人間は強く賢い。
しかし、逆に弱く愚かな事も時には、ある。
それは霧雨魔理沙にしてもそう。
とても良い事が起こりそうだからと参加した宴会の中の一時。
人間の英雄?霧雨魔理沙の話題になった。
ここは好きだけどこれは止めろとか。
持ってった本返せ。嫌ならお尻ペンペンだとか。
そんな楽しい会話を耳で楽しんでると私ことレミリア・スカーレットも何か話せと回ってきた。
さて、何の話をしようか…よし、皆知らない…と、思う話にしよう。
「私が初めて魔理沙に出会ったのは…」
「紅霧異変の時でしょ?」
霊夢が今更何を言ってるんだと横槍を入れてきた。
そりゃあ、まあ…一応建前はそうなんだけどね。
「いや、本当はもっともっと前に会ってるわよ。
本人はまだ気付いてないみたいだけどね」
皆の視線が魔理沙に集まる。
魔理沙はきょとんとしている。
あの時、あの瞬間と同じ表情をしていたから苦笑が漏れた。
漏れたまま、言う。
「魔法の事を知りたいって親に言って…。
それで怒られたからって首を吊るのはどうかと思うわよ?」
魔理沙の表情が面白い様に変わり始めた。
一瞬とて同じなのはない。あの日あの時のように。
・・・
・・
・
「小さな女の子が泣きながら首吊ろうとしてるから何が理由かと思えばまったく…」
「だって…だってだってぇ…」
勝手気ままな月夜の晩の散歩の途中。
人の墓場に生えてる桜の木で首を今まさに吊らんとしている女の子を見つけた。
何とか紐を切って助けれたけど女の子が愚図ってて、泣いてて話にならない。
しかし、怒られただけで首を吊るとは行動力が無駄にあり過ぎる。
それだけショックだったとしても…だ。
「それで?あなたは魔法使いになって何をしたいの?」
呆れながらも一応聞いてみる。
答えは単純かつ明快だった。
空飛んだり火の玉出したりしたかったから。
思わず苦笑してしまう。
あまりにも幼稚だったから。
あまりにも純粋無垢だったから。
だから少しだけ付き合ってみる事にした。
「火の玉…って…こんなの?」
言いつつ精霊魔法で指の先に火を灯してみる。
女の子はきょとんとしている。
そしてすぐ。その顔は驚愕、尊敬、歓喜…様々な表情に彩られた。
一瞬とて同じ顔をしていない。
「凄い凄い凄い!それが魔法なの!?」
「ええ…簡単な精霊魔法よ。火の妖精さんの力を借りるの」
「妖精に力借りたらできるの!?凄い凄い凄い!!」
泣いていた子がもう笑う。
うん、この子の場合、泣き顔より笑顔の方が見てて楽しい。
だからもうちょっとおまけに付き合ってみる事に。
「次は空、飛んでみる?」
「いいの!?やったやったやったーっ!!」
・
・・
・・・
「…で、その後、抱きかかえて遊覧飛行してあげたわよね?
貴女、キャッキャ言ってはしゃいでたの忘れた?私は覚えているわよ」
ニヤニヤ笑いを抑えきれないまま真っ赤になってあうあう言ってる魔理沙に聞く。
「…か、かかか仮にレミリアが『体温冷たいけど優しいお姉さん』だとしよう!
でも、身長とか喋り方とか雰囲気とか色々おかしいだろっ!!」
「“お姉さん”だと少女じゃないから弾幕ごっこできないじゃない」
肩でゼーハー息する魔理沙に言い返す。
今でこそ少女と言えないような奴でも平気で少女と言い張って弾幕ごっこしている。
しているがしかし、スペルカード制定後、最初の異変を起こすにあたって私は気にしていた。
私の所までやってきた巫女が『年増が少女とか人間を馬鹿にするな』と吐き捨てるのではないかと。
そんな事を思い出しつつちらりと霊夢を見ると紫や幽々子。
それに白蓮や神奈子、永琳をちらちら横目で見ていた。
何を考えているのやら。
さて、魔理沙に視線を戻すが、どうやらまだ納得してないみたい。
だから大きくなった姿を見せる事によって納得してもらう事にした。
サーヴァントフライヤーを弾幕ごっこの時に使った数の四倍呼び出す。
私もサーヴァントフライヤーも全て赤い霧にし、そして混ざって人の形をとる。
放心状態の魔理沙に納得した?…と、聞くように微笑む。
魔理沙の表情は困惑から怒りへと移りつつあるようだった。
「…ど、どうして今まで黙ってたんだよ!
…おま…お前だって知ってれば会いに行ったり…!!」
「紅魔館主、吸血鬼レミリアの庇護下にあると大きな顔をしてみたり?」
噴出した好意に対して悪意で返す意地悪をしてみる。
「違うと言いたいでしょうけどそういう事になるわよ。
少なくとも今の友人関係は無いと思いなさいな」
魔理沙は私をじっと見て。
それから自分を見てるチルノやリグル。
それにミスティアや妖精達の視線に気付いて、そしてまた私を見て。
「…ごめんなさい…」
小さな声で、謝った。
私に抱き付いて泣いてる魔理沙を撫でていると霊夢が私をつついた。
「要するに魔理沙はレミリアが育てたー…って訳?」
「魅魔の方が育てた期間は長いわよ?」
「…魅魔様もレミリアが紹介してくれたんだ…。
…今住んでいる家もレミリアがくれた…寂しいって言ったら一晩中抱きしめてくれた…。
…魔法の森で一人で生きてけるようになるまで世話してくれたりも…」
蚊の鳴くような声で魔理沙が言う。
苦笑いしてまた魔理沙の頭を撫でて。
「付きっ切りで魔法教えてたら正体ばれれちゃうじゃない。怖い怖い吸血鬼だって」
「…怖くないもん…レミリア、優しいもん…」
半分泣き声。私を抱く手にきゅっと力が入る。
それがとても嬉しい。
とてもとても、嬉しい。
だから、気付けた。
これがとても良い事なんだな…と。
お嬢さんのカリスマっぷりも良かったです
かわいいですな