問をぶつける。
「運命を探す手助けになるなんて…まさか預言書とかそういうの?」
「さっきも言ったけど見ればわかるわ。すぐに届くだろうからしばらく待ってなさい」
そこまで言われたらおとなしく待つしかないが…。
気になって仕方がない。
「パチュリー様、これでいいんですか?」
「ええそうよ。ご苦労様、下がっていいわよ」
程なく届いた1冊の本。
それほど厚いわけでもない、ここにある魔道書に比べたらむしろ薄い部類に入るのではないかという本だけど。
あんなものが本当にマイルストーンになるというの?
「パチェ!早く見せて!」
「落ち着いてレミィ。あなたに必要なページを出すから……っと、ここね。御覧なさい」
そこに載っていたのは1枚の図。
線と丸が繋がっていて、そこに注釈が加えられただけの簡単な図なのだが…。
「ぱ、パチェ!これは!!」
「可能性の視覚化といえばいいのかしら。レミィがとるべき行動の参考、どころか答えそのものといってもいいかもね」
そう。
それはまさに運命の系譜と呼んでいいものであった。
何故私が33回も失敗をしたのか。
どのような方向性を歩めばよかったのか。
それら全ての情報がこの1枚の図に収まっていた。
「そ、そんな…。こんなものがあるなんて…」
驚愕。
ただひたすらに驚愕だった。
私の能力以上のものがたった1枚の紙に収まるなんて。
しかも、それは現状を打破するための文字通りの解答。
それこそ預言書のごとく。
私の能力とは一体なんだったのだろう。
こんな薄っぺらい紙1枚に劣るようなものを誇りに生きてきたというのか。
「落ち込むことないでしょ。高々一項目に関して負けた程度であなたの能力がこの本に劣るなんて事はないわ」
「だ、だって…」
「1つの項目だけで100点取れて後はすべて0点なのと、100個の項目で全て80点を取れることと、どっちが凄いと思うの?」
「そうだけど…」
「それに今重要なのは能力の優劣ではなく、あの紅白と一緒になる方法が見つかったって事でしょ?手段と目的を履き違えないように」
そうだった!
ミクロな視点にこだわるあまり、自分の目的を忘れるところだったわ。
この図があれば、焦がれた運命を手にすることが出来る。
今重要なのはその一点のみ!
とにかくこの図を解析して私のとるべき道を模索しなければ!
「まずは失敗を省みることね。一緒に考えましょう」
「ええ。パチェ、ありがとう」
「どういたしまして。とりあえずレミィの性格からするとこの時点でミスを犯してる可能性が高いわね」
そう言ったパチェがひとつの丸を指し示す。
「あの紅白は攻めてばかりいてもふらりふらりとかわされるだけ。だからここではあえて引かないと駄目よ」
「そういえば、引いてみるなんて考えもしなかったわ…」
「そのあたりを理解しないとマイナスにしかならないわ。たとえば他にも……」
「え?こんなことしなければ……」
「それ以外にも…………」
「これは盲点……………」
「…………!」
「……!!…」
「よかった…やっとお嬢様が元気に…」
「あれ、咲夜さん?どうしたんですか?」
「ああ、小悪魔。お嬢様ったら一週間も引きこもられて悩んでおられたようなので心配してたんですよ。でも、あの二人の様子を見る限りもう大丈夫そうだわ」
「うーん、本当にそうなんでしょうか?」
「どういうことかしら?」
「パチュリー様も1年前に同じような事になったんですよね。で、そのときはあの本を見つけることで一見解決したように見えたんですが…」
「…どうなったの?」
「本を抱えたまま嬉々として部屋に篭られました。20日ほど」
「……」
「次にお会いしたときは何か妄想癖のようなものが強くなってましたし…」
「…まさかあの本、呪術書とかそういう類のものだったりしないわよね?」
「それはないです。魔力的なものは皆無でしたし、パチュリー様が本程度の魔力に屈するなんて事はありえません」
「だったら何が…」
「純粋に本の内容が問題なんでしょうか。何か心当たりありません?幻想メモリアル完全攻略ガイドって名前の本なんですけど」
幻想郷外での発売はいつですか?
い、1GILっていくらですか!?
1GIL=10円までなら買いますよ!?
確かに紅白の攻略にはフラグ管理が大変そうだ
幻視してしまった自分を激しく軽蔑した…
そしたら師弟エンドをまず最初に目指すぜ!
あ…今白魔理沙と赤魔理沙と黒魔理沙の三つ巴バトルを幻視した