夢を見た。
凄く恐くて、恐怖に感情の全てを持っていかれそうになる感覚。
その感覚は今でも覚えている。子供のころにも経験した覚えのある独特の恐怖。それはとても恐い夢だった。
でも恐怖の前は凄く楽しい思いをしたような気がする。
今思うと滅茶苦茶に現実離れしていて、到底ありえることのない夢。
俺が森の中歩いてたら急に辺りが暗くなって見た目小さな子供みたいな妖怪に喰われそうになって、右腕をへし折られながらも死に物狂いで逃げ回る夢だなんて、今時の子供に話そうものなら笑いのスパイスにもならないかも知れない。
コッチの世界に戻ってきてからは、何故そんな馬鹿げたことに恐怖していたのか毎度疑問に思う。
今でこそまだ醒めたばっかりだからまだ覚えているものの、一時間もしたら直ぐに忘れてしまうだろう。
夢なんてそんなに簡単に記憶から消せるほど儚いものなのさ。
しかし人間は初め、この夢を消すことが出来ずに大層苦労していたらしい。大昔の話だけどね。
……そういえば何かの本で読んだことがある。
夢はとても危険有りしもの。
夢に憧れ、夢を好み、現実を捨ててまで夢に入り浸りたいなどと思念の在る者はたちまち夢の中に取り込まれてしまい、二度と現に戻ってくることは出来ないだろう。
夢は時に夢で起こったことが現にまで影響し、その一部を現で起きた事と事実を捻じ曲げられる事がある。それ故その異変に気づく者は数限られていると言われる。
もしこれに気づいた者はこれから特に気をつけるべし。近くに夢に喰われる恐れ有り。
これは何かのおとぎ話の一部だったかな?
子供のころに読んだことだから良く覚えてないのも無理はない。
これを読んでからは毎日夜が恐かったものだ。今となってはへっちゃらだけどね。
……それにしてもこの目が覚めた後のこの余韻が何とも懐かしい感覚だな。子供のころを思い出す。
寝る前に1時間切りで運転させておいたエアコンは賢く命令どおりその動作を停止しており、部屋の室温はぐんぐん上昇。
お陰で汗ばんだ上着が肌に張り付き、酷く気持ちが悪い。
ドアの向こうのリビングでは何やら物音がしている。どうやら親たちはもう起き上がって居るようだ。
って、もう12時か。
よし、そろそろ起きるとするか。
ここいらでいい加減起きていかないと母親が俺の部屋に乱入してきて、まさに夢に出てきた妖怪如くその顔を変え…………って、もうどんな感じだったか全然覚えてないや。
ん? 何か右腕が痛ぇや。どっかぶつけたっけ?
――カシャ
あ、そうか。車に当てられたんだっけ。