「アリスシエスタ」
春先のとある1日。
寒さもずいぶん和らぎ、ここ数日は暖かい日が続いている。
小鳥達の囀りや優しさを感じさせる風。
暖かくなり元気にはしゃぎだした妖精達を見ていると自然と笑みがこぼれてしまう。
他にも、今この紅魔館の中には私の守りたい人がいる。
それが支えになり、ここ数日は門番の仕事を真面目にしていたりするのだが。
「なんとも平和ですねぇ~」
呟きと共に小さなあくびを一つ。
暖かな陽気とお昼ごはん後の満腹感から眠気が襲ってきますが、紅美鈴! 今が耐え時なのです!
門柱に寄りかかりぽわぽわとしていると、少し錆びた鉄の門扉が耳障りな音を立てながら小さく開いた。
「あら、今日は真面目に起きているのね」
「あ、アリスさん。本当は休憩なんですけど一応お客様も来ていますから」
「貴女ってそんなに仕事熱心だったかしら?」
門を潜り出てきたのはアリス・マーガトロイドさん。
3日前から紅魔館に来ている客人であり、私の守りたい人。
華奢な体躯。
色白な肌。
整った顔立ちに綺麗な金色の髪。
そして透き通るような青色の瞳。
どれをとってもお人形さんみたいな彼女。
だけど、そのぶん脆く見えて守ってあげないと何処かに言ってしまいそうで。
そんなことを思っていたらいつの間にかアリスさんのことばかりを目で追うようになっていた。
「それよりアリスさん、魔法の研究は順調なのですか?」
「お世辞にも良いとは言えないわね。気分転換に少し外に、と思って出てきたのよ」
パチュリー様と新しい魔法の研究をするためと3日前から図書館に篭りっぱなしだと聞いていてのだが、どうやらあまり成果が出ていないご様子。
自分でも気づかない内にしょげた声になってしまう。
「そうなんですか……」
良く咲夜さんに「感情移入しすぎる悪い癖がある」なんていわれているが別にそんなことは無いと思っているのだけれど。
「何で貴女が悲しそうな顔をするの? 不思議な人」
私の顔を見てくすくすとアリスさんが笑う。
そんなに顔に出ていただろうか?
いやしかしアリスさんの笑顔がまぶしい。
「そういえば3日間図書室に篭りっぱなしだったんですよね? 咲夜さんがお二人の体に触ると心配してましたよ」
「そんなことまで話してしまうの? 紅魔館のメイドは」
「あの、それだけ心配しているんですよ……?」
「わかっているわ、ちょっとした冗談。 疲れているのかしら、棘のある言い方だったわね……」
肩に乗っている上海人形の頭を軽く撫で、太陽の光を遮るように手をかざし目を細めてみせる。
頭上を見上げ、疲れたようにため息を吐いた。
「少し休んだらいかがでしょうか? 私も休憩時間ですし、肩をお貸ししますよ」
「ん、どうしようかしら」
「丁度そこが日陰になっていて気持ちいいんですよ。それにほら、気分もよくなりますよ?」
「そうね、じゃあ少しだけ」
お昼過ぎから少しの間、門の近くに生えている木が門柱付近に丁度良い木陰を作るのだ。
アリスさんの手を引きそこまで移動すると二人並び門に背を預けるようにして座り込む。
地面の草がクッションになってくれて座り心地も良く、ついついここでお昼寝してしまうのが困ってしまう。
「さすが1日のほとんどを門の前で過ごしているだけはあるのね、気持ちの良い場所だわ」
隣でアリスさんが「んぅ~っ」と伸びをしている。
ちらちらと覗く首筋を噛みたいと考えてしまう辺り私も妖怪なんだなぁと改めて感じたりしているのだが。
でもそんなことしたら嫌われてしまいます……
なんにしろ気に入ってくれたようで一安心。
「ここは気持ちよすぎてついつい寝てしまう場所なんですけどね~」
「それは困ったわね」
照れたように言うとアリスさんが困り顔を浮かべながらも楽しそうに笑ってくれる。
何だが幸せのど真ん中にいる気がします!
「でも、本当に眠くなるわ……」
「少し寝ますか?」
小さなあくびをかみ殺し、目じりに涙を浮かべるアリスさんを横目に肩を少しずらしてみる。
肩に頭をかければ眠っているうちに後頭部を硬い門の壁で擦ることもないだろう。
「え、でもそれは流石に……」
「寝ずらいようでしたら膝枕でもいいですよ?」
難しい顔をしているアリスさんの為に足を伸ばしてみせる。
身長差的を考えれば確かに肩を枕にするのは首が凝るかも知れない。
「どうぞ、少しだけ休んでいってください」
ぽんぽんと両手で膝をたたくと、アリスさんはしばらく私の顔をじっと見つめ何か考えているようだ。
「じゃあ少しだけ……」
そして眠気に勝てなかったのか、ふっとあくびが出そうになるのを堪えおずおずと私の足に頭を乗せた。
私に背を向けるようにして横になるアリスさん。
座っている位置からだと頭の後ろと耳しか見ることができない。
一体どんな顔をしているのだろうか?
「柔らかいのね、美鈴の足って」
「そうですか? アリスさんの足のほうが綺麗で柔らかそうですけど」
「なっ、なに言ってるのよ」
素直にそう言うと頭を動かされて太ももの筋肉をぐりぐりされた。
ちょっとだけ痛かったりします。
「ちょ、ちょっとだけ痛いですよ!」
「もう、へんなこと言うからよ」
「変なことって、アリスさんが言い出したことじゃないですか……」
「何か言った?」
普段聞きなれない低い声に思わず無言になる私。
アリスさんは思ったよりたくましいのかもしれません!
「んっ、くぁっ」
「ふふふ、風が気持ちいいですね~」
「そうね。暖かくて良かったわ、そうじゃないとこんな事――」
そこで不自然にアリスさんが黙り込んでしまう。
こんなこととはお昼寝のことだろうか? それとも……
気になって聞こうと思ったがアリスさんの小さな寝息が聞こえてきたのでやめた。
「すぅ……」
「お疲れだったんでしょうねぇ~」
太ももに確かな暖かさと重さを感じ思わず笑みが漏れる。
魔法使いだとは言え肉体があるため限界の数値が高いとはいえ疲れはするのだろう。
「私も少し眠くなってきましたね……」
暖かな陽気に包まれ、近くで寝ている人がいる。
眠気は伝染すると聞いたことがあるがそれはきっと間違いなく正しい。
うとうとしていると近づいてくる気配を感じ目を覚ます。
それは門を軽々と飛び越え、私の隣に音も無く降り立った。
「あ、咲夜さん」
「おやつを持ってきたわ、休憩に……あら? そこにいるのはアリス?」
「しーですっ、今寝たばっかりなんですよ。疲れてたみたいで」
休憩している私の元にお菓子と紅茶を持ってきてくれる咲夜さん。
私より少し遅い休憩時間に入るとやってきて一緒に並んでお茶を飲んだりするのも日課のひとつだ。
「珍しいわね、彼女がそんな無防備にしているなんて」
「あれ? そうなんですか?」
「少なくとも私は見たこと無いわ。 あらあら、安心しきった可愛い寝顔しちゃって」
どうやらアリスさんの寝顔は可愛いらしい。こちらから見えないので私にはわからないのが残念です。
「あんまり物音を立てるのはよくないわね。お茶とお菓子置いておくから目が覚めたら淹れてあげなさい、冷めないようにしておくから」
そう言って咲夜さんがメイド服のポケットから小さな懐中時計を取り出す。
咲夜さんの能力の象徴である懐中時計。
本人曰く時計が無くても能力の行使はできるようだが、やはり象徴物があると無いとでは少し違うらしい。
「さて、これでいいでしょう。じゃあ美鈴、お客様に風邪なんかひかせないでちょうだいね?」
「了解です~」
「じゃ、またお夕飯のときに」
そう言うと咲夜さんはまた軽々しく門を飛び越えて行ってしまった。
咲夜さんなら門を開ける事なんて雑作もないのだろうけど、彼女はいつも壁を飛び越えてくる。
前にそれを聞いたら「うるさいじゃないの」なんて言っていたけど、別にそんなに気になるだろうか?
でも、今はそれのおかげでアリスさんの睡眠は守られた。
私はもう少しだけ膝の上の彼女を眺めるとしよう。
咲夜さんの言っていた安心しきった可愛い寝顔を思い浮かべながら、私は少しずつ寒くなってゆく夕暮れに向けてどのタイミングで彼女を起こすべきかと悩むのだった。
マーガトロイドです
名前を間違えるのはアレでしたが、ほのぼので良かったです
眺めていたい。
いつもコメントありがとうございます。最大のミスを犯しました、お許しください…
また指摘をありがとうございます!
>>2さん
ほのぼのーです、最近ほのぼのしすぎて平和ボケしそうです。
コメントありがとうございます!
>>正体不明さん
お昼寝はいいですよ、昼になると対外昼寝したくなります、もはや癖です…w
コメントありがとうでした!
>>4さん
ありがとうございます、きっとこの二人を妖精たちが遠くで眺めているのでしょう。
コメントありがとうございました
コメントありがとうございます!
ほのぼの系美鈴と可愛い系アリスが組み合わされば無敵だと思うのですよ…!