今日も今日とて弾幕勝負。それがここ、幻想郷の掟である。
つまるところ、『幻想郷がリングだ!』なので、どこで弾幕ファイトが開催されていても全くおかしくない日常が展開されるのが幻想郷であるわけで、そも理想郷というのは弾幕なのか? 弾幕なのか!? いや違う、少女だ、少女。弾幕+少女。ほら、萌えだろう?
「ふはははははー! 今日の私はいつもの私と違うぜ霊夢! 具体的には百八十ヤードのショートホールでホールインワンくらいにな!」
「すごいのかすごくないのかいまいちよくわからないたとえね! そもそもショートホールとかホールインワンって何!?」
神社の上空を飛び交い、実に様々な色に輝く弾幕を展開する二人の少女。言うまでもなく、楽園の素敵な巫女、博麗霊夢と普通の魔法使い、霧雨魔理沙である。
お互いに、グレイズとパターンよけ、ドットよけを繰り返し、なかなか勝負はつかない。まさに、両者実力伯仲である。
「ちぃっ! そろそろ落ちろっ!」
「そう言われて落ちてたまるものですか!」
「いいじゃないか、今夜の晩飯くらいおごってくれたって!」
「ならん! それだけはならんのだ、霧雨魔理沙!
今夜の晩ご飯は、我が博麗神社一年間で一度食べられるかどうかのすき焼きDAY! それを一人で思う存分、赴くまま味わい尽くすのが、この私の一年間の夢なのよ!」
ずいぶんちっちゃい夢もあったものである。
しかし、食い物がかかると霊夢は強い。というか極端に強くなる。霊夢と食い物、一つ一つは小さな火だが、二つがあわさると炎になる。炎となった博麗霊夢は無敵だ、とグラサンの偉い人が言っていたように。
「こうしている間にも、お肉がいい具合に煮込まれていって、味と香りがしみついていくのよ! ああ、待っていて、私のお肉、私の白菜、私の白滝、私の豆腐ー!!」
「何かどんどん貧乏くさくなっていくな!?
だが、そう簡単に敗北しないのはこっちも同じだぜ! 食らえ、知り合いから教えてもらった、私の新しいスペルカード!」
懐から取り出すは、燦然と輝く一枚のカード。
彼女はそれを構え、宣言する。
「新スペカ! 投符!」
そして、さらに懐へと手が入る。
「『うに』ー!!」
「あいたぁ!?」
放り投げられたのは、黒くて小さくてちくちくしたにくい奴。それが霊夢のおでこにジャストミートしてた。
「ちょ、ちょっと! 何よこれ!?」
「ふははははは! とある材料を錬金術で混ぜ合わせて作り出した、うにに似たうにっぽいものだ!
さあ、どんどんちくちくするぜ!
『レベル2うに』ー!」
「いったぁ!? 痛い痛い、ちょっと痛いってマジで!」
「『レベル3うに』! 『レベル4うに』!! 『レベル5うに』ー!!
あ、ちなみに、『うにー』ってのがキーポイントだ。
『レベル6うに』ー!!」
「いたたたぁ!? ちくちくするぅっ!?」
頭やらお尻やら腕やら、とにかくあっちこっちにぽいぽい投げつけられ、這々の体で距離を取る霊夢。不敵に笑う魔理沙の手には『レベル7うに』と『レベル8うに』が握られている。
「そこまでやってくれたんなら、私だって容赦しない! こっちも、知り合いに教えてもらった奥義を使うわ!」
ばっ、とさらしの中から取り出される一枚のスペルカード。こちらも新技だ。
「むっ!?」
「奥義っ!」
突き出した祓え串の先端に、ぱりぱりという小さな音と共に小さな雷の塊が集まる。それが高速回転を行いながら薄く、巨大に、そして強烈な電流の余波をまき散らしながら存在を拡大させていく。
「って、ちょっと待てちょっと!?」
「巫女符! 『サイクロトロン』っ!」
「いやだからそれって弾幕『ごっこ』のレベル超えてるだろきゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ぶっ放された極大の電圧を持った雷が霊夢と魔理沙の間を一直線につなぎ、貫いていく。雷撃の激しさに世界が真っ白に染まり、音すら消えていく。
――そうして、雷が通り過ぎた後、そこには何も残っていなかった。
「あっ、あぶあぶあぶあぶ……! 当たったらどうするつもりだったんだよ霊夢ぅぅぅっ!?」
「えーっと……あれ?」
「お前、あんなの直撃したらこの世から影も形も残さずに消えてるぞ! 台風の人が怒ってたじゃないか何聞いてたんだー!」
「えーっと……まぁ、いいじゃん。当たらなかったんだし」
「よくあるかぁぁぁぁぁっ!」
「と、ともあれ! さあ、勝負再開よ、魔理沙!」
「死ぬほど怖くてちょっとちびっちゃったぞ! 勝負なんて出来るかバカーっ!」
人生の勝利者 博麗霊夢
負け犬 霧雨魔理沙
その後、「うぁぁぁぁーん」と泣き出した魔理沙をあやすために、結局、すき焼きをおごってあげた巫女さんでしたとさ。
「パチュリー様、それに、アリス。どうぞ」
「ありがとう」
「すいません。いつもいつも」
ヴワル図書館の一角にて、高く積み上げられた本をひたすら繰る二人の少女。
彼女たちは、互いに切磋琢磨しながら、より素晴らしき世界へと至る道を模索する探求者である。そんな魔法ヲタク――もとい、探求者達に敬意を表する意味で、彼女、十六夜咲夜は二人に温かな紅茶を差し出し、静かにこうべをたれる。
「それにしても、ずいぶんたくさんの本ですね。何冊くらいあるのですか?」
「さあ。もう百冊は読んだかしら」
「こちらも。あと、もう百冊くらいで新しい魔法が開発できそうで」
「楽しみね、アリス」
「ほんとね、パチュリー」
互いに、どこか閉鎖的な一面を持つ二人。それ故に、共通の趣味……というか、目的を持った相手と一緒にいれば何よりも幸せに見えた。咲夜は、試しに一冊、傍らに積み上げられていた本を手に取り、中に目をやる。
結論、私には無理。
「さっぱりだわ……」
「それは魔法力学の発展応用理論の集大成の本よ」
「そこから、こっちの、魔法力場の発生理論の本に繋がるわけです」
「へぇ……」
とは言われても、元々、基本がわからないわけだから、何を言われても『?』なのは言うまでもなかった。
「ところで、咲夜。あなた、新しいスペルカードの開発は出来たのかしら」
「ああ……それですか。一応、出来ましたけど」
「よければ見せてもらいたいものね」
ぱたん、と本を閉じて、パチュリーが視線を上げる。
「別に構いませんけど……」
その視線はアリスへ。
「別にいいじゃない。彼女は、私にとって上客よ。いわば友人。彼女は、私たちにとって、そうそうマイナスにはならないわ」
スペルカードは、言うなれば奥の手だ。それを、悪く言ってしまえば、いつ敵に回るかわからない相手に披露するというのは気が引ける。咲夜のその心情を見透かして、パチュリーがアリスに対する擁護を述べる。
しかし、そうは言われても、手の内をさらすことになる当人としては思い切れないらしい。迷うような表情を見せる咲夜に、「それなら」とアリスが提案する。
「私も、一つ、とっておきをお見せします。それでプラスマイナス0というのはどうですか?」
「ふむ……それならよさそうね」
それでは、と咲夜が一礼し、優雅に後ろに一歩下がる。
そうして、「これを試し切りに使いましょう」とどこからともなく彼女くらいの身長がある人形のようなものを取り出し、それを自分の目の前に。
「では――」
彼女はナイフを片手に、それを逆手に構える。
自分と標的の距離を十分に測り、静かに、前に一歩、足を滑り出す。同時に、静から動への転換が行われる。
速やかに右手に持ったナイフが翻り、その動作に何の感慨も見せずに彼女の体が続き、同時に声が炸裂する。
「絶符! 『ファイナルレター』!」
刹那の間に、赤い『Z』の文字が人形に描かれた。
その文字に従い、赤い染料が走り、弾けるようにして人形が内側から吹き飛んでいく。ぼとぼとと、飛び散った人形の塊が地面の上に落ちて、そして、消えていく。
「いかがでしょうか?」
「すごいわね。一撃必殺なのかしら」
「はい。ですが、この技には欠点も多く……」
「欠点ですか?」
「当たれば一撃で残機をボムごと削り取るのだけど、その時の即死判定が微妙なの。正直、使い物になるかどうかは別問題ね」
要は、見た目のインパクトよ、と瀟洒なメイド。
なるほど、とアリスは手を打った。
「じゃあ、次はあなたの番ね、アリス」
「はい。といっても、私のは攻撃用じゃないんですけどね」
「あら?」
「今回、開発したのは、弾幕の軌道やパターン、飛んでくる瞬間なんかを私に教えてくれる人形なんです」
「すごいじゃない」
飛んでくる弾幕を予測できると言うことは、可能な限り被弾率を0にすることが出来ると言うことである。
弾幕勝負で物事の趨勢が決定される幻想郷において、まさに夢のような発明ではないだろうか。
驚く咲夜と、静かに、しかし目元に飾ったメガネを光らせるパチュリー。二人の期待を受けて、アリスがそれを取り出した。
「あら、かわいいー!」
取り出されたのは、一体の人形だった。
上海人形などと素体になっているものは同じなのか、女の子の形をした人形である。しかし、ねこみみとしっぽが生えていて、おまけに手足はにくきゅうだった。
「妖夢を見て参考にしたの」
そこに本人がいたらのど笛かききって自害しそうなことを平然と言い放つアリス。対する咲夜は、取り出された人形を、わざわざ時を止めてゲットして、今では胸にぎゅーっと抱きしめている。
「これを、私は避符『弾幕ドール』と名付けたわ」
「面白いのね。どんな風に弾幕の軌道を教えてくれるの?」
「そうね……実際にやってみましょう。
いいですか? 咲夜さん」
「え? え、ええ、いいわよ」
いけないいけない、自重するのよ、十六夜咲夜。私はクールでかっこいいメイド長。決して、部屋中にぬいぐるみや人形を飾ったり、ファンシーグッズを集めたりするのが趣味だということを悟られてはいけないの。私は、ほら、この通り、完全で瀟洒なのだから。
――などということを咲夜が思ったかどうかは知らないが。
「では」
咲夜さんってかわいい趣味あるのねー、と内心で笑いながら、アリスがぽんと弾幕を放つ。もちろん、咲夜には当たらないように放っており、その威力も絞っているため、着弾したとしても何かに影響を及ぼすことはないだろう。
放たれた弾幕が飛んでいく。すると、咲夜が手に持っていた人形が反応し、小さく口を開く。
『おい、弾幕が来たぜ。おい、弾幕が来たぜ。おい、弾幕が来たぜ。おい――(以下繰り返し)』
ものすげー汚い声だった。
「………………………………」
「どうかしら?」
なぜか誇らしげなアリスと、沈黙するパチュリー、咲夜。
「ねぇ……アリス」
「何?」
「それ……何でそんな声なの……?」
「口頭で危険を察知する人形にしようと思って、色々文献を探ってみたら、たまたまそういうのがあって。参考にさせてもらったの」
「……そ、そう……」
実は、アリスって趣味悪いんじゃなかろうか? そんなことを思って、しかし、友人のためを思ってその事実を胸の中にひっそりとしまうパチュリー。
対照的に。
「どうですか? 咲夜さん。よければ譲りますよ。それはまだ試作段階で……」
「うふ……うふふふ……。
……アリス、私のもう一つの奥義、見せてあげるわね?」
「え? いいんですか? でも……」
「いいのいいの。
だって――」
ぽーい、と手にした人形放り投げ、
「ぶちこわしだから♪」
「って、ちょっと何する気ですかっ!?」
「滅符! 『ファイナルストライク』っ!!」
「あー、私の会心の一作がー!!」
咲夜が手にしたナイフを叩き折った瞬間、世界が真っ白に包まれる。光の中、アリスの会心の一作、『弾幕ドール』が『弾幕がぁー!!』と消し飛んでいくのがヴワル図書館にて目撃されたと言うが――。
とりあえず、それはどうでもいいわね、と今あった出来事を忘却の彼方に置き去りにしたパチュリーだった。
「たぁぁぁぁっ!」
「やぁっ!」
永遠亭の一角に、威勢のいい声が響き渡る。
冥界の剣士、魂魄妖夢と、永遠亭の遣い、鈴仙・優曇華院・イナバの息もつかせぬ修行風景である。
この二人、何でかしらねど気が合うらしく、最近、仲がいいのだ。多分に、それは気苦労の絶えない隣人関係を持ってしまったことに起因しているのだろうと思われるのだが、あいにくと、それについて言及してくれる人は彼女たちの周りにはいなかった。
――そうして、幾度かの交流を経て始まった、この修行。
曰く、『私たちも、もっと強くならないとキャラリセットでなかったことにされてしまう』という危機感があったためらしい。キャラリセットって何? とその主人が口に出したのは言うまでもないだろう。
二人の修行は、日々、熾烈を極め、互いのもてる力の全てを引き出しての、一歩間違えば殺し合いにも発展しかねないものへと変わっていっている。しかし、その中で、二人は確実に進歩を遂げているのだ。
そう。このように。
「行くよ、妖夢ちゃん!」
「いつなりとも!」
剣を構える妖夢に向かって鈴仙が宣言する。
鈴仙の赤眼が輝き、世界がゆがむ。妖夢が、それを直視しないように目を伏せ、反撃の機会を探る、まさにその瞬間。
「私の持つ幻視能力と高速での機動が可能にする、新しいスペルカード!」
「なっ……!?」
「奥義! 91符、『M.E.P.E』!」
鈴仙の姿がいくつもその場にあるかのように、妖夢の瞳には認識される。無数に分身した鈴仙が、一斉に彼女めがけて弾幕を放つ。それを必死の思いで回避した妖夢が、すかさず反撃を放った。その一撃は、鈴仙のうちの一体を直撃し、しかし――、
「無駄よ、妖夢ちゃん! この残像は質量を持った残像! 故に、その程度で本体を見抜くことは出来ない!」
刹那、鈴仙が妖夢の真横へと、静かに現れる。
「チェックメイト」
そのこめかみへと指を突きつけ、静かに彼女は宣言した。
妖夢は、しばし、その場へと佇んでいたが、やがて小さく息をつく。
「……今回は私の負けのようですね」
「そうでもないよ。大丈夫、気を落とさないで」
「はい。
でも、鈴仙さんだけ奥義を見せて、私だけ何も、というのは、ちょっと卑怯ですよね」
にこっと微笑み、妖夢が後ろに下がった。
「では、私も奥義を見せましょう」
「え? でも……」
「いいんです。それに、これは単なるお披露目ですから」
参ります、と宣言し、妖夢が剣を構えた。鈴仙も、一応、彼女の攻撃を警戒して構えを取る。
「奥義――!」
彼女の足が前に出る。それに伴い、一陣の突風となって妖夢が前方へと滑り出てくる。
「何……!?」
鈴仙が目を見張る。ここから一体何が行われるのか、全く想像がつかないのだ。
次の瞬間、妖夢の腕が翻る。それと同時に、ざっ、と空を覆う黒い影。
「これは……!?」
妖夢の目がぎらりと光った。振り上げられる二本の剣。
そして――、
「だだだだだだだだぁーっ!!」
目にもとまらぬ速さで彼女の剣が駆け抜けた。
無数の黒い影の間を剣が乱舞し、鈴仙の目にすら、一体何が起こったのか、それを理解することが出来ない。
「これぞ奥義――」
かちん、と剣をさやに収め、妖夢が静かに宣言する。
「蒼雷符、『大回転破魔西瓜殺』!」
黒いもの――スイカを放り投げた因幡達が、手に手にお皿を持って殺到する。彼女たちの手にした大きなお皿の上に、きれいに切りそろえられたスイカが『ととととん』とリズミカルに並べられていく。
「あらあら。スイカ? いいわねぇ、情緒があって」
「ちょうどいいからぁ、これからぁ、スイカを食べながらぁ、縁側で夕涼みにしましょうかぁ」
「いいですねぇ。あらあら」
唐突に現れた二人の言葉で、以後の予定は決定されたのだった。
「ねぇ、妖夢ちゃん。あれってさ」
「幽々子様の『スイカをお腹一杯食べたいわぁ~』の一言で習得しました」
「やっぱり」
縁側で、スイカをかじりながらひとときの涼を楽しむ。これぞ幻想郷の夏、といった感じである。皆、浴衣に身を包み、ちりんちりん、と風鈴が揺れている。子ウサギたちが花火に興じ、てゐや、いつのまにやってきたのか、妹紅と慧音が打ち上げ花火の用意を始めていた。
そして、それを眺める幽々子に永琳、そして輝夜の姿。
「そう言えば、鈴仙さん」
「何?」
しゃくしゃくとスイカをかじりながら、鈴仙。
「あの、さっきのなんですけど。『91』って何ですか?」
「さあ? 師匠が『それなら91符ね』って言ったから……」
「永琳さんが?」
そうなの、とうなずく鈴仙。
何でもね、と指を一本立てて、
「師匠、昔は『AEとかS.N.R.Iに友人がいたものよ』って。
この前、パチュリーさんに頼まれて、魔理沙さん達を追い払うように言われたじゃない? あの時、因幡達が乗ってた『ろぼっと』も師匠が、昔、そのAEとかS.N.R.Iって人たちからもらったものを流用したらしいよ。ただ、型落ちしたやつだから、あの二人には通用しなかったけどね」
「そうなんですか」
何か色々ありますねぇ、とのんびり妖夢。
「みんなー! ちゅーもーく!」
「花火を上げるぞー」
「あ、打ち上げ花火ですよ。鈴仙さん」
「ほんとほんと!」
ひゅるるる~、どーん、と夜空に美しい花が咲く。
それを見上げて、きゃっきゃとはしゃぐ子ウサギたちと一緒に、鈴仙達も歓声を上げる。実に平和な風景が、そこにはあったのだった。
「ねぇ、藍」
「何ですか? 紫さま」
「幻想郷って、濃いわねぇ」
「何を今更」
つまるところ、『幻想郷がリングだ!』なので、どこで弾幕ファイトが開催されていても全くおかしくない日常が展開されるのが幻想郷であるわけで、そも理想郷というのは弾幕なのか? 弾幕なのか!? いや違う、少女だ、少女。弾幕+少女。ほら、萌えだろう?
「ふはははははー! 今日の私はいつもの私と違うぜ霊夢! 具体的には百八十ヤードのショートホールでホールインワンくらいにな!」
「すごいのかすごくないのかいまいちよくわからないたとえね! そもそもショートホールとかホールインワンって何!?」
神社の上空を飛び交い、実に様々な色に輝く弾幕を展開する二人の少女。言うまでもなく、楽園の素敵な巫女、博麗霊夢と普通の魔法使い、霧雨魔理沙である。
お互いに、グレイズとパターンよけ、ドットよけを繰り返し、なかなか勝負はつかない。まさに、両者実力伯仲である。
「ちぃっ! そろそろ落ちろっ!」
「そう言われて落ちてたまるものですか!」
「いいじゃないか、今夜の晩飯くらいおごってくれたって!」
「ならん! それだけはならんのだ、霧雨魔理沙!
今夜の晩ご飯は、我が博麗神社一年間で一度食べられるかどうかのすき焼きDAY! それを一人で思う存分、赴くまま味わい尽くすのが、この私の一年間の夢なのよ!」
ずいぶんちっちゃい夢もあったものである。
しかし、食い物がかかると霊夢は強い。というか極端に強くなる。霊夢と食い物、一つ一つは小さな火だが、二つがあわさると炎になる。炎となった博麗霊夢は無敵だ、とグラサンの偉い人が言っていたように。
「こうしている間にも、お肉がいい具合に煮込まれていって、味と香りがしみついていくのよ! ああ、待っていて、私のお肉、私の白菜、私の白滝、私の豆腐ー!!」
「何かどんどん貧乏くさくなっていくな!?
だが、そう簡単に敗北しないのはこっちも同じだぜ! 食らえ、知り合いから教えてもらった、私の新しいスペルカード!」
懐から取り出すは、燦然と輝く一枚のカード。
彼女はそれを構え、宣言する。
「新スペカ! 投符!」
そして、さらに懐へと手が入る。
「『うに』ー!!」
「あいたぁ!?」
放り投げられたのは、黒くて小さくてちくちくしたにくい奴。それが霊夢のおでこにジャストミートしてた。
「ちょ、ちょっと! 何よこれ!?」
「ふははははは! とある材料を錬金術で混ぜ合わせて作り出した、うにに似たうにっぽいものだ!
さあ、どんどんちくちくするぜ!
『レベル2うに』ー!」
「いったぁ!? 痛い痛い、ちょっと痛いってマジで!」
「『レベル3うに』! 『レベル4うに』!! 『レベル5うに』ー!!
あ、ちなみに、『うにー』ってのがキーポイントだ。
『レベル6うに』ー!!」
「いたたたぁ!? ちくちくするぅっ!?」
頭やらお尻やら腕やら、とにかくあっちこっちにぽいぽい投げつけられ、這々の体で距離を取る霊夢。不敵に笑う魔理沙の手には『レベル7うに』と『レベル8うに』が握られている。
「そこまでやってくれたんなら、私だって容赦しない! こっちも、知り合いに教えてもらった奥義を使うわ!」
ばっ、とさらしの中から取り出される一枚のスペルカード。こちらも新技だ。
「むっ!?」
「奥義っ!」
突き出した祓え串の先端に、ぱりぱりという小さな音と共に小さな雷の塊が集まる。それが高速回転を行いながら薄く、巨大に、そして強烈な電流の余波をまき散らしながら存在を拡大させていく。
「って、ちょっと待てちょっと!?」
「巫女符! 『サイクロトロン』っ!」
「いやだからそれって弾幕『ごっこ』のレベル超えてるだろきゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ぶっ放された極大の電圧を持った雷が霊夢と魔理沙の間を一直線につなぎ、貫いていく。雷撃の激しさに世界が真っ白に染まり、音すら消えていく。
――そうして、雷が通り過ぎた後、そこには何も残っていなかった。
「あっ、あぶあぶあぶあぶ……! 当たったらどうするつもりだったんだよ霊夢ぅぅぅっ!?」
「えーっと……あれ?」
「お前、あんなの直撃したらこの世から影も形も残さずに消えてるぞ! 台風の人が怒ってたじゃないか何聞いてたんだー!」
「えーっと……まぁ、いいじゃん。当たらなかったんだし」
「よくあるかぁぁぁぁぁっ!」
「と、ともあれ! さあ、勝負再開よ、魔理沙!」
「死ぬほど怖くてちょっとちびっちゃったぞ! 勝負なんて出来るかバカーっ!」
人生の勝利者 博麗霊夢
負け犬 霧雨魔理沙
その後、「うぁぁぁぁーん」と泣き出した魔理沙をあやすために、結局、すき焼きをおごってあげた巫女さんでしたとさ。
「パチュリー様、それに、アリス。どうぞ」
「ありがとう」
「すいません。いつもいつも」
ヴワル図書館の一角にて、高く積み上げられた本をひたすら繰る二人の少女。
彼女たちは、互いに切磋琢磨しながら、より素晴らしき世界へと至る道を模索する探求者である。そんな魔法ヲタク――もとい、探求者達に敬意を表する意味で、彼女、十六夜咲夜は二人に温かな紅茶を差し出し、静かにこうべをたれる。
「それにしても、ずいぶんたくさんの本ですね。何冊くらいあるのですか?」
「さあ。もう百冊は読んだかしら」
「こちらも。あと、もう百冊くらいで新しい魔法が開発できそうで」
「楽しみね、アリス」
「ほんとね、パチュリー」
互いに、どこか閉鎖的な一面を持つ二人。それ故に、共通の趣味……というか、目的を持った相手と一緒にいれば何よりも幸せに見えた。咲夜は、試しに一冊、傍らに積み上げられていた本を手に取り、中に目をやる。
結論、私には無理。
「さっぱりだわ……」
「それは魔法力学の発展応用理論の集大成の本よ」
「そこから、こっちの、魔法力場の発生理論の本に繋がるわけです」
「へぇ……」
とは言われても、元々、基本がわからないわけだから、何を言われても『?』なのは言うまでもなかった。
「ところで、咲夜。あなた、新しいスペルカードの開発は出来たのかしら」
「ああ……それですか。一応、出来ましたけど」
「よければ見せてもらいたいものね」
ぱたん、と本を閉じて、パチュリーが視線を上げる。
「別に構いませんけど……」
その視線はアリスへ。
「別にいいじゃない。彼女は、私にとって上客よ。いわば友人。彼女は、私たちにとって、そうそうマイナスにはならないわ」
スペルカードは、言うなれば奥の手だ。それを、悪く言ってしまえば、いつ敵に回るかわからない相手に披露するというのは気が引ける。咲夜のその心情を見透かして、パチュリーがアリスに対する擁護を述べる。
しかし、そうは言われても、手の内をさらすことになる当人としては思い切れないらしい。迷うような表情を見せる咲夜に、「それなら」とアリスが提案する。
「私も、一つ、とっておきをお見せします。それでプラスマイナス0というのはどうですか?」
「ふむ……それならよさそうね」
それでは、と咲夜が一礼し、優雅に後ろに一歩下がる。
そうして、「これを試し切りに使いましょう」とどこからともなく彼女くらいの身長がある人形のようなものを取り出し、それを自分の目の前に。
「では――」
彼女はナイフを片手に、それを逆手に構える。
自分と標的の距離を十分に測り、静かに、前に一歩、足を滑り出す。同時に、静から動への転換が行われる。
速やかに右手に持ったナイフが翻り、その動作に何の感慨も見せずに彼女の体が続き、同時に声が炸裂する。
「絶符! 『ファイナルレター』!」
刹那の間に、赤い『Z』の文字が人形に描かれた。
その文字に従い、赤い染料が走り、弾けるようにして人形が内側から吹き飛んでいく。ぼとぼとと、飛び散った人形の塊が地面の上に落ちて、そして、消えていく。
「いかがでしょうか?」
「すごいわね。一撃必殺なのかしら」
「はい。ですが、この技には欠点も多く……」
「欠点ですか?」
「当たれば一撃で残機をボムごと削り取るのだけど、その時の即死判定が微妙なの。正直、使い物になるかどうかは別問題ね」
要は、見た目のインパクトよ、と瀟洒なメイド。
なるほど、とアリスは手を打った。
「じゃあ、次はあなたの番ね、アリス」
「はい。といっても、私のは攻撃用じゃないんですけどね」
「あら?」
「今回、開発したのは、弾幕の軌道やパターン、飛んでくる瞬間なんかを私に教えてくれる人形なんです」
「すごいじゃない」
飛んでくる弾幕を予測できると言うことは、可能な限り被弾率を0にすることが出来ると言うことである。
弾幕勝負で物事の趨勢が決定される幻想郷において、まさに夢のような発明ではないだろうか。
驚く咲夜と、静かに、しかし目元に飾ったメガネを光らせるパチュリー。二人の期待を受けて、アリスがそれを取り出した。
「あら、かわいいー!」
取り出されたのは、一体の人形だった。
上海人形などと素体になっているものは同じなのか、女の子の形をした人形である。しかし、ねこみみとしっぽが生えていて、おまけに手足はにくきゅうだった。
「妖夢を見て参考にしたの」
そこに本人がいたらのど笛かききって自害しそうなことを平然と言い放つアリス。対する咲夜は、取り出された人形を、わざわざ時を止めてゲットして、今では胸にぎゅーっと抱きしめている。
「これを、私は避符『弾幕ドール』と名付けたわ」
「面白いのね。どんな風に弾幕の軌道を教えてくれるの?」
「そうね……実際にやってみましょう。
いいですか? 咲夜さん」
「え? え、ええ、いいわよ」
いけないいけない、自重するのよ、十六夜咲夜。私はクールでかっこいいメイド長。決して、部屋中にぬいぐるみや人形を飾ったり、ファンシーグッズを集めたりするのが趣味だということを悟られてはいけないの。私は、ほら、この通り、完全で瀟洒なのだから。
――などということを咲夜が思ったかどうかは知らないが。
「では」
咲夜さんってかわいい趣味あるのねー、と内心で笑いながら、アリスがぽんと弾幕を放つ。もちろん、咲夜には当たらないように放っており、その威力も絞っているため、着弾したとしても何かに影響を及ぼすことはないだろう。
放たれた弾幕が飛んでいく。すると、咲夜が手に持っていた人形が反応し、小さく口を開く。
『おい、弾幕が来たぜ。おい、弾幕が来たぜ。おい、弾幕が来たぜ。おい――(以下繰り返し)』
ものすげー汚い声だった。
「………………………………」
「どうかしら?」
なぜか誇らしげなアリスと、沈黙するパチュリー、咲夜。
「ねぇ……アリス」
「何?」
「それ……何でそんな声なの……?」
「口頭で危険を察知する人形にしようと思って、色々文献を探ってみたら、たまたまそういうのがあって。参考にさせてもらったの」
「……そ、そう……」
実は、アリスって趣味悪いんじゃなかろうか? そんなことを思って、しかし、友人のためを思ってその事実を胸の中にひっそりとしまうパチュリー。
対照的に。
「どうですか? 咲夜さん。よければ譲りますよ。それはまだ試作段階で……」
「うふ……うふふふ……。
……アリス、私のもう一つの奥義、見せてあげるわね?」
「え? いいんですか? でも……」
「いいのいいの。
だって――」
ぽーい、と手にした人形放り投げ、
「ぶちこわしだから♪」
「って、ちょっと何する気ですかっ!?」
「滅符! 『ファイナルストライク』っ!!」
「あー、私の会心の一作がー!!」
咲夜が手にしたナイフを叩き折った瞬間、世界が真っ白に包まれる。光の中、アリスの会心の一作、『弾幕ドール』が『弾幕がぁー!!』と消し飛んでいくのがヴワル図書館にて目撃されたと言うが――。
とりあえず、それはどうでもいいわね、と今あった出来事を忘却の彼方に置き去りにしたパチュリーだった。
「たぁぁぁぁっ!」
「やぁっ!」
永遠亭の一角に、威勢のいい声が響き渡る。
冥界の剣士、魂魄妖夢と、永遠亭の遣い、鈴仙・優曇華院・イナバの息もつかせぬ修行風景である。
この二人、何でかしらねど気が合うらしく、最近、仲がいいのだ。多分に、それは気苦労の絶えない隣人関係を持ってしまったことに起因しているのだろうと思われるのだが、あいにくと、それについて言及してくれる人は彼女たちの周りにはいなかった。
――そうして、幾度かの交流を経て始まった、この修行。
曰く、『私たちも、もっと強くならないとキャラリセットでなかったことにされてしまう』という危機感があったためらしい。キャラリセットって何? とその主人が口に出したのは言うまでもないだろう。
二人の修行は、日々、熾烈を極め、互いのもてる力の全てを引き出しての、一歩間違えば殺し合いにも発展しかねないものへと変わっていっている。しかし、その中で、二人は確実に進歩を遂げているのだ。
そう。このように。
「行くよ、妖夢ちゃん!」
「いつなりとも!」
剣を構える妖夢に向かって鈴仙が宣言する。
鈴仙の赤眼が輝き、世界がゆがむ。妖夢が、それを直視しないように目を伏せ、反撃の機会を探る、まさにその瞬間。
「私の持つ幻視能力と高速での機動が可能にする、新しいスペルカード!」
「なっ……!?」
「奥義! 91符、『M.E.P.E』!」
鈴仙の姿がいくつもその場にあるかのように、妖夢の瞳には認識される。無数に分身した鈴仙が、一斉に彼女めがけて弾幕を放つ。それを必死の思いで回避した妖夢が、すかさず反撃を放った。その一撃は、鈴仙のうちの一体を直撃し、しかし――、
「無駄よ、妖夢ちゃん! この残像は質量を持った残像! 故に、その程度で本体を見抜くことは出来ない!」
刹那、鈴仙が妖夢の真横へと、静かに現れる。
「チェックメイト」
そのこめかみへと指を突きつけ、静かに彼女は宣言した。
妖夢は、しばし、その場へと佇んでいたが、やがて小さく息をつく。
「……今回は私の負けのようですね」
「そうでもないよ。大丈夫、気を落とさないで」
「はい。
でも、鈴仙さんだけ奥義を見せて、私だけ何も、というのは、ちょっと卑怯ですよね」
にこっと微笑み、妖夢が後ろに下がった。
「では、私も奥義を見せましょう」
「え? でも……」
「いいんです。それに、これは単なるお披露目ですから」
参ります、と宣言し、妖夢が剣を構えた。鈴仙も、一応、彼女の攻撃を警戒して構えを取る。
「奥義――!」
彼女の足が前に出る。それに伴い、一陣の突風となって妖夢が前方へと滑り出てくる。
「何……!?」
鈴仙が目を見張る。ここから一体何が行われるのか、全く想像がつかないのだ。
次の瞬間、妖夢の腕が翻る。それと同時に、ざっ、と空を覆う黒い影。
「これは……!?」
妖夢の目がぎらりと光った。振り上げられる二本の剣。
そして――、
「だだだだだだだだぁーっ!!」
目にもとまらぬ速さで彼女の剣が駆け抜けた。
無数の黒い影の間を剣が乱舞し、鈴仙の目にすら、一体何が起こったのか、それを理解することが出来ない。
「これぞ奥義――」
かちん、と剣をさやに収め、妖夢が静かに宣言する。
「蒼雷符、『大回転破魔西瓜殺』!」
黒いもの――スイカを放り投げた因幡達が、手に手にお皿を持って殺到する。彼女たちの手にした大きなお皿の上に、きれいに切りそろえられたスイカが『ととととん』とリズミカルに並べられていく。
「あらあら。スイカ? いいわねぇ、情緒があって」
「ちょうどいいからぁ、これからぁ、スイカを食べながらぁ、縁側で夕涼みにしましょうかぁ」
「いいですねぇ。あらあら」
唐突に現れた二人の言葉で、以後の予定は決定されたのだった。
「ねぇ、妖夢ちゃん。あれってさ」
「幽々子様の『スイカをお腹一杯食べたいわぁ~』の一言で習得しました」
「やっぱり」
縁側で、スイカをかじりながらひとときの涼を楽しむ。これぞ幻想郷の夏、といった感じである。皆、浴衣に身を包み、ちりんちりん、と風鈴が揺れている。子ウサギたちが花火に興じ、てゐや、いつのまにやってきたのか、妹紅と慧音が打ち上げ花火の用意を始めていた。
そして、それを眺める幽々子に永琳、そして輝夜の姿。
「そう言えば、鈴仙さん」
「何?」
しゃくしゃくとスイカをかじりながら、鈴仙。
「あの、さっきのなんですけど。『91』って何ですか?」
「さあ? 師匠が『それなら91符ね』って言ったから……」
「永琳さんが?」
そうなの、とうなずく鈴仙。
何でもね、と指を一本立てて、
「師匠、昔は『AEとかS.N.R.Iに友人がいたものよ』って。
この前、パチュリーさんに頼まれて、魔理沙さん達を追い払うように言われたじゃない? あの時、因幡達が乗ってた『ろぼっと』も師匠が、昔、そのAEとかS.N.R.Iって人たちからもらったものを流用したらしいよ。ただ、型落ちしたやつだから、あの二人には通用しなかったけどね」
「そうなんですか」
何か色々ありますねぇ、とのんびり妖夢。
「みんなー! ちゅーもーく!」
「花火を上げるぞー」
「あ、打ち上げ花火ですよ。鈴仙さん」
「ほんとほんと!」
ひゅるるる~、どーん、と夜空に美しい花が咲く。
それを見上げて、きゃっきゃとはしゃぐ子ウサギたちと一緒に、鈴仙達も歓声を上げる。実に平和な風景が、そこにはあったのだった。
「ねぇ、藍」
「何ですか? 紫さま」
「幻想郷って、濃いわねぇ」
「何を今更」
さらにヤクモ繋がり
部屋は汚いわ、疲れを取るにはお酒だわ初代は特に気が合いそう。
パクりにも程があるだろ(褒め言葉