焼きそばが氾濫している。
穴のあきまくったシートを屋根代わりに、「麺つゆ地獄」と書かれた訳の判らぬのれんを引きかけて、みるからにみすぼらしいことこのうえない屋台で麺を焼きながらさとりは汗を拭った。
ちらっ。と傍らの時計をみると午後二時十六分。
うわっ。もう二時。うわっ。私は五時間もこんなことしてるのか。ひゃああ。
と思って愕然としつつ麺を焼く作業に立ち戻り、鉄板の上でぐにゅぐにゅに溢れ返っている焼きそばを引き繰り返してソースをかけた。ソースが浸透して麺はじゅわじゅわになっていく。おほほ。じゅわじゅわしております。キャベツが若干焦げました。などと実況してみるが別に面白くもなんともない、むしろ抑鬱的な気分になって溜め息をつき、足元にどさっ。と置かれたフードパックの束からひとつ抜き出して麺を詰めた。
これで百六十八個目。輪ゴムで閉じたパックを脇の、雑然と積み上げられた段ボール箱のなかへ押し込んでから、改めて数をかぞえ直してみるとそんな計算になった。百六十八個。なにが。焼きそばが。なんの。売れ残りの。
売れ残りの、というからにはまあ幾らかは売れたのだろう、と同情的に考えてくれる人がいるかも知れないがそんなことはなく、はっきりいってひとつも売れてない。売れないまま黙々と作り続けて五時間、百六十八個の焼きそばから放出される熱気・異臭に支配されたこの屋台は、もはやそれ自体が一個の巨大な焼きそばと化している体たらくであった。
さとりは凝り固まった肩を揉み、大通りを行き交う通行人の群れをふらふらと眺めた。
クリスマスイヴだからだろう、親子連れ、アベック、サラリーマン、八百屋、鬼、画家、佐藤、おばはん、といった一般的な人々から、鍛冶屋のさぶちゃん、マイク兄弟、当たり屋の五郎といった訳の判らない連中も含めて、旧都の大通りは住民たちの喧騒でごった返していた。
にもかかわらず客は一人もやって来ない。
私は焼きそばにまみれて窒息寸前・四面楚歌。はむむ。いと哀しい。
そんなことを思って虚空をみつめていたところ、ちょうど目の前を通りがかった親子の如きが声をひそめて、
「ねえ、ママ。胸部に眼球を装着した少女が目を血走らせてこちらを凝視しているよ」
「指を差しちゃ駄目よ、たーくん。あれは森の精。ああやって私たちを見守ってくれているのだから」
そそくさと通り過ぎていく親子の会話を聞きながら、クリスマスイヴだというのになんでこんな惨めな思いをしなければならぬのであろうか。と切なさ身に透る思いでうち震えていたさとりであったが、ふと後ろから、「くふふ」と気の抜けた笑い声がするのでみると妹。四つ連ねたパイプ椅子の上に寝そべり、漫画雑誌を読むなどしてにやにや笑っている。
さとり、図らずむっとして、
「ちょっと、いつまで休憩してるつもりですか。鉄板に残ってるやつパックに詰めるから手伝いなさい」
こいしはさも心外だという風に、
「なによ。そんなたくさん詰めたってしょうがないじゃん。どうせお客なんか来ないんだし」
「来るかも知れないでしょう。というか鉄板にあんな大量の焼きそばを乗せたままにしてるから、外見がよくなくてお客さんも敬遠してしまうんじゃないですか」
「じゃあ詰めたら」
「あなたも手伝いなさい」
「ええ、めんどい。一人でやってよ」
「嫌よ。めんどくさい」
「じゃあしょうがない。諦めよ」
「って、それじゃあ駄目なの。一応私には地霊殿の主としての面子があるんですから、ひとつも売れないなんてことになったら格好がつかないじゃありませんか。だからほら、つべこべいわずに手伝う」
そういってさとりはこいしの手から雑誌を引き手繰った。
「あっ、なにすんの」
姉の暴虐にこいしも黙ってはいない、「ああである」「いや、こうであろう」と諍いをするうち掴み合いになり、押したり引いたりしばらくのあいだくにゅくにゅしていたが、やがてこいし、逆上して、
「もう、お姉ちゃんのあほっ。ばかっ。うどんっ」
その剣幕にはさすがのさとりも狼狽、「わ、わたくしはうどんではない」などと苦しい弁解をするが駄目で、こいしは畳みかけるようにこんなことをいい募った。
「これは本来お姉ちゃんが一人で行うべき仕事である。にもかかわらず自分を無理矢理つき添わせて手伝いを強要したうえ、かかる理不尽な略奪行為に及ぶなど悪逆無道・極悪非道の所業としかいいようがない」
さとりはうぐぐと言葉に詰まってしまった。というのは他でもない、妹のいっていることが完膚なきまでに正しかったからである。
そもそもなんでさとりはクリスマスイヴに焼きそばの屋台などを開くはめになってしまったのか。その根本理由は、昨日旧都の役所から地霊殿宛に送られてきた一通の手紙にある。
手紙にはおよそ次のようなことが記されていた。すなわち、今年のイヴはスペシャルイベントとしてクリスマスマーケットを開催する。ついては地霊殿の主として名高い古明地さとり殿にご参加願いたく候。出店内容は自由。材料は当方負担。云々。というようなことである。
さとりの方はイヴだからといって予定もない、どころか最近家計が逼迫しているゆえ、ああ、ペットたちにケーキひとつ買ってやることも出来ぬなあ。切ないなあ。と哀切の念に堪えない心持ちであったから、おっ。ちょうどよいところに耳寄り話が来たことよ。これで一丁お金を稼いでこましたろ。と思ったのである。
即断即決、さっそく電話をかけてみると、
「出し物はなにになさいますか」
「出し物」
「はい。材料はこちらで用意致しますので。ところでりんご飴屋などはいかがですか」
「え、なぜですか」
「りんご飴は人気があってよく売れますから」
「そうなんですか」
「ええ、めっちゃ売れます。ぼろ儲けですよ。ね、りんご飴にしませんか」
「うーん。どうしようかなあ」
「りんご飴がいいと思うなあ」
「うむむ」
「りんご飴。りんご飴」
と、なぜか役所の職員らしき人がりんご飴屋をしきりに勧めてくるので、なんとなくさとりは反抗的な気分になり、
「でも、出し物はなんでもいいんですよね。手紙にも自由って書いてあるし」
「いえ、それはそうですがやはり当方としてはりんご飴がベストだと思います」
「しかし例えば焼きそばなんかでもいいんですよね」
「えっ、りんご飴にしないのですか」
「せっかくですが、私は焼きそばを売ろうと思います。焼きそばの方が好みなので」
それを聞くと職員は態度を急変させ、「そうですか。あっそう。ふーん」と冷淡になり、その後の手続きに際しても、「別にいいんじゃないですか」「好きにすれば」「ほっほーん」などとまったくもって適当きわまりなく、電話を切るころに至っては、「ラン、ランラララン、ラ、ラ、ランララランランラン」と鼻歌をうたい始める始末であった。
そういう次第でどうにか申し込みを済ませたさとりであったが、一安心する間もなくある重大な問題が出来した。
というのは、さとりは元来人見知りな性格で、以前から部屋に引きこもりがちな生活を送っていた。その結果、一般的な社会性・社交性が欠落してしまっており、一人で街に買い物に行くことさえ出来ればこれを避けたい、と考えているような体たらくぶりなので、街中で屋台を構えるなど恐ろしくて到底出来そうもない、ということに思い至ったのである。
といって今さら参加を取り消す訳にもいかない。
ならばどうしたらよいのであろうか。
ううむ。と小一時間ばかり沈思黙考した末にさとりは、そうだ、妹を連れて行けばよいではないかという結論に達した。こいしの如きはどうせクリスマスであろうと暇に違いなく、菓子類を貪ったり漫画を読むなどして頽廃的に過ごしているだけだろうと推察されるので、これを捕まえて一緒に出店を手伝わせれば自分も安心して焼きそばを売ることが出来る。
そのように考えてさとり、嫌がる妹を無理矢理引き立て連れてきて、ようよう今に至る、という訳なのであった。
それへさしてあのような暴虐を働いたのだからこいしが憤激するのも無理はないといえよう。
妹にいい負かされて立つ瀬がなくなってしまったさとりは、「ふんっ。じゃあいいですよ。一生そこでそうしてなさい」と逆切れをし、再度店頭に立ってのろのろと麺を焼き始めた。
百六十九個、百七十個、百七十一個、とパックの数はどんどん増えていくのに客は一向姿をみせず、いたずらに時間ばかりが過ぎていく。
真冬にもかかわらず総身に大汗を掻きながらさとりの心は虚無。
どれほど経ったのだろう。ふと我に返ったさとりは周囲がなにやら騒々しいことに気がついた。なんだ、騒々しいなあ。と物憂げに視線を巡らした途端、思わず、「はみゃみゃ」と意味不明な声音を洩らしてしまった。
というのは、クリスマスマーケットで出店しているのは無論さとりだけではなく、地底じゅうからありとあらゆる人々が参加している。つまり、さとりが店を構えている大通りには同様の屋台・露店が軒を連ねており、必然的にさとりの隣にも同業者の売店がある。
右隣はフランクフルトの売店で、これはまあ当初からそこそこ客入りがよいらしく、さとりもちょっと羨ましいとは思ったがさしたる関心も払わなかった。
ところが問題は左隣で、これはわた飴の売店なのであるが、さとりの焼きそばと同様にまったく売れておらず、さとりは時々盗み見をして店頭に並んだわた飴の残数を確かめ、売れてないのは私んとこだけじゃない。うふふ。と密かな安堵感に浸っていたのである。
それなのに今、我に返ったさとりの目に映っているのは長蛇の列。ぬらぬらっ。と曲がりくねって伸びている列の先にはわた飴屋。
なっ、なんだこれは。一体なにがどうなって。ふおお。
と、さとりが我と我が目を疑ったのも無理はない。
どうにか気を落ち着けて注意深く観察してみたところ、行列は三十人あまりで構成されていることが判明した。おかしい。多すぎる。これほど急激に売り上げが伸びたからにはなにか理由があるはずで、さてはメニューを変えたのか、と看板をみるとまるで変わっていない、依然として凡庸・没個性なわた飴を売り続けている。いや、見た目はそうかも知れないが中身は実は大変美味で、評判が口コミで広まっていったという可能性もないことはない。
しかしどうもそうではないらしい、というのはさとり、どうしても気になって仕方がないので、ちょっと失礼して並んでいる人々の心を覗いてみたのである。
すると、「よく判らないが凄い行列だ。これほど並んでいるからには恐ろしく美味なものを売っているに違いない」「なにを売っているのか知らないが、みんな並んでいるので私もとりあえず加わることにしよう」「僕も」「俺も」「あたいも」「朕も」といった具合で、わた飴そのものを購入しようとして並んだ人がまるでいないのである。
これはどういうことなのであろうか。
さとりはこの結果から次の如き推測をした。
すなわち、わた飴を食べようという純粋な考えを持って並んだのは最初の数人だけで、後続の人はそうではなく、わずかだが客のついているわた飴屋と、その隣の、まったく人のいない焼きそば屋とを比較した末、なんとなく雰囲気的にわた飴屋の方を選ぶ、という判断を下し、それが徐々に積み重なっていった結果、惰性的にかかる大行列が形成されてしまったのではないか。
味・品質という点では大差ないのに、ただ他人がそうしているからといってわた飴にばかり集まり、隣の焼きそばには見向きもしない。なんたる薄情な人々であろうか。まったくもって主体性がないことこのうえない。揃いも揃って付和雷同しやがって、このどあほっ。おでんっ。きらいっ。
そう思ってさとりはうぶぶ。と泣きそうになってしまう。私、泣くな。通行人、付和雷同すんな。
しかしそんなことを思っても駄目で、行列に加わる人々はどんどんその数を増していく。
絶望感に苛まれてすっかり退嬰的になってしまったさとりは、もう売れるか売れないかなどは考慮せず、残った材料でただひたすら焼きそば作りに専心することによって心を閉ざし、自己逃避・現実逃避を図ろうとした。
ところがまったく集中して取り組むことが出来ない。というのは、どうも周囲から好奇の目を向けられているような気がしてならないのである。というか間違いなく向けられている。額の汗を拭いつつさり気なく四囲をうかがうと、ほら、アベックの如きがこちらを指差してにやにや笑っている。見知らぬ子供がわた飴を貪りながら嘲笑している。
ええい、みんな。こっちみんな。お客が来ないのがそんなにおかしいですか。くわあ。
と心のなかで叫んだ、そのときであった。無意識に動かしていた肘がソース入れに激突したのである。蓋が外れたそれは中身を悉く撒き散らし、さとりの胸から下腹にかけてを一瞬にして赤銅色に染め上げた。
さとりは全身恥辱・汚辱にまみれ、ふるふると数回わなないてから俯いた。足元に枯れかけた雑草が生えているのがみえた。それは泥と水と焼きそばの汁でべとべとに汚れていた。
恥ずかしさと切なさに全身が砕け散りそうだった。穴があったら即刻これに侵入したい。しかしこの近辺に手ごろな穴はなさそうである。ならば目の前の現実に向き合わなければならぬのか。こんなひどい・しどい現実に。私はそんなのは嫌なのであって出来る限りこれを避けたい。それにつけても、そもそもなんでこんなことになってしまったのだろうか。私はただ妹やペットたちにクリスマスケーキを食べさせてあげたかっただけなのに。私は。ただ。あっ、くんな。涙くんな。あっああ。
突然さとりは踵を返して、ネオンが瞬く旧都の往来を一目散に駆け去っていった。
やあ、氷。一面に張っているなあ。
街の外れまで来ると河原があった。精根尽き果てたさとりは砂利のなかをよろぼい歩き、足を取られてあわわとまろび、起き上がる気力もないので寝そべったまま水面を眺めていた。あの氷を踏んで割って回りたいなあ。でもそんなことしたら川んなかに落ちて溺れてしまうだろうなあ。それはちょっと嫌だなあ。と、あほみたいなことを考えて溜め息をつき、「たっ、たっ、たぬきのさいころ」と、意味不明な歌をうたって哀しい気持ちになっていた。
ああ、さもい。風が冷たい。
そこらに落ちていた石ころを手持ち無沙汰に拾い上げ、何気なく放ってみた。石ころは気だるそうに回転しながら川に落ち、氷を突き破って水底へ沈んでいった。もうひとつ、今度は少し小さめのやつを拾って、氷の上を滑らせるつもりで放ったがこれもすぐに沈没した。次もその次もそのまた次も、何度やり直しても石ころは向こう岸まで滑っていこうとせず、川の中程まで来るや否や、ま、このくらいで充分でしょう。と妥協して沈んでしまう。蓋しだらしのない石ころである。
なぜか不意に悲しくなって涙がこぼれた。
顔を拭い、ずるるっ。と洟をかんでいると横からもずるるっ。と啜り音が聞こえた。みると妹。しかしこっちは洟ではない、焼きそばをすすってずるずるいっているのである。いつからいたのだろうか、傍らに大量の焼きそばを収納した段ボール箱を置いて胡坐を掻いている。
こいし、頬をもぐもぐさせながら、
「ねえ、お姉ちゃん。あのさあ」
「ええ」
「お姉ちゃんの焼きそばさ、食べてみると別に不味くないよ」
「えっ、ほんと?」
「うん。私は、嫌いじゃない」
「そっか。よかった」
「ずるるっ。ずぞぞっ」
「ところでこいし」
「なに」
「それ、どうするの」
「どれ?」
「その段ボールのやつ」
「ああ、これはね、食べるの」
「えっ。食べるって、誰が」
「私」
「こんなにたくさん?」
「うん」
「別に無理しなくていいんですよ」
「してないし。こっちはマジでお腹すいてんだから」
「そっか」
「そうだよ」
「私もひとつ貰おうかしら」
「なんで」
「お腹すいたのよ」
そういう訳で二人、じゃあ食べまそ。食べまそ。と並んでうまうま焼きそばを食べ始めた。
風が吹いていた。風に乗ってかさかさと枯れ葉が舞い踊っていた。わあ、かさかさと枯れ葉が舞い踊っている、趣深いなあ。と二人は思ったが、枯れ葉の方ではそんなことは思っておらず、むしろ勝手に自分たちを運んでいく風にむかついて、なんたる嫌な風であろうか。仕返しにうるさい音を立ててやる。と思って、かさかさ。と舞い踊っているのであった。
どこか遠くで犬が、おほほ、と鳴いていた。
その鳴き声を聞くともなしに聞きながらさとりはふと足元に広がっている浅瀬をみつめた。泥やなんかでべちゃべちゃしているせいであろうか、その辺りだけ凍っていない。二人のこぼした焼きそばの破片が浮かんでいる。
いや、よくみるとそれは浮きつ沈みつして揺らめいている。風のせいではない、なにかの力がかかって水のなかへ引き込まれているような感じである。
そこでさとり、あっ。と声を上げた。
「こいし、あれ見てごらんなさい」
「んー?」
「早く、ほらっ、あそこ」
「どうしたの」
「魚がいるのよ」
「えっ、嘘」
近寄って注視すると十五センチほどはあるだろう、数匹の魚が焼きそばの破片を食むなどして積極的に活動している。これにはこいしも思わず手を叩き、
「わひゃあ」
「凄いでしょう」
「凄いなあ」
「釣る?」
「釣ろう、釣ろう」
千切った焼きそばをひょろひょろした枯れ草の先端に括りつけ、えいやあ。と垂らすと、くはっ。面白いほど集まってきて破片をはむはむする。しかし二人とも魚釣りをするのは初めてなので混乱しきって、
「どどどどうしよう」
「とっとりあえず釣り上げましょう」
「しかしそのためには魚を収納しておくバケツあるいはそれに準するものが必要なのではないかな」
「バケツ、バケツどこ」
「あっひゃああ」
「きゃあなになにどうしたの」
「ぬるってしたあ。バケツ早くう」
「待って今探してるから、って、あっ、あった。ありましたよ。って、うわっ。めっさ錆びてる」
「水、水入れよ水」
「うわっ。なんか砂いっぱい入ってる」
「いい? 魚入れていい?」
「げっ、ここ穴あいてない? やばくなくなくない?」
「入れるよ? 入れるよ? そらっ。入ったああ」
「きゃあああ」
などと前後不覚・阿鼻叫喚の大騒ぎで、もしここに見知らぬ人が通りがかりでもすれば警察を呼ばれかねない混沌状態であったが、幸い見知らぬ人は通りがからず、代わりに変な大きな犬が道を横切りざま、おほほ、と鳴き捨てていっただけであった。
そんな風にして日が暮れるころにはバケツも満杯になり、神経が昂ぶった二人は肩を並べて、「こんなこといいな、出来たらいいな」とドラえもんのテーマソングを絶唱しながら帰途についた。
いつの間にか雪が降っていた。大量のソースが付着した服に体温を吸収されたさとりは、へぶぶっ。とくしゃみをして数度わなないた。試しに付着したべとべとを手のひらで拭ってみるがべとべとは既に服の繊維に浸透して凝り固まっているので意味がない。べとべとから発散される脂ぎった匂いが周囲に立ち込めていてくさい。
さとりは空を仰いで呟いた。
「ああ、くさいなあ」
「くさいね」
「こいし」
「なに」
「ごめんね」
「なんで? くさいから?」
「じゃなくて、今日、ずっと連れ回してしまったし」
「へっ。そんなの、いつものことじゃん」
「すんません」
「お姉ちゃんはさあ、あれだよね」
「なんです」
「かっこ悪いっていうかなんていうか、へなちょこだよね」
「むっ。ひどい」
「くふふ」
「それにしてもくさいなあ」
「ああ、くさい」
「焼きそば、来年も作ろうかしら」
「そんときは手伝ってあげてもいいよ」
「えっ、いいの」
「一人にしとくとこっちが恥ずかしいから」
「あ、そっすか。あはは」
「ふくくく」
で結局、クリスマスケーキに代わってさとりは、河原で釣った名も知らぬ魚を用いてフィッシュケーキなるものを作った。さて一体どんな味がしたのであろうか。残念ながら、それは作者も判らない。ただひとつだけ確かなことは、食後、さとり、こいし、ペットたち総出でフルーツバスケット、トランプゲームなどうち興じて、夜更けまでおほほ、うふふと笑いさざめく声が絶えなかったということである。
――了
上手く言葉で表せないけど凄く良かったです
違うか? 違うか。
コンボ中にちょこっと入る一言がツボです。
さとりんの焼きそば、食ってみたいなあ。