Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

魔理沙の腹筋は20cm

2011/12/11 23:19:21
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「なんだこりゃ。でかい手袋だな」
「それはグローブと言ってね。外の世界で野球という球技をする際に使用されていたようだよ」
 事の発端はそんな何気ない会話であった。
 香霖堂。昼にも関わらず薄暗い店内で、魔理沙はグローブから目を上げ、ちらりと香霖に視線をやった。
「こっちに道具が流れてくるってことは、その球技の人気がなくなったのかね」
「その可能性もあるし、もしかしたら大幅な技術革新やルールの変更で、既存の道具が意味を持たなくなったのかもね」
 ふーん、と曖昧に頷く魔理沙。何事か思案している様子に、香霖は小さくため息を付いた。こういう場合、後に続く魔理沙の言葉は大抵厄介なものであるから。
「香霖、その球技について、もっと詳しく教えてくれよ」
 再び視線を上げた魔理沙は、喜色満面の笑でそう言った。



「寒い……」
 例のごとく博麗神社の境内で、例のごとく霊夢はぼやいた。
「なんで私が付き合わなくちゃならないのよ」
 冬場ということもあり、早朝の境内は肌が刺されるような厳しい気温である。巫女服の上に半纏を着て震えている霊夢を、しかし魔理沙は意にも介さない。
「ぐうたら巫女にはちょうどいい目覚ましだろ」
 香霖堂で調達してきたグローブとボールを霊夢に渡す。
「ルールは簡単だ。こいつを私へ向かって投げればいい。それだけだ」
「ふーん」
 興味なさそうに頷く霊夢。香霖堂を漁りまくってようやく見つけた左利きグローブをはめ、白線だけ引いたマウンドに立つ。
 その先には、白線さえ引いていないバッターボックスに立つ魔理沙。
「行くわよ魔理沙」
「おお、こい!」
 ゆったりとしたオーバーハンドで振りかぶる霊夢。左足を軸に前方へのなめらかな体重移動。とても適当に投げているとは思えない堂の入りっぷりである。博麗の巫女は何をやらせても天才だな、と何十分の一秒かの思考を魔理沙はした。本格派を思わせる腕のしなりからボールへ理想的な回転を与え、速球が放たれる。
 来た。これが自分の人生初打席にして、栄光の始まりだ。天才的な投球フォームを見せてはいるが、所詮霊夢は素人。コースはストライクゾーンど真ん中。
 あまりルールを真面目に教えなかったのは、これで打ち勝ってから上から目線で霊夢に教えを説いてやりたかったかだ。たまにはそういうのもやってみたい。
(甘いぜ霊夢)
 こいつなら打てる。その確信と十分なウエートを載せたバットのスイングだった。気持ちとしては場外ホームランだったし、事実、それを十分に満たすスイングだったといえる。ただひとつの誤りを除けば。
 魔理沙は目を疑う。
 バットの芯に当たる瞬間、ボールは凄まじい変化を見せ直角に近い角度で曲がった。
 結果、
「ごふぅ」
 魔理沙の腹にめり込んだ。

 ホーミング弾である。

「え、そのくらい避けなさいよ」
 油断しきっていた腹筋に十センチは球がめり込み悶絶する魔理沙をよそに、霊夢は当然の如く言い切った。
 しまった、ルールをもうちょっときちんと教えておくべきだった。『人を狙う競技じゃない』という程度は。その魔理沙の後悔も見事な後の祭りである。売られた喧嘩は買うしかない。ようやく治まってきた腹部の鈍痛をこらえ、魔理沙は立ち上がる。
「あ、ああ、すまんな。ちょっと油断してた。もう一球おねがいするぜ」
 カムバックした魔理沙に容赦無く球を投げつける霊夢。先ほどと寸分たがわぬフォームから、素晴らしい速球が放たれる。同じように魔理沙に向かってホーミングしてきたボールを、しかし魔理沙は滅茶苦茶とも取れるバッティングフォームで打ち返してみせた。
 境内に木製バットと硬球が弾き合う快音が響く。
 目を疑ったのは霊夢である。魔理沙のバットで弾き返されたボールが、今度は霊夢へ向かって一直線に飛んできているのだ。いわゆるピッチャー返しなのだが、その名前を霊夢が知る余地はない。
 コンマ何秒かの世界の出来事であるが、境内にいた二人の衝撃は相当なものだった。
 『きた弾を打ち返す』。いままでの弾幕ごっこには乏しかった概念である。そして……。
 ばしん、と乾いた音を立て、グローブに収まるボール。
 突発的なピッチャー返しを、霊夢が持ち前の反射神経で処理してのけた音だ。
 『きた弾を捕る』。これも今までの弾幕ごっこでは採用されることの少なかった概念である。
 数瞬の沈黙の後、二人は視線を合わせ、にやりと笑いあった。
「魔理沙、なかなか面白いじゃない、この球技」
「私が今までつまらないものに手を出したことがあったか」
 その日、博麗神社からはずっとボールとバットのぶつかり合う音が聞こえていたとか。



 今、幻想郷では野球が流行っているらしい。
 その噂を聞いた香霖は、結構嬉しかった。
 じつは、たまーに外の世界から流れてくる野球中継を録画したビデオなどを見るのは、香霖の密かな楽しみなのである。自分もプレイしたいという気持ちが無いわけでもなかったが、ルールが若干複雑だし、そもそもチームスポーツとして幻想郷の住人たちが一致団結する姿を想像出来なかったため、妄想の中でさえ諦めていた事柄である。
「おう、香霖。お前も野球でもやらないか」
 だから、魔理沙のその誘いには二つ返事に近い形で応じて、今まさにバッターボックスに立っている。
「いくぜ、香霖」
 眼の前に広がる光景。野球のグラウンド。魔法の森の空き地なので規模は小さいが、十分形にはなっている。野手も揃っており、よくここまでやったものだと感心する。
「ああ、いいよ」
 魔理沙が振りかぶって投げた。その瞬間、嫌な予感がした。だって、明らかに魔理沙の目が自分を狩る意志を持ったそれだったから。
 次の瞬間には、威力満点の剛球を腹部に受け、バッターボックスでもんどり打って倒れる自分がいた。
「おいおい香霖、もうちょっと真面目にやってくれよ。いいか、ルールを説明するぜ」
暗くなっていく意識の中で香霖はある当たり前の事実をひとつ思い出し、淡い期待を抱いていた自分の甘さを呪った。

「ピッチャーの投げた球がバッターに当たったら守備側が一点だ。バッターが打ち返して守備側の誰かに当てれば塁に出られる。打った球が攻撃側のランナーにあたった場合は守備側の得点で、外野より遠くへ飛ばしたらペナルティがある。あとは――」

 ここは幻想郷なのだということを。
こんにちは、うにかたと申します。
昔ちょっと投稿していたことがありました。
やはり文章を書くというのは楽しいものですね。
またちょこちょこ投稿できればと考えていますので、よろしくお願いします。
うにかた
http://www.geocities.jp/rongarta/fujitsubo/
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
やっぱ幻想郷じゃこういうルールになりますよねw
2.名前が無い程度の能力削除
デットボールコースを打って守備に当てるってどんだけ器用なんだよwww
右打ちが多いならサード苦労しそうだな

タイトルから野球とはこのリハクの目を(ry
3.名前が無い程度の能力削除
ほぼドッジボールwww
4.名前が無い程度の能力削除
やった、うにかたさん復活だ!
野球がコブラのラグボールも真っ青の死亡球技にw
でも主人公’sが楽しそうだからいいや。
5.カンデラ削除
確かに弾幕ごっこを日常的にやっていたらこんな判断してもおかしくないですよねwww
6.名前が無い程度の能力削除
あーあ、えらいこっちゃw