Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

夏ですよ~

2006/08/09 10:34:39
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「あたいはね、アンタなんかだいっきらいなのよ」










 ある晴れた昼下がり、湖の傍。そこで私は友達と一緒に遊んでいた。

「春ですよ~」
「いや、もう夏だし」

 春だと主張しているのが私、リリー・ホワイト。夏だと主張しているのが友達のチルノ。
 何時もなら妖精らしく、暢気に遊ぶところなのだけど、今日は少し様子が違っていた。

「ハル~」
「だから夏だってば」
「はぁるぅぅ」
「・・・あんた、わかってて言ってるでしょ?」

 口を尖らせたチルノは、とても不機嫌そうにそう呟く。一方、私はくるくると回りながら踊っている。楽しいなぁ。

「あんたさ、そろそろ消えるんでしょ?」
「あう~」
「ごまかしても無駄よ。気配でわかるんだから」
「ぁぅ・・・」
「ふん。天才のあたいに判らない事はないのよ」

 いつもその台詞を口にする時と同じ様に、チルノは無意味に偉そうにふんぞり返る。
 そして私を人差し指でびしっと指差した。

「あたいはアンタに言わなきゃならない事がある!」
「・・・?」

 高らかにそう宣言するチルノ。対して、私は困ったような笑顔を浮かべながら人差し指を顎に当てる、と言う悩んでいるのか困っているのか、よくわからない仕草でチルノを見つめ返した。
 だって困っていいか悩んで言いか悩むんだもん・・・。

「あたいはね、アンタなんかだいっきらいなのよ」

 その言葉を聞いた瞬間、私はこの春最大のショックを受けた。
 この春、ずっと楽しく遊んでいた友達からの『嫌い』宣言。彼女は私にとって、この一生を共にした友人とも言える。そんな人から受けた思いがけない言葉に、まるで世界の終わりのような気持ちにさせられる。

「あたいの気分も知らずに、いっつもへらへら笑いながらいきなり現れて」

 いつの間にか湖を見つめているチルノを見て、顔を合わせるのすら嫌なのかと思い、またショックを受ける。

「かと思ったら、勝手にいなくなって」

 でも、私はチルノが好きだった。いつも屈託なく笑い、自分と遊んでくれるこの氷精の事が大好きだった。

「それにね、あんたが現れるとあたいの親友――レティがいなくなっちゃうのよ!」

 いや違う。嫌いだと言われた今も大好きなのだ。ちょっと間抜けで愛らしい、この氷精が大好きでたまらないのだ。

「ほら、見なさいよ。アンタの足、消えかかってるじゃない!」

 足元を見ると、確かに足が透け始めていた。私がここに滞在出来る時間は、もうほとんど残されていない。

「あたいはね、まだ文句が言い足りないのよっ」

 何かしゃべろうと口を開くが、言葉にならなかった。いや、むしろ何と言うべきか判らなかった。
 私は一体、彼女に何を伝えたいのだろうか?

「だから、絶対また来なさいよっ!」

 私は自然と笑顔を零していた。だって顔を上げたら、そこには瞳を潤ませたチルノが居たのだから。
 そう、彼女はすごく友達思い。その癖、意地っ張りだから素直にそれを表に出せない。

「ちゃんと聞きにこなかったら許さないんだからね!」

 彼女は言った。また来いと。私が来ると言う事は、親友との別れを意味すると言うのに。
 声は不自然なくらい震えていたけれど、結局彼女の瞳から涙が流れる事はなかった。
 やっぱりチルノは、最後までチルノだったなぁ。



 こうして春を告げる妖精は、最後まで笑顔のまま、幻想郷から姿を消したのだった。
 ズルイ。
 なんでレティもリリーも毎年あんな笑顔で消えていくのだろう。あたいはこんなにも悲しいのに。
 それに折角友達が出来たのに、紹介も自慢も出来ない。皆で遊ぶ事も出来ない。
 だから大好きだけど、そんな2人はだいっきらい。

 ・・・せめて紹介くらいはしたいなぁ。

 ん? そういえば。
 そうだ、あの天狗が持ってた写真。あれを使って紹介すればいいんだ。
 そうと決まれば泣いてる暇なんてない。いやいや、あたいは最強だから泣いてなんかいないってば。
 とりあえずあの天狗を捕まえよう。そしてリリーとレティの写真を作らせて、自慢するんだ。こんな最高の友達が出来たんだよって。
 でも、あの天狗はどこに居るんだろう?

 ま、蛙でも凍らせて遊んでればそのうち来るでしょ。
あさ
コメント



1.削除
ええい、こんな夜中に不意打ちを!涙で目が覚めるじゃないか!
2.名無し妖怪削除
チルノええ子や… ・゚・(ノД`)・゚・
あと「それ表に出せない」は「それを表に出せない」でしょうか。
3.名無し妖怪削除
そうか、これがツンデレというやつなのだな。
4.あさ削除
感想及びミスの指摘、ありがとうござます。
ツンデレはよく判りませんが、チルノはいい子ですよ! ⑨だけど。

別れは切ないモノです。季節が変わり、皆さんの周りでも何かしら別れはあったと思います。それが人であれ、物であれ。
何がいいたいかと言うと、また会えるといいね、って事です。
5.卯月由羽削除
とてもチルノらしいSSだと思いました。
やっぱりチルノはいい子だ…