ぐつぐつ、ぐつぐつ、ぐらぐら、ぐらぐら。
お玉を回せば野菜が踊る。にんじん、じゃがいも、たまねぎ、おにく。今日のごはんはカレーです。紅魔館のキッチンはとっても広い。メイドみんなのごはんを作るに、どでかいお鍋がいくつも必要。でもお嬢様たちのごはんはもちろん特別。ちいさなお鍋でていねいに作ります。いつものシェフが風邪引き倒れ、瀟洒な従者が珍しく、お嬢様たちのためにキッチンに立ちます。
ぐつぐつ、ぐらぐら、ことこと、ことこと。
今日のごはんはカレーです。パチュリー様はなにげにカレー好き。タミル語だしね。ググればいいよ。十六夜咲夜は料理も瀟洒。茶色いルウに野菜が泳ぐ。コロコロまあるいジャガイモに、真っ赤なニンジン美味しそう。妹様は嫌いだと言う。こんなに紅いのに嫌いだと言う。好きとか嫌いとかはいいニンジンを食べるんだ。そうじゃないと大きくなれませんよ、といえば結構素直に食べてくれるもの。妹様も丸くなられた。
ぐつぐつ、ことこと、ぐつぐつ、ぐらぐら。
今日のごはんはカレーです。お嬢様はとっても少食。残り物は門番にあげましょう。あの子が料理をほおばる姿、いつもとっても幸せそう。咲夜さんの料理はいつも美味しいですよ、なんて。釣られて笑っちゃうじゃない。カレーカレー、ああカレー。ぐるぐる回るお玉を見れば、お鍋の中はワンダーランド。野菜とスパイスの奇跡的めぐりあい宇宙。ああ、スパイスがほしいわ。バーニング。舌を刺す刺激。熱い熱いナイフの刺激。柔なハートがしびれるような。びっくりするほどハートブレイク。
ぐるぐる、ぐらぐら、はい、できあがり。
今日のごはんはカレーです。ワゴンに載せてお鍋ごと、運びましょう食卓へ。紅い絨毯踏みしめ踏みしめ、ウキウキする胸鼓動は高く。思い浮かぶはお嬢様のお顔。ああ、お嬢様、お嬢様。レミリア・スカーレット。薔薇は薔薇と呼ばれずとも、変らず香り続けるでしょう。お嬢様とて同じこと。カレーを食べる口の端に、浮かぶ笑いが私の幸せ。金のスプーン手繰る手の、華奢な線と言ったら、嗚呼!
とことこ、とことこ、はい、到着。
ノックを2回、トントンと。入りなさいと言ったから、今日という日はカレー記念日。失礼しますと取っ手を回し、ドアを開けたら瀟洒に一礼。目線をあげたら、食卓にいるのは独り、お嬢様だけ。ピンクのドレスの胸元の、ブローチきらきらまぶしくて。ふりふりフリルはとってもやわらか。鋭い目線は涼しげに、鎮座すその名はツェペシュの末裔。銀の犬歯をきらりと光らせ、今日のメニューは何かしら。
今日のごはんはカレーです。
せっかく作ったカレーだから、冷めてしまわないうちに、幼き紅きお嬢様に先に召し上がってもらいましょう。お鍋のふたを開けたなら、ふうわり湯気が昇ります。野菜とルウのワンダーランド。お玉でぐるぐるカキ混ぜましょう。トロトロ茶色いルウの海原、たまねぎピリリと香ります。甘くて辛いハーモニー。それはまるでお嬢様。とっても美味しいお嬢様。ああ、お嬢様、お嬢様。あなたがそんなにうつくしいから。あなたの瞳が紅いから。どんな紅より紅いから。
せっかく作ったカレーだから。お嬢様にぶっかけました。
御髪をトロリと茶色く汚し、お嬢様は言いました。隠し味は、はちみつね。さすがお嬢様、もうバレた。レミリア様の、はちみつ授業。テストならば100点です。でもね実は違うんです。ホントの隠し味は、あ・い・じ・ょ・う・です(はぁと)。ああ、お嬢様、お嬢様。今宵のあなたは華麗なる運命。紅より紅いあなただから。幼く美しいあなただから。お嬢様、お嬢様、今日のごはんは――
必殺「ハートブレイク」
それはそれとして、何かおなか空いてきました。カレー食いてー。