彼女の言動は、いつも突拍子で。
いつもいつも、特に深い意味は無いんだろうなぁ、なんて思いながらもとりあえず付いて行ったりしている。
この巫女の言葉、行動。どれも、記者としてはネタになってくれて、私個人としては付き合っていて楽しい気分にさせてくれて、いつも私を飽きさせない、面白い人間だなぁ、なんて思っている。
そういうわけで、私は今日も神社の縁側、彼女の隣でのんびりしているわけだけれど。
「文、今日は特別に私がなにかプレゼントしてあげるから、欲しいものを言いなさい」
突然、こんなことを言われた日には、さすがになにかゾクッっとくるものがあった。
一体、どういう風の吹き回しなのだろうか。
プレゼントを渡す。
普通の人が言えば、それはとても嬉しいことなのだろうが。
発言者が最も似合わないだろうこの巫女なのであれば、嬉しさよりも先に気味の悪さが出てくる。
今まで私が付き合っていて、貰ったものといえばネタとお茶、たまにお茶菓子ぐらいしかない。
彼女の行動は特に深い意味は無いだろう、とさっきは言ったけれど。
ここまで似合わないことをされれば、さすがになにか裏があるのではないか、と疑いの眼差しで見つめてしまう。
でも、それが気分を害したらしく、
「……なによ、その目は」
なんて、睨み返されてしまう。
「あー、いえ、霊夢さんがそんなことを言うなんて、珍しいなぁ、と思いまして」
実際は珍しい通り越して気持ち悪いけれど。
「なによ。悪い?私にだってそんな気分にはなるのよ」
「なんですか。とにかく私に餌付けして飼い慣らして後々なにかあったときに一方的に面倒ごとを押し付けるためにーっていう気分ですか」
「なるほど、文の欲しいプレゼントは夢想封印一式ね。今準備するわ」
「ごめんなさい。本気で勘弁してくださいおねがいします」
この巫女、目が本気だった。
わりと本気で命を危険を感じ、札を取り出そうとしている霊夢を必死になだめて落ち着かせる。
必死な様子が伝わってしぶしぶ仕舞うのを見て、ホッと胸を撫で下ろす。
「……それで、どうしていきなりプレゼントなんですか?」
冷や汗ダラダラで心臓バクバクなのをなんとか抑え、とりあえず意図を知ろうと何気ない、という感じを装って聞けば、不思議そうにこっちを見る霊夢。
なんだろうか、私、なにか変なことでも言ったのだろうか。
よくわからず、こちらも首を傾げ返せば、盛大に溜め息をつかれて。
「あんた、新聞記者の癖に今日が何の日かも忘れたの?」
「今日、ですか……?」
今日。
そういえば、最近は全く時事ネタというものは出して無く、しばらく日付を忘れていて。
強いて言えば、もうすぐ年が終わる、ということぐらいしか頭の中には無く。
ならば、年の終わりにある特別な日。自前の頭を程々に回転させ、そして出てきた情報といえば、
「あぁ、なるほど。そういえばそんな日もありましたね」
「全く。そんぐらいすぐにわかりなさいよ」
そんなこと言われても、あんまり興味の無い事は頭の片隅に入れておく程度でそこまで重要視していないのだからしかたないじゃないか。
そういえば、先日に里や守矢神社、命蓮寺などを回ったときにどこも忙しそうにしていたなぁ、と思い出す。
守矢神社の緑巫女とは里でも会って『最近で流行っているアクセサリーなどはありますでしょうか』とか聞いてきたりとかあったし。
きっと、正体不明のあの妖怪に渡すのだろうなぁ、と思い『そういうものは自分で選んでこそ相手が喜ぶものですよ』と、苦笑交じりに答えたら、顔を真っ赤にして『ち、違います!そういうわけでは……』と、必死に反論して。
さらにそこでその相方がちょうどやってきてさらに赤くなって慌てていて中々面白かった。
まぁ、その妖怪に『ちょっと、なに早苗を誘惑しているのよ』と見当違いな嫉妬のような殺気を浴びせられて逃げるようにその場から離れたけど。
ちなみに後日、その妖怪は妖怪で恐らく緑巫女へのプレゼントを探すために里の様々な店をひたすら回っているところを見掛けたりした。
あれで二人の関係について聞こうとするとそんな関係なわけないって必死に否定するのだから、もうさっさと結婚しろ、と本気で思う。
そしてできれば新聞の記事の一つにその二人のラブラブ具合を毎回載せて……と思ったが、それはそれで私が色々と辛くなりそうだからやめておこう。爆発しろ。
まぁあおれはとにかく置いといて、
「で、どうしたのですか?貴女がそんなこと、珍しい」
未だにわからない。
いくらクリスマスとはいえ、この巫女が誰かにプレゼントする姿を見たことがない。
そんな私からすれば、何故今になって私にプレゼントするのかがわからない。
「あのねぇ、なに?私がプレゼントしちゃ悪いっていうの?」
少し不機嫌そうに、けれど、どこか悲しそうに言う。
やばい、これはなにか気に障ることでも言ってしまったのだろうか。
これ以上機嫌を損ねたりしたらボコボコにされそうだから、
「いえ、そんなことないです。むしろ嬉しいのですよ、霊夢さん」
とりあえず、笑顔でそんなことを言ってみる。
嬉しい、という気持ちは間違いでは無いし。
プレゼントを貰って嬉しくない人なんていないだろう。
それも、滅多に渡さない希少な、さらに個人的にも気に入っている人物からの、というものならばそれは尚更嬉しいものだ。
「ありがとうございます」
なんて、素直にお礼を言えば
「……ふ、ふん。素直に受け取ればいいのよ。素直に」
なんて、そっぽを向きながらぶっきらぼうそうに言う。
よく観察すれば、耳が微かに赤くなっていて、声も微妙に震えていて。
他人にプレゼントする、というのが慣れていないのだろうか。
恥ずかしさを我慢しようとしているのが丸分かりなその様子がなんだか愛らしく思えてきて。
クスクス、と小さく笑っていると、
「な、なによそのニヤついた顔は!こら、笑うな!!」
さらに真っ赤になりながら睨み付けてくる。
けれど、それもなんだかいつもの迫力が無く、むしろ余計に可愛らしくて。
それがおかしくて、さらに声を上げてあはは、なんて笑えば、ガツン、という音と共に急にくる頭の痛み。
博麗式のゲンコツが脳天に綺麗に直撃した私は、その場で声にならない呻き声を発しながら頭を抱えてうずくまって。
少し笑いすぎたかなぁ、なんて思いながら霊夢のほうを見れば、ぜぇぜぇ肩で息をしながら拳を握り締めているのが見えて。
それもなんだか可愛く見えて、小さくクスリと笑ってしまう。
今度のそれは幸いにもバレなかったらしく、
「……プレゼントとは、これ、ですか?」
「……んなわけ、ないでしょう」
「あはは、こんなのがクリスマスプレゼントだったらきっと世の中の人たちはみんなタンコブだらけですね」
「ったく。んで、結局、あんたはなにが欲しいの?」
と、元の話題に戻って再び聞かれる。
プレゼント。
改めて聞かれて、まだ少し痛む頭を擦りながら考えるけれど、特にこれと言って欲しいものは無く。
ふと、そういえば最近は神社で過ごしてばっかりだなぁ、と思う。
神社の縁側で適当に談笑し、たまに夕食をご馳走になり、その後に帰って。
そしてまた次の日も同じことを繰り返す、という最近の毎日。
そんな、神社で一緒に過ごす毎日もいいけれど、
「そうですね。では、里の喫茶店でなにか食べに行きたいですね」
なんとなく、たまには、違う場所でのんびり過ごすのも新鮮でいいかもしれない、と思って。
そんな、里で過ごす、という提案をしてみる。
「……は?そんなのでいいの?」
「えぇ。そういえば最近は霊夢さんと出掛けてない、と思いまして」
「ふーん……別にそのぐらいならお安い御用だけど」
「あ、お代ですが私の分は私で出しますよ」
「は?ちょっと、プレゼントじゃないじゃないの、それ」
「そんなことないですよ。私にとっては、霊夢さんと一緒に過ごす、ということが十分なプレゼントです」
ニコリ、と笑いながらそう言うと、しばらく硬直し、その後に「ば、ばかじゃないの!?」なんて叫び出す。
はて、なにか変なこと言っただろうか。
別に、私の思った、素直なことを言っただけだと思うけれど、それが向こうのなにかに触れたのかぎゃーぎゃー騒ぎ出して。
そんな、このまままだ続きそうな様子の霊夢の手を取り、
「え、な、なによ!?」
「今から全速力で里まで行きますので、振り落とさないでくださいね」
「ちょ、ちょっと、あ―――」
「せっかくのプレゼントなのに、このままだと時間だけがどんどん過ぎていって勿体無いですから」
なにか抗議しようとするのを無視して、霊夢が耐えれる程度の速度で飛んでいく。
向こうに着いた後にまたなにか言われるだろうなぁ、と、苦笑しながら。
そして、喫茶店で霊夢さんとお茶したあと、里のどこを回ろうかなぁ、と、私の気に入ってる、この大好きな人間と一緒にのんびりと過ごすプランを考えながら。
いいあやれいむ