世間一般でクリスマスと呼ばれるイベントが終了し、やれ、次は年末だと里の人々が年を越す用意をし始める十二月二十六日。電飾やらクリスマスツリーやらを飾り付けていた人里の様子も年末大売出しの広告にとって代わって、クリスマスの名残が残る物なんてせいぜい半額になったケーキと、それを狙いに来る巫女ぐらいの物になっていた。それは、人里だけでなく紅魔館や、妖怪の山、命蓮寺でも同じでどこもかしこも年末に向けての用意をしていた。たった一つ、地底のとある一室を除いては。
「さとり様ー、いい加減機嫌直してくださいよ……」
「べーつーにー。機嫌なんて悪くないですよ。」
地霊殿の一室には、この日になっても大きなもみの木に、煌びやかな電飾を施していたクリスマスツリーが飾られており、日付は過ぎれど、大層きれいにその華麗さを誇っていた。しかしながら、ツリーの頂上には本来、子どもの憧れでもある大きな星は飾られておらず、代わりに頂上には幼女がしがみ付いていた。『パパー、私、あのツリーの上の幼女が欲しい!』世も末である。その幼女に、黒を基調とした服に猫耳を付けた少女が話しかける。
「機嫌悪くないなら、なんでいつまでも未練たらしく、クリスマスツリーにしがみ付いてるんですか?」
「なんとなくです。別に、元々は四人でクリスマスは地上で一泊二日の温泉旅行をする予定だったのに、急に仕事が入って、泣く泣く悲しいクリスマスを過ごしたのにあなたたちはさぞ、楽しいクリスマスを過ごしたのが妬ましくて、こんな奇行をしている訳ではありません。」
「何か親に買い物に連れて行ってもらえなかった子どもみたいですね。」
「言葉を選んでください。ホントに泣きますよ。」
そう、彼女の奇行の理由は、温泉旅行に行けなかったことが原因なのである。そもそも、この温泉旅行、普段はあまり外に出ないさとりが、買い物を任せられるペットがおらず、珍しく旧都へ買い物に行った際に、福引で当てたものである。自分が手にしたものなのに当てた本人は旅行に行けないとは、さとりの妬みもさぞかし大きいものだろう。そこへ、近づいてく二人分の足音、数秒もせずにその足音の主はまっすぐにさとり達のいる部屋のドアを開けた。
「お燐ー、お土産のおまんじゅう食べていい?ぱくぱく。」
「て言うか、もう半分くらい食べちゃったけどね。もぐもぐ。」
「ちょ、お空に、こいし様!?」
入ってきたのは、霊烏路空に、古明地こいし。どちらも一泊二日の温泉旅行を存分に楽しんで来た者たちである。心なしか、はだもつやつやしている様に見える。
「わ、さとり様が飾られてる!ぱくぱく。」
「お姉ちゃんまだやってたんだ。もぐもぐ。」
「二人とも食べるか喋るかどっちかにしてください。ていうか、あたいの食べる分まだ残ってますよね!?」
入室するなり、お土産談議に花を咲かせる三人。その姿は、さぞ楽しい旅行に行って来たんだろうな、と事情を知らない第三者が見てもそう思えるぐらいに、楽しそうに見えるものだった。が、それが今、この一室においてはマイナスにしか働かないのである。
「あ……」
「ふーん、お土産ですか、良かったですね、さぞかし選ぶのも、開けるのも楽しかったんでしょうね。ああ、私の分はないのですか。良いんですよお燐。楽しかったら誰だって忘れますよね。あなたを養っている主の分でも。ちくしょう、爆発してしまえ!」
そう言うとさとりはがさがさとクリスマスツリーの頂上から体全体を使って、ツリーを揺さぶる。
「ちょっと、さとり様、危ないですって!落っこちちゃいますよ!」
「うにゅ!さとり様すごい!」
「馬鹿なこと言ってないで下ろすの手伝いな!」
数分後、さんざん暴れまわるさとりを何とか二人で下ろし、気を落ち着かせ、備え付けてあるソファーへと座らせた後、全員で一段落付いていた。ちなみに、ツリーは他のペットと、お燐のゾンビフェアリーによってきれいさっぱり片づけられた。これでもう、主人の奇行は起きるまいと、お燐は溜息をついた。
「ああ…私のクリスマスツリー…」
「落ち着いてくださいさとり様。あれは所詮、もみの木に豆電球を巻きつけただけのものです。」
いったいクリスマスツリーにどんな魔力があると言うのか。そんなことを考えてると、ふと、自分の部下のゾンビフェアリーが一匹、燐へと言伝にやって来る。
「ん、どうしたんだい。え、ツリーの頂上に飾る星が見つからない?そんなことはないと思うけどねぇ、さとり様、何か知り……」
不自然に目をそらすさとり。おまけにぷすーと、へたくそな口笛付きである。そして、妙に膨らんでいるスカートのポケット。
「さとり様、そのポケットの中身出して下さい。」
「な、何のことでしょう。スカートには何も入っていませんよ。」
「あ、お姉ちゃんスカートにお星様入れてる。」
「ちょっと!こいし!」
がさごそと、スカートのポケットから出てきたのは金色に煌めくお星様。
「何やってるんですか。もう。」
「だって、綺麗だったんだもん。」
何だこの生き物は可愛いなあもう。とか考えていたらさとり様にジト目で睨まれていた。やっべ、この主人、心読めるんだった。
「あー、ほら、さとり様。お正月、お正月は皆で今度こそ旅行に行きましょう。今度は、ほらあたい達だけでなく土蜘蛛や橋姫なんかも誘って。」
「何それすっごく楽しそう!行こうよ、お姉ちゃん!」
「む、そ、そうですね。過ぎたことより未来に生きるべきですよね。よし、正月はこれでもかと満喫しますよ。」
さとりから、暗いオーラが消え、いつもの三倍明るくなってこのまま上手くいくのかと思ったその時である。
「そう言えば、さとり様はどんなクリスマス過ごしてたんですか?」
霊烏路空が爆弾を落としてきたのは。
「ちょっと!お空、この馬鹿ガラス!せっかく人が良い感じにまとめようとしてたのを!」
「うにゅ!痛い痛い!引っ掻かないでよ。」
再び主を見てみればそこにはさっきの生き生きとしたさとりはおらず、どんよりとした空気を纏い、死んだ目をしたさとりがいた。
「ええ、良いでしょう。話してあげますよ。あなたたちが優雅に温泉に浸かっていたころに私がどんなクリスマスを過ごしていたか……」
「あわわ……」
「そうですね、まず、私が仕事を終えて一息ついた頃でしょうか。三人とも、もう旅館着いてるんだろうなあ、録画した明○家サンタでもみよっかなーと思っていたときに、呼び鈴が鳴る音がしたので扉に向かいました。」
「あ、ぼっちじゃなかったんだ、お姉ちゃん。」
「誰も一人でクリスマスを過ごしたとは言ってないでしょう。あと、ぼっちってゆーな。」
「ごほん、それで扉を開けたらパルスィがいたんですよ。何やら幸せ者ばっかで嫉妬が溜まりすぎて辛いと。」
「え!?ちょっと待ってよ!パルスィ、私たちが温泉行くときに一人分空いたから誘ったのに断ったのよ。何でお姉ちゃんの所には行ってるのよ!?」
「そうですよ、さとり様!」
「そ、そんなこと言われても……」
実際には、こいし達から、話を聞いてさとり一人しかいない地霊殿なら嫉妬せずに済むかなと、パルスィが思っていただけで特に他意はないのだが、この橋姫、八咫烏や、無意識の空っぽ少女と妙な娘に随分気にいられているため、当の本人達からしたら自分たちより一人の姉を優先したのではとあらぬ疑いを掛けられてしまっているのである。哀れパルスィとさとり。
「ま、まあ、二人と言ってもそんな大したことはしてないですよ。」
「ホントに?」
「本当ですか?」
「ええ、まずパルスィが買ってきてくれたケーキと七面鳥を一緒に食べたでしょ。」
「ふむ。」
「なるほど。」
「食べた後は、特にやることもなかったから電飾で飾った地霊殿を二人で周ったわね。あ、そう言えばマフラーが私の分しかなかったから二人で一つのを使ったのよね、あれは息苦しかったわね。」
「え!?」
「にゅ!?」
「それで、体が冷えたからお風呂入ろうと思ったけど、お湯がもったいないからって二人で入ったでしょう。」
「……。」
「……。」
「お風呂から上がった後は、お客用の布団が見つからなかったから仕方なく二人一緒の布団で眠ったわね。これぐらいかしら。ほら、あなた達のクリスマスに比べると、どうってことないじゃない。」
どう見ても恋人同士のクリスマスです本当にありがとうございました。
「お姉ちゃん。」
「さとり様。」
「何ですか?」
「「爆発しろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」
こうして地霊殿は爆発した。
八咫烏?
立派にクリスマス楽しんでるじゃないですか
ですよね
お幸せに爆発しろ!!
爆発しろ!
↓
末永く爆発しろ!!