「あたいはね、アンタなんかだいっきらいなのよ」
ある晴れた昼下がり、湖の傍。そこで私は友達と一緒に遊んでいた。
「春ですよ~」
「いや、もう夏だし」
春だと主張しているのが私、リリー・ホワイト。夏だと主張しているのが友達のチルノ。
何時もなら妖精らしく、暢気に遊ぶところなのだけど、今日は少し様子が違っていた。
「ハル~」
「だから夏だってば」
「はぁるぅぅ」
「・・・あんた、わかってて言ってるでしょ?」
口を尖らせたチルノは、とても不機嫌そうにそう呟く。一方、私はくるくると回りながら踊っている。楽しいなぁ。
「あんたさ、そろそろ消えるんでしょ?」
「あう~」
「ごまかしても無駄よ。気配でわかるんだから」
「ぁぅ・・・」
「ふん。天才のあたいに判らない事はないのよ」
いつもその台詞を口にする時と同じ様に、チルノは無意味に偉そうにふんぞり返る。
そして私を人差し指でびしっと指差した。
「あたいはアンタに言わなきゃならない事がある!」
「・・・?」
高らかにそう宣言するチルノ。対して、私は困ったような笑顔を浮かべながら人差し指を顎に当てる、と言う悩んでいるのか困っているのか、よくわからない仕草でチルノを見つめ返した。
だって困っていいか悩んで言いか悩むんだもん・・・。
「あたいはね、アンタなんかだいっきらいなのよ」
その言葉を聞いた瞬間、私はこの春最大のショックを受けた。
この春、ずっと楽しく遊んでいた友達からの『嫌い』宣言。彼女は私にとって、この一生を共にした友人とも言える。そんな人から受けた思いがけない言葉に、まるで世界の終わりのような気持ちにさせられる。
「あたいの気分も知らずに、いっつもへらへら笑いながらいきなり現れて」
いつの間にか湖を見つめているチルノを見て、顔を合わせるのすら嫌なのかと思い、またショックを受ける。
「かと思ったら、勝手にいなくなって」
でも、私はチルノが好きだった。いつも屈託なく笑い、自分と遊んでくれるこの氷精の事が大好きだった。
「それにね、あんたが現れるとあたいの親友――レティがいなくなっちゃうのよ!」
いや違う。嫌いだと言われた今も大好きなのだ。ちょっと間抜けで愛らしい、この氷精が大好きでたまらないのだ。
「ほら、見なさいよ。アンタの足、消えかかってるじゃない!」
足元を見ると、確かに足が透け始めていた。私がここに滞在出来る時間は、もうほとんど残されていない。
「あたいはね、まだ文句が言い足りないのよっ」
何かしゃべろうと口を開くが、言葉にならなかった。いや、むしろ何と言うべきか判らなかった。
私は一体、彼女に何を伝えたいのだろうか?
「だから、絶対また来なさいよっ!」
私は自然と笑顔を零していた。だって顔を上げたら、そこには瞳を潤ませたチルノが居たのだから。
そう、彼女はすごく友達思い。その癖、意地っ張りだから素直にそれを表に出せない。
「ちゃんと聞きにこなかったら許さないんだからね!」
彼女は言った。また来いと。私が来ると言う事は、親友との別れを意味すると言うのに。
声は不自然なくらい震えていたけれど、結局彼女の瞳から涙が流れる事はなかった。
やっぱりチルノは、最後までチルノだったなぁ。
こうして春を告げる妖精は、最後まで笑顔のまま、幻想郷から姿を消したのだった。
あと「それ表に出せない」は「それを表に出せない」でしょうか。
ツンデレはよく判りませんが、チルノはいい子ですよ! ⑨だけど。
別れは切ないモノです。季節が変わり、皆さんの周りでも何かしら別れはあったと思います。それが人であれ、物であれ。
何がいいたいかと言うと、また会えるといいね、って事です。
やっぱりチルノはいい子だ…