Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

幸せになれるお薬の話

2012/01/19 02:15:06
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この物語の途中にキスシーンがあります。
不快に感じた方は、そのまま戻ってそっとこの話を忘れてください。
私は一向に構わんッ!という海王の方は、是非この物語をお楽しみいただければ幸いです。




それでは、どうぞ


































夢を見た。
昔のこと。
忘れるわけない記憶。
だってそれを忘れたら、一体私には何がある?

「気取るなよ。逃げ出したくせに」
「格好つけて何かを背負ったふりして、結局お前は反省している自分に酔っているんだろう?」
「私じゃなくてお前が死ねばよかったんだ」
「この、ひきょうもの」

みんなはこんなことをいわない。
けど、みんなはこうおもっていたはず。
私は自分を責めるふりして必死に助けを求めてるだけ。
助かりたいただその一心で、優しかったみんなを汚している。
最後に話すら出来なかった皆は、居なくなった私に何を言う?
汚れているのは今も昔も私だけ。
汚れているだけで何も救えなかった私の手は、他の誰かの手を掴もうと必死にもがいている。
これは、夢?

「あぁっぁあああああああああうわっぁあうっぅうあうううううううううううぅううぅううううぅうぅ」
「!?大丈夫?どうしたの鈴仙ちゃん、落ち着いて」

抜け出した、駈け出した、逃げ出した、全てから。
なにが正しいのか判らなくなって怖くなって嫌になって。
自分が判らなくなった私は自分の立場から逃げ出した。
すぐ後ろからは仲のよかった皆の私を呼ぶ声が聞こえてきて。
どうしようもなく懐かしくて愛おしい筈なのに、今の私にはそれすら重荷でしかなくて。
夢でもう一度逢えた皆の温かい声すら、自身の悔恨の叫び声に掻き消されて、混ざって、全部、ぐちゃぐちゃ。

「あぅっぅううううう。……っぅ……っご、ごっほごほっ。ぜひっ、っひゅー、ひゅー」
「大丈夫だよ、落ち着いて。ここは地上で永遠亭。何も怖くないんだよ。ほら、大丈夫大丈夫」

優しく抱きしめられる。
柔らかい温もりと鼻孔を擽る甘い匂い。
止めて下さい。
資格がないことぐらいわかっています。
私の腕はあなたの白すら汚してしまう。
お願いします、止めて下さい。
ちゃんと、します、から。
ちゃんと、わかって、いますから。
ちゃんと、みっともなく、もがきますから。
ずっと過去に苦しんで生きて。
自分が生きてきたことを、後悔しながら死にますから。
自分はここにいるって解ってますから。
そうやって私にやさしくなんてしないでください。
お願いします。
おねがいしますから、もうわたしのことなんてほおっておいてくださいよぅ。

「落ち着いて。大丈夫だよ、鈴仙ちゃん。鈴仙ちゃんはなーんにも悪くなんて無いよ」
「ぅうう、ううぁぁあああ……」

私を救う糸の声。
けれど私は、いっつもそう。
こうやって誰かにしがみついて、その人も汚れたら、また私は逃げ出すのだろう。

「ほら、大丈夫。ゆーっくり深呼吸しよ?落ち着くまでこうしてあげるよ」
「ぁああうう……だめだよ……汚い……よ……てゐが……穢れちゃう……」
「あはは、何言ってんのさ。鈴仙ちゃんが汚いわけ無いでしょ」

綺麗な笑顔。
きれいすぎてとても私には耐えられそうにない。
だって私は黒兎。
掛かった血を洗おうともせずにただ逃げて。
乾いた血が、べっとりと私を染め上げる。
固まって私を動けなくして、どうすることもできやしない。
だから、駄目。

「ありがとう……もう離して……大丈夫、落ち着いたから」
「嘘つき。震えてる。それなのに無理してそんなこと言って、離せるわけ無いでしょ」
「……ごめんなさい」
「謝っちゃ駄目。鈴仙ちゃんは悪くない」
「ごめん……なさい……」
「泣いちゃ駄目。鈴仙ちゃんは笑顔がいいの」

心に優しさが染みこんでくる。
乾いた砂に水が染み込むように、際限無く。
私の乾いた心に、てゐ優しさが染みこんでくる。
しろがわたしをつつみこんでくれる。

「落ち着いた?」
「うん、今度は本当に大丈夫」
「みたいだね、良かった。びっくりしたんだよ?」
「ごめ――」
「謝っちゃ駄目だってば」

そう言って微笑む。
私も少しだけ、ぎこちなくだが笑うことができた。

「よーやく笑ったか。健康には笑顔が一番だよ。泣いてちゃせっかくの美貌も台無しってね」
「あはは、ありがとう」
「……うなされたのは、やっぱりさっきのお師匠様の話が原因……?」
「……うん」

寝る前に、師匠からこんな話があった
月からの使者が来るかもしれない、自分ができうる限りの最善を尽くす。
だから、安心して協力して欲しい。
永遠亭だけ、明晩から月の灯が届かなくなる。
この幻想郷の月を少しだけ歪めてしまう。
けれど必ず、悪いようにはならないから。
安心して、私の指示を聞いて欲しい。

「大丈夫だって。あのお師匠様が本気で事に当たるんだよ。しかも姫様のために。失敗なんてするわけないって」
「わかってる、けど……忘れていないつもりだったけど、私は自分がなんなのか忘れちゃってたんだ」

逃げ出してここにきて、それからは本当に平和な日々だった。
師匠に出会い匿ってもらって、生きる意味を持つ為に薬学を教えてくれた。
私の罪からしたら貴方なんてよっぽど可愛いものだわ、と貴き姫から慰めの言葉も頂いた。
そしてなにより、てゐに会って、おかしいことかもしれないけど本気で人を、てゐを、好きになれた。
だから、忘れちゃっていたんだ。
唐突に話をされて、やっと思い出した。
過去の私が清算にくる。
私は結局どこまでいっても黒兎。

「大丈夫、もう忘れたりしないから。……もう、大丈夫だよ」
「……あぁもう、ぜ~んぜん大丈夫に見えないよ」

本当に、私なんかのことを大切にしてくれる。
本当に、ごめんなさい。

「鈴仙ちゃん」
「何?」
「今から私の言うことに素直に答えてて欲しいウサ」
「分かった」
「いい?……鈴仙ちゃんは、私の事好き?」
「うん」
「私の言うことを信頼してくれる?」
「うん」

いたずらで嘘を付くこともあるけれど、本当に大事な事は嘘をつかない。
そして、嘘でもなんでもなく私は貴方のことが大好き。
本当に、大好き。

「じゃあ私が悲しんでたら、助けてくれる?」
「うん、勿論」
「なら、私の言うことを聞いて。お願い」
「いいよ、分かった」
「鈴仙ちゃん、忘れないことも大事だけど、いつまでも過去に苦しんでちゃ駄目。鈴仙ちゃんが悲しむところなんて私は絶対に見たくない」
「……でも……これは――」
「わかってる、それは鈴仙ちゃんにとって冗談でもなんでもなく命に関わる問題だってことぐらい私にもわかるよ。だけれど、いや、だからこそ、鈴仙ちゃんはそのことに決着をつけなきゃ駄目だよ」
「決着……」
「そして勿論、勝って決着じゃないと駄目だよ。因幡の白兎サマはハッピーエンド至上主義なのだ!」

勝って、決着。
実際には勝ち負けなんてない。
これは、勝負なんかじゃない。
私の、私自身の行いを思い出すだけ。
ならば私にとっての敗北は、一体何?
私に、勝利なんてあるのか。

「敗北条件は私が決めてあげる。鈴仙ちゃんの敗北は、私を悲しませる決着になること」
「てゐが悲しんじゃ駄目……?」
「そう、だからさ。鈴仙ちゃんは、勝って決着をつけるんだ。そして勝者は何時だって笑顔じゃなきゃ駄目なんだよ」

決着をつける。
私の過去と、現在に。
ただの忌まわしい記憶と思ってしまう、自分自身と
皆のことを忘れるんじゃなくて、皆とのことを思い出にする。
今の私の生きる理由じゃなくて、今の私が在る理由にする。
それも、思い出すだけで死にたくなってしまうトラウマとしてではなくて、懐かしく愛おしい思い出として。
決着を、つける

「私に、できるかな……?」
「できるよ。絶対にできる。この私が保証しちゃうよ」
「……うん……でも――」
「あーもう、しょうがないなぁ。こうなったら、本当は駄目なんだけどちょっとだけドーピングしちゃおう」
「ド、ドーピング?」
「うん、大丈夫大丈夫、毒なんかじゃないから。……はい、じゃあ目をつぶって」

少し不安だけど、言われたとおりに目を閉じる。
なにかを探す音がする、部屋の中に置いてあるのだろうか。

「絶対に目を開けちゃ駄目だよ?」
「うん、わかってる」
「……いい?いくよ、口を開けて」

言われたとおりに口を開ける。
正直に言うと怖いけど、てゐになら何をされてもいい。
あれ?なんだろう。
なんだかとても、甘い、匂いが――

「っんむ?っむ……ん、っはぁ……うぇ?ぅんむ……んん」
「ん、む……っちゅ、ふふ。んん」

何かが口の中に入って来る。
――温かい
はじめてだけど、これ、知ってる。
舌、てゐの、舌。
――柔らかい
舌が口の中入って来る。
てゐが私の中に入って来る。
――甘い。
私なんて汚いのに。
こんなコトしちゃ駄目なのに。
――良い匂い。

「んんんん、っ、っは。ん……んむ、ん……」
「ん、っちゅ、ん……む、っふ、ん」


舌が絡まって力が抜けて、口の中を全部撫で回されて。
――おいしい。
私なんかがこんなコトして貰っちゃ駄目なのに。
――欲しい。
てゐの唾液が、私の中に流れ込んでくる。
――うれしい。
舌と唾液が絡まって、自分の欲望の声に掻き消されて、混ざって、全部、ぐちゃぐちゃ。
――このまま。
このまま二人で融け合ってしまいたい。

「っん……ぷはぁ。……っふぅ……っふぅー……」
「ぷはっ。どう?てゐ特製、幸せになれるお薬」
「ん、くぅ……ぅ……」
「え、ちょっと?鈴仙ちゃん?おーい……気を失っちゃった……」







夢を見た。
昔のこと。
忘れるわけない記憶。
だけどもう怖くない、だって私には、命がある。


「――――」
「――――」
「――――――――」
「――――」

みんながなにか言っている。
何も聞こえない。
けれどみんなは昔のように笑顔のまま。
妄想かもしれないけど。
ようやく、みんなと向き合えた。
みんな、ごめんなさい。
必死にもがいて必死にあがいて、無様に生きるけど。
苦しんで死ぬことはできそうにない。
逃げ出したことからは逃げ出さないって。
もう、決めたから。
みんな、ごめんなさい、今まで、私を縛ってくれてありがとう。
忘れません。
もう、解ってる。
これは、夢。




「ん……あ……さ……?」
「おはよう、鈴仙ちゃん」

てゐが直ぐ目の前にいる。
どうやら私は、あのまま意識を失ってしまったみたいだ。

「えっと、大丈夫?まさか意識を失うなんて……」
「全然大丈夫だよ、ありがとう。……てゐ、顔、赤いよ……?」
「!う、うるさいウサ!それを言うなら鈴仙ちゃんだって……!」
「えへへ、そうだね」
「……もう、大丈夫なんだね?」
「うん、ありがとう。お薬、効果覿面だよ」

私がそういうと、てゐは顔を赤くしてそらしてしまう。
かわいい。
あぁ、そうだ、言わなきゃ。
てゐには、ちゃんと言わなきゃ。
決めたことを。

「もう、決めたから」
「……決まったんだね」
「うん、もう、大丈夫」
「良かった」

もう、決めた。

「私は、逃げ出したことから逃げ出さない。私は私を背負って生きる。皆には悪いけど、それでも私は幸せになろうと思う。だから、思い出は思い出。私は私に決着する」
「うん、それでよし。もう、バッチリだね」
「うん……あ、でも……」
「ん?」

大丈夫だ。
逃げ出さない。
けど――

「お願い、していい?」
「ん、いいよ?どうしたの、急に改まっちゃって」
「……えっと、あのさ、もう一回、お薬、頂戴?」

この薬からも、少し離れられそうにない。
記念すべき二作目の投稿は、こちらジェネシッkもといジェネリックへ。
つまりこっちの方は初めてという形になりますね……うっ……ふぅ……。
次はどのような作品を書こうか悩んでいたある日、雪で滑って頭を打ちました。
その時に見えた幻視を書いたのがこの作品です。
正直、頭痛はまだ止んでいません。

ここまでお読み頂きありがとうございました。
ご意見ご感想、心よりお待ちしております。

なお、この薬の名前は某ふしぎなゲームとは一切関係はございませんので、あしからず。
朝鍵
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
このお薬はヤバい…
良いお話でした
2.名前が正体不明である程度の能力削除
ぐっとじょぶ。