Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

りゅうを食べよう

2006/08/12 06:45:34
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 そういえば、と妖夢は以前幽々子が言った事を思い出した。
「龍を食べたい、だっけ」
 月の異変の時、そんなことを言っていた。
 ので、率直に聞いてみた。
「幽々子様、以前龍が食べたいと仰っていましたが、今でも食べたいですか?」
「食べれるなら食べたいわね」
 妖夢の心は決まった。するべきことはただ一つ。

 ――龍を殺してバラして並べて揃えて晒して食すのだ!




 そして妖夢は最初に思いついた龍を求めて紅魔館へやってきた。
「あれ、珍しい顔――」
「会・即・斬!」


「というわけでとってきました」
 夕飯時、食事ができたと言われて居間へ来た幽々子は、困惑して立ち尽くした。
 いつも通りの夕食を期待してきてみれば、そこにあるのは帽子が一つ。何かの洒落だろうかと幽々子は室内を見回してみるが、特に変わったところは見つからない。
 いつもの席へと腰を下ろし、一息つく。
「それで妖夢、夕御飯は?」
「目の前にありますよ」
 しかし、目の前にあるのは相変わらず帽子が一つだけ。何の冗談だろうかと幽々子は首を捻った。妖夢を横目で窺ってみるが、意地悪しているとかそういう邪気はない。
「私の目には帽子しか見えないけど」
「いえ、それは帽子じゃありません」
「……じゃあ、何?」
「龍です。夕食です」
 ぽかーん、とたっぷり十秒近く呆けてから、幽々子は一言だけ返した。
「…………え?」
「ですから、龍です。夕食です」
 全く妖夢の意図が分からず、幽々子は混乱した頭で帽子を手にとってみた。そして見つけたのは、帽子の前の部分に輝く”龍”の字を象った星型のプレート。
 まさか、と思いながら、幽々子は龍の字を指しながら聞いてみる。
「えーと、龍?」
「はい、龍です。夕食です」
 断言する妖夢に、激しい脱力を覚える。
「いやいや妖夢。これは”龍の字”であって、龍ではないでしょう?」
「ですが幽々子様。仮にその字を指して”これは何か”と問えば、人は皆”それは龍だ”と答えるでしょう。故に、”龍の字”であろうと”龍”であることに変わりはないのです」
「違うわ妖夢。それは答えに省略が含まれているだけ。”それは龍の字だ”と答えるのを、字だと分かっているから省略して”龍だ”と言っているだけなのよ」
「しかし幽々子さま――」
「ならこれは貴方が食べなさい。私は普通の夕食で十分だから」
「せっかくの申し出ながら、私に帽子やプレートを食べる趣味はございません」
 とりあえず殴っておいた。




 妖夢は寝室で反省していた。
 あの後、幽々子から「もっと言葉の裏の意味を考えなさい」と言われ、呆れられてしまったのだ。
(言葉を額面どおり受け取ると火傷をする。なるほど、確かにその通り。言葉の裏に何を隠しているのかを考えなければ……)
 そして一晩悩んだ妖夢は、ふと閃いた答えを求めて永遠亭へやってきた。
「あら、一人で来るなんて珍し――」
「会・即・斬!」


「というわけでとってきました」
 夕食の時間に居間へ来た幽々子は、それはもうびっくりした。
 食卓の上で、月の兎が瀕死状態でぴくぴくしている。処置は済んでいるらしく、このまま死ぬということはなさそうではあるが、食卓に瀕死の兎というのはかなり悪趣味である。
「妖夢、何がしたかったの?」
 怒らないから言ってごらん、と幽々子は妖夢に微笑む。妖夢は鈴仙をびっと音がするほど力強く指差し、
「龍です。夕食です」
「いやいや妖夢。これはどう見ても兎でしょう?」
「見た目はそうですが、おそらくこれこそが幽々子様の求めた龍であると思い、とってきました」
 私の? と幽々子はいまだぴくぴくして意識が危うい鈴仙を見ながら自分の胸中に問いかける。
(これが私の食べたかった龍なの?)
 問いかけた瞬間、秒間16連打を越える勢いで否定が返ってきた。気まぐれに人を死に誘って遊ぶことはあれど、瀕死の獣を食卓に乗せて愛でた上で食べる趣味はない。
「私はこんなものを望んでないわ。なんで、私がこれを望んでいると思ったの?」
「幽々子様は昨日こう仰いました。”言葉の裏の意味を考えろ”と」
 確かに言った、と幽々子は肯定する。
「ゆえに、昨晩私は考えました。幽々子様が食べたい”龍”と、私の思う言葉通りの”龍”とは違うのではなかろうかと」
「まあ文字そのままの”龍”を出してくる時点で見解の相違はあるかもしれないわね」
「そして一晩考えて出て答えが、これです」
 もう一度、びしぃっと音がするほど力強く鈴仙を指差す妖夢。
「『”り”んし(臨死)体験しているパチ”ュ”リーのように危険な”ウ”ドンゲ』! 略して”りゅう”です!」
「なに……その、不愉快な……略……」
 あまりのことに、瀕死の鈴仙から力を振り絞ったつっこみが入った。しかし妖夢は鈴仙のつっこみをさらりと流し、さあ、と勢い込む。
「龍です。夕食です」
「帰してらっしゃい。私は普通の夕食で十分よ」
「しかし幽々子様――」
「いいから帰してらっしゃい。お詫びの品でも持ってね」
「分かりました。幽々子様印の『おいしくいただきます』カードも回収してきます」
 激しく扇子で叩いておいた。




 翌日、人里へ降りてきて食料を買いながら、妖夢は悩んでいた。
 深読みしすぎ。それが昨夜幽々子が言った言葉だった。
(言葉通りでは足りず、昨日の読みでは行き過ぎているなんて……言葉は難しい)
 悩みながら、店へ。入ったらまずは店内を一通り見て回る。
 そこで妖夢はそれを見つけた。
「これは――っ」
「ああ、それはこの間――」
「買い・即・斬!」


「というわけでとってきました」
 夕食ということで居間へ来た幽々子は、一瞬立ち止まったが、すぐにそ知らぬ顔で席に着いた。
「それで妖夢、これは?」
 食卓には、体は細長く腹が膨れ、口が長く突き出しているものが一つ。妖夢はそれをぴしりと指差して答えた。
「龍の子です。夕食です」
 そう、と頷いて、幽々子は箸を取る。その箸が”龍の子”に伸びていくのを、妖夢は固唾を呑んで見守っている。幽々子は”龍の子”を持ち上げ、色んな視点から眺めてみる。
「いただきます」
 妖夢の見ているのを感じながら、幽々子は”龍の子”を一口。たっぷり味わってからさらに一口、二口。さほど大きくないので、すぐに食べ終わった。
「――なかなか美味しかったわ」
 妖夢の顔がぱっと輝く。幽々子は口元を拭きつつそれを眺め、笑みを浮かべて、
「それで妖夢」
「はい、何でしょう?」




「”タツノオトシゴ”は龍と無関係よ」
「――嘘だっ!!」
妖夢の真面目さは貴重だと思います。
櫻井孔一
コメント



1.名無し妖怪削除
から揚げにすると美味しいらしい…ゲテモノだけど。
2.MIM.E削除
嘘だ! と、うろたえているであろう妖夢可愛いよ妖夢
3.古音無削除
食べられるんだ…オトシゴって。いやいや妖夢買ったその場でさばかんでも
4.名無し妖怪削除
籠とは竹と龍。
5.卯月由羽削除
買い・即・斬!に吹いた。うまいなぁww