雨。
それは恵みの雨であり、憂鬱の雨でもあった。
夕方、出張鑑定を依頼された古道具屋香霖堂の店主・森近霖之助は雨に濡れていた。
鑑定の依頼者である霧雨魔理沙とアリス・マーガトロイドと共に。
「うひゃ~。運がないぜ」
「夕立だもの。仕方ないわ」
とりあえずと一番近い香霖堂へと避難した3人はびしょ濡れだった。
夕立らしく、雨は既に小雨になり始めている。
「2人共、こっちへおいで」
「ん?」
「はい」
案外素直に入ってきたな、と思いつつ霖之助は棚からタオルを取り出した。
「ほら」
「お、サンキュ」
「ありがとうございます」
大きめのタオルを4枚。
それを手渡した霖之助は、とりあえずと自分はタオルを1枚持ち、店の方へと戻っていった。
そして数分後、彼は部屋の戸をノックしていた。
「はぁい」
「入ってもかまわないかな?」
「はい」
アリスの言葉に従って中に入ると、そこにはバスタオルを体に巻いただけというあられもない姿の少女が2人。
魔理沙の返事がなかったのは、どうやら服を乾かす魔法を唱えている為らしい。
「あの、タオルありがとうございます」
「あぁ。気にしなくていい」
軽く挨拶を交わしながら、霖之助は自分の着替えを探し始める。
どうやら着替えの事を失念していたらしい。
「後20分もすれば乾くぜ」
「そう。ありがと、魔理沙」
「で、香霖」
「ん?」
「こんな姿のオンナノコがいるのに、入ってくるなんて失礼だぞ」
「ん、あぁ。すまないね。着替えを取り忘れたんだよ」
もちろんその言葉は真実で、霖之助にそんな意思はない。
が、しかしだからと言って恥ずかしくない訳ではない。魔理沙の頬も少し赤いし、アリスは更に少しだけ俯き加減。
「そんな事言って、期待してたんじゃないのか?」
「ん、あ? 何をだい?」
「ほら、あれだ。ちらりとかぽろりとか」
「ま、魔理沙」
焦るアリスが魔理沙の口を塞ごうと手を伸ばす。その際、魔理沙の言葉が真実になりかけたのだが、ならなかったので特に問題はない。
「ん~?」
霖之助が横目でと魔理沙を見る。
そして上から下まで、全身を観察するように視線を滑らせた。
「な、なんだよ。やっぱ――」
「ぽろり、と言う程ないのではないかい?」
「――り・・・ぃ? ぅ? うわーん」
突然泣き出す魔理沙に、霖之助もさすがに焦った。
そして泣きじゃくる魔理沙は、隣に居たアリスに抱きついた。がばっ、と。タオルを剥がん勢いで。
「あり、アリスぅ」
「ええっと、何?」
「香霖が、香霖が酷い事をっ! 痛い。心が痛い!」
「だ、大丈夫よ。まだ傷は浅いわよ、魔理沙!」
「これは致命傷だ! 私のハートはぼろぼろのずたずただ! がくり」
「魔理沙ぁぁぁ!」
がくり、などと声に出している時点で余裕がありそうなモノだが、どうやら本気で気にしていたらしい。
その証拠に、タオルが乱れる事も気にせずアリスに泣き縋っている。なんというか、普段からは想像できない光景だ。
「あ~、僕は着替えてくるから」
逃げるが勝ち、とばかりに部屋から出て行く霖之助。
慰謝料だと店の品物をいくつかふんだくられたのは、三日後の事であったとか。
ちなみにその後、部屋で何があったのかは2人のみぞ知る、だったりします。