宴は中盤。
はしゃぐ声を楽しみつつレモン水をちびりちびりと呑む。
隣に座っている霊夢と目が合う。
「お酒飲まないの?」
「魔理沙を抱いてるからね」
酒臭い息は可哀そうじゃないと笑う。
股の間にすっぽり収まって抱かれている魔理沙が振り返って私を見た。
気にするなと撫でてやるや、ふにゃっと蕩けた笑顔になる。
相変わらず、可愛い。こんな所が変わってないのが嬉しい。
「家あげたりとかの具体的な話聞いてみてもいい?」
霊夢が嫌ならいいわよと言いたげに聞く。
周囲を見てみると魔理沙も含めておおむね聞きたそうだ。
では…。
・・・
・・
・
私がその少女と再会したのはまたも勝手気ままな月夜の晩の散歩の途中。
以前と違うのは場所が里からかなり離れた河原である事。
そして、今まさに少女が妖怪に襲われているという事。
見過ごすにはあまりにも後味が悪そうだったので妖怪を蹴散らしてみた。
走り寄ってきた少女の頭を撫でてやる。
ふにゃっと蕩けた笑顔に釣られて私も笑顔になった。
並んで川の土手に座って少女の話を聞く。
以前、私に親の言う事を聞けと諭されたが、それでも魔法使いの夢を諦めれない事。
再び親と喧嘩して辛くなって逃げ出して、走って。気付いたらここにいた事。
妖怪に襲われ死ぬと思ったその時に私が現れて妖怪を退治した事等。
少女の目線から、聞いた。少し…いや、かなりむず痒いから話を変える。
「…それでも…やっぱり魔法使いになるのは諦め切れない?」
「…うん…ごめんなさい…」
「暗くても寂しくても寒くてもずーっと一人だよ?
誰も助けてくれないよ?お家に帰った方がいいと思うよ?」
聞いても今は返事が無い。
チラと少女を見るとポロポロ涙をこぼしていた。
「さっきみたいに妖怪に襲われる事…しょっちゅうだよ?
今日は私が何とかしたけど普通は自分一人だよ?」
ビクッと肩が震えはしたが、今はやっぱり返事が無い。
流れる川面を眺めながら溜息を吐く。
強情な子だ。今日はこの子のおかげで溜息を吐かされてばかり。
幸運が脱兎の様に逃げると苦笑いしていたら小さな声が。
「…ごめんなさい…」
魔法使いになる事を諦めたかどうかは定かでは無い。
頭を撫でてやる。
「今日は遅いから一度家に帰りなさいな。
それで一週間ゆっくり考えなさい」
「…うん…わかった…」
また、頭を撫でてやり、立ち上がる。
私に続いて少女も立ち上がった。
少女を探しているであろう複数の松明に向かって歩く。
私の灯している魔法の明りに向かって松明もまた、こちらに来ている。
「一週間何も食べずに考えて。
それでも魔法使いになりたいなら…今日会った所に来なさい」
「…一週間何も食べずに?」
「修行よ」
へー…と言う少女に苦笑い。
私の様子を先程から探っている妖怪…妖怪山は白狼の椛にもまた、苦笑い。
「さて、今日はここでお別れね」
少女がスカートを掴んだ。
「わがまま言わないの」
コツンと頭を叩く。
その後、撫でてやる。
「さて…白狼の椛殿」
「何か」
何時ものように堅苦しい返事だ。
気付いてなかった少女は驚愕している。
苦笑いしつつ私も堅苦しい口調に合わせて返事。
「故あって“謎のお姉さん”は家に戻らねばならぬ。
少女の護衛を少しばかり願いたい」
「承知した」
苦笑いの気配と共に少女の近くに降り立つ白狼の椛。
ピンピコお耳が揺れて。尾っぽも楽しそうにパタパタ揺れて。
何が楽しいのか椛も少女も笑顔。
「天狗だ天狗だ天狗だ!本当にいたんだ初めて見たー!!」
訂正。少女、はしゃぎ過ぎ。
椛に向かって駆け出そうとする少女の首根っこを引っ掴む。
「白狼の椛を撫でまわして良いのは私だけよ。
私に勝つまで触るのは諦めなさい」
「どうやって勝つのさー」
「誰にも撫でまわす許可は与えてませんけど…」
困り声が、二つ。それに微笑みで答え、地を蹴り飛び立った。
またね、二人共。
館の前まで帰ってきた。門の前に門番の美鈴はちゃんといる。
眠ってたりはしない。何故か鼻をヒクヒクさせてはしきりに首をかしげているが…。
少女の匂いが気になるのだろうか。一応彼女は人食いの妖怪だし。
「ただいま、美鈴。何か気になる匂いでも?」
「ああ…お帰りなさいませ、お嬢様。その…美味しそうな人間の匂いがですね」
やっぱりそうだった。苦笑してしまう。
ひょっとしてご褒美?みたいな顔は止めてほしい。
「残念ね。友人になりそうだから縁があったら守ってあげて」
「あらまぁ…」
少し残念そう。
何時から人を食べてないか知らないけど、やっぱり残念そう。
門を開けてもらい、通る。
外から門の施錠している彼女に聞く。
「二人が住むのに手頃な家、一日で作れる?」
「一日は厳しいですねぇ~…一週間あれば小奇麗なのできますけど…」
「お願いしていい?無駄になるかもしれないけど」
「いいですよ」
気楽に返事してくれた。
だから気楽に言う。
「作ってる間は門番しなくていいし、妖精達も使っていいわ。場所は魔法の森ね」
「わかりました~」
呑気に言う美鈴に手を振って館の中へ。
・
・・
・・・
「これが霧雨魔理沙の家出・前編…ね」
甘えている魔理沙と困惑顔の椛…二人に頬擦りしながら言う。
んー…二人ともいい感触。
「私は椛が大人しく撫でられてることが疑問です」
他者を見下ろしがちな天狗の疑問は無視。
これ即ち、他者に見下されるの大嫌いな天狗の質問も無視。
今は魔理沙と一緒に椛の尻尾弄り回すのに忙しいからだ。
こーれ、に・げ・る・な…もふっ!
「ひゃうんっ!」
「椛揉み揉みはいいから先続けなさいよ」
「はいはい」
巫女に急かされ苦笑い。友達の事がやっぱり大事みたいね。
「咲夜」
「ここに」
「私の日記帳持ってきて。『小さな魔法使いは私の友達になるのか』って奴」
「かしこまりました」
返事して消える咲夜。何か言いたげに睨む魔理沙。
ちょっと不満そうな顔をしている。
「友達は嫌だった?」
「私にとってはもっと大きいんだ」
プクプクブーとフグみたいに頬を膨らませる。
…が、その後ろで巫女が睨んでるからボケてみる。
「じゃあ愛を…体と心を交わらせ、永遠の契りを結ぶ?」
魔理沙は面白いくらい真っ赤になってあうあう言いだした。
そんな彼女を抱き寄せ唇に口づけを落とす。
呆けている彼女に『冗談よ』と言ってまた、抱きしめる。
私の胸に顔を埋め、何か言ってる彼女を撫でる。
本当に、愛おしい。
魔理沙の体温と巫女の冷たい視線を堪能していると咲夜が傍らに立った。
礼を言って日記帳を受け取る。
懐かしい。
そう思いつつページを開いた。
・・・
・・
・
少女と別れて二日後。
妖怪山は白狼の椛が来た。
少女改め人里の道具屋、霧雨家ご令嬢は今だ絶食中…と伝えに。
椛が言った後、しばし静かな一時。本当に微かな音しかしない一瞬。
口を開いたのは不満そうな椛だった。
「…何か言ってくださいよぅ…」
「私は今、貴女だけを見ているわ」
返事はそれだけ。
今、私はベッドに腰掛け、白狼の椛ではなく一人の女性として椛を抱きしめている。
椛もそんな私に気を許して体重を預けてくれてるのに浮気は失礼だ。
だから私の返事はそれだけ。椛の返事は嬉しそうに尻尾をパタパタと振って。
「レミリアさんは悪い人です」
「そうなの?」
聞き返すと椛はコクン…と、頷いた。
「悪い人です」
もう一度、言う。
私は撫でる事でそれに答えた。
白狼の椛が霧雨家のご令嬢の絶食に付き合うために戻った後。
美鈴を呼んで家を作る事を改めて依頼し、その後、妖怪山を訪問。
博麗神社までの通行許可発行と、道中の警護を依頼。
帰宅した後、火の妖精に手伝ってもらって瓦を焼成。
夜半、新月なためか、椛に会えなかったためか妹が落ち着かない。
人里に出荷する分の瓦が割れてしまう。怪我人無しは不幸中の幸い。
朝まで撫でまわすのを条件に許してもらう。私と妹は妖精達に埋もれた。
私に一番に飛びついて来たのは氷精の子だった。ちべたい。
霧雨家ご令嬢の絶食三日目。天狗が来たと氷精の子に起こされる。
背中に氷は二度としないで欲しいと思う。悲鳴を上げてしまった。
花妖怪が寝てる間に来たらしく、敷地は花満開。少し呆れた。
天狗を伴って妖怪山の麓を通り博麗神社へ。目当ての悪霊は神社の屋根に腰掛けて日光浴していた。
霧雨家ご令嬢の魔法の先生になってやってくれと頼むが断られる。麦酒を奉納し、帰宅。
門に美鈴はいなかった。魔法の森に適地を探しに行ったとか。…その適地があるのか疑問。
自分が探せと言ったんだけど…無かったらどうしよう。
霧雨家ご令嬢の絶食四日目。
美鈴、一時帰宅。魔法の森に陽の気溢れる場所があったと喜んでいた。
倉庫から材木と大工道具を持ち出しては妖精達に手伝ってもらって運んでいる。
見せて貰った図面にはこじんまりとした可愛らしい家が描かれていた。
少女が諦めたら別荘にしようと思う。
昼過ぎに天狗が来たので揃って博麗神社へ。目当ての悪霊は小さい巫女をからかっていた。
今日も霧雨家ご令嬢の魔法の先生になってやってくれと頼むが断られる。葡萄酒を奉納し、帰宅。
多分明日も断られるな…と、天狗と話す。新聞のネタになってと頼まれたけど断った。
霧雨家ご令嬢の絶食五日目。
早朝、建設中の家へ行ってみる。確かに陽の気が溢れていた。
低湿地で陰の気が満ちている魔法の森にこんなに良い所があったとは。
日当たり良し、水難の相無し。住めば住む者も陽気になるだろう。
帰ると天狗が待っていた。
時間はまだだがと聞くと、新聞の件をお願いされた。天狗の名前も知らないし断った。
昼過ぎに博麗神社へ。目当ての悪霊は葡萄酒を飲んでいた。薄いと文句を言われる。
今日も霧雨家ご令嬢の魔法の先生になってやってくれと頼むが断られる。
悪霊を唸らせるほどの葡萄酒を持って来れば考えても良いらしい。
林檎酒を奉納し、帰宅。
パチェに葡萄酒の件を相談。蒸留酒にすれば良いと言われる。
とりあえず作ってみるが失敗。美味しくなかった。
明日、天狗に飲ませながら作ってみよう。
霧雨家ご令嬢の絶食六日目。
一日中、蒸留酒作り。
美味しい葡萄酒が美味しくない蒸留酒になって天狗に飲まれる。
正直言って辛い。火の妖精も半泣きになった。
様子を見に来たパチェが混ぜたり寝かせたりしなければ蒸留酒は旨くならないと言う。
火の妖精抱いてふて寝する。ぬくい。
霧雨家ご令嬢の絶食七日目。
引き続きふて寝していると椛に起こされた。
今日の夕方、河原に来て欲しいと言う。
フランに揉み揉みされている椛を眺めていると美鈴達が帰宅。
家が完成したと誇らしげだ。
博麗神社へ行くにも天狗が酔って寝てるので行けない。
揃って昼食を食べ、夕刻までゆっくりする事にした。
一月分の食材を乗せた荷車を背に待つこと暫し。
霧雨家ご令嬢と椛。それに令嬢の両親らしき二人の人間。
それから人里の守護者兼、寺子屋の教師がやってきた。
・
・・
・・・
「この後は覚えてるぜ。ちょっと恥ずかしいけど。
レミリア目掛けて走って行って抱き付いたんだ。
“優しいお姉さん”に会えるのがもう嬉しくて嬉しくて」
頬を染めてニカッと笑う魔理沙。
「両親と私は心配していたんだけどな」
肩をすくめて言う慧音。
仕方ないと言えば言える。
「レミリアが『我が名、我が誇りにおいてこの者を守る』って言ってもか?」
「それでも不安なのが親と教師…って言う者さ」
「私は何の不安も無かったぜ」
「…親の心、子、知らず…と言う言葉があってだな…」
「老いては子に従えとも言うぜ」
慧音を困らせている魔理沙を見てると苦笑が漏れる。
あの時もこの調子で周囲を困らせたのだろうか。
しかし、私は今も魔理沙の味方な訳で。
「慧音。その位にして置きなさい。紅霧異変の後、美鈴が怒ってたわよ?
『会うの楽しみにしてたのに…あの子、どういう教育を受けたんですか?』…って」
何人かが噴き出す。
幾人かが私の影響だと言う。失敬な。
「しかし、そこまで頑張ってたのは知らなかったぜ」
私の日記帳を捲りながら言う魔理沙。
はて?頑張ったのは主に美鈴のはずだが、さて。
考えてると魔理沙の顔が目前にあった。
「ありがと、レミリア」
笑顔と共に魔理沙の顔がもっと近づいてきた。
呆けていると魔理沙は…私の友人で私の愛しい人は照れ隠しするかのように笑って。
「魔理沙さんは酔い過ぎたから酔い覚まししてくるぜ!」
箒に跨って空へ駆けて行った。
小さくなりやがて見えなくなった背中を見て思う。
やっぱり今日は本当に良い日だな…と。
私が?
何だか皆可愛いですね
直しました
お嬢様はなかなかのカリスマっぷり
宴は中盤と云うことは勿論終盤もあるんですよね!?ね!?