Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

踊る阿呆に見る阿呆

2006/08/13 09:38:20
最終更新
サイズ
2.62KB
ページ数
1





「あたいったら――」

 浴衣姿の氷精が、夜空へと華麗に跳躍。

「今日は最高に、最強ね!」

 拳を振り上げ星空に向かい、吼えた。





 濃密な熱気の漂う、茹だるまでに暑い夏。

「やっとさー、やっとさー!」

 蛸を水揚げした途端に、即効で茹蛸が出来上がりそうな、そんな夜。

「あ、やっとさー、やっとさー!」

 チルノは元気に飛び跳ねていた。

「やっとやっとー!」

 手も足も何もかもが出鱈目に、飛び跳ね続ける。

「やっとさー、やっとさー!」

 浴衣だから色々と見えちゃう危険も勿論あったのだが、チルノは全然気にしていない。

「あ、やっとやっとやっとやっとー!」

 一人、何も無い更地の様な場所で、ひたすらに飛び跳ね続けていた。





 チチンチチンチチンチチン。

「夜雀って思ったそこの貴方、一応だけど正解よ」

 誰にとも無くやって来たのは、みすちーこと、ミスティア・ローレライ。

「だけど卑猥だからね、失礼しちゃって鳥目にしてやるー」

 鉦の音も独特に、何処からか浴衣姿でパタパタと飛んできた。





 ひゅろ、ひゅろ、ひゅろっひゅろっひゅろっひゅろっ。

「ひぇぇじゃないよ、ひゅろ~ろろ~ろろ~ろろ~ろ」

 軽やかな笛の音色と共に、リグル・ナイトバグはすらりと闇から姿を現す。

「あんま見つめたら駄目だよ? 指の動き、間違えちゃうから」

 浴衣姿にマントという、これまた似合わない組み合わせで、ご登場。





 集まる影は、それだけでは無い。

「祭りも踊りも、嗜む程度には好きだぜ」

 鼓片手に、黒白魔法使いが。

「こういうのは、私みたいな都会派の方が得意なのよ」

 三味線構えて、七色の人形使いが。

「ま、たまには自分から参加するのも、悪くは無いわよね」

 締太鼓を付けて、紅白の素敵な巫女が。

「ゆ、幽々子様~……これ、少し大き過ぎやしませんか~……?」

 大太鼓に足元を崩されて、半人前の庭師が。

「おう! どんどん来い! 最高で最強な今日のあたいは、選り好みをしないよ!」

 自称最強の氷精の元に、幻想郷中の奇人変人趣味人が、ぞくぞくと寄り集まる。





 やがて、集まりはうねりとなり、ぞめきが脈動する。

 一個と為る、大多数。

 情緒も何も無く踊り奏で、しかし自ずと一個へ為る。

 今や氷精は、その中心で乱舞していた。





「――ねぇ、チルノちゃん」
「ん? 大妖精じゃん、どうかしたの?」

 混沌の中心で、二人の妖精が擦れ違いざまに言葉を交える。

「何で、今日のチルノちゃんは最高に最強なの?」

 疑問は、至極当然の物。最強なのは重々理解していたが、最高に最強な理由は不明だったからだ。

「んっふっふー……今日の踊りはね――」

 もったいぶった様に、チルノは得意気に微笑んだ後。

「散々〝馬鹿〟と呼ばれたあたいこそが、最強に格好良く見えるからよ! 踊る馬鹿に見る馬鹿、踊らにゃ損々!」

 拳を振り上げ星空に向かい、冬の忘れ物が外れない様に頭を押さえながら、勢い良く吼えた。









「あたいったら、今日は最高に最強ね!」









「でもそれって〝馬鹿〟じゃなくて〝阿呆〟じゃなかったっけ?」
「えっ!?」
「そーなのかー」
「それとね、チルノちゃん。チルノちゃんが踊っているの、男踊りだよ?」
「嘘っ!?」
「女踊りはこーやるのかーそーなのかー」

 まさに今宵は、踊らにゃ損々。


 文章ではあのリズムを表現出来ないのが、惜しい限り。
 是非、機会があれば生で聞く事をお勧めします。ぞめきのリズム、心地良いですよ。
爪影
[email protected]
http://yaplog.jp/garaku2002/
コメント



0. コメントなし