注意点
*これは絵板[6665]『式の夏休み~夜~』をSS化したものです。セットでお楽しみください。
*これは第四話です。序章~第三話が存在しますので、そちらを先に読んで欲しいです。
*式の夏休みを描ききったEKIさんを労いつつお話は始まります。ご苦労様でした。
夜。
それは普通、眠る時間であるのだが、彼女達はまだ眠っていなかった。
「そしたらいきなり、周りにあった物が部屋中を飛び回ったの」
「あ、それ知ってます。ポルターガイスト現象ですよね?」
「ううん。騒霊の気まぐれ」
「ルナちゃんが犯人!?」
怪談で盛り上がっているのは、大小コンビ+騒霊姉。
ちなみにテントは紅魔館から再度転送魔法で取り寄せた、少し大きめの物だ。
「そっちばっかりずるい~」
「はは。皆、明日も遊ぶなら、早くねなさい」
で、こちらが式組テント。
ほぼ隣接する形で立てられたテントは、その近さ故に声が筒抜けだった。
「ううん。犯人は妹。どっちだったかしら?」
「いや、ルナサさん。そのくらいは覚えておきましょうよ」
「・・・いつもの事だし」
「いつも物が飛び交ってるの!?」
ボケ担当ルナサ、冷静なつっこみ担当小悪魔、苛烈なつっこみ担当大妖精。
3人がテントに入ってからと言うもの、ずっとこの調子での会話が続いている。
「うぅ~。私も入れてよぉ・・・」
「よしよし橙。私が面白い話をしてやるから」
「え、本当ですか!?」
ずっとあちら側を向いてた意識が、やっと藍へ向けられる。
橙を宥めながら、私がいるのに不満なのか、と思っていた藍がようやく苦笑いでない笑顔を浮かべる。
「ううん。たまに」
「姉妹喧嘩のたびにって事ですか?」
「ノリと勢い?」
「えぇぇ!?」
相変わらずの大小組テント。
「橙は神隠しって知ってるか?」
「えっと、山とかで行方不明になったりする事、であってますか?」
小首を傾げ、自信なさげにそう答える橙。
藍はそんな姿を愛らしく思いながら、肯定と補足を加える。
「うん、そうだな。他に忽然と消えてしまう事、という解釈もある」
「へぇ~」
そうなんだ~、と嬉しそうに藍の言葉を租借する橙。
そして何時しか、周り――隣のテントも含めて――の音が全て消え去っていた。
「で、神隠しだけどね」
「はい」
藍の正面で横になっている橙。自然、彼女達は見つめあっている。
「どんな時に起こりやすいと思う?」
「えぇ、っと」
悩み始める橙。
そんな彼女に助け舟を出したのは、隣のテントにいる小さな悪魔だった。
「山などの人のいない場所、という説。もしくはその種の儀式をやった場合、ですよね?」
「そう。人間の書物によればそうなっているな」
「あの、藍さま。儀式ってなんですか?」
判らないならすぐに聞く。それをきちんと実践している橙に、藍はまた笑みを零す。
しかし、今は怪談の真っ最中。そう思い直した藍は、すぐに表情を真面目なものに戻した。
「一説ではかごめかごめなどの遊びですね」
「ほう、よく知っているな。紅魔館の」
「はい」
小悪魔の言葉に重ねて「私もした事ある・・・大丈夫かな」とか「私も妹達と一緒にした」と言う声が漏れ始める。
声にこそださないが、ゴクリ、と唾液を飲み込む橙もまた、同じであるようだ。
「あれは直感、すなわち特殊能力を測るモノで、力の強い者を選定する儀式なのだ、と書いてありました」
「うん。そうだな。力が強ければ利用価値がある。利用価値があれば攫われる」
「そう、うちの咲夜さんみたいに」
小悪魔が不敵な笑みと共に出した声。その恐怖を煽る声に、びくっ、と揺れる尻尾と羽。
「ふ~ん。でも、あの子は楽しそうに仕えてるじゃない?」
ルナサの指摘に、びくりとしていた2人の緊張が少しだけ緩む。
そう、それが更なる恐怖を呼ぶとも知らず。
「うふふ。そうですね。ところで皆さん、私が誰だか知っていますか?」
「・・・こぁちゃん」
「そう、小悪魔。小さくても悪魔です。人の心を操るなんて・・・うふふ」
直接顔を見ることが出来ない橙でさえ判るほど、小悪魔は笑顔だった。想像を絶する、妖しげな。
「そういえばここにいるのは、何かしら能力の高い者ばかりだな」
数瞬の空白を空け、そう呟いたのは藍。
その声は小悪魔のモノと違い、感情がほとんど込められていなかった。
「知ってますか? 妖怪でも神隠しに合うんですよ」
止めとばかりに不適に笑う小悪魔がそう呟く。
結果、大妖精と橙は布団を頭から被ってしまい、羽と尻尾が小刻みに震えている。藍とルナサ、そして小悪魔はその姿を見て笑いをかみ殺していた。
「さて、もう寝るか?」
「藍さま~」
「こぁちゃん~」
名前を呼ばれた2人は、抱きつかれて少し困り顔だったが、どこか楽しそうでもあった。
1人残されたルナサが「どうせ私は・・・寝よう」とか言っていたのだが、誰も聞いていなかったのだとか。
橙は困っていた。
調子に乗ってジュースを飲み過ぎたせいか、トイレに行きたくなってしまって。
「うぅ」
「ん? どうした橙」
藍さまがこちらを見てそう尋ねてきます。
トイレに行きたいけど、怖くていけないなんて恥ずかしくて言えない・・・。
「明日も遊ぶんだろ? だったらもう寝なさい」
「うぅ。はい・・・」
画我慢して寝よう。そう決めた私は、先程から握ったままの藍さまの手に全身で抱きつくように姿勢を変えた。
「ん?」
「・・・えっと」
「ふふ。橙は甘えん坊だな」
優しく笑う藍さま。藍さまの言葉は少し恥ずかしかったけど、怖いんだから仕方が無い、と自分に言い聞かせて更に力を込める。
あう。力を込めたらまた・・・。
「・・・どうした、橙?」
「えっと、なんでもありません」
ふい、っと藍さまから目を背けた瞬間、隣のテントの影が見えた。
・・・そうだ、藍さまじゃなくても他の人に頼めば!
「えっと、藍さま」
「ん?」
「おトイレに行って来てもいいですか?」
「ん? あぁ、行っておいで」
藍さまの返事とほぼ同時に、私は立ち上がった。そして同時に藍さまも布団の上で体を起こした。
「ふふ。1人で大丈夫かな?」
「だ、大丈夫です!」
「そうか」
本当は全然大丈夫じゃない。でも、怖くて1人でトイレにいけないなんて子供みたいで。
私はそんな葛藤をしながらも、テントの外へと出る。その瞬間、なるべく不自然にならないようにしながら、声を出した。
「あ、他にもトイレ行きたい人いるかな?」
まさに今思いついた、とばかりに上げたその声は、たぶん普通に出せたと思う。
・・・後ろから忍び笑いが聞えるのは気のせいだよね。うん。
「誰かトイレいかない?」
「しぃ~」
言葉と共に隣のテントを覗くと、そこにはすーすーと寝息を立てる大ちゃんと、寝転がったままテントの壁にくっついているルナちゃん。そして人差し指を唇にあてて、所謂静かにしてください、ポーズのこぁがいた。
「2人とも寝てますから、静かにしてください」
「ご、ごめん」
ひそひそと小さな声でしゃべりながら、私は絶望していた。
いや、まだ。まだこぁって言う最後の希望が!
「トイレ、いかない?」
「いきません」
「えっと、どうしても?」
「どうしても」
もう半分懇願している私に、完全無欠の否定をしてくれるこぁ。
うぅ、お願いだから察して。そして気づかないで。って、どっちがいいんだろう・・・。
「あ、もしかして1人で行くのが怖いんですか?」
「え?」
図星を付かれて焦ってしまう。
いや、でもこの際背に腹は変えられないから正直に――。
「橙さんは子供ですし、仕方ないですよね」
「ち、違うよ!」
反射的にそう叫んでしまい、私は激しく後悔する。そして何故だか全然関係のない方向へと思考がそれ始めてしまう。
・・・あぁ、小さな声で叫ぶって、結構出来るものなんだなぁ。なんて。
「そうですか、すいません。では、お一人でいってらっしゃい」
「う、うん。いってくるね」
「お気をつけて。神隠しとかに」
あ~う~、こぁの意地悪! 鬼! 悪魔!
最後のは何か違うな~、とか思いつつ、私はトイレを済ませる為にテントから離れたのでしたとさ。
時は少し戻り、紅魔館のテント内。
そこで唯一1人寝をしているルナサは、ある問題に直面していた。
(・・・着替えどうしよう)
突然誘われ、なんとなく参加してしまったキャンプ。
当然ながら着替えなどある訳はない。というか、彼女の所持品は死装束セットのみである。それも朝になればくしゃくしゃになってしまう事請け合いの。
(・・・裸で寝る?)
明日も同じ服を着ないと=この服が皺にならないようにしないと、と言う思考から生まれた結果がそれだった。
よし、じゃあ服を脱ごう、と思った瞬間、突然テントの入り口が開いた。
「誰かトイレいかない?」
その声が聞えた瞬間、ルナサは録音を開始していた。騒霊の勘でいい音が拾えると感じたのか、それとも条件反射か。
そして静かにそれを録音し続け、橙が走り去った頃。彼女は満足そうに上体を起こした。
「あ、ルナサさん。起きてたんですかぁぁぁ!?」
「ん、どうしたの?」
大きな声を出してしまった小悪魔が、慌てて口に手を当てて声を防ぐ。まぁ、突然隣で服を脱ぎ始めたら驚きもするだろう。
その後、大妖精が眠っているのを確認した小悪魔は「どうした?」と聞く藍に「何でもありません」と答え、今度はひそひそ声でルナサに話しかける。
「な、なんで脱ぐんですか? しかも・・・」
「服の替えがないから、皺になったら困るから」
その言葉にルナサの真意を理解しつつも、小悪魔は頭を悩ませてしまう。
だからと言って全裸で寝るというのは・・・。いえ、そういう人もいるらしいですが、ここは外ですし。いえ、でもテントの中だから?
「・・・よし」
「何がいいんですか!?」
きちんと畳まれた死装束にご満悦のルナサ。それを見た小悪魔は今度は小さな声で叫んだ。どうやら学習能力はあったらしい。
「と言うか、せめて布団で隠すとかしてくださいよ」
「・・・レズ?」
「違います!」
「じゃあ、平気」
説明しよう。女ばかりの家で生活しているルナサは、そういう部分に無頓着なのである。ついでに、眠くて判断力が低下している。
そんな訳で、彼女は何も気にせずに布団に入り、数分後にはすやすやと寝息を立て始めたのだった。
「・・・私が変なの?」
そして現実逃避した小悪魔が思考を放棄して眠るのは、更にその数分後だったとか。
ちみにその時、隣では橙が戻ってきて、即座に布団に潜り込んでいた。
八雲藍は至福の時を過ごしていた。
「す~…す~…」
目の前で眠る橙。トイレに行く時の様子も可愛かったけど・・・橙は寝顔もかわいいなぁ。ほっぺさわってみるか♪
「ん~藍しゃまぁ…」
~っ!! かわいいなぁもう!
この時が永遠に続けばいいのになぁ。あぁ、でも明日には帰らないとな。
―彼女は気づいていない―
「やっぱり式水入らずでキャンプにきてよかったなぁ」
―今そこに迫る危機に―
テントの外に映る人影。
それが誰の物であったのか。それは隙間だけが知っている。
SUMMERVACATION ENDING No2
*これは絵板[6665]『式の夏休み~夜~』をSS化したものです。セットでお楽しみください。
*これは第四話です。序章~第三話が存在しますので、そちらを先に読んで欲しいです。
*式の夏休みを描ききったEKIさんを労いつつお話は始まります。ご苦労様でした。
夜。
それは普通、眠る時間であるのだが、彼女達はまだ眠っていなかった。
「そしたらいきなり、周りにあった物が部屋中を飛び回ったの」
「あ、それ知ってます。ポルターガイスト現象ですよね?」
「ううん。騒霊の気まぐれ」
「ルナちゃんが犯人!?」
怪談で盛り上がっているのは、大小コンビ+騒霊姉。
ちなみにテントは紅魔館から再度転送魔法で取り寄せた、少し大きめの物だ。
「そっちばっかりずるい~」
「はは。皆、明日も遊ぶなら、早くねなさい」
で、こちらが式組テント。
ほぼ隣接する形で立てられたテントは、その近さ故に声が筒抜けだった。
「ううん。犯人は妹。どっちだったかしら?」
「いや、ルナサさん。そのくらいは覚えておきましょうよ」
「・・・いつもの事だし」
「いつも物が飛び交ってるの!?」
ボケ担当ルナサ、冷静なつっこみ担当小悪魔、苛烈なつっこみ担当大妖精。
3人がテントに入ってからと言うもの、ずっとこの調子での会話が続いている。
「うぅ~。私も入れてよぉ・・・」
「よしよし橙。私が面白い話をしてやるから」
「え、本当ですか!?」
ずっとあちら側を向いてた意識が、やっと藍へ向けられる。
橙を宥めながら、私がいるのに不満なのか、と思っていた藍がようやく苦笑いでない笑顔を浮かべる。
「ううん。たまに」
「姉妹喧嘩のたびにって事ですか?」
「ノリと勢い?」
「えぇぇ!?」
相変わらずの大小組テント。
「橙は神隠しって知ってるか?」
「えっと、山とかで行方不明になったりする事、であってますか?」
小首を傾げ、自信なさげにそう答える橙。
藍はそんな姿を愛らしく思いながら、肯定と補足を加える。
「うん、そうだな。他に忽然と消えてしまう事、という解釈もある」
「へぇ~」
そうなんだ~、と嬉しそうに藍の言葉を租借する橙。
そして何時しか、周り――隣のテントも含めて――の音が全て消え去っていた。
「で、神隠しだけどね」
「はい」
藍の正面で横になっている橙。自然、彼女達は見つめあっている。
「どんな時に起こりやすいと思う?」
「えぇ、っと」
悩み始める橙。
そんな彼女に助け舟を出したのは、隣のテントにいる小さな悪魔だった。
「山などの人のいない場所、という説。もしくはその種の儀式をやった場合、ですよね?」
「そう。人間の書物によればそうなっているな」
「あの、藍さま。儀式ってなんですか?」
判らないならすぐに聞く。それをきちんと実践している橙に、藍はまた笑みを零す。
しかし、今は怪談の真っ最中。そう思い直した藍は、すぐに表情を真面目なものに戻した。
「一説ではかごめかごめなどの遊びですね」
「ほう、よく知っているな。紅魔館の」
「はい」
小悪魔の言葉に重ねて「私もした事ある・・・大丈夫かな」とか「私も妹達と一緒にした」と言う声が漏れ始める。
声にこそださないが、ゴクリ、と唾液を飲み込む橙もまた、同じであるようだ。
「あれは直感、すなわち特殊能力を測るモノで、力の強い者を選定する儀式なのだ、と書いてありました」
「うん。そうだな。力が強ければ利用価値がある。利用価値があれば攫われる」
「そう、うちの咲夜さんみたいに」
小悪魔が不敵な笑みと共に出した声。その恐怖を煽る声に、びくっ、と揺れる尻尾と羽。
「ふ~ん。でも、あの子は楽しそうに仕えてるじゃない?」
ルナサの指摘に、びくりとしていた2人の緊張が少しだけ緩む。
そう、それが更なる恐怖を呼ぶとも知らず。
「うふふ。そうですね。ところで皆さん、私が誰だか知っていますか?」
「・・・こぁちゃん」
「そう、小悪魔。小さくても悪魔です。人の心を操るなんて・・・うふふ」
直接顔を見ることが出来ない橙でさえ判るほど、小悪魔は笑顔だった。想像を絶する、妖しげな。
「そういえばここにいるのは、何かしら能力の高い者ばかりだな」
数瞬の空白を空け、そう呟いたのは藍。
その声は小悪魔のモノと違い、感情がほとんど込められていなかった。
「知ってますか? 妖怪でも神隠しに合うんですよ」
止めとばかりに不適に笑う小悪魔がそう呟く。
結果、大妖精と橙は布団を頭から被ってしまい、羽と尻尾が小刻みに震えている。藍とルナサ、そして小悪魔はその姿を見て笑いをかみ殺していた。
「さて、もう寝るか?」
「藍さま~」
「こぁちゃん~」
名前を呼ばれた2人は、抱きつかれて少し困り顔だったが、どこか楽しそうでもあった。
1人残されたルナサが「どうせ私は・・・寝よう」とか言っていたのだが、誰も聞いていなかったのだとか。
橙は困っていた。
調子に乗ってジュースを飲み過ぎたせいか、トイレに行きたくなってしまって。
「うぅ」
「ん? どうした橙」
藍さまがこちらを見てそう尋ねてきます。
トイレに行きたいけど、怖くていけないなんて恥ずかしくて言えない・・・。
「明日も遊ぶんだろ? だったらもう寝なさい」
「うぅ。はい・・・」
画我慢して寝よう。そう決めた私は、先程から握ったままの藍さまの手に全身で抱きつくように姿勢を変えた。
「ん?」
「・・・えっと」
「ふふ。橙は甘えん坊だな」
優しく笑う藍さま。藍さまの言葉は少し恥ずかしかったけど、怖いんだから仕方が無い、と自分に言い聞かせて更に力を込める。
あう。力を込めたらまた・・・。
「・・・どうした、橙?」
「えっと、なんでもありません」
ふい、っと藍さまから目を背けた瞬間、隣のテントの影が見えた。
・・・そうだ、藍さまじゃなくても他の人に頼めば!
「えっと、藍さま」
「ん?」
「おトイレに行って来てもいいですか?」
「ん? あぁ、行っておいで」
藍さまの返事とほぼ同時に、私は立ち上がった。そして同時に藍さまも布団の上で体を起こした。
「ふふ。1人で大丈夫かな?」
「だ、大丈夫です!」
「そうか」
本当は全然大丈夫じゃない。でも、怖くて1人でトイレにいけないなんて子供みたいで。
私はそんな葛藤をしながらも、テントの外へと出る。その瞬間、なるべく不自然にならないようにしながら、声を出した。
「あ、他にもトイレ行きたい人いるかな?」
まさに今思いついた、とばかりに上げたその声は、たぶん普通に出せたと思う。
・・・後ろから忍び笑いが聞えるのは気のせいだよね。うん。
「誰かトイレいかない?」
「しぃ~」
言葉と共に隣のテントを覗くと、そこにはすーすーと寝息を立てる大ちゃんと、寝転がったままテントの壁にくっついているルナちゃん。そして人差し指を唇にあてて、所謂静かにしてください、ポーズのこぁがいた。
「2人とも寝てますから、静かにしてください」
「ご、ごめん」
ひそひそと小さな声でしゃべりながら、私は絶望していた。
いや、まだ。まだこぁって言う最後の希望が!
「トイレ、いかない?」
「いきません」
「えっと、どうしても?」
「どうしても」
もう半分懇願している私に、完全無欠の否定をしてくれるこぁ。
うぅ、お願いだから察して。そして気づかないで。って、どっちがいいんだろう・・・。
「あ、もしかして1人で行くのが怖いんですか?」
「え?」
図星を付かれて焦ってしまう。
いや、でもこの際背に腹は変えられないから正直に――。
「橙さんは子供ですし、仕方ないですよね」
「ち、違うよ!」
反射的にそう叫んでしまい、私は激しく後悔する。そして何故だか全然関係のない方向へと思考がそれ始めてしまう。
・・・あぁ、小さな声で叫ぶって、結構出来るものなんだなぁ。なんて。
「そうですか、すいません。では、お一人でいってらっしゃい」
「う、うん。いってくるね」
「お気をつけて。神隠しとかに」
あ~う~、こぁの意地悪! 鬼! 悪魔!
最後のは何か違うな~、とか思いつつ、私はトイレを済ませる為にテントから離れたのでしたとさ。
時は少し戻り、紅魔館のテント内。
そこで唯一1人寝をしているルナサは、ある問題に直面していた。
(・・・着替えどうしよう)
突然誘われ、なんとなく参加してしまったキャンプ。
当然ながら着替えなどある訳はない。というか、彼女の所持品は死装束セットのみである。それも朝になればくしゃくしゃになってしまう事請け合いの。
(・・・裸で寝る?)
明日も同じ服を着ないと=この服が皺にならないようにしないと、と言う思考から生まれた結果がそれだった。
よし、じゃあ服を脱ごう、と思った瞬間、突然テントの入り口が開いた。
「誰かトイレいかない?」
その声が聞えた瞬間、ルナサは録音を開始していた。騒霊の勘でいい音が拾えると感じたのか、それとも条件反射か。
そして静かにそれを録音し続け、橙が走り去った頃。彼女は満足そうに上体を起こした。
「あ、ルナサさん。起きてたんですかぁぁぁ!?」
「ん、どうしたの?」
大きな声を出してしまった小悪魔が、慌てて口に手を当てて声を防ぐ。まぁ、突然隣で服を脱ぎ始めたら驚きもするだろう。
その後、大妖精が眠っているのを確認した小悪魔は「どうした?」と聞く藍に「何でもありません」と答え、今度はひそひそ声でルナサに話しかける。
「な、なんで脱ぐんですか? しかも・・・」
「服の替えがないから、皺になったら困るから」
その言葉にルナサの真意を理解しつつも、小悪魔は頭を悩ませてしまう。
だからと言って全裸で寝るというのは・・・。いえ、そういう人もいるらしいですが、ここは外ですし。いえ、でもテントの中だから?
「・・・よし」
「何がいいんですか!?」
きちんと畳まれた死装束にご満悦のルナサ。それを見た小悪魔は今度は小さな声で叫んだ。どうやら学習能力はあったらしい。
「と言うか、せめて布団で隠すとかしてくださいよ」
「・・・レズ?」
「違います!」
「じゃあ、平気」
説明しよう。女ばかりの家で生活しているルナサは、そういう部分に無頓着なのである。ついでに、眠くて判断力が低下している。
そんな訳で、彼女は何も気にせずに布団に入り、数分後にはすやすやと寝息を立て始めたのだった。
「・・・私が変なの?」
そして現実逃避した小悪魔が思考を放棄して眠るのは、更にその数分後だったとか。
ちみにその時、隣では橙が戻ってきて、即座に布団に潜り込んでいた。
八雲藍は至福の時を過ごしていた。
「す~…す~…」
目の前で眠る橙。トイレに行く時の様子も可愛かったけど・・・橙は寝顔もかわいいなぁ。ほっぺさわってみるか♪
「ん~藍しゃまぁ…」
~っ!! かわいいなぁもう!
この時が永遠に続けばいいのになぁ。あぁ、でも明日には帰らないとな。
―彼女は気づいていない―
「やっぱり式水入らずでキャンプにきてよかったなぁ」
―今そこに迫る危機に―
テントの外に映る人影。
それが誰の物であったのか。それは隙間だけが知っている。
SUMMERVACATION ENDING No2
あささん、SS化ホントにありがとうございました!
EKIさんの絵の数分の1でも楽しんで頂けたのなら幸いです。
追伸:大小コンビ+のその後とか、書くか思案中です。