注意点
*これは絵板[6431] 『式の夏休み~キャンプ~』をSS化したものです。セットでお楽しみください。
*これは第一話ですが、序章が存在します。そちらを先に読むことをお勧めします。
*素晴らしい絵を描いてくださった絵師・EKIさんに感謝しつつスタートです。
キャンプに行く事になった式と式の式。とりあえず準備を終えた彼女達は、まだ迷ひ家内にいた。
「藍さま~、どうしたんですか? いかないんですか?」
「いや、な。橙」
困ったように笑う藍。その姿が自然に感じる事が彼女の普段の生活を如実に物語っていたりするのだがここでは関係のない話だ。
「キャンプに行くとして、どこへ行こうかと思ってな」
「?」
キャンプ、と一口に言っても目的地はさまざま。幻想の外の世界であればキャンプ場などという気の効いたものも存在するのだが、生憎、幻想郷にはそういった設備は存在しない。
結局どう言う事かと言うと、水と平地が確保できればどこでもキャンプが出来る、と言う訳だ。
「キャンプが出来る場所、か」
「・・・そういえば」
「ん?」
橙がぽつりと呟いた言葉に、藍は瞬時に反応する。
それはとても小さな声で、すぐさま反応できたのは藍がいかに橙に気を払っているか、ひいては大事にしているかの表れでもある。
「この前、誰だったかな? え~っと」
「ゆっくり思い出しなさい」
にこりと笑い、橙を落ち着かせる藍。その姿はまるで姉妹か、もしくは母子か。
藍の言葉ですぐに落ち着いた橙は、1つ深呼吸をしてからゆっくりと言葉を再開する。
「博麗神社のある山の近くに広い泉があったんです。それで今度そこで遊ぼうねって約束したんです」
「あぁ、そこでキャンプも出来そうだったのか?」
「はい!」
元気良く答える橙。藍は満足そうに笑みを浮かべながら、その様子を見ている。
式を大事にする主人。それは形は違えど、八雲に連なる者に共通する事柄。
「よし、じゃあ橙。そこに案内してくれるか?」
「はい!」
こうして2人は迷ひ家を出て、ひとまず博麗神社がある山の方向へと向ったのでした。
橙はうきうきしていた。
藍さまと一緒に夏休みで、しかも今、自分は藍さまの役にたてている。それがどうしようもなく嬉しくて、楽しい。
「藍さま、早く早く」
「おいおい橙。そんなに急がなくてもいいだろう?」
荷物をいっぱいかかえた藍さまは、のんびりふわふわこちらへ向って飛んでいる。
ふわふわと言えば、藍さまの尻尾はふわふわで気持ちいいんだぁ。
「時間はたっぷりあるんだから、のんびりと行こうじゃないか」
「え~」
早く行っていっぱい藍さまと遊びたい。
そう思うのは私の我侭で、藍さまはそうじゃないのかな?
「そういわずに、な? そうだ、橙」
「はい?」
「今から行くところはどんなところなんだ?」
「えっとですね――」
おっきな泉があって、周りは木がいっぱいで。
そんな私の身振り手振りを交えた説明を、藍さまは嬉しそうに聞いてくれる。しかも「うん」とか「そうなのか」とか、絶妙なタイミングで頷いてくれるので、とても話しやすい。
「へぇ。そういえば約束したって言ってたな。誰かと一緒に見つけたのかい?」
「はい。皆で遊んでる時に見つけたんです!」
どうやって見つけたか、その時は何をしていたのか。
そのどれを話している時も、藍さまはやっぱりにっこりしていて、するとなんだか私もにっこりしてしまって。
「ねぇ、藍さま」
「なんだい?」
私は藍さまより三歩くらい前に躍り出て、くるりと振り返った。
正面から見た藍さまも、やっぱり笑顔で。それは私が大好きな藍さまで。
「楽しいですね!」
「あぁ、そうだね」
出発してから全部が夏休み。どれも楽しくって、急いで通り過ぎたらもったいない。
藍さまの言う事はいつも正しい。全部は教えてくれないけど、最後にはやっぱり正しい。
さっすが、私の藍さま!
橙の案内で到着した場所は、緑のたくさんある場所だった。
というか、緑と泉しかなかった。
「ほぅ。中々いい場所だね、橙」
「えへへ」
誇らしげに笑う橙の頭を、藍の手が優しく撫でる。
ひとしきり撫でた後、藍は辺りを見回して何かを探しているようだった。
「? 藍さま、どうしたんですか?」
「ん? あぁ、テントをどこに張ろうかと思ってね」
テント、と言っても簡易的な物で、何か支えがなければ自立出来ないタイプの物なのだ。幸い、支えになりそうな木は豊富にあるのだが、如何せんテントを広げるだけのスペースを確保出来そうにもない。
「ふむ。どうしたものか」
「どうしたんですか?」
「いや、な。ここは木が多すぎてテントが張れそうにないと思ってね」
「・・・そういえば反対側に少し広いところがあったような」
「じゃあ、そこにいってみるか」
橙の記憶を頼りに、2人は荷物を持ち上げて泉を飛び越える。
するとそこには手ごろなスペースがあった。しかも都合のよい事に木々が茂って日陰になっている。
「ふむ。じゃあここにテントを張ろうか?」
「はい! お手伝いします」
「ふふ。よろしく頼むよ」
こうして始まったテント張りは、橙が布巻き込まれたり、橙の結んだ紐が外れたり、その紐に橙がじゃれ付いたりしながらも無事完成した。
「うぅ・・・すいません、藍さま」
「気にしなくて良い。初めての事で失敗するのは仕方のない事だからね」
「でも、その。遊んでしまいました・・・」
悲しいかな、猫の本能。しかし橙にとって、主人よりも本能を優先してしまったと言う事は、とても重大な事であったらしく、随分と沈んでいる様だった。
「よし、橙」
「わぁ」
藍が突然、大声を出して橙を呼ぶ。
怒られる、とでも思ったのか、橙の耳がぴたりと閉じ、頭にへばり付いた。藍はそんな橙の姿にこっそりと笑いを噛み締めながら、また大声でこう叫んだ。
「次は食材の確保だ!」
「ごめんな、って、へ? 食材?」
「そうだ。橙、この泉に魚はいるか?」
「えっと、います、けど・・・?」
「じゃあ橙。そちらは任せるからね」
「え? え?」
混乱する橙を無視し、藍は更に早口でまくし立てた。
「私は木の実や山菜がないか探してくるよ。だからそっちはよろしく頼む」
「え? あ、はい?」
ぽかんと口開けたままの間抜けな格好で置いていかれた橙は、しばらくしてから泉に向って勢いよく駆け出した。名誉挽回、と意気込んで。
それをこっそりと見ていた藍は、とても優しい笑みを浮かべながら、自分もまた作業を開始したのだった。
八雲藍はぐるぐるしていた。
別に符を使って飛んでいる訳ではない。ただ、先程沸かしたお湯の中身をかき混ぜているだけだ。
鍋の中には山菜。茹でて灰汁取りをすれば食べられそうな物がいくつかあった為、取ってきて現在調理中と言う訳だ。
「藍さまー、魚とってきましたー!」
「あぁ、橙ありがとう。じゃあ一緒に調理しようか」
先程別れた時は半分泣きそうだった橙も、今は数匹の魚を手にまぶしい笑顔を輝かせている。
うん。やっぱり橙は笑顔が一番だな。
「わーい♪」
「火や刃物の扱いには気をつけるんだぞ?」
「はーい!」
元気の良い返事と共に、私の隣で作業を始める橙。
真剣に取り組むその横顔は、やっぱり可愛かった。
「藍さま、きゃんぷって楽しいですね!」
「橙、キャンプの本当の楽しみは夜にあるんだよ」
意味深にそう言う私に、橙は小首をかしげた無防備な表情を見せた。
上目遣いと相まって可愛い事この上ない。こんな表情を雄猫の前でした日には、どうなってしまうか心配だ。
「夜、ですか?」
「そう、夜だ…」
肝試しとか百物語とか。
怖がる橙もきっと可愛いんだろうなぁ、などと少し不謹慎な事を考えつつも、私は作業を続ける。
「藍さま~」
「ん、なんだい?」
「これが終わったら遊びましょうね」
「あぁ。そうだね」
そんな橙の言葉を聞いた私は、食事の下ごしらえをする速度を先程よりも5割増しにして続行するのだった。
その後、藍さますご~い、と言った時の橙の表情も格別に可愛かった。
*これは絵板[6431] 『式の夏休み~キャンプ~』をSS化したものです。セットでお楽しみください。
*これは第一話ですが、序章が存在します。そちらを先に読むことをお勧めします。
*素晴らしい絵を描いてくださった絵師・EKIさんに感謝しつつスタートです。
キャンプに行く事になった式と式の式。とりあえず準備を終えた彼女達は、まだ迷ひ家内にいた。
「藍さま~、どうしたんですか? いかないんですか?」
「いや、な。橙」
困ったように笑う藍。その姿が自然に感じる事が彼女の普段の生活を如実に物語っていたりするのだがここでは関係のない話だ。
「キャンプに行くとして、どこへ行こうかと思ってな」
「?」
キャンプ、と一口に言っても目的地はさまざま。幻想の外の世界であればキャンプ場などという気の効いたものも存在するのだが、生憎、幻想郷にはそういった設備は存在しない。
結局どう言う事かと言うと、水と平地が確保できればどこでもキャンプが出来る、と言う訳だ。
「キャンプが出来る場所、か」
「・・・そういえば」
「ん?」
橙がぽつりと呟いた言葉に、藍は瞬時に反応する。
それはとても小さな声で、すぐさま反応できたのは藍がいかに橙に気を払っているか、ひいては大事にしているかの表れでもある。
「この前、誰だったかな? え~っと」
「ゆっくり思い出しなさい」
にこりと笑い、橙を落ち着かせる藍。その姿はまるで姉妹か、もしくは母子か。
藍の言葉ですぐに落ち着いた橙は、1つ深呼吸をしてからゆっくりと言葉を再開する。
「博麗神社のある山の近くに広い泉があったんです。それで今度そこで遊ぼうねって約束したんです」
「あぁ、そこでキャンプも出来そうだったのか?」
「はい!」
元気良く答える橙。藍は満足そうに笑みを浮かべながら、その様子を見ている。
式を大事にする主人。それは形は違えど、八雲に連なる者に共通する事柄。
「よし、じゃあ橙。そこに案内してくれるか?」
「はい!」
こうして2人は迷ひ家を出て、ひとまず博麗神社がある山の方向へと向ったのでした。
橙はうきうきしていた。
藍さまと一緒に夏休みで、しかも今、自分は藍さまの役にたてている。それがどうしようもなく嬉しくて、楽しい。
「藍さま、早く早く」
「おいおい橙。そんなに急がなくてもいいだろう?」
荷物をいっぱいかかえた藍さまは、のんびりふわふわこちらへ向って飛んでいる。
ふわふわと言えば、藍さまの尻尾はふわふわで気持ちいいんだぁ。
「時間はたっぷりあるんだから、のんびりと行こうじゃないか」
「え~」
早く行っていっぱい藍さまと遊びたい。
そう思うのは私の我侭で、藍さまはそうじゃないのかな?
「そういわずに、な? そうだ、橙」
「はい?」
「今から行くところはどんなところなんだ?」
「えっとですね――」
おっきな泉があって、周りは木がいっぱいで。
そんな私の身振り手振りを交えた説明を、藍さまは嬉しそうに聞いてくれる。しかも「うん」とか「そうなのか」とか、絶妙なタイミングで頷いてくれるので、とても話しやすい。
「へぇ。そういえば約束したって言ってたな。誰かと一緒に見つけたのかい?」
「はい。皆で遊んでる時に見つけたんです!」
どうやって見つけたか、その時は何をしていたのか。
そのどれを話している時も、藍さまはやっぱりにっこりしていて、するとなんだか私もにっこりしてしまって。
「ねぇ、藍さま」
「なんだい?」
私は藍さまより三歩くらい前に躍り出て、くるりと振り返った。
正面から見た藍さまも、やっぱり笑顔で。それは私が大好きな藍さまで。
「楽しいですね!」
「あぁ、そうだね」
出発してから全部が夏休み。どれも楽しくって、急いで通り過ぎたらもったいない。
藍さまの言う事はいつも正しい。全部は教えてくれないけど、最後にはやっぱり正しい。
さっすが、私の藍さま!
橙の案内で到着した場所は、緑のたくさんある場所だった。
というか、緑と泉しかなかった。
「ほぅ。中々いい場所だね、橙」
「えへへ」
誇らしげに笑う橙の頭を、藍の手が優しく撫でる。
ひとしきり撫でた後、藍は辺りを見回して何かを探しているようだった。
「? 藍さま、どうしたんですか?」
「ん? あぁ、テントをどこに張ろうかと思ってね」
テント、と言っても簡易的な物で、何か支えがなければ自立出来ないタイプの物なのだ。幸い、支えになりそうな木は豊富にあるのだが、如何せんテントを広げるだけのスペースを確保出来そうにもない。
「ふむ。どうしたものか」
「どうしたんですか?」
「いや、な。ここは木が多すぎてテントが張れそうにないと思ってね」
「・・・そういえば反対側に少し広いところがあったような」
「じゃあ、そこにいってみるか」
橙の記憶を頼りに、2人は荷物を持ち上げて泉を飛び越える。
するとそこには手ごろなスペースがあった。しかも都合のよい事に木々が茂って日陰になっている。
「ふむ。じゃあここにテントを張ろうか?」
「はい! お手伝いします」
「ふふ。よろしく頼むよ」
こうして始まったテント張りは、橙が布巻き込まれたり、橙の結んだ紐が外れたり、その紐に橙がじゃれ付いたりしながらも無事完成した。
「うぅ・・・すいません、藍さま」
「気にしなくて良い。初めての事で失敗するのは仕方のない事だからね」
「でも、その。遊んでしまいました・・・」
悲しいかな、猫の本能。しかし橙にとって、主人よりも本能を優先してしまったと言う事は、とても重大な事であったらしく、随分と沈んでいる様だった。
「よし、橙」
「わぁ」
藍が突然、大声を出して橙を呼ぶ。
怒られる、とでも思ったのか、橙の耳がぴたりと閉じ、頭にへばり付いた。藍はそんな橙の姿にこっそりと笑いを噛み締めながら、また大声でこう叫んだ。
「次は食材の確保だ!」
「ごめんな、って、へ? 食材?」
「そうだ。橙、この泉に魚はいるか?」
「えっと、います、けど・・・?」
「じゃあ橙。そちらは任せるからね」
「え? え?」
混乱する橙を無視し、藍は更に早口でまくし立てた。
「私は木の実や山菜がないか探してくるよ。だからそっちはよろしく頼む」
「え? あ、はい?」
ぽかんと口開けたままの間抜けな格好で置いていかれた橙は、しばらくしてから泉に向って勢いよく駆け出した。名誉挽回、と意気込んで。
それをこっそりと見ていた藍は、とても優しい笑みを浮かべながら、自分もまた作業を開始したのだった。
八雲藍はぐるぐるしていた。
別に符を使って飛んでいる訳ではない。ただ、先程沸かしたお湯の中身をかき混ぜているだけだ。
鍋の中には山菜。茹でて灰汁取りをすれば食べられそうな物がいくつかあった為、取ってきて現在調理中と言う訳だ。
「藍さまー、魚とってきましたー!」
「あぁ、橙ありがとう。じゃあ一緒に調理しようか」
先程別れた時は半分泣きそうだった橙も、今は数匹の魚を手にまぶしい笑顔を輝かせている。
うん。やっぱり橙は笑顔が一番だな。
「わーい♪」
「火や刃物の扱いには気をつけるんだぞ?」
「はーい!」
元気の良い返事と共に、私の隣で作業を始める橙。
真剣に取り組むその横顔は、やっぱり可愛かった。
「藍さま、きゃんぷって楽しいですね!」
「橙、キャンプの本当の楽しみは夜にあるんだよ」
意味深にそう言う私に、橙は小首をかしげた無防備な表情を見せた。
上目遣いと相まって可愛い事この上ない。こんな表情を雄猫の前でした日には、どうなってしまうか心配だ。
「夜、ですか?」
「そう、夜だ…」
肝試しとか百物語とか。
怖がる橙もきっと可愛いんだろうなぁ、などと少し不謹慎な事を考えつつも、私は作業を続ける。
「藍さま~」
「ん、なんだい?」
「これが終わったら遊びましょうね」
「あぁ。そうだね」
そんな橙の言葉を聞いた私は、食事の下ごしらえをする速度を先程よりも5割増しにして続行するのだった。
その後、藍さますご~い、と言った時の橙の表情も格別に可愛かった。
続き楽しみにしてます。
でも、鬼気走る後書きがすっげー気になるんですがw
そして感想ありがとうございます。続きもよろしくお願いします。
そうそう。小の意味は深く考えてはいけませんよ?(謎