私以外には”目”が見えないみたいだから説明すると、”目”ってのは色や形を変えながらキラキラ光っていて、そこらの宝石なんかよりもよっぽど不思議で綺麗なモノなんだよ。
例えば、このコインの”目”はこんな感じ。
たゆたう湖面の月みたいと言えばいいか、風の中のローソクの炎みたいと言えばいいか、ゆらゆら動きながら光ってるでしょ?
見えない? 私も見せられなくて残念だよ。こんなに綺麗なのに。
綺麗なモノに惹かれるのは女の子の本能だよね。”目”もまた然り。
ゆえに触れたくなるのが人情だけどね、”目”はすごく脆くって、ちょっと突つくだけで崩れちゃうくらい脆い。
え? キュッしなくても良いのかって? 実は右手を握りしめるまでもないのさ。
ちょんっ、と。
――パンッ!
ほらね。”目”はこんなに脆く、儚いんだよ。まあ、その儚さもまた愛おしいんだけどね。
何となくわかるでしょ? 私が能力をあまり使わない理由。
能力を使って”目”を捕まえると、「→触る→壊す」という流れは避けられないの。さらには「→お姉様に怒られる→閉じ込められて食事を抜かれる」というフィニッシュまで高確率で繋がっちゃう。
食事抜きだよ? 成長期にはダメージが大きすぎる。
このコンボを回避して毎日の食事を確保するには、最初の一発目を防ぐしかない。つまり、そもそも能力を使わないのが一番って事。
うん、ちゃんと考えてるんだよ。気が触れてるだなんて、心外。
まあ、でも、どうしようもない事が、時々あるけど……
無意識に能力を使っちゃう事が時々あるんだ。
いやいや、「捕まえる」ところまで。無意識で壊したりはしないよ。
気が付いたら右手の中に”目”があるの。
この、無意識に捕まえた”目”ってのがどうしようもなくてね……
ん? えっとね、壊したくなってどうしようもなくなるの。
どうしても抑えられないの。お姉様は、無意識に捕まえたのを壊した時に一番怒るんだけどね。だけど無理なモノは無理。
だって考えてみてよ。普段、見るのも触るのも我慢している、綺麗な綺麗な”目”が、気が付いたら右手にある。しかも、ここがポイントなんだけど、何の”目”なのか壊してみるまでわからない!
そう、わからないの。自分でも。無意識だから。
私の部屋の椅子の”目”なのか、廊下のローソクの”目”なのか、お姉様お気に入りのシャンデリアの”目”なのかも、わからない。
『今、右手を握ったら、何が壊れるんだろう。大切なモノだろうか。どうでも良いモノだろうか』
ドキドキすると思わない? 私はそのスリル大好き。
怖くないかって? だから、そのスリルが良いって言ってるじゃん。
その”目”がもの凄く大切なモノだったとしたら?
うーん、パチェや咲夜や美鈴を壊しちゃったら、お姉様とんでもなく怒りそう。食事抜きってレベルじゃないくらいに。私もパチェや咲夜や美鈴を壊すのは嫌。
でもね、何度も言うけど、そのスリルが堪らないの。一番大切なモノを壊すかもしれない、ひょっとしたら、自分自身の”目”かもしれない、そのスリルが! 堪らないわよ。みんなやった事がないからわからないだけ! 全然わかってない! やった事もない癖にみんな勝手なこと言って!
……ごめんなさい、テンション上がっちゃった。
ん? 何、その顔。やっぱりって何が? 気が触れてる? 失礼な。私と同じ能力持ってたら誰だって同じ事するよ。間違いなく。体験させてあげようか? そうすればわかるよ。
はい、今、”目”を五個捕まえて右手の五本の指に乗せました。そのうちどれかを壊します。
さあ、選んで!
ヒント? 全部コインの”目”だよ。アンシンシテネ! 嘘だけど。
てか、無粋な事言ってないで選んで。さあ! さあ!
あっ!
……逃げた。
なにさ。ただの冗談なのに。
五個も同時に捕まえられるわけないじゃん。
はあ、誰か私の気持ちをわかってくれるヒト、いないかしら。