「ねぇ、レミリアは何故紅霧異変を起こしたと思う?」
「そりゃ、わがままお嬢様の気まぐれってやつじゃないのか」
「かもね」
「?」
場所は博麗神社。語るは博麗霊夢と霧雨魔理紗の二人。特に珍しくもない、よく見かける光景だ。
「これは私の考察なんだけど……もし紅霧異変がある目的を持って起こされた事件だとして、レミリアは何が目的だったと思う?」
「んー暇潰しか?」
「実際はそうかも知れない。でも、そうではないかも知れないわ」
「要領を得ないな。つまり?」
「異変前と異変後、紅魔館の中で変わった事が一つある。それが目的かも知れないわね」
「変わった事……妹が館内をウロウロしてるな」
「その通り」
「妹が地下から出すのが目的? それはおかしい。異変を起こせば出てくるって保証はないじゃないか」
「そこでレミリアの能力が出てくるのよ」
「『運命を操る』……か」
「ええ。今回は妹を地下から出す為に霧を起こした」
「はーん……つまり、ある目的を達成する為の手段が視える……ってとこか?」
「そうね。過程を飛ばして、結果と引き金だけが判る感じかしら」
「桶屋を儲けさせるきっかけが能力で判るって事か」
「ああ、わかりやすい例えね」
「ギャルゲーの主人公だったらフラグ立て放題だぜ」
「え? 何? ぎゃる……?」
「い、いや、こっちの話」
「??」
「それが今回の事をあいつに頼んだ理由か?」
「まぁね。力ずくは面倒なのよ。レミリアならまぁ……上手くやってくれるかもね」
「ふーん。随分と投げ『槍』だなぁ」
「そうかしら?」
□ □ □
部屋に入ると深々と頭を下げる姉の姿がそこにあった。
「お願いしますフランドール様。パンツをくださいお願いします」
「……お姉様、なんの御用かしらっ?」
「お願いしますフランドール様。今お召しになっているパンツを私めにお預けください」
「せっかく流したのに言い直すんじゃなああああぁぁい!!!!」
「痛い! 暴力反対!」
「うっさい! だいたい私の下着をどうするつもり!?」
「そりゃもう、香りを楽しんだり時にはもぐもぐして……」
「あ゛?」
「……あ、いや、違う。実はこの世界を救う為、フランの脱ぎたてパンツが必要なの。……お願い協力して」
「言い直しても遅いからね!? っていうか何その世界観!?」
「失礼ね、設定じゃないわよ! 四の五の言ってないでさっさと寄越しなさい、遊びじゃないのよ!?」
「必死だなもう! 脅しても無駄だよ!」
「くすんくすん……私、フランのパンツを持って帰らないと、いじわるな叔母様に叱られてしまうの。くすんくすん」
「同情を引こうとしても駄目なものはダメ。ってか叔母なんていないでしょうが!」
「聞き分けのない……こうなったら強硬手段よ!」
「へぇ。どうするつもり?」
レミリアは相棒のグングニルを示して見せた。フランドールの身に緊張が走る。
しかしそれに対し浮かぶ笑み。狂気が見え隠れしていた。
「いいわお姉様。ちょうど退屈してた所よ」
「ふん。いいから全力でかかって来なさい!」
レミリアの巨大な妖力が心地良い。フランドールの心は子供の様に沸き立った。
「禁忌『レーヴァテイン』!!」
「え、ちょっと。あ、待った! ストップストーップ! 痛い死んじゃう!! 痛い痛い!! 痛い痛い痛い痛い!!」
「ええい、なんなのよもう! 気が抜けるわ!」
「いや~まさかお姉ちゃん、フランが本気出してくるとは思わなかったわ~。フランがここまで大人げない子だとは思わなかったわ~。がっかりだわ~」
「私はお姉様にがっかりだよ。だいたい本気出せって言ったのはお姉様でしょ」
「えっやだっ信じちゃったの?」
「……」
「ごめんなさい。お願いだからその目やめて。怖い。無表情でジッと見詰めるのをやめて。ホント怖い」
「もういい。私帰る」
深く溜め息を吐いてフランドールは姉に背を向ける。
「わかった、わかった。私が悪かったわフラン。ほんの冗談よ。だからほら、紅茶でもいかが?」
「むぅ……」
謝られてしまっては断る道理がない。フランドールは渋々と席に着いた。
「それにしても今日は冷えるわねぇ。もっと薪をくべましょう」
「え、いいよ。暖炉効きすぎて暑いくらいだよ」
「……でも私は寒いの。悪いわね」
「え~」
せっせと薪をくべるレミリア。
「……お姉様」
「なあに?」
「……汗、びっしょりだよ」
「錯覚よ」
「…………」
「…………」
「いやいや、どうみても」
「錯覚よ」
「嘘吐け! どうせ『暑いならパンツを脱ぎなさい』とか言うつもりでしょ! 魂胆が見え見えだよ!」
フランドールは窓をぶち破った。嫌に冷たい空気が二人の間に流れる。
「わかった、わかったわフラン。どうやら力ずくでは無理のようね。よし、交渉しましょう。フランが納得の行くまでお話をしましょう」
「どんな話し合いしても下着を渡す訳なんかない……」
「えーまず、ここにフランの日記があります」
「ぶはっっっ!!?!」
一気に紅茶を吹き出した。
「げほっごほっ……わかった、わかったよお姉様。話し合い、話し合いをしよう」
「良い判断だわ。たった2人きりの姉妹。紅茶を楽しみながら優雅にお喋り。ああ、絵に描いたような仲睦まじい姉妹……」
「質問1」
「し、質問?」
「その日記どこから……?」
「もちろんフランの部屋からよ。鍵付き引き出しの二重底の下にあったわ。開けたらガソリンが発火する仕掛けがあって苦労したわ」
「質問2」
「フラン、お姉ちゃんはQ&Aみたいな殺伐とした会話じゃなくて純粋にお喋りを」
「それ、素直に返してくれるかな?」
「この日記と釣り合うだけの価値を持ったものと交換してくれるならね。パンツとか。あとはパンツとかパンツとかね」
「……詰問3」
「詰問!?」
「……な、中身……読、んだ?」
「いいえ。読んだら交渉品としての価値はなくなるもの」
「読んで……ない?」
「さぁ、フラン。中身を知られたくなければパンツを寄越しなさい」
ひらひらと日記を見せ付けるレミリア。しかし、フランドールは低く笑い始めた。
「ねぇ、お姉様」
「な、何かしらフラン? とりあえずそのレーヴァテインは危ないから離して欲しいなーって」
「爪が甘いよお姉様。ははは……日記諸共おっ死ねええぇえぇぇぇ!!!!!!」
「ぎゃああぁぁ暴力反対だってば!!!!」
□ □ □
時が経ちレミリアはベッドに寝かされている自分に気付く。身体からは黒い煙が上がり、手に持っていた日記も炭と変わり果てていた。
「もうお姉様の馬鹿。じゃあね!」
フランドールは背を向け足を踏み出す。レミリアは重い身体を引きずり、有りっ丈の力を振り絞り口を開いた。
「『○月×日。今日はお姉様の誕生日パーティー!』」
「っ!?」
その言葉にフランドールの足はピタリと止まる。
「『誕生日はお姉様と一緒に過ごせる口実ができるから毎日あればいいと思うなぁ……』」
「あ……ああ……」
「『○月□日。お姉様が神社に出掛けてしまった。何か大切な話があって呼ばれたそう。…………寂しい。……やはり誕生日は毎日あるべき。そうすればお姉様も館を留守にしないはず!』」
「うわあぁああ! ストップ! ストーーップ!!!!」
「どうかしたの?」
「や、や、やっぱり私の日記読んでるじゃん!!」
「いやー可愛い妹の日記を見つけた途端に理性が……ね?」
「ね?って可愛く言っても許さないんだから! というかむしろ殺意がわく!」
「フラン」
「なに!?」
「……誕生日、楽しかった?」
「っっっ!! この馬鹿姉! もう知らない!」
また姉をひとしきり殴りつけ、今度こそフランドールは顔を真っ赤にして姉の部屋を後にするのだった。
「素直じゃない子……ゲホっ」
吐血混じりに呟き、もたもたと身を起こす。
「どうやらフランはシャワーを浴びに行ったようね。これも運命かしら」
服を血に染め妖しげに微笑うレミリアはまさにスカーレットデビルその者であった。
□ □ □
「はぁい、霊夢」
日傘を差した吸血鬼は珍しくお供もなしに巫女の所へやってきた。何故か体中包帯だらけだ。
「ちゃんと持ってきた?」
「いきなりそれ? 愛想ないんだから。心配無用、抜かりないわ」
「よし。ある日、大結界に綻びを見つけて修繕を試みたけど何故か直らなくて、このままだと幻想郷、ひいては世界滅亡の危機という状況に、修繕には『吸血鬼の妹の脱ぎたてパンツ』が必要不可欠だという調査報告が入って、その調達員としてレミリアを選んだのだけど、どうやら間違いではなかったようね」
「え、何よ急に。その話はもう聞いたわよ」
「いえ……何か言わないといけない気がして」
「はぁ。ま、いいわ。……はい、フランのパンツよ」
自分で頼んだとはいえ、妹のパンツを持ち歩いている姉はどうなんだろうか。
しかも何故かタッパーに畳んで詰めてある。どことなく変態くさい。
「ありがと、レミリア」
「月一度しか手に入らないんだから大切に使うのよ」
「月一…………大丈夫よ。結界の修繕に充てるだけだから」
「信用してるわ」
「中、確認してもいいかしら」
「どうぞ」
タッパーの蓋を開き、中に入っていたパンツを太陽に透かす。
「かなり高純度の吸血鬼妹パンツね。縞柄なのも都合がいいわ。結界術式適性に優れている」
「当然よ。私の妹の物なのだから」
何故か誇らしげに胸を張った。
「ねぇ、レミリア」
「何かしら?」
「唾液のようなものが付着してる気が……」
「気のせいよ」
「…………」
「…………」
「いや、ほらここ」
「気のせいよ」
「…………」
「…………」
「気のせい……かな」
「そう。気のせいよ」
「うん、そうね、気のせいよね。はは……」
「しっかりしなさいよ霊夢。もう耄碌になったのかしら? まったく、人間は年取るのがはやいねぇ」
「失礼ね。まだ若いわよ」
霊夢は再びパンツをタッパーにしまい込む。
「いやしかし、よくあの悪魔からパンツをとってこれたわねぇ」
「ま、偶然よ偶然。たまたまあの子がシャワーを浴びてたから脱衣籠からちょっとね」
「ふうん……偶然、ね」
霊夢は訝しくレミリアは見つめてみる。言葉には出来ないが彼女にはなにか掴みどころのないものを感じた。
「ああ、霊夢。悪いけど私はもう帰るわ」
「へぇ、珍しい。いつも長居するのに」
「誕生日の主役がいなきゃパーティは始まらないでしょう?」
「あら、レミリア誕生日なのね…………ってあんたこの前、私も行った誕生日宴会って誰の誕生日?」
「私のよ」
「人間の誕生日とは定義が異なるようね」
「いえ、同じよ」
「今何歳?」
「501」
「明日は?」
「502」
「人間の誕生日とは定義が異なるようね」
「だから同じだってば!」
「じゃあ何で」
レミリアの顔に『よくぞ訊いてくれました!』と書いてある。妙に気に障る表情だ。
「ほら、あの子ってば照れ屋じゃない? だから私の側に居たい時、一々理由を付けて言い訳を用意してくるのよ」
「は……はぁ……」
「それでね、あの子の日記に『毎日誕生日だったらなぁ』って書いてあるのよ! 可愛い! 私の誕生日だったら、祝福するためっていう名目が出来ると考えてるのね」
「……はぁ」
「そしてパンツ盗っ……取った後しこたま怒られてね。この時、直感で言うしかないって思ったのよ。『フラン、実は今日私の誕生日なのよ』って」
「ほー」
「まぁ、最初はね。フランも何言ってんだ、ってなるのよ。そりゃまあ、あの時は怒ってたしこの間も誕生日だし、当然ね。でもここは私の弁術で多少強引に話を進めるの」
「へー」
「『プレゼント用意してくれたかしら?』と訊いたら不機嫌そうに『用意してる訳ないじゃん』って返すのよ。ここで私何て言ったと思う?」
「ふーん」
「優しい声で『だったら貴女の時間を頂戴? フラン』って言ったのよ! そしたらもうフランったら林檎みたいに顔真っ紅にして俯くの! 可ー愛い!!」
「そーなのかー」
「少ししたら本当に小さな声で『仕方……ない、ね……プレゼントっ……用意、してないし……ね。……誕生日、だもんね』って羽をパタパタさせながら呟いたのよ! ああもう可愛い!!」
「あんた……もう帰ったら?」
こうして世界の平和は守られた。
パンツが必要な結界とは…うごごごご
なのに全く感慨がねぇwwww
もぐもぐ
つまり(グチャ
最後のレミリアののろけ具合が最高です ツンデレフランちゃんとアリスすばらしい次回作も期待しています。
さぁ、アリスを攻略しているところをアリスに見つかって、私とアリスどっちが本命なの!?と詰め寄られ、アリスに囲まれる幸せにヘヴン状態な魔理沙のお話の続きを(ry