注意点
*これは絵板[6596]『式の夏休み~花火~』をSS化したものです。セットでお楽しみください。
*これは第三話です。序章と第一話、第二話が存在しますので、そちらを先に読んでください。
*EKIさんの手繰り寄せた幻想に感動しつつ、物語は始まります。
陽も高くなり、時刻は昼食時を少し越えた頃。
9×2コンビと、藍から誘いを受けた大小コンビの四人は遅めの昼食を摂っていた。
「おいしいよなぁ。なぁ?」
静かな食卓に差し込まれた藍の声。
何故静かかと言うと、それは少し前に遡らなければならない。
「今日はお風呂に入れないから、せめて水浴びくらいはしておきなさい」
藍のそんな言葉を受け、恐る恐る水へと入ってくる橙。
そしてその瞬間、小悪魔の魔法が藍の手前の水面に炸裂。そして吹き飛んだ水が橙に直撃。
逃げる橙。焦る藍。そして藍は濡れ衣を着せられた。
とまぁ、そんな訳で橙はご機嫌斜めなのであった。
2人が誘われた理由もその状況をなんとかしたい藍の苦肉の策であったりする。
ちなみに、藍はあれを単なる流れ弾だと勘違いしている為、元凶には気づいていない。
「な、なぁ? なぁ?」
「あ、はい。そうですね。ねぇ、こぁちゃん?」
「はい」
「つ~ん」
機嫌の悪い橙をなんとか宥めようとする藍と、それに加勢している大妖精。小悪魔はもちろん、傍観している。
「ねぇねぇこぁちゃん」
「はい?」
「どうする?」
「う~ん。大妖精さんにお任せします」
どうする? とは、先程の藍が言った「折角だから一緒にキャンプするか?」と言う質問に対しての言葉である。大妖精としては歓迎なのだが、小悪魔には仕事がある為確認したようだ。
「あの~、藍さん」
「ん、なんだ?」
「あの、本当にお邪魔してもいいんですか?」
「あぁ、大歓迎だ」
友達は多いほうが楽しいだろう。そう考える藍とは裏腹に、橙は折角家族だけの夏休みなのにと更に拗ね始めている。
主の心、式知らず。これもまた八雲一家に共通する事柄かもしれない。
「じゃあ、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
こうして式の夏休みに新しく2匹のメンバーが加わったのだった。
小悪魔は準備をしていた。
準備しているのは2つ。通信の魔法と転移の魔法。後者に関しては魔方陣を描く必要があるので少し時間がかかりましたが、無事終了しました。
「何してるの?」
「着替えとかを回収しようと思いまして」
大妖精さんの言葉を受け、私は慎重に、されど丁寧すぎないよう心がけながら返事を返します。
う~ん、そろそろ慣れないとなぁ。
「あ、そっか。さすがに水着のままじゃ困るもんね」
「はい。すいませんがしばらく静かにして頂けますか?」
「は~い」
大妖精さんの元気な返事を受けて、私は詠唱を開始します。
まずは通信の魔法。詠唱しつつ、媒介として空中に魔力の円を描きます。
「もしもし、パチュリー様。聞えますか?」
ちゃんと繋がってるかな? そんな不安を抱えて待つこと数十秒。聞きなれた声が私の耳に届きました。
『聞えてるわ。で、何の用?』
「すいません。迷ひ家の方々に誘われて、一泊して帰る事になりました」
『・・・例の隙間妖怪?』
「いえ、その式さんと更にその式さんです」
『そう。わかったわ』
「で、それとお願いがあるんですけど」
『荷物一式を準備しろ、ってとこかしら?』
「はい。お願いできますか?」
『・・・そうね。咲夜にでも頼んで用意させるわ』
「ありがとうございます」
『かまわないわ。貴方はいつもがんばってくれてるしね。そうね・・・30分後くらいでいいかしら?』
「はい。では、それ以降に回収します」
『そう。じゃあ、準備するから』
「はい。お願いします」
ブツッ
少し大きめの切断音に眉をしかめつつ、私もまた送信を終了します。
う~ん、この魔法唯一の欠点ですよねぇ。これ。
「終わった?」
「はい」
「そっか。でもこぁちゃん」
「なんでしょう?」
「傍から見てると独り言言ってる様に見えるよ?」
がーん。
そ、そんな事は考えた事もなかったです・・・。後で問題点の追加としてパチュリー様に報告しておかなければ・・・。
「それで、荷物は?」
「っあ、はい。30分後以降に回収します」
「・・・?」
「えっと。まだ準備中って事です」
「・・・そっか。どんな魔法なの?」
「えっと、準備した物を回収する魔法です」
「へぇ」
難しい事はよくわからないと判断したのか、大妖精さんはその説明であっさりと納得してくれました。
確かに「実はある特殊な魔方陣に荷物を載せておき予め登録しておいた術者の魔法力を感知すると対になる魔方陣に荷物を転移する魔法なんですよ」と説明されても理解し辛いかもしれないので、その判断は正解かもしれません。
「じゃあ、とりあえずもう一回遊ぼうか?」
「そうですね」
こうして未だにじゃれあっている(?)2人を残し、私達は再度泉で遊ぶ事にしたのでした。
橙の機嫌も少し直り、3人が遊び始めて数時間が経った。ちなみに藍はまだ少し冷たい反応をする橙にショックを受け、1人夕食の準備をすると抜け出していった。
「橙ちゃん、覚悟!」
「捕まらないよ!」
木から木へと飛び移る橙。そしてそれを飛んで追いかける大妖精。
3人は今、鬼ごっこの真っ最中だった。
「甘い!」
「え? わわわ」
橙が飛び移ろうとした瞬間、目の前に障害物が飛び出してくる。
その正体は、泉から放たれた小悪魔の水弾。
「わわ~。すとっぷすとっぷ」
跳躍から飛行に切り替えた橙は、間一髪水弾を回避する。
しかし、それはすなわち、その場に静止した事を意味する。
「つーかまーえたっ♪」
「あぁ。もう。2人掛かりなんて反則だよ!」
橙が怒るのも無理はないだろう。何せ小悪魔は鬼役ではないのだから。味方だと思っていた相手に裏切られれば、怒るのも仕方が無い。かもしれない。
「甘いですよ橙さん。ルール的には問題なしですから」
「う~。でも、鬼から逃げる為に助け合うのが普通じゃない?」
「いえ、誰かを蹴落としてでも鬼を回避するのが普通です」
さらりとそんな事をのたまう小悪魔に、橙は膨れっ面になり、更に不機嫌になる。
先程小悪魔は鬼である橙の妨害をして、大妖精を助けていたのだから、これもまた仕方がない事である。のかもしれない。
「むぅ。さっきとやってる事が違うよ!」
「あの時はあのままでは私も危なかったですから、そうしたまでです」
「うぅ~」
猫が口先三寸で悪魔に勝てるはずもなく、橙はあっさりと言いくるめられてしまう。
藍がいればそう言う事もなかったのだろうが、主人とは冷戦状態であるのが橙の現状である。
「うぅ、藍さ――」
「あれ~? 喧嘩しててもやっぱりご主人様が恋しいのかな?」
「う、ち、違うもん!」
ムキになって反論する橙を面白がり、小悪魔は更にいくつか言葉を投げかける。ここに藍がいれば小悪魔vs女狐が勃発している所だろうと思えるほどの言葉を。
そんな風にからかう小悪魔を、大妖精はいつものように見つめていた。からかわれる橙の姿にチルノを思い出しながら。
「うぅ~。こぁのバカー」
走り去っていく橙。その光景を眺めながら、大妖精は静かに小悪魔へと近づいていく。そしてその頭に、ぽんっ、と手を置き、撫で始めた。
「いい子いい子」
「な、なんですか!?」
突然の行動に驚く小悪魔。それはそうだろう。悪戯をして褒められるなんて経験は、めったにない状況なのだろうから。
「あの二人を仲直りさせてくれたんだよね」
「え~っと、何のことだかさっぱりですよ?」
確かに橙は藍へと泣きついており、ある意味仲直りしているとも言えるだろう。
それが小悪魔の意図によって為されたかどうかは別にして。
「ふふ。いいのいいの」
「あ~。そ、そうだ。荷物受け取るの忘れてましたっ」
慌ててその場を去る小悪魔に、大妖精はぴったりとくっついて飛び、頭を撫で続ける。
「ちょ、大妖精さん。荷物を回収しなきゃいけないので放してくださいよ」
「はいはい」
少し頬が赤くなった小悪魔の顔を見て、大妖精は微笑みながらあっさりとその手をどけた。あれから既に数時間経っているのだから、今更少しくらい遅れても関係ないよ、なんて事はあえて口にせず。
「こ、こほん」
「こぁちゃん。よろしくね~」
こうして数時間遅れの荷物回収が無事に為されたのだった。
その中には「オマケよ」と書かれたメモと花火が一式入っており、その後にそれを餌に橙と仲直りする、という一幕が起こるのだった。
ルナサ・プリズムリバーは探しモノをしていた。
探しモノ。それは音。夏の音。
「こぁちゃんにこうげき~」
「花火符《赤鬼青鬼》~」
「二人ともやめてよ~」
故に私は、自然に大きな音のする方へと足が向う。
その音が近くなると、予想通りそこには知った顔がいくつか並んでいた。
「…う~ら~め~し~や~」
「…突然だな、ルナサ。いつにもまして変だぞ? 今の挨拶といい、格好といい」
変だなんて、失礼な事を言う狐。
そんな事を思いながら、私はこの格好が如何に重要かを説明し始める。
「夏の幽霊はこういうものだって、竹林の兎が。違うの?」
「い、いや、どうかな…ところで、こんな所で何を?」
ふむ、どうやら彼女の意見ではこの格好は少しおかしいらしい。
文字通り音が命の騒霊である私。音楽の為にと思ったからこそ、私はすーすーするのを我慢して死装束のみを身につけて音探しをしていたと言うのに、これじゃあダメなのかしら?
ん? あぁ、そうか。これは幽霊や亡霊の格好であって、騒霊の格好ではないと言う意味なら、仕方が無いのかも。
勝手にそう納得した私は、彼女の質問にもきちんと答えておく事にする。
「音…夏の音を探してたの。それで、こっちから賑やかな音が聴こえたから」
「ふむ、音楽の事はよくわからないが…“コレ”はどうだ? 中々に夏らしい光景だと思うが」
夏らしい。そんな彼女の言葉通り、目の前ではとても凄惨で悲惨な光景が繰り広げられていた。
猫は「昼間のお返しだ~」と叫び、妖精は「たまにはこぁちゃんも食らえ~」と言って小さな悪魔を追いかけている。
立場が逆と言うのもまた、普通でない音を醸し出しているのかもしれない。
「うん。いい音を見つけた。夏のライブで使わせてもらうね」
「ではそのライブとやらを楽しみにしてるよ」
期待されてもされなくても、音を紡ぐのが私達の全て。でも、期待されているのならもっとがんばらないといけない。
っと、録音チャンス。
「悪魔に花火を向けないでください~!」
夏に相応しい、悲痛な叫び声に満足しつつ、私は更なるサンプルを入手すべく、音を拾い続けるのだった。
ちなみに、藍は罰という名の多忙の為ライブには出席出来なかったんだとか。まぁ、自業自得である。
*これは絵板[6596]『式の夏休み~花火~』をSS化したものです。セットでお楽しみください。
*これは第三話です。序章と第一話、第二話が存在しますので、そちらを先に読んでください。
*EKIさんの手繰り寄せた幻想に感動しつつ、物語は始まります。
陽も高くなり、時刻は昼食時を少し越えた頃。
9×2コンビと、藍から誘いを受けた大小コンビの四人は遅めの昼食を摂っていた。
「おいしいよなぁ。なぁ?」
静かな食卓に差し込まれた藍の声。
何故静かかと言うと、それは少し前に遡らなければならない。
「今日はお風呂に入れないから、せめて水浴びくらいはしておきなさい」
藍のそんな言葉を受け、恐る恐る水へと入ってくる橙。
そしてその瞬間、小悪魔の魔法が藍の手前の水面に炸裂。そして吹き飛んだ水が橙に直撃。
逃げる橙。焦る藍。そして藍は濡れ衣を着せられた。
とまぁ、そんな訳で橙はご機嫌斜めなのであった。
2人が誘われた理由もその状況をなんとかしたい藍の苦肉の策であったりする。
ちなみに、藍はあれを単なる流れ弾だと勘違いしている為、元凶には気づいていない。
「な、なぁ? なぁ?」
「あ、はい。そうですね。ねぇ、こぁちゃん?」
「はい」
「つ~ん」
機嫌の悪い橙をなんとか宥めようとする藍と、それに加勢している大妖精。小悪魔はもちろん、傍観している。
「ねぇねぇこぁちゃん」
「はい?」
「どうする?」
「う~ん。大妖精さんにお任せします」
どうする? とは、先程の藍が言った「折角だから一緒にキャンプするか?」と言う質問に対しての言葉である。大妖精としては歓迎なのだが、小悪魔には仕事がある為確認したようだ。
「あの~、藍さん」
「ん、なんだ?」
「あの、本当にお邪魔してもいいんですか?」
「あぁ、大歓迎だ」
友達は多いほうが楽しいだろう。そう考える藍とは裏腹に、橙は折角家族だけの夏休みなのにと更に拗ね始めている。
主の心、式知らず。これもまた八雲一家に共通する事柄かもしれない。
「じゃあ、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
こうして式の夏休みに新しく2匹のメンバーが加わったのだった。
小悪魔は準備をしていた。
準備しているのは2つ。通信の魔法と転移の魔法。後者に関しては魔方陣を描く必要があるので少し時間がかかりましたが、無事終了しました。
「何してるの?」
「着替えとかを回収しようと思いまして」
大妖精さんの言葉を受け、私は慎重に、されど丁寧すぎないよう心がけながら返事を返します。
う~ん、そろそろ慣れないとなぁ。
「あ、そっか。さすがに水着のままじゃ困るもんね」
「はい。すいませんがしばらく静かにして頂けますか?」
「は~い」
大妖精さんの元気な返事を受けて、私は詠唱を開始します。
まずは通信の魔法。詠唱しつつ、媒介として空中に魔力の円を描きます。
「もしもし、パチュリー様。聞えますか?」
ちゃんと繋がってるかな? そんな不安を抱えて待つこと数十秒。聞きなれた声が私の耳に届きました。
『聞えてるわ。で、何の用?』
「すいません。迷ひ家の方々に誘われて、一泊して帰る事になりました」
『・・・例の隙間妖怪?』
「いえ、その式さんと更にその式さんです」
『そう。わかったわ』
「で、それとお願いがあるんですけど」
『荷物一式を準備しろ、ってとこかしら?』
「はい。お願いできますか?」
『・・・そうね。咲夜にでも頼んで用意させるわ』
「ありがとうございます」
『かまわないわ。貴方はいつもがんばってくれてるしね。そうね・・・30分後くらいでいいかしら?』
「はい。では、それ以降に回収します」
『そう。じゃあ、準備するから』
「はい。お願いします」
ブツッ
少し大きめの切断音に眉をしかめつつ、私もまた送信を終了します。
う~ん、この魔法唯一の欠点ですよねぇ。これ。
「終わった?」
「はい」
「そっか。でもこぁちゃん」
「なんでしょう?」
「傍から見てると独り言言ってる様に見えるよ?」
がーん。
そ、そんな事は考えた事もなかったです・・・。後で問題点の追加としてパチュリー様に報告しておかなければ・・・。
「それで、荷物は?」
「っあ、はい。30分後以降に回収します」
「・・・?」
「えっと。まだ準備中って事です」
「・・・そっか。どんな魔法なの?」
「えっと、準備した物を回収する魔法です」
「へぇ」
難しい事はよくわからないと判断したのか、大妖精さんはその説明であっさりと納得してくれました。
確かに「実はある特殊な魔方陣に荷物を載せておき予め登録しておいた術者の魔法力を感知すると対になる魔方陣に荷物を転移する魔法なんですよ」と説明されても理解し辛いかもしれないので、その判断は正解かもしれません。
「じゃあ、とりあえずもう一回遊ぼうか?」
「そうですね」
こうして未だにじゃれあっている(?)2人を残し、私達は再度泉で遊ぶ事にしたのでした。
橙の機嫌も少し直り、3人が遊び始めて数時間が経った。ちなみに藍はまだ少し冷たい反応をする橙にショックを受け、1人夕食の準備をすると抜け出していった。
「橙ちゃん、覚悟!」
「捕まらないよ!」
木から木へと飛び移る橙。そしてそれを飛んで追いかける大妖精。
3人は今、鬼ごっこの真っ最中だった。
「甘い!」
「え? わわわ」
橙が飛び移ろうとした瞬間、目の前に障害物が飛び出してくる。
その正体は、泉から放たれた小悪魔の水弾。
「わわ~。すとっぷすとっぷ」
跳躍から飛行に切り替えた橙は、間一髪水弾を回避する。
しかし、それはすなわち、その場に静止した事を意味する。
「つーかまーえたっ♪」
「あぁ。もう。2人掛かりなんて反則だよ!」
橙が怒るのも無理はないだろう。何せ小悪魔は鬼役ではないのだから。味方だと思っていた相手に裏切られれば、怒るのも仕方が無い。かもしれない。
「甘いですよ橙さん。ルール的には問題なしですから」
「う~。でも、鬼から逃げる為に助け合うのが普通じゃない?」
「いえ、誰かを蹴落としてでも鬼を回避するのが普通です」
さらりとそんな事をのたまう小悪魔に、橙は膨れっ面になり、更に不機嫌になる。
先程小悪魔は鬼である橙の妨害をして、大妖精を助けていたのだから、これもまた仕方がない事である。のかもしれない。
「むぅ。さっきとやってる事が違うよ!」
「あの時はあのままでは私も危なかったですから、そうしたまでです」
「うぅ~」
猫が口先三寸で悪魔に勝てるはずもなく、橙はあっさりと言いくるめられてしまう。
藍がいればそう言う事もなかったのだろうが、主人とは冷戦状態であるのが橙の現状である。
「うぅ、藍さ――」
「あれ~? 喧嘩しててもやっぱりご主人様が恋しいのかな?」
「う、ち、違うもん!」
ムキになって反論する橙を面白がり、小悪魔は更にいくつか言葉を投げかける。ここに藍がいれば小悪魔vs女狐が勃発している所だろうと思えるほどの言葉を。
そんな風にからかう小悪魔を、大妖精はいつものように見つめていた。からかわれる橙の姿にチルノを思い出しながら。
「うぅ~。こぁのバカー」
走り去っていく橙。その光景を眺めながら、大妖精は静かに小悪魔へと近づいていく。そしてその頭に、ぽんっ、と手を置き、撫で始めた。
「いい子いい子」
「な、なんですか!?」
突然の行動に驚く小悪魔。それはそうだろう。悪戯をして褒められるなんて経験は、めったにない状況なのだろうから。
「あの二人を仲直りさせてくれたんだよね」
「え~っと、何のことだかさっぱりですよ?」
確かに橙は藍へと泣きついており、ある意味仲直りしているとも言えるだろう。
それが小悪魔の意図によって為されたかどうかは別にして。
「ふふ。いいのいいの」
「あ~。そ、そうだ。荷物受け取るの忘れてましたっ」
慌ててその場を去る小悪魔に、大妖精はぴったりとくっついて飛び、頭を撫で続ける。
「ちょ、大妖精さん。荷物を回収しなきゃいけないので放してくださいよ」
「はいはい」
少し頬が赤くなった小悪魔の顔を見て、大妖精は微笑みながらあっさりとその手をどけた。あれから既に数時間経っているのだから、今更少しくらい遅れても関係ないよ、なんて事はあえて口にせず。
「こ、こほん」
「こぁちゃん。よろしくね~」
こうして数時間遅れの荷物回収が無事に為されたのだった。
その中には「オマケよ」と書かれたメモと花火が一式入っており、その後にそれを餌に橙と仲直りする、という一幕が起こるのだった。
ルナサ・プリズムリバーは探しモノをしていた。
探しモノ。それは音。夏の音。
「こぁちゃんにこうげき~」
「花火符《赤鬼青鬼》~」
「二人ともやめてよ~」
故に私は、自然に大きな音のする方へと足が向う。
その音が近くなると、予想通りそこには知った顔がいくつか並んでいた。
「…う~ら~め~し~や~」
「…突然だな、ルナサ。いつにもまして変だぞ? 今の挨拶といい、格好といい」
変だなんて、失礼な事を言う狐。
そんな事を思いながら、私はこの格好が如何に重要かを説明し始める。
「夏の幽霊はこういうものだって、竹林の兎が。違うの?」
「い、いや、どうかな…ところで、こんな所で何を?」
ふむ、どうやら彼女の意見ではこの格好は少しおかしいらしい。
文字通り音が命の騒霊である私。音楽の為にと思ったからこそ、私はすーすーするのを我慢して死装束のみを身につけて音探しをしていたと言うのに、これじゃあダメなのかしら?
ん? あぁ、そうか。これは幽霊や亡霊の格好であって、騒霊の格好ではないと言う意味なら、仕方が無いのかも。
勝手にそう納得した私は、彼女の質問にもきちんと答えておく事にする。
「音…夏の音を探してたの。それで、こっちから賑やかな音が聴こえたから」
「ふむ、音楽の事はよくわからないが…“コレ”はどうだ? 中々に夏らしい光景だと思うが」
夏らしい。そんな彼女の言葉通り、目の前ではとても凄惨で悲惨な光景が繰り広げられていた。
猫は「昼間のお返しだ~」と叫び、妖精は「たまにはこぁちゃんも食らえ~」と言って小さな悪魔を追いかけている。
立場が逆と言うのもまた、普通でない音を醸し出しているのかもしれない。
「うん。いい音を見つけた。夏のライブで使わせてもらうね」
「ではそのライブとやらを楽しみにしてるよ」
期待されてもされなくても、音を紡ぐのが私達の全て。でも、期待されているのならもっとがんばらないといけない。
っと、録音チャンス。
「悪魔に花火を向けないでください~!」
夏に相応しい、悲痛な叫び声に満足しつつ、私は更なるサンプルを入手すべく、音を拾い続けるのだった。
ちなみに、藍は罰という名の多忙の為ライブには出席出来なかったんだとか。まぁ、自業自得である。