注:拙作、プチ作品集6「幻想郷最強が負けた日」から多分続いてます。そちらを見れば、もっと内容理解が深まるかと思われます。
また同時に、情熱の理解にも、実に有用となることでしょう。
「ふっ……ふふ……くくく……」
誰もいない漆黒の暗闇の中、邪悪な笑い声が響き渡る。かっ、と窓の外で雷光がひらめき、闇の中に白い閃光と同時により黒い影が舞い降りる。
「ふふふ……そうよ……そう……。私は……私は最強……最強でなくてはならないの……」
何やら、片手に細長いものを持ち、声の主はつぶやいた。
雷が鳴り響く。雷鳴と同時に稲光が走り、その光を反射して、明々と輝く瞳が映し出される。
「かつて失った最強の座……! それを今こそ取り戻す……!」
右手を突き上げ、それは宣言した。同時に、それまでで最高の輝きを発する稲妻が走る。
「私が、幻想郷最強、風見幽香よーっ!」
「そんなことばっかり言ってるから、幽香さま、友達いないのにね」
「しっ」
「……」
一人、巫女が見上げるものがある。とんかんとんかん、と何の連絡も前触れもなしに作られているそれは、何やら舞台であるようだった。すでにそこに飾る垂れ幕のようなものは出来ていて、『第一回 幻想郷バスト大戦』とそれには書かれている。
「……ねぇ、魔理沙。一つ聞いていい?」
「ん? 何だ?」
「あんた何やってるの?」
「幽香の依頼だ」
「いやだからそれでどうしてうちの神社にっていうかもういいわ聞かないから」
「そうか」
あっさりと、その会場設営を主導している黒白魔法使いにコメントするのを諦めて、巫女は神社の母屋へと引っ込んでいったのだった。
「幻想郷に住まう数多の美少女達。それらは全てが独特の魅力を有し、甲乙つけがたい天上の美を持っている。
だが、それでいいのか!? 仮にも女の子であるのなら、誰よりも美しく、誰よりも気高く、誰よりも雅でありたいと願うもの! 故に私は提供する! 美を競う、最高のコンテストの場所を!」
ステージ上に立つ、赤と白のチェック柄の衣装がとかく目に痛い妖怪が、曰く、『図書館の魔女からもらったのよ』と言っていたマイク片手に声を張り上げる。会場を埋め尽くした一億二千万の観客(それならJAR○に電話しよう)が一斉に総立ちになり声を高らかに鳴り響かせる。
「第一回、幻想郷バスト大戦、ここに開幕ぅぅぅぅぅぅっ!!」
「……ノリノリねー、幽香」
「あいつが主催者だからな」
『司会』と『解説』と書かれたプレートの置かれた机の前に座り、もうやる気0の巫女の言葉に魔法使いがさも当然のように答える。
――さて、状況の説明をするとだ。
今から一週間ほど前に、最強バカ――もとい、ステージ上の妖怪、風見幽香から、あちこちに一通の手紙が届いた。その手紙の内容が、このよくわからない大会への出場依頼である。もちろん、出なくても構わないのだが、出なければその段階で負け犬と見なすという挑発的な単語が添えられており、多分に、送られてきた連中全員がエントリーしたのだろうと思われるだけの名前が、すでに集まっていたりする。そうして、本日をもって、そのよくわからない大会が開催される運びとなったのである。
魔法使い――魔理沙の言う通り、主催は幽香。会場設営の費用もその場所を提供(無許可)した博麗神社への土地代も、観客チケットの配布と製造、会場での食べ物販売(因幡てゐ主導)から何から幽香が全て一人で受け持ってのお祭り騒ぎだ。
「よし、それじゃ、ルール説明を開始するぜ」
幽香がひとしきり、マイクパフォーマンスをして舞台裏に下がっていく。それに代わって立ち上がるのが魔理沙だ。
「勝敗の理由は簡単! 今大会の名前にもなった『バスト大戦』の名前通り、女の最大の魅力たる『バスト』についての評価を下してもらうぜ」
それセクハラだろ、と巫女がぼやく。
「これから、エントリーした各選手に舞台上で己の魅力を最大限アピールしてもらう! お前達の心に訴えかけた分だけ、持ち点の中から得点を入れてくれ! それでより高い得点を得た方の勝利だぜ!」
「んなもん、でかさで言ったら永琳か小町の二極勝負じゃないの?」
「ちっちっち、甘いな、霊夢」
そんなんだからお前は浅はかなんだぜ、と言わんばかりの口調だった。内心、むかっと来てるのがよくわかる表情を浮かべる霊夢を一瞥して、魔理沙は言う。
「おっぱいは、大きさだけが全てじゃない!
見た目により美しく見せる形! はりのよさ! 触った時のつや、柔らかさ、感触! さらには感度から服を装着した上でも美しさを見せる全体のバランスなどなど!」
「………………」
「それくらいの熱意がなければ、おっぱいを語るにはまだまだだぜ、霊夢」
「あんた、ほんとに女か?」
容赦ない霊夢のツッコミを華麗にグレイズして魔理沙が席へと腰を下ろす。
「……あーもー、そんなら勝手に始めるわよこんちくしょー。
まず第一回戦は……と」
片手に用意されたトーナメント表に視線を落とす。
「えーっと。……いきなりこれかよ」
マイクが拾えない程度に小さな声でぼそりとつぶやき、
「永遠亭最強の女、八意永琳VS今大会の主催者、風見幽香のガチキャットファイトからスタート!」
とっとと終わらせて、こんな不浄な内容の大会を境内から追い出したいと思っているのがありありと見える宣言だった。
会場中が熱気に盛り上がる中(なお、観客の内訳は紅魔館4、永遠亭3、その他の妖精などが3である)、しずしずと、舞台の上に上がってきたのは――、
「あらあら」
にっこりおっとり微笑む永琳だった。
「くっ……! さすがは幻想郷で一、二を争う美巨乳の持ち主だぜ……! いきなり私のスカウターの計測数値を振り切ったぜ!」
一体いつそんなものを装着したのかわからないが、『ぴー、ぼん』という音を立てて壊れるよくわからない機械を投げ捨てた魔理沙がマイク片手に机に片足を載せて叫ぶ。
「さあ! これぞまさにお母さんといった感じのバストの登場だぁ!」
永琳は、この勝負のために用意したのかどうかはわからないが、きわどいビキニ衣装だった。
「このビキニというやつは、自分の体によほどの自信がなければ装着できない、まさに選ばれしもののための衣装! カップからこぼれ落ちそうなバストに刮目せよ!」
「あらあら、まあまあ」
「……っていうか、色気も何もないような……」
「ここからアピールチャンスだぜっ!」
どうやらよくわからないルールがあるらしい。
その魔理沙の一言に、永琳がその場にすっと直立不動で立つ。両手の間でこれでもかと言わんばかりに寄せられた、絶対なる二つの丘から、ゆっくりと手を離し、その両手でゆっくりと髪の毛をかきあげていき、両腕の角度が絶妙になるところでストップ。そこから、斜め四十五度の角度で妖艶な眼差しを観客一同に投げかけ、一言。
「先生のおっぱいに興味があるの?」
その一言で、会場全体に血柱が立った。
「ぐっ……ぐふぅっ……! す、すさまじい……すさまじい破壊力だぜ、永琳……!」
「つか、何であんたが鼻血噴き出してんのよ」
「バカ言うな、霊夢! 先生だぞ!? お医者さんだぞ!?」
「いやだから何が」
「清楚な白衣の下に秘められた宇宙に咲く妖花! 近寄るものを根こそぎ食らいつくし、精力を搾り取る甘い罠! これにどれほどの破壊力があると思う!? 幻想郷が崩壊してもおかしくない威力だぜ!」
「…………………………」
というか、こいつ、何でこんな事に対して異様に詳しいんだろう。
それを素直に思ったが、あえて口には出さず、『もう好きにして』と言わんばかりの投げやりスタイル霊夢を無視して、魔理沙が宣言する。
「さあ、会場の審査員諸君! そのポイントは!?」
ドラムロール(担当:プリズムリバー)が鳴り響き、会場全体から眺めることの出来る巨大スクリーンに点数が映し出される。
「何と、『99おっぱい』! いきなり最高得点ぎりぎりだぁーっ!!」
「……何その単位」
「あらあら。それでは、私はこれで」
先ほどまでの雰囲気どこへやら。いつものおっとり具合に戻って、ぺこりと一礼して控え室の方に戻っていく永琳。ちなみに会場のあちこちで、『救護班、急いで!』だの『ティッシュが足りないわ! 大至急、森の木から紙を作ってきて!』だのといった切羽詰まった声が響き渡っていたりするのだが、とりあえず霊夢はそれを聞こえないことにしたらしい。
「いやぁ、のっけからすさまじい攻撃力だったぜ。どうだ、霊夢。司会としてコメントを」
「いやまぁ……ね? わからないこともないけどさ、それを見せ物にするってどうなのよ」
「では、第二の刺客、風見幽香の出陣だぜ!」
「聞けよお前」
シカトこいて宣言する魔理沙にガンつけながらツッコミ入れる霊夢。無論、そのツッコミなど何の意味もないことは証明済みだ。
続いて、ステージ上に現れるのは今大会の主催者、幽香。自信に満ちた笑みを浮かべながら、ゆっくりとステージに上がってきた彼女は、ふふん、という視線を場内へと向けた。その視線にやられたのか、また新たなところで血柱が吹き上がったがとりあえず無視。
「おおーっ! 胸元とくびれた腰、そしておへそという禁断の領域をさらした裸シャツ前留めなしっ! こいつはすさまじい挑発だぜっ!」
「……んー、まぁ、わからんでもないわな」
大会のルールとして、『アピール上、全部見せるのは禁止』というものがある。それに従って、幽香が腕をほどいても、その魅惑の空間は全てが露出せず、見えるか見えないかぎりぎりのところでシャツの危うい均衡が保たれているという、違う意味での絶対領域。魔理沙が「あのぎりぎりの場所を維持するにはすさまじい鍛錬が必要……! 風見幽香、奴は何者なんだ!?」とよくわからないセリフを吐いている。
「では、アピールチャンスだぁーっ!」
幽香が、手にした日傘を肩に預け、髪の毛をかきあげる。それでも露出しない微妙な角度を保っている辺り、相当な手練れであることは、誰の目にも明らかだった。何の手練れだよおい、と霊夢が内心でツッコミ入れるのは当然として。
「あら、何、その目?」
幽香の、つんとした口調と鋭い瞳が会場全体をねめつける。
「私の胸に興味があるの? それなら見せてあげるし、触らせてあげる。
ただし――」
傲然と、相手を見下すように。
「私の言うことを、ちゃんと全部聞けたらね」
その日、博麗神社に赤い雨が降った。
「がっ……がふぅ……! れ、霊夢……私は……私はもうダメだ……! あとは……あとは全て、お前に託す……!」
「だが断る」
「何というすさまじい挑発! これぞ『悪いお姉さん』の典型! 何も知らない純な少女を禁断の領域に誘う悪女の誘惑だぁぁぁぁぁぁっ!」
鼻にティッシュをつめて、死にかけていたというのにあっさり復活した魔理沙の絶叫が会場に響き渡る。倒れた観客を救護班が必死で介抱していく様には、戦慄を禁じ得ない。まさしく、おっぱいは力なり。
「さあ、このおっぱいにどれほどの得点が入るのか! 採点タァーイム!!」
「何か、『勝った』って顔してるわねぇ」
霊夢の視線の先には悠然と笑う幽香の姿。確かに、会場全体に上がった血柱は永琳のものよりもさらに激しかった。
激しかったのだが――博麗の巫女は気づいていた。
「なっ……!?」
幽香の声と。
「おーっとぉ!! ポイントは『97おっぱい』! 2ポイント及ばず、永琳の勝利だぁーっ!」
「な、何ですって!? バカな……!」
「……残念ね、幽香」
勝利宣言をする魔理沙の言葉に重なるように、動揺する幽香の声が響く。そこへ、静かに博麗の巫女が囁いた。
「普段はおっとり、だけどいざという時には妖しい大人の魅力を漂わせる女医。このギャップを埋めることが出来ない限り、あなたの魅力は永琳にはかなわないのよ!」
「そっ……んな……!」
ぴしゃーんっ! と雷に打たれたかのように硬直し、がっくりと、幽香が膝を落とした。
――そう。霊夢の見立てでは、バストに関してなら、その、言うなれば『おっぱいパワー』というもので計算するのなら幽香の方に分があった。だが、永琳には、それを上回る破壊力を秘めた、もう一つの要素があったのだ。
それが、『普段は清楚なお医者さん。夜は淫靡な女医』という二面性。魔理沙が最初に言ったではないか。『その魅力は一つの要素では決まらない』と。
「残念だったわね……幽香」
「さあ、続けて第二回戦の開始だ! 次はどんな魅惑が私たちの前に現れるのかぁーっ!!」
魔理沙の場内アナウンスが響く中、幽香は肩を落として会場を後にする。
主催者が第一回戦で敗北。僅差とはいえ、その『僅差』は乗り越えることの出来ない絶対の壁なのだ。
しかし、幽香は諦めていない。
「ふっ……ふふ……! そうよ、こうでなくちゃ面白くないわ……!」
目の中に浮かぶ炎は、最初の時よりも遙かに強く、熱い。
控え室に戻った彼女の凶暴な視線を、悠々と受け止める永琳に、誰もが息を呑む。両者の間に渦巻く、苛烈な力の波動は物理的な力を伴い、周囲を席巻していく。
幽香は、言った。
「私はまだ、負けたわけじゃない!」
――と。
「でも、誰が見ても幽香さまの負けよね」
「だからそれは禁句よ。幻月ってば」
また同時に、情熱の理解にも、実に有用となることでしょう。
「ふっ……ふふ……くくく……」
誰もいない漆黒の暗闇の中、邪悪な笑い声が響き渡る。かっ、と窓の外で雷光がひらめき、闇の中に白い閃光と同時により黒い影が舞い降りる。
「ふふふ……そうよ……そう……。私は……私は最強……最強でなくてはならないの……」
何やら、片手に細長いものを持ち、声の主はつぶやいた。
雷が鳴り響く。雷鳴と同時に稲光が走り、その光を反射して、明々と輝く瞳が映し出される。
「かつて失った最強の座……! それを今こそ取り戻す……!」
右手を突き上げ、それは宣言した。同時に、それまでで最高の輝きを発する稲妻が走る。
「私が、幻想郷最強、風見幽香よーっ!」
「そんなことばっかり言ってるから、幽香さま、友達いないのにね」
「しっ」
「……」
一人、巫女が見上げるものがある。とんかんとんかん、と何の連絡も前触れもなしに作られているそれは、何やら舞台であるようだった。すでにそこに飾る垂れ幕のようなものは出来ていて、『第一回 幻想郷バスト大戦』とそれには書かれている。
「……ねぇ、魔理沙。一つ聞いていい?」
「ん? 何だ?」
「あんた何やってるの?」
「幽香の依頼だ」
「いやだからそれでどうしてうちの神社にっていうかもういいわ聞かないから」
「そうか」
あっさりと、その会場設営を主導している黒白魔法使いにコメントするのを諦めて、巫女は神社の母屋へと引っ込んでいったのだった。
「幻想郷に住まう数多の美少女達。それらは全てが独特の魅力を有し、甲乙つけがたい天上の美を持っている。
だが、それでいいのか!? 仮にも女の子であるのなら、誰よりも美しく、誰よりも気高く、誰よりも雅でありたいと願うもの! 故に私は提供する! 美を競う、最高のコンテストの場所を!」
ステージ上に立つ、赤と白のチェック柄の衣装がとかく目に痛い妖怪が、曰く、『図書館の魔女からもらったのよ』と言っていたマイク片手に声を張り上げる。会場を埋め尽くした一億二千万の観客(それならJAR○に電話しよう)が一斉に総立ちになり声を高らかに鳴り響かせる。
「第一回、幻想郷バスト大戦、ここに開幕ぅぅぅぅぅぅっ!!」
「……ノリノリねー、幽香」
「あいつが主催者だからな」
『司会』と『解説』と書かれたプレートの置かれた机の前に座り、もうやる気0の巫女の言葉に魔法使いがさも当然のように答える。
――さて、状況の説明をするとだ。
今から一週間ほど前に、最強バカ――もとい、ステージ上の妖怪、風見幽香から、あちこちに一通の手紙が届いた。その手紙の内容が、このよくわからない大会への出場依頼である。もちろん、出なくても構わないのだが、出なければその段階で負け犬と見なすという挑発的な単語が添えられており、多分に、送られてきた連中全員がエントリーしたのだろうと思われるだけの名前が、すでに集まっていたりする。そうして、本日をもって、そのよくわからない大会が開催される運びとなったのである。
魔法使い――魔理沙の言う通り、主催は幽香。会場設営の費用もその場所を提供(無許可)した博麗神社への土地代も、観客チケットの配布と製造、会場での食べ物販売(因幡てゐ主導)から何から幽香が全て一人で受け持ってのお祭り騒ぎだ。
「よし、それじゃ、ルール説明を開始するぜ」
幽香がひとしきり、マイクパフォーマンスをして舞台裏に下がっていく。それに代わって立ち上がるのが魔理沙だ。
「勝敗の理由は簡単! 今大会の名前にもなった『バスト大戦』の名前通り、女の最大の魅力たる『バスト』についての評価を下してもらうぜ」
それセクハラだろ、と巫女がぼやく。
「これから、エントリーした各選手に舞台上で己の魅力を最大限アピールしてもらう! お前達の心に訴えかけた分だけ、持ち点の中から得点を入れてくれ! それでより高い得点を得た方の勝利だぜ!」
「んなもん、でかさで言ったら永琳か小町の二極勝負じゃないの?」
「ちっちっち、甘いな、霊夢」
そんなんだからお前は浅はかなんだぜ、と言わんばかりの口調だった。内心、むかっと来てるのがよくわかる表情を浮かべる霊夢を一瞥して、魔理沙は言う。
「おっぱいは、大きさだけが全てじゃない!
見た目により美しく見せる形! はりのよさ! 触った時のつや、柔らかさ、感触! さらには感度から服を装着した上でも美しさを見せる全体のバランスなどなど!」
「………………」
「それくらいの熱意がなければ、おっぱいを語るにはまだまだだぜ、霊夢」
「あんた、ほんとに女か?」
容赦ない霊夢のツッコミを華麗にグレイズして魔理沙が席へと腰を下ろす。
「……あーもー、そんなら勝手に始めるわよこんちくしょー。
まず第一回戦は……と」
片手に用意されたトーナメント表に視線を落とす。
「えーっと。……いきなりこれかよ」
マイクが拾えない程度に小さな声でぼそりとつぶやき、
「永遠亭最強の女、八意永琳VS今大会の主催者、風見幽香のガチキャットファイトからスタート!」
とっとと終わらせて、こんな不浄な内容の大会を境内から追い出したいと思っているのがありありと見える宣言だった。
会場中が熱気に盛り上がる中(なお、観客の内訳は紅魔館4、永遠亭3、その他の妖精などが3である)、しずしずと、舞台の上に上がってきたのは――、
「あらあら」
にっこりおっとり微笑む永琳だった。
「くっ……! さすがは幻想郷で一、二を争う美巨乳の持ち主だぜ……! いきなり私のスカウターの計測数値を振り切ったぜ!」
一体いつそんなものを装着したのかわからないが、『ぴー、ぼん』という音を立てて壊れるよくわからない機械を投げ捨てた魔理沙がマイク片手に机に片足を載せて叫ぶ。
「さあ! これぞまさにお母さんといった感じのバストの登場だぁ!」
永琳は、この勝負のために用意したのかどうかはわからないが、きわどいビキニ衣装だった。
「このビキニというやつは、自分の体によほどの自信がなければ装着できない、まさに選ばれしもののための衣装! カップからこぼれ落ちそうなバストに刮目せよ!」
「あらあら、まあまあ」
「……っていうか、色気も何もないような……」
「ここからアピールチャンスだぜっ!」
どうやらよくわからないルールがあるらしい。
その魔理沙の一言に、永琳がその場にすっと直立不動で立つ。両手の間でこれでもかと言わんばかりに寄せられた、絶対なる二つの丘から、ゆっくりと手を離し、その両手でゆっくりと髪の毛をかきあげていき、両腕の角度が絶妙になるところでストップ。そこから、斜め四十五度の角度で妖艶な眼差しを観客一同に投げかけ、一言。
「先生のおっぱいに興味があるの?」
その一言で、会場全体に血柱が立った。
「ぐっ……ぐふぅっ……! す、すさまじい……すさまじい破壊力だぜ、永琳……!」
「つか、何であんたが鼻血噴き出してんのよ」
「バカ言うな、霊夢! 先生だぞ!? お医者さんだぞ!?」
「いやだから何が」
「清楚な白衣の下に秘められた宇宙に咲く妖花! 近寄るものを根こそぎ食らいつくし、精力を搾り取る甘い罠! これにどれほどの破壊力があると思う!? 幻想郷が崩壊してもおかしくない威力だぜ!」
「…………………………」
というか、こいつ、何でこんな事に対して異様に詳しいんだろう。
それを素直に思ったが、あえて口には出さず、『もう好きにして』と言わんばかりの投げやりスタイル霊夢を無視して、魔理沙が宣言する。
「さあ、会場の審査員諸君! そのポイントは!?」
ドラムロール(担当:プリズムリバー)が鳴り響き、会場全体から眺めることの出来る巨大スクリーンに点数が映し出される。
「何と、『99おっぱい』! いきなり最高得点ぎりぎりだぁーっ!!」
「……何その単位」
「あらあら。それでは、私はこれで」
先ほどまでの雰囲気どこへやら。いつものおっとり具合に戻って、ぺこりと一礼して控え室の方に戻っていく永琳。ちなみに会場のあちこちで、『救護班、急いで!』だの『ティッシュが足りないわ! 大至急、森の木から紙を作ってきて!』だのといった切羽詰まった声が響き渡っていたりするのだが、とりあえず霊夢はそれを聞こえないことにしたらしい。
「いやぁ、のっけからすさまじい攻撃力だったぜ。どうだ、霊夢。司会としてコメントを」
「いやまぁ……ね? わからないこともないけどさ、それを見せ物にするってどうなのよ」
「では、第二の刺客、風見幽香の出陣だぜ!」
「聞けよお前」
シカトこいて宣言する魔理沙にガンつけながらツッコミ入れる霊夢。無論、そのツッコミなど何の意味もないことは証明済みだ。
続いて、ステージ上に現れるのは今大会の主催者、幽香。自信に満ちた笑みを浮かべながら、ゆっくりとステージに上がってきた彼女は、ふふん、という視線を場内へと向けた。その視線にやられたのか、また新たなところで血柱が吹き上がったがとりあえず無視。
「おおーっ! 胸元とくびれた腰、そしておへそという禁断の領域をさらした裸シャツ前留めなしっ! こいつはすさまじい挑発だぜっ!」
「……んー、まぁ、わからんでもないわな」
大会のルールとして、『アピール上、全部見せるのは禁止』というものがある。それに従って、幽香が腕をほどいても、その魅惑の空間は全てが露出せず、見えるか見えないかぎりぎりのところでシャツの危うい均衡が保たれているという、違う意味での絶対領域。魔理沙が「あのぎりぎりの場所を維持するにはすさまじい鍛錬が必要……! 風見幽香、奴は何者なんだ!?」とよくわからないセリフを吐いている。
「では、アピールチャンスだぁーっ!」
幽香が、手にした日傘を肩に預け、髪の毛をかきあげる。それでも露出しない微妙な角度を保っている辺り、相当な手練れであることは、誰の目にも明らかだった。何の手練れだよおい、と霊夢が内心でツッコミ入れるのは当然として。
「あら、何、その目?」
幽香の、つんとした口調と鋭い瞳が会場全体をねめつける。
「私の胸に興味があるの? それなら見せてあげるし、触らせてあげる。
ただし――」
傲然と、相手を見下すように。
「私の言うことを、ちゃんと全部聞けたらね」
その日、博麗神社に赤い雨が降った。
「がっ……がふぅ……! れ、霊夢……私は……私はもうダメだ……! あとは……あとは全て、お前に託す……!」
「だが断る」
「何というすさまじい挑発! これぞ『悪いお姉さん』の典型! 何も知らない純な少女を禁断の領域に誘う悪女の誘惑だぁぁぁぁぁぁっ!」
鼻にティッシュをつめて、死にかけていたというのにあっさり復活した魔理沙の絶叫が会場に響き渡る。倒れた観客を救護班が必死で介抱していく様には、戦慄を禁じ得ない。まさしく、おっぱいは力なり。
「さあ、このおっぱいにどれほどの得点が入るのか! 採点タァーイム!!」
「何か、『勝った』って顔してるわねぇ」
霊夢の視線の先には悠然と笑う幽香の姿。確かに、会場全体に上がった血柱は永琳のものよりもさらに激しかった。
激しかったのだが――博麗の巫女は気づいていた。
「なっ……!?」
幽香の声と。
「おーっとぉ!! ポイントは『97おっぱい』! 2ポイント及ばず、永琳の勝利だぁーっ!」
「な、何ですって!? バカな……!」
「……残念ね、幽香」
勝利宣言をする魔理沙の言葉に重なるように、動揺する幽香の声が響く。そこへ、静かに博麗の巫女が囁いた。
「普段はおっとり、だけどいざという時には妖しい大人の魅力を漂わせる女医。このギャップを埋めることが出来ない限り、あなたの魅力は永琳にはかなわないのよ!」
「そっ……んな……!」
ぴしゃーんっ! と雷に打たれたかのように硬直し、がっくりと、幽香が膝を落とした。
――そう。霊夢の見立てでは、バストに関してなら、その、言うなれば『おっぱいパワー』というもので計算するのなら幽香の方に分があった。だが、永琳には、それを上回る破壊力を秘めた、もう一つの要素があったのだ。
それが、『普段は清楚なお医者さん。夜は淫靡な女医』という二面性。魔理沙が最初に言ったではないか。『その魅力は一つの要素では決まらない』と。
「残念だったわね……幽香」
「さあ、続けて第二回戦の開始だ! 次はどんな魅惑が私たちの前に現れるのかぁーっ!!」
魔理沙の場内アナウンスが響く中、幽香は肩を落として会場を後にする。
主催者が第一回戦で敗北。僅差とはいえ、その『僅差』は乗り越えることの出来ない絶対の壁なのだ。
しかし、幽香は諦めていない。
「ふっ……ふふ……! そうよ、こうでなくちゃ面白くないわ……!」
目の中に浮かぶ炎は、最初の時よりも遙かに強く、熱い。
控え室に戻った彼女の凶暴な視線を、悠々と受け止める永琳に、誰もが息を呑む。両者の間に渦巻く、苛烈な力の波動は物理的な力を伴い、周囲を席巻していく。
幽香は、言った。
「私はまだ、負けたわけじゃない!」
――と。
「でも、誰が見ても幽香さまの負けよね」
「だからそれは禁句よ。幻月ってば」
それと、入院ですか……お早い全快をお祈りしております(礼
エロォォォぉぉぉぉぉぉい!!!
必ず戻ってきて下さいね!!