Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

冬の憧憬

2011/12/13 17:23:05
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「はぁー、あったかいわ~」

私は先日まで、倉庫にしまっていたこたつに入り
人間が生み出した偉大な発明品に恩恵を受けていた。
わざわざ寒い中に、はるばる人間の里まで降りて買ってきたみかんの山を
無造作に並べて、たわわに実った果実を一口一口噛締めながら味わおうと思っていた。


「お邪魔するわ」


そういう私のささやかな幸せを、一人のサディステックな乙女がぶち壊しに来た。
彼女は他人の家であっても、遠慮なしにずかずかと土足で侵入する。

「あ、こら。ちょっと」

私はそれに注意を呼びかけるが、彼女はこれといって気にする様子もない。

「あら、コタツがあるわね。あー、あったかいわねー
 やっぱりこの快感は冬でしか味わえないわぁー」

彼女はいそいそと靴を脱いで、一直線にコタツへと入り込む。

「ちょっと、あんた。何しに来たのよ」

「いやね、霊夢が凍死していないかとちょっと心配になってね」

「どうせ誰かから、コタツのことを聞いたんでしょう。
 それより……」

「ひどい物言いねぇ。別に一人や二人居たってあなたが入れなく訳じゃないし」

「去年もどこぞやの馬鹿が同じことを言ってたわ。
 その後、私がどうなったか聞きたいのかしら!?
 それよりもねぇ!」
 
「まぁ、ここは一種の共同スペースということを魔法使いから聞いたことがあるわ。
 だから、私がここにいても問題はないでしょう」

その魔法使いの虚言癖もどうにかしたいところだけど、今は
一刻も早く目の前で行われている私への嫌がらせを中断させる必要があった。
私は自分の感情を、コタツの机を思い切り叩くことで表現した。
しばらくきょとんとしている幽香。

「どうか……したの?」

「どうかしたの?じゃないわよ!机を見てみなさいよ!机を!!」

幽香は目を下に向けて、私が怒っている理由を考えているようだった。

「見たけど……何か?」

私は呆れ顔でため息をついた。そこには大量にばら撒かれたみかんの皮だけが残っている。

「あんたねぇ、さっきから食べすぎなのよ!
 いったいいくら食べれば満足するのよ!
 もう、全部ないじゃない!!」

幽香は事の重大さを理解していないようで、とぼけた様子で返答する。

「あぁ~、ごめんなさい。つい、おいしかったから」

「どうするのよ!私の分がもうないじゃない!」

幽香はしばらく悩んだ末、彼女らしい鬼畜な提案をする。

「じゃあ、もう一回買ってくれば?あ、できれば
 何かほかのも買ってきて頂戴。みかんばかりだと飽きるから」

私は勢い良く立ち上がり、ちゃぶ台のようにコタツごとひっくり返した。


「あぁ!?ふざけんなよ!!どれだけ苦労して買ってきたと思ってるのよ!!
 私が、私がよ?わざわざクソ寒い中、この神社から人里に下りて
 重たいみかんの山を抱えながら、階段を上り下り往復してきたのよ!?
 一体、そのみかんにどれだけの奇跡が詰まってると思ってるの!!」
 

「えーっとさぁ、ちょっといいかしら?」

「何よ!断るつもり?」

「何で飛ばなかったの?」

確かにそうだ。と納得しそうになったけど
私は負けない。負けてはならないのだ。ここはごり押してでも
当初の目的を完遂してもらう必要がある。

「いいから、あなたが買ってきて頂戴」


幽香は、貧乏くじを引いたように残念そうな表情を浮かべていく。
この期に及んでもなお、えぇ~、私が行くのぉー?とでもいいたそうだった。
さすがにそんなことを口に出したら実力行使で退去してもらうしかない。


「いや、ホラ、その。私夏の妖怪でしょ?
 寒いのはちょっと苦手というか……」


「帰れ」

「えっ」

「いいから。帰れ。ここから出てけー!!」

「ちょ、霊夢。何やってるの」

私は床に散らばったみかんの皮を思い切り幽香に投げつけまくった。


「あらあら、おもしろそうなことをやっているわねぇ。
 最近の流行のお遊びなのかしら?」


「またこんな時に厄介なのがきたわ……」

「うーん、せっかく霊夢のところで、
 一息くつろぐつもりだったのだけれど
 どうやら先客がいたようね」

「民宿じゃないのよ?」

紫は幽香をちらりと見る。その途端、幽香の機嫌が明らかに悪くなったのが分かった。

「おまけに、こんなひどい有様じゃあ、
 とてもじゃないけど、体を休ませることなんてできないわねぇ」

両者の間に、見えない稲妻が走っているのが私には見える。

「まぁ、どうせ誰が原因なのかは容易に想像がつくけれどね」

紫はニヤニヤと幽香の様子を伺っている。

「あぁ、片付けてほしいわねぇ。子供でも
 自分の後始末は出来るはずなんだけど
 何百年も生きていてもなお、そんなことすら出来ない
 発達障害はいるのかしらねぇ?」

私は紫の言葉を聞いてから、黙々と感情に任せた行為の後始末を行った。
そんな私を見て、紫は自分の勘が外れたことに戸惑っていた。
当然、紫は冷や汗をたらしつつ、苦し紛れに自分の言葉を訂正する。

「ま、まぁ、霊夢なら齢十数年だし、賢者の威厳として
 寛大な心を持ちたいわよねぇ。あなたもそう思うでしょ?」

苦し紛れに紫は幽香に話を振るが、幽香は体を震わせ笑いを堪えている。

「き、聞いた?霊夢。賢者の威厳だって、紫が
 賢者の威厳……いつも寝て食ってばっかりの紫が……」

聞き捨てならなかったのか、紫は幽香に食ってかかる。

「な、何よ?私おかしな事言った?それに、
 プライベートのことまで口出ししないで頂戴!
 そんなの捏造だわ。私だってあなたの知らないところで
 大変な思いしているのよ!?そういうあなたこそ、
 馬鹿の一つ覚えに花の飼育ばっかり。
 他にすることがないからそればっかりしているのが目に見えるわ!
 とんだ暇人ね」


「あらあら、昔、私に負けたこと。まだ根に持ってるのかしら?
 意外ねぇ、紫ってそんなに粘着質だったんだ」

「ちょっと、霊夢の前で昔のことを言うなんて卑怯よ!!
 そうよ!あれは冬眠直後だったから調子が悪かっただけよ!」


紫も負けじと挑発を繰り返す。止めろ。今ここで争うのは止めてくれ。
並みの妖怪でも恐れおののく二人が争えば
被害は私の家だけでは済まされなくなる。
おまけに、いくら私であっても、こいつらを仲裁するとなると
相当苦労しそうだ。頼むから素数を数えてくれ。

「あれあれ、こんな話を知っているかしら?
 ある花の妖怪は、寝起きを襲撃されても動揺することなく
 撃退した実績を持つのよ。しかも妖力を一切使わないで
 持ち前の身体能力だけで危険を回避したのよぉ?」

幽香は腕を組み、不謹慎な笑顔で紫を見下している。

「はん!馬鹿ね。これだから脳筋は。いいわ。認めてあげる。
 私はあなたに負けました。だけどね、力だけがすべてではないのよ。
 先の先まで予測する頭脳。どんな人間をも魅了するカリスマ。
 そういうすべての総合的な力があってこそ私はここまでこれたのよ。
 あなたにはそういうものってあるかしら?
 あなたいっつもぽっちだったわよねぇ……」

幽香の唯一ともいえる欠点を抉られたのか、
ぐぬぬと歯を食いしばっている。

「な、なによ……」

幽香は言い返すことが出来ずに、拳を握り堪えている。
その時、私は幽香と目があった。嫌な予感がしたので
慌てて目を逸らすがもう遅かった。

「そ、そうよ。今までのはどちらも
 自分の思い込みでしょう!?自分の評価なんて当てにならないわ
 ここはいっそのこと、第三者の、霊夢に判定してもらいましょう!」

「あら、あなたの割にはいいアイディアなんじゃないかしら」

ほらやっぱりだ。私には分かる。こういう場合は必ず私が損をするということに。

「それで、霊夢?あなたはどちらが幻想郷において必要不可欠だと思うのかしら?
 まぁ、聞くまでもないわね。今までだって霊夢は私と
 あらゆる異変に対して協力体制をとってきた。プライベートでも仕事でも
 持ちつ持たれつの関係を、長年築いてきたのよ」

紫は、長い髪を手でなびかせ、流し目を送る。気持ち悪い
どんなキャラを演じてるんだ。

「その点、あなたと霊夢の接点って何だったかしら?
 おかしいわねぇ、全然分からないわー」

「と、とにかく霊夢に聞くのが手っ取り早いわ!
 さぁ、霊夢!私と紫どっちが大事なの!?」

「どっちが大事って言われても……」

心底どうでも良かった。二人で勝手にやってくれって感じだ。
しかし、どうでもいいという答えは最悪の結末を迎えることになる。
異変時のように脳がフル回転し、スパコン並みの計算を繰り返す。
そして私が最善と判断した返答は。


「みかん。買ってくるわ……」

無常にも私が外出の役回りをさせられた。紫の境界があれば一瞬で終わるのに。
今更思いついてももう遅い。




「あ、雪が降ってるわ」

私が空を飛ばなかった理由。それはシンプルだった。
自らの足で歩いて、そこで目にする一つ一つの景色が移り変わるのを
この目で見たかったから。空を飛んでは、あっという間に
意識の片隅に追いやられる慌しさでは趣がない。


呼吸をすれば、白い息が視える。
だけど、まだ冬は実感しない。
薄着であれば、冷ややかな風が肌をつんと刺激する。
それでも、まだ冬は実感しない。
上空から、水の結晶である天然の宝石が、
静かにしんしんと舞い降りる様を見て、ようやく冬だということを実感する。

「もう、冬なのね」

冬は季節の一番最後に訪れる四季。
一年の締め括りとして、今までの行いを振り返り、そして
新しくやって来る年を、より良くするために気を引き締め、
万事が順調で行く様にと、備える大事な時期なのである。


周囲では、氷の妖精が我の時代だといわんばかりに
好き勝手にやっている。いつもなら、彼女の愚行に対して
制裁を加えているのだけど、この季節の間は私は一度も手を出さないようにしている。
それが自然を敬うということ。




その分、溜まった鬱憤を春にすべて注ぎ込んでいるけれど
それはそれで自業自得。少しは学習してほしい。


用を済ませ、神社に戻るといつもの如く、閑散としている境内。
悲しいことに、参拝客なんて都市伝説かと思うほどにいないのだ。
念の為、賽銭箱の中身を拝見するが、あいかわらず一銭もない。

部屋の前に辿り着き、中の様子を伺うつもりだったけれど、
物音一つしない事から二人は飽きてどこかへ行ってしまったのだと察する。
ほっと胸をなでおろし、ようやく一人の時間を確保できると思っていた。

――ガラガラッ―――

いつもはかならずつっかえるのだけど
珍しくスムーズに開いたふすまの戸。
けれど、そんなことが霞むほどの珍しい光景を私は見ていた。
私は思わず心の底から安堵の笑みを浮かべた。

「何だかんだいって、本気で憎んでるわけじゃないのよね。この二人。
 もう少しお互い素直になってもいいのになぁ」

きっと似たもの同士から来る同属嫌悪なのだろう。
そこにはコタツにうずくまり、二人で仲良く身を寄せ合っている姿があった。
しばらく、保護者のように見守っていたけど、私の安堵の笑顔も、すぐに卑しい笑顔へと変わる。

「それにしても、もしここに文がいたら、間違いなく面白おかしく記事にしているわね」

もう少しで夕暮れに近い刻。おそらく雪が降る強さはより一層激しくなる。

「ま、こんな寒い季節にミニスカで飛び回る阿呆でもないでしょうね」
こんな幽香りんもいいかなと思って勢いで投稿してみました。

この後、文が現場にいたのか、霊夢が二人を売ったのかはご想像にお任せします。
値彩狂
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
冬の一幕って感じが良かったです
2.名前が無い程度の能力削除
日常の1ページって感じで良かったです
3.名前が無い程度の能力削除
記号化されたキャラを組み立てるも、ありがちに留まっているのは残念。
意外な展開や、個性が欲しい。