※ このお話は夏のマリアリ連作(甘リアリシリーズ)の続きになります。
このシリーズ中で魔理沙とアリスが助けた獏の少女=真夢という少女が出て来ます。
恋色の魔法使いが外の世界に旅だったりした長い夏が終わって、秋の色がついた幻想郷のお話。
「お弁当は持った?」
「おう。」
「ハンカチと人形は持ったわね?」
「ばっちりだぜ。」
「帰りが遅くなるようなら連絡するのよ?」
「アリスの為なら仕事終わったらマッハ5で帰宅するんだぜ。」
「うん、完璧ね。」
魔法の森に出来た魔理沙とアリスの愛の巣の玄関先で交わされる出発前の挨拶。静かな朝の少しだけひんやりした空気が、二人の間に流れている。
箒に跨り、空を飛ぶ魔法をかけようとする魔理沙にアリスが詰め寄って。
「ほらぁ、何か忘れてる。」
「おぉお。しまったぜ、じゃあ・・・アリス。」
「うん。」
「「行って来ます!」」
触れるだけの行ってきますのキスをして、空へと舞い上がる魔理沙。そんな魔理沙を小さく小さくなるまで見送ってから、アリスはふふふと微笑んでから家の中へと戻っていく。
―真っ赤な紅葉が空に舞うその向こうには、美しい秋の空が広がっていた。
ミ☆
「おはようございます!魔理沙お嬢様。」
「おう、おっはよーう。真夢、響子にも負けてないな。」
「あの子には敵いませんよぉ。」
霧雨屋の軒先で、獏の少女・真夢と魔理沙が挨拶を交わす。彼女の商売人姿も板に付いてきたようだ。その声に気が付いたのか霧雨屋の主が店の奥から姿を現す。渋い厳格そうな雰囲気が滲むその掘りの深い壮年の表情が・・・父と子の絆を取り戻した愛娘の方に向くと、自然とその表情は緩む。
「魔理沙よ、今日は呼びだして済まなかったな。」
「いいんだぜ、お父様。今日は何をすればいいんだ?」
「店で売る香料の材料になるキノコを、取ってきて欲しい。」
「分かった、引き受けたんだぜ。」
「ありがとう、頼んだぞ。」
仕事の依頼を受け取った魔理沙は上機嫌で箒に跨る。最愛の妻を養うためにはこうやって仕事をし、先立つものを稼がなくてはならないからだ。仕事とは言っても、独身の頃からやってる事の延長線上の事なので、魔理沙にとっても苦にはならない。
まぁ、言ってしまえばアリスのためなら、苦になる事でも平気でやってのけるのがこの魔理沙なのであるが。
暫く何かを考えた魔理沙の父親は真夢の方を見てからうむと頷いてから。
「真夢、お前も同行して、魔理沙からキノコについて教えて貰いなさい。」
「はーい。では、着替えて来ます。」
「お、今日はお前も一緒か。ようし、キノコについてたっぷり教えてやる。」
「よろしくお願いします。魔理沙お嬢様!」
溌剌とした返事に魔理沙も口笛を吹いて答える。一礼をして立ち去った真夢は、素早く着替えを済ませ、動きやすい服装で出て来た。白と黒のチェックのYシャツにズボン姿・・・弾幕少女には珍しい出で立ちである。
「お待たせしました。」
「じゃあ、お父様。行ってくるんだぜ。」
「うむ、二人とも気を付けるんだぞ。」
軒先から飛びあがって秋の大空へ消える魔理沙と真夢。その後ろ姿を誇らしげに見守っていたが、その父親の楽しみは予測外の方面から中断させられる事になる。
「店主、店主ー」
「む、ナズーリンちゃんか・・・」
入れ違いに飛んでくる小さな小さな鼠・・・ナズーリンの姿を見つけた魔理沙の父親はふっと笑ってから、お客様を迎え入れるための表情に切り替えた。
「ようこそ、霧雨屋へ・・・今日は星さんの失せ物探しかね?」
「いえ、今日はちょっと違うんです・・・ちょっとした物を探してましてね。」
「ふむ、何か詳しく聞かせてくれ。おーい、誰か、お茶を持ってきてあげてくれー」
商談に入る魔理沙の父親とナズーリン。店員が持ってきたお茶をナズーリンに勧めながら、愛しの娘と新しく招き入れた丁稚の事に想いを少しだけ馳せた。
ミ☆
「秋晴れだと、洗濯物もよく乾くわー」
新居の二階にあるベランダに、二人分の洗濯物を干していたアリスがおでこを拭いながら大きく伸びをした。二人分の洗濯は決して楽な仕事じゃないけど、アリスには頼れる人形達が居る。
「よく頑張ってるわね、みんな、偉いわ。」
アリスの指示で甲斐甲斐しく働く人形達。秋の風に恋色の魔法使いの服と人里にデートに出かける時に着るようになった新婚旅行の時の服が仲良くたなびいている。秋に入っても婦々仲は相変わらず良好、寧ろより一層深くなったと周囲には認知されているようだ。
はらりはらりと舞う紅葉を眺めていると、ふよふよと飛んでいる椛とにとりの姿が見えた。
「あの二人も仲が良いわねぇ。」
武器を携行していないのを見るに、椛は非番なのだろう。そんな二人が、侵入者探知用のシーカードールの近くを通過した時、こんな声が指輪越しに入ってきた。
≪もふりたい・・・尻尾、もふりたいなぁ・・・・・≫
≪ダメですよぉ。私の尻尾なんて、藍さんみたいに暖かくないですよぉ・・・≫
≪ふっふっふっ、藍の尻尾よりもふさふさな椛の尻尾を見逃しておくわけにはいくまぃ。ほーれ、ほーれ!!≫
≪やめてよぉー!セクハラはやめてよぉー!!≫
≪私のセリフをとったなぁー、このぉー!!≫
「あーあ。」
ため息交じりに、友人のじゃれあう姿を見るアリス。でも、自分達も魔理沙とこうしている時は、こんな風に見られているのかなぁとも想いを馳せる。椛の毛並みの良い銀色の尻尾を追いかけるにとりの様子を見ていると、白黒の服を着た小さな人形がスカートのすそを引っ張った。
「マスター、コンナノヒロッタゼー」
「あら、マリサ・・・これは栗ね。」
マリサと呼ばれた人形・・・最愛の妻を模した人形の胸に一つだけ抱えられた栗をアリスに渡す。小さな体で、良くこんな重い物を持ってきてくれたものだ、アリスはマリサの帽子を取って、撫でてあげた。
「ん、良い子良い子。」
セミオートマトンの発展型であるマリサはある程度の自律行動が可能であり、その行動パターンは、最愛の妻に自然と似てしまったのだと言う。何かを見つけては、こうやってアリスにプレゼントするのだ。
そんなマリサを見ていると、今も自分の為に頑張っている魔理沙にうんと家族サービスしてあげようと思いついた。
「うん、魔理沙のために栗ご飯、作ってあげましょうか。マリサ、人形を率いて栗拾いに行って来て。」
「ダゼー」
アリスは魔法の糸を出して、ドールハウスの中に居る人形達に繋いでゆく。動き始めた人形は二列縦隊で整列し、マリサの後ろに付く。
「ジャ、イッテクルンダゼ」
「ステンバーイステンバーイ」
「ゴーゴーゴー」
勇ましく整列して飛びさる人形達に手を振って答えながら、アリスは洗濯物の続きを干しにかかった。
ミ☆
「・・・いいか、キノコと言うのは素人判断が一番危険なんだぜ。」
「ほうほう、見た目に騙されてはいけないと言う事なんですね。」
「そう言う事だ、ほれ、例えばこのタマゴタケも・・・タマゴタケモドキという種類があってな?獏に効果があるかどうか分からんが、私はこれで死にかけた事があるんだぜ。」
「良く似てますね・・・おお、こわいこわい。」
魔理沙のキノコ講座を受けながら、キノコ採りに勤しむ真夢。勤勉で真面目な彼女の学習スピードは非常に早いため、教えがいもある様子。二人は香料の材料となるキノコを魔理沙が背負った籠に入れつつ、さっさと必要な分量を確保してゆく。
ある程度溜まってきた所で、魔理沙が長年の経験から来る勘に任せて地面を漁ると・・・
「おぉ、これはいいな・・・・」
「何を見つけたんですか?」
「マツタケだぜ!しかも、でっかい・・・これは、良い物だ・・・」
「まぁ、晩御飯のおかずになりますね。」
「その辺ちょっと漁ってみてくれ、多分まだまだあると思う。」
秋の味覚、マツタケ。幻想郷でも、その味から愛好家が多い逸品である。勿論魔理沙も大好物だし、一般的にはキノコ嫌いと言われるアリスでも、マツタケは美味しそうに食べる姿が盗撮・・・もとい、確認されている。
「うんうん、アリスもこれは喜んでくれるんだぜ・・・土瓶蒸しでも作ってあげるか。」
「土瓶蒸しも良いけど、お吸い物もたまりませんよねー」
「汁物・・・私は豆腐入りのなめこの味噌汁の方が好きでな。勿論お吸い物も好きだけどさー」
「賄いで出ましたけど、アレも美味しいですよね。そうだ、私も旦那様の為に持って帰ってあげよっと・・・」
「お父様も大好きだから喜んでくれるんだぜ。ほれ、真夢そっちにもあるぞ。」
ホクホクの顔でマツタケを採取した二人は、袋の中にマツタケを詰めてから籠に入れる。夕飯のメニューをどうしようか魔理沙が悩んでいると、上空から呼ぶ声がする。その声の方に向きなおると、そこには、得意気な表情で仁王立ちをするチルノと、後ろで申し訳なさそうにしている大妖精がいた。
チルノは魔理沙と真夢を交互に見やり、満足げに頷いてから無邪気な大声で叫ぶ。
「ここであったが100年目、そこの白黒コンビ!」
「白黒コンビ?私は此処に一人しか居ないんだぜ。それに、今の私は9色だ。」
アリスが作った魔法のドレス。魔理沙の象徴となる白と黒が基調だが、細かい装飾の色が7色になっているのが、二人の愛の象徴といった所か。だが、チルノにとってはそんな事は割とどうでも良い事である。チルノは真夢を指差し
「違う、魔理沙の横の彼女。彼女も白黒だぁ!」
「ああ、成程。原因はこれですねー。」
獏である彼女の髪の色は、黒と白。左右非対称の色の髪を結ってツインテールにしているので、白黒と呼ばれたのだ。
「あ、それにチルノ。彼女には真夢と言う名前があるんだ。私は分かってるから別に良いけど、ちゃんと名前で呼ばないと失礼だぜ。礼儀を尽くすのは最強の必須条件だぞー」
「む・・・ごめん。じゃあ、名前を教えてちょーだい?」
「私は真夢と申します。霧雨屋の丁稚をしております。お見知りおきを。」
「あたい、チルノ!泣く子も黙るさいきょーの氷精だよ!!」
まぁ、と言う。話には何度か聞いた事はあったが、里で仕事をしている関係上、中々里を出る機会が無い真夢はチルノを見てその小さな身体に驚いた。それでいて最強を自負するあたり、本当に相当な実力者なのかなぁと、思いながらチルノを見る。すると、チルノの後ろから大妖精が出て来て丁寧に一礼をしてから口を開き・・・
「あ、真夢さん、申し遅れましたけど、わ、私の名前は・・・」
名前を言おうとした時、絶妙のタイミングでチルノが地面に降り立って仁王立ち。魔理沙と真夢をビシッと指差した。
「魔理沙に真夢、私は不倫現場を押さえたぞー!」
「あー、違うぜ?チルノ、今は仕事だ。私が生涯かけて愛しているのはアリスだけだぜ。」
「ちょ、ちょっと・・・名乗らせてくれても良いでしょ!」
名乗りを中断させられて戸惑う大妖精を無視して、真顔で言いきる魔理沙。真にそう思っており、行動しているからこその堂々たる立ち振る舞い。その意思を貫く事が窺える、鋭く射抜くような目で貫かれたチルノであったが、そのチルノは首をひねりながら名乗らせて貰えず落ち込む大妖精の方を向いて、肩をつついた。
「ねぇねぇ、大ちゃん。」
「・・・どうしたの?」
「・・・不倫って何だっけ?」
「ええっ、チルノちゃん、意味を知らずに使ってたの!?」
「あれ、思い出せない・・・けーねに聞いたんだけど・・・・・うーん。」
「不倫って言うのはね、結婚してる人が、結婚してる人以外の人と恋愛する事だよ!仕事って言ってるから、不倫の意味からは外れてるわ。」
「そーなのかー」
これが⑨の所以といった所か、そして悪意も無いのが実に恐ろしい。大妖精にスキンシップの範囲内でぽこぽこ叩かれているが、全く動じぬチルノに魔理沙は余裕たっぷりに話しかける。まるで、小さな子供に話しかけるかのような感じで。
「で、今日は何の用だ。まさか、私達の仕事を邪魔しに来たんじゃないだろうな?」
「そうじゃ無いわ、今日こそはあたいがさいきょーである事を証明するため、けっとーを申し込む!!」
「それ、邪魔になるじゃないですか・・・」
得意気な表情を、堂々とした立ち振る舞いには自身の言うさいきょーの風格が漂っている。真の意味での最強ではない、チルノの信ずるさいきょーの出で立ち。
「あ、2対1じゃひきょーだから、そっちの白黒も一緒にかかって来い!」
そんなチルノを見た真夢は、仕事を邪魔されてはいけないと思い、意を決した。穏やかな顔が、少しだけ険しくなる。秋の風に揺れる白と黒の髪をたなびかせながら、チルノに真夢は凛とした声で答えた。
「・・・お仕事の邪魔をするなら、容赦はしません。」
「そうこなくっちゃ!」
「ほ、ほら、チルノちゃん。私は応援してあげるから、独りで魔理沙さんと戦って来て、ね?」
「いや、それはダメ。あたいが考案した、秘策が試せないじゃないの。上手くいけば、魔理沙をピチュらせる事だって出来る筈・・・大ちゃんと一緒に戦わないと、意味が無いのさ!」
「・・・んもぅ、どうなっても知らないわよ。」
そんなやりとりをするチルノ達を見た魔理沙は、呆れながらも籠を置いて真夢の籠を横において、人形を指輪から召喚する。最愛の妻を模した人形は、スカートを持ちあげて一礼する。
「オヨビ?」
「おう、この籠を護ってくれ。ちょっと、面倒な事になってしまったんでね。」
「イエス、マイダーリン」
「ダーリンじゃないって・・・ハズバンドだろー」
籠の上にアリス人形を座らせて、魔理沙は凛々しい顔つきになった。箒を2、3回握りしめて、戦いに備えるその姿は数々の異変を解決してきた風格が語らずとも漂う。
「よし、一丁揉んでやるぜ。真夢、援護を頼む。」
「ああは言った物の・・・大丈夫ですかね?私、まだまだスペルカード戦は・・・・」
「行けるだろ?チルノと大妖精位なら、一人でも倒せるんじゃないか?」
「いえー、まだまだですよぉ。」
「いや、最近戦った時に感じたんだが、めきめき腕を上げてる気がするんだぜ。」
「一応訓練として、響子さん、村紗さん、それにぬえさんと訓練しました。ぬえさんはスペル一枚がやっとでしたが・・・」
「ようし、上出来。互いに援護する事を忘れるなよー」
「了解です。魔理沙お嬢様。」
その一言で距離を取って飛びあがる魔理沙と真夢、チルノはそれを見て了承の合図と捕えると、その表情がぱぁあと明るくなった。
「ようし、その気になったなー」
「お手柔らかにお願いしますね。」
「大丈夫かな・・・?」
「派手に行くぜ!」
臨戦態勢を整えた4者は思い思いの弾を展開し、放たれたそれを回避していく。最初の弾幕がぶつかり合い相殺された所で魔理沙が真夢に指示を飛ばす。
「チルノは面倒見る。お前は大妖精を。寸断するから、上手く木を使って戦うんだ。」
「はい!」
そう言うなり、魔理沙は高速で距離を詰めてからチルノに弾幕を浴びせる。だがチルノも黙ってやられるほど弱くは無い。大量の氷塊を当たり構わず撃ちこんでくるその姿には、魔理沙も思わず口笛を吹いた。ただ、勢いよく攻撃をしたので、当初の目的である寸断は達成できたので、チルノにそれを覚られぬように、煽っておいた。
「ほう、自称さいきょーの割にはやるじゃねぇか。また腕を上げたんじゃないか?」
「さいきょーだもん、あったりまえでしょ!」
煽りに乗った事にニヤリとする魔理沙、だがそれに気を良くしたチルノの反撃は予想以上の弾幕密度であった。
「氷精もおだてりゃ、派手に撃ちまくるってとこかな・・・」
それでも、魔理沙は動じずスピードを制御しながら、それなりの密度の弾と弾の間をすり抜ける。アリス特製の魔法で編まれた服が自動で展開した魔法障壁が弾を弾く度にチチチという小気味よい音を立てる。弾幕をすり抜け、チルノが攻撃を終えた隙を魔理沙は逃さなかった。
「そこだ!」
狙いを付けて、ナロースパークの一撃を見舞う。掌から放たれた一条の光線が空を切り裂き、正確にチルノを捕えた。が、チルノはその光景を見ても、得意気なままであった。ナロースパークが着弾し、魔力の爆ぜる煙がぶわっと雲のように秋の空に広がっていった。
「ふふふ、私が何も学習してないとでも思ったかー!」
「げっ、偏光させやがったか・・・しかも氷だから熱が殺がれてやがる。」
三妖精と氷精のじゃれあいの後の戦闘で学んだのだろうか、光と熱の魔法を氷によって偏光させた上にその熱を相殺したチルノ。小さく舌打ちをした魔理沙は、チルノの反撃に備えて身構える。
一方、その様子を森の中から窺っていた大妖精は、チルノの無事を確認し僅かに安堵していた。
「良かった・・・チルノちゃん!」
魔理沙の魔法をマトモに貰ったら絶対にタダでは済まないので、無事であった事にホッと胸をなでおろす。木と木の間をすり抜けて行われる高速の弾幕の応酬の最中に、僅かな安心感が生まれる。
「他所見しとったらあかんでぇー!」
真夢の口から、仕事中の目上の人に対する丁寧な口調では無い、普段の客引き風の口調が飛びだした。そして、かつて邪気に駆られて魔理沙達を襲った時のような苛烈な弾幕を繰り出す。ただ、無思慮と言う訳では無く、スペルカードルールの範疇に収まる程度の物であるが。
弾幕をすこしだけ危なげに回避し、距離を詰めて大妖精の移動方向を予測しながら狙いすました一撃を敢行する。
放たれた弾は、一瞬の隙を見せた大妖精を逃さなかった。
「きゃっ。」
「やった!」
放った弾が命中した。直撃弾では無かったものの、効果はあったようだ。これならいける、そのままの勢いで攻撃を続けていると、真夢目がけて大きな氷塊が飛んできた。
「よくも大ちゃんを!」
可愛くも勇ましい声と共に飛んでくる大きな氷塊をすんでの所で交わした真夢はチルノの方へ注意を配らせる。だが、多人数戦において、マークすべき目標から注意を逸らすのは危険な行為であるのには変わらず、またそれを理解している大妖精も注意が散漫になった真夢に攻撃を再開した。
「・・・っと、そういう時は、身を隠せ、と。」
指示通り木を上手く使い、弾幕をやり過ごす真夢。弾幕の切れ目を縫って応戦するも、一度崩された姿勢を立てなおすまでには至っていない。それを勝機と見たチルノは、大妖精に合図を送る。
「大ちゃん、作戦Aで行くよ!!」
「もう、どうなっても知らないよぉ!!ええいっ。」
お得意のテレポートで瞬間移動を繰り返す大妖精。テレポートの合間に飛んでくるクナイ弾が紅葉を弾き飛ばし、真夢を襲う。それだけでは無い、大量の氷塊が上空に出現、ゆっくりと真夢めがけて落下を始めていた。
かかる瞬間移動をする相手に不慣れである事に加え、まだまだ途上な真夢は状況に適応できず、対処に戸惑っているようだ。魔理沙は、上手く連携してくる妖精達に僅かな賛辞を送りながら、真夢に指示を送る。
「上に注意を配りながら、自分の周りの弾を回避する事に専念するんだ。」
「牽制しながら下がります!」
魔理沙の的確な指示により距離を取りながらの攻撃に切り替える真夢。だが、上空から撃ち下ろされる氷塊の爆撃を見ながら、あちらこちらを動き回る標的への反撃は困難を極めた。
「上手くいってるね、ようし、そのまま下の白黒を・・・」
「させるか!」
魔理沙のチルノへの攻撃が成功、氷が飛んでくる事が無くなった。これならいける。そう思った矢先の出来事であった・・・弾幕と弾幕の切れ間にいた大妖精がいつの間にか姿を消していたのは。
「これで魔理沙は隙だらけ・・・!」
「うん、チルノちゃん、今のうちに各個撃破するよ!」
大妖精のテレポート、いきなり至近距離の正面に出現した大妖精に困惑している内にこちらも大妖精のテレポートで移動したチルノが真夢の後ろを取った。気配を察知し対応に当たる真夢であったが、前後からの執拗な攻撃は交わすのがやっと。テレポートで出し抜かれてしまい、慌てて後を追う魔理沙に向かって、大声でこう叫んだ。
「すみません!振りきれないです!!」
「ようし、すぐ追い払ってやるぜ。そのまま木を使って弾を避けてくれ。」
「はいっ!」
高速で木と木の間をすり抜けながら弾を回避する真夢を見ながら、魔理沙は攻撃を加えるチルノと大妖精を自分の魔法の有効射程内に入れる。
魔力を充填し、掌を向ける魔理沙であったが、間で必死に弾を避ける真夢の姿を見てそのチャージを止める。
「まずいな・・・ナロースパークじゃ、真夢を巻き込んでしまう・・・」
ナロースパークだと、射線上の相手を一撃で撃滅出来るが撃滅してはいけない真夢が居るので、撃つ事は出来ない。だからと言って通常弾幕で攻撃するにも、誤射の恐れがある。霊夢のような誘導攻撃を持たない魔理沙は、目標だけにダメージを与える手段に乏しい・・・筈であった。
最愛の妻と連れ添うまでは・・・!
「って、以前の私なら言ってたけど、今は・・・一味違うんだぜ!」
魔法の糸を指輪から伸ばして、チルノと大妖精に気づかれないように繋ぐ。魔法の糸を繋いだ魔理沙は静かに魔法を詠唱し、発動する。
「これでも喰らえっ!」
「へへーん、そんな威力だけ凄いミサイルになんて当たらないぞー」
「待って、チルノちゃん・・・これ、追いかけてくるよ?」
「・・・え?」
交わした筈のミサイルが向きを変えて正確に二人の移動先を捕える。その事に気が付いたチルノの視界が凍りついた。反応が追いつかない事を瞬時に理解したチルノの顔が一気に引きつる。
向きを変えた二発のスターダストミサイルは、魔法の糸を伝って、正確にチルノと大妖精に直撃する。
そう、これが最愛の妻、アリス直伝の魔法の糸を使った誘導である。実りやすいマスタースパークを光線では無くミサイルにしたと言えば分かりやすいか。
ナロースパークには及ばないとは言っても、放たれたのは魔理沙の通常攻撃の中でも高威力のスターダストミサイル。まともに喰らってしまえば、只では済まない。
「・・・おやすみ!」
9色の魔力の爆発、哀れにも秋の空の彼方に吹っ飛んでいく妖精達に手向けの言葉を静かに呟く魔理沙。苛烈な攻撃を受け、疲弊しきったのか木にもたれかかって息をする真夢の方に近づいて、ヒーリングをかける魔理沙。
「頑張ったな。」
「殆ど無我夢中でしたが・・・」
「いやいや、慣れないうちはそうだぜ。私も一杯一杯だった時期がちゃんとある。」
「私も魔理沙さんのようになれるでしょうか?」
「なれるさ、なると言う強い意志さえあれば、な。」
そう言いながらペタリと座り込んで籠の後ろに隠していた大きなお弁当箱を取りだす魔理沙。それを2~3回真夢の目の前で振ってから、ニッコリほほ笑んで木にもたれかかった真夢に返事をする。
「飯にしよう。うちの嫁が沢山作ってくれたんでな。」
「やったぁ。私もお弁当持ってきてますから交換しましょう。」
「お、料理もできるのか?」
「邪気に当てられるまでは色々やってましたもんで。」
「ほう。詳しく聞かせてくれないか?」
「いいですよー。」
静けさを取り戻した魔法の森に、二人の笑い声がこだまする。遅めの昼食・・・愛妻弁当を平らげながら、取りとめのない話をする二人を見守る影が一つ。
「成程ねー。魔理沙の仕業だったか・・・」
買い物かごを片手に下げたアリスが微笑みを残して上空を通過していたのには、食事中の二人は気が付かなかった。
ミ☆
「あー、キャベツ少し値上げしてる?」
「そんかわり今年のは大きいよー」
昼下がりでにぎわう幻想郷の市場。色んな食材が取り扱われているこの市場には、様々な人妖が集う事でも有名である。無論、アリスだって例外ではない。
食べなくても良い魔法使いだけど、最愛の嫁はよく食べるし、自分もそんな魔理沙と一緒にご飯を食べるととっても幸せな気分になるから、こうやって美味しい物を買っては美味しい料理を作る。それも、嫁としての最大の喜びなのだ。
「じゃあ、これとこれとこれね・・・」
「お、流石アリスちゃん。流石良いお嫁さんだね、良い野菜ばっかり選んでる。」
「魔理沙には元気で居て欲しいの。何時だってね。」
「健気だねぇ、じゃあ、これ少しオマケしとくよ。」
目尻を下げて、こっそりオマケをする八百屋の主人。主人は笑顔のまま、袋に入った野菜をアリスに渡した。
「ありがと、おじ様。」
「魔理沙ちゃんによろしくねぇー」
袋に入った野菜を入れた買い物かごを手に下げて、鼻歌交じりで主婦モードのアリスはのんびりと市場を見て回る。
にとりを始めとした河童が作った海産物センター直送の海の魚も数は少ないが扱う店があったり、紫が仕入れて来たであろう外の世界の野菜や肉等も(高値ではあるが)取り扱う店もあり、そのラインナップは実に多種多様。
それを吟味し、買い付けて行くだけでも時間はアッと言う間に流れて行く。
そんな時間も、アリスは大好きだった。最愛の人に喜んでもらえるように、誠心誠意尽くす。二人で笑い合って、夜の団欒を過ごすのも二人だからこその楽しみであり、アリスの一番好きな時間でもある。
そんな時間を彩る美味しい食事の献立に必要な物を揃えて歩いていると、前から見知った人の顔が。
「ごきげんよう、アリス。」
「あら、咲夜。今日はこっちでお買い物?」
「お嬢様と妹様がオムライスが食べたいとせがむ物ですから。」
「成程。と言う事は、鶏肉とニンジンと玉ねぎか・・・」
「そういう事ですわ。」
紅魔館のメイドも、お買い物。腹が減っては、お嬢様達もうー☆とは言えぬと言った所であろうか。リクエストしたのがオムライスである辺りが何ともレミリアとフランドールの性格を表現している。
いつもの瀟洒スマイルを浮かべる咲夜にほーほーとアリスが関心しながら
「オムライスは魔理沙も好きなのよねー。今日は、栗ご飯炊くから和食だけど。」
「あら羨ましい。栗ご飯もリクエストしてましたが、流石にオムライスと栗ご飯は一緒に食べられないでしょう?」
「まさかの栗ご飯を中にしたオムライスとか・・・」
「その手がありましたね。今度やってみましょうか。」
「うわ・・・なんか凄そうな味ね。」
味を想像するだけでうわぁとなりそうなご飯の完成予想図を頭で描く。栗ご飯オムライスという明らかにミスマッチであろうその料理を実際に作った場合に最愛の妻がどのような表情をするのかも想像する。
それでも、アリスの作った物だからと残さず完食してしまいそうな魔理沙が簡単に想像できる。自分の手料理を旨いって食べてくれる素敵な最愛の妻の姿を・・・
想像するだけで顔が自然とにやけてくるが、そんなアリスを見ていた見知った姿がもう一つあった。
「オムライスの中に栗ご飯・・・どんな味になるか予想も付きません。」
「妖夢も・・・って、うわぁ。」
背中にうず高く積まれた食材を見たアリスは思わず呆れてしまった。その量たるや、自分たちの1週間分はあるだろうと思われるほどの大きさである。
「幽々子様が、食欲の秋と宣言してまして、何時にも増して食欲が旺盛なんですよ・・・」
「あらまぁ、ご愁傷様。」
目を閉じて、チーン鐘と鳴らすマネをする咲夜。重い食材をその少し小さな体躯でしっかりと持っている辺りに修業を怠らず誠心誠意取り組んでいる事を窺わせる。横にいる半霊も荷物の一部をしっかり背負っているのには、どこか微笑ましさすら感じる位。
「それは二人で食べるの?」
「ええ、9割が幽々子様だけどね。」
「それだけあればうちなら、1週間はお嬢様と妹様にディナーを振る舞えますわ。」
「レミリアとフランは小食ね。4日位ならパチュリーや美鈴まで賄えるんじゃないの?」
「美鈴は結構食べますからねぇ。それだけ、もっとキリキリ警備して欲しいもんですわ。」
「でも、魔理沙も盗まなくなったから迎撃しなきゃいけない目標が一つ減ったんじゃないですか?」
「それでもねぇ、居眠りしてる門番の風評が立つと第二第三の盗人が・・・ねぇ。」
お気楽な門番の勤務態度に瀟洒なメイドはついつい小言を言ってしまう。ふぅと溜息を付く咲夜の肩を叩くのは、緑の髪の可愛い現人神。早苗は、咲夜に微笑みながら、凛とした声で説明した。
「大丈夫ですよ。この前湖でお仕事してた時に、冗談で一発撃ってみましたが、ちゃんと反応してましたから。」
「あら、早苗もお買い物?」
「はい。今日は神奈子様と諏訪子様に秋刀魚をと。」
「贅沢ねー、今日は何か良い事あったの?」
「いえ、この前の妖怪退治の報酬のオマケなんですよ。湖に現れた、緑の魚竜を静めた時の・・・」
「ああ、成程。でないと右から左に買うのは躊躇われる値段だしね。」
「そういう事です。」
既に買い物をして来たのか、可愛らしい外の世界の買い物袋の中から大根と白ネギがにょきっと出ている。常識に囚われない現人神も今はいつもの佇まいじゃ無く、アリスがかつて外の世界で見たような女の子の格好。一たび妖怪退治を離れれば年相応の少女である。
「うちも家計は気になる所ねぇ。妖夢の所はどうなの?」
「主に食費が凄いです・・・幽々子様、本当によく食べますからねぇ。」
「・・・お金が無いなら儂の出番じゃな!」
煙と共に登場したのは、最近幻想郷にやってきたという狸のマミゾウ。眼鏡を二三回悔いっとして位置を修正した、その若々しく愛らしい表情には似つかわしくない貫禄のある口調で皆に語りかける。
「困っている時はお互い様だからのぅ。ささ、遠慮はいらんぞ。」
「あら、マミゾウさん。今日はここに居たんですね。」
「そうじゃ、今日はぬえの変わりに買い出しも兼ねてな。おぉ、そこに居るのは噂に名高い紅魔館のメイド長か。」
「十六夜咲夜ですわ。ええと・・・」
「二ッ岩マミゾウじゃ。マミゾウでよいぞ。」
「そうですか、以後お見知りおきを・・・」
丁寧な佇まいと瀟洒スマイルは対応の基本。今回の霊廟にまつわる一連の異変に関しては、咲夜は全くの無関係であったためかマミゾウとはまだまだ面識は薄いようだ。
「アリスは嫁さんと上手くやっておるか?」
「うん、大丈夫よ。」
「しっかし、凄い婦々じゃわい。満月の夜に家を付きとめて復讐に行ったら、最初に相まみえた時より遥かに凄まじい歓迎を受けたしのう。」
「あちゃー・・・2人一緒に交戦しちゃったんですか。それはご愁傷様です。」
「ですねぇ、あのゴリアテみたいな凄い魔法を使って来ますからね。よくぞご無事で。」
「若いもんとは鍛え方がちがうんじゃな、これが。」
口調に貫禄はあるが、愛らしいその姿は見た目だけで言えば同じような年齢に見えなくもない。実際はここに居る(半)人達や魔法使いより遥かに年齢を重ねた大妖怪。そんなマミゾウに、アリスは夏の旅行で垣間見た若々しく行動する紫の姿をオーバラップさせていた。
何時だって若々しくて元気、自分もいつまでも最愛の妻に負けぬようにこのまま若くありたいなと、ささやかな願いをアリスは込めながら、マミゾウ達と会話を交わす。
魔法使いも人間も、半人半霊も、現人神も化け狸といった種族の隔たりなしに、和気藹藹と進むその一時は、穏やかそのものだ。
「お主・・・咲夜は何かお困りの事は無いかな?」
「大丈夫ですわ。紅魔館はしっかり運営されております故。」
「そうか。それは何よりじゃ。妖夢の方はどうじゃな?儂とお前の仲じゃから、無利子と言う訳には流石に行かんが、低金利で貸してあげるぞー」
「低金利?じゃあいいです。気持ちだけ受け取っておきます。」
「相変わらずのつれなさだねぇ。食費で困った時は言うんだよ、食べなきゃ生きてくのも大変だしのぅ。」
「大丈夫ですよ、半分死んでますしね~」
「さ、早苗!?それはそうだけど、私だって食べなきゃ辛いですぅ~」
そう言って笑いあう、幻想少女達の井戸端会議。井戸は近くに無いけれど、内容は井戸端会議で間違いは無い。何気ない日常の話題が飛び交う少女達の憩いの場、市場の活気に負けない彼女達であったが、少しだけ空の青が赤に近づいた時に、おもむろに咲夜が懐中時計を取りだして開けて時間を確認した。
「あらあら、お話をしてたらもうこんな時間。御給仕の時間ですわね。」
「あ、もうそんな時間か。そろそろ魔理沙にご飯を作ってあげないと。」
「新婚さんは羨ましいですわね。私もウェディングドレス着てみたいですわ。」
「咲夜さんなら素敵なお相手、きっと見つかりますよー美人ですし。」
「見つかってもお嬢様がどう言うかが問題ですので・・・」
「きっと大丈夫じゃ。そのお嬢様も、きっと分かってくれるじゃろうて。」
「だと良いのですが・・・今度、紅魔館で運動会やりますので、その時にでもお会いになられてみては如何ですか?」
「うむぅ。これまた噂に名高い吸血鬼の姉妹と会えるとはのう。楽しみじゃて。」
見上げる秋の薄い青の空に消える咲夜、他の皆も思い思いの方角へ散って行く。その様子を見届けてからアリスも、魔法の森の方へ向けて大地を蹴る。
―頑張って働く最愛の妻の為に、美味しい夕飯を作ってあげようと思いながら。
ミ☆
すっかり日も暮れ、秋の夕焼けが幻想郷を包む頃。商店が店じまいを始めるのに呼応して、居酒屋や食堂が活気づきはじめた里の一角、道具屋の中でもひときわ大きな霧雨屋の軒先で、キノコを沢山籠に入れてホクホクの魔理沙と真夢、満足げに頷く霧雨屋の主人の姿があった。
「これだけあれば十分だな。いや、十二分か。」
「今日は大漁だったぜ。なぁ、真夢。」
「ええ、歩いて襲ってくるキノコさえ居なければ万々歳だったのですが・・・」
「だが、そのおかげで貴重な黄金松脂を入手する事が出来たんだぜ。」
「これですか?うーん、黄色い松脂にしか見えないんですけど・・・」
葉っぱに盛られた黄色い塊を眺める真夢、横では様々な種族からなる若く見える丁稚が夜のお客さんに備えて支度を進めている。そんな中で恐る恐る黄色い塊に手を伸ばす真夢であったが、素早く魔理沙に制止された。
「ダメだ、真夢、それに迂闊に素手で触るんじゃない!感電するぞ。」
「か、感電!?これ、依玖さんよろしく、ビリビリするんですか?」
「ああ、ビリビリするぜ。しびれるぜー」
「おぉ、こわいこわい。」
葉の上に盛られた黄金松脂をそっとカウンターの上に置く真夢、すると霧雨屋の主が大事そうにそれを木箱に入れて、値札を張ってから再びカウンターに置く。
その書かれた値段を見た真夢は、驚きが隠せなかった。
「私の給料のだいたい4分の1じゃないですか!」
「そうだ、真夢よ、電撃を放つ素材と言うのは希少なのだ。道具屋でも高く取引されるんだぞ。覚えておきなさい。」
「分かりました、メモメモ、と。」
懐からメモを出して色々と書いて行く真夢。その勤勉な姿には、目尻が下がる。魔理沙もそんな様子を見ていると、かつての霖之助が勉強していた時を思い出し、少し頬が綻ぶ。
「霖之助くんのような立派な商人になれる日も遠くないかも知れんな。」
「いえ・・・そんな、私なんてまだまだで・・・・」
「大丈夫だ、此処で働いた丁稚は皆店の旦那や女将をやっている。頑張りなさい。」
「はい!」
ここに至るまで数々の人妖の商人を育てて来た彼は、そんな真夢の姿を見て素直にそう思った。いつかは彼女も何処かで、店を持ち、商いを始めるのだろう。紆余曲折の末に正しい形で自分の元を巣立って行った最愛の娘のように、羽ばたいて行って欲しいという願い。期待に満ちた目を真夢に向けてから、その横にいる魔理沙には慈愛の目を向けながら、そっと封筒を差し出した。
「魔理沙、コレは今日の報酬だ。」
「ありがとう、お父様。大事に使わせてもらうぜ!」
「困ったらいつでも言いなさい。お父さんは、何時だって魔理沙とアリスさんの味方だぞ。」
「うん・・・!」
報酬の入った封筒を受け取って大事そうに胸ポケットにしまう魔理沙。働いて得る報酬の喜び、最愛の妻の為に働いた喜びを噛みしめながら、無事に仕事を終えて、愛する人の所に還る事が出来る事に安堵する。ちゃんと、帰る場所があって、待っててくれる人がいる。その喜びを一通り噛みしめてから、魔理沙は魔法の森の方を向いた。
「じゃあ、何かあったらまた言ってくれー」
「うむ、頼りにしているぞ。」
「魔理沙お嬢様、またよろしくです!」
「おう、じゃあなぁ。お父様、真夢~」
魔法の森で待つ最愛の人の元へ帰る魔理沙を見送る二人、夕焼けの向こうに消える影に何度も手を振って送りだした。
送りだされた魔理沙は、口笛交じりに秋の夕暮れの空を悠々と飛んで、一路愛しの人が待つ恋色の我が家へと進路を取る。トンボの群れと編隊を組んで、真っ赤に燃える太陽を背に受けて、最愛のアリスの元へと一切の寄り道をせずに、文字通り真っすぐに帰った。
魔力施錠に魔力を通すと、僅かに早いタイミングで魔力が通ったのか反対側で施錠が外れる音が聞こえた。アリスが居る、その事に気が付いた魔理沙は、すうっと息を吸って最愛の人にかける魔法の言葉を準備する。
最愛の人に、ちゃんと帰って来た事を告げる、最愛の人同士だからこそ言い合える魔法の言葉を―
「ただいまー、アリス」
「おかえり、魔理沙!」
最愛の妻の姿をお互いに確認すると、言葉を交わすのももどかしく抱擁を交わす。夏とは違い寒い風が吹く秋の空を飛んできた魔理沙のカラダは少し冷たく、厨房で料理を作っていたエプロン姿が良く似合うアリスのカラダはほんのりと温かい。
「寒くない?今あっためてあげるけど。」
「ん・・・アリス、温かいぜ。それに良い匂いがする・・・」
全てを分かち合う恋色の婦々らしい、愛の抱擁を暫く交わしてお互いの体温を十分にあっためてから交わす、おかえりなさいのキス。ちゃんと何事もなく帰って来たよっていう事を確認しあうだけで、二人のココロは落ち着き、お互いがお互いを想う気持ちで満たされる。
「ふぅ・・・アリス、ありがとう。身も心も暖まったぜ。」
「うん、私の身も心もぽかぽかよ。」
この二人の愛情の前には秋の夕暮れの少し冷たい風なんてなんのそのである。十分に暖まった所で、そっと離れて手を繋いで家に入る。人形達が脱いだ靴とおいた箒を片付けてくれる素敵な恋色の魔法のおうち。愛用の帽子をそっと帽子掛けにかけて一息付いた所でアリスが笑顔で魔理沙に尋ねてくる。
「今日はお風呂先に入る?お仕事だったから汚れてるでしょ?」
「そうだな、アリスと一緒に入りたかったけど・・・今日は外で働いたからな。先にお風呂貰うんだぜ。」
「今日は美味しい栗ご飯あるからねー」
「それなら私も、こんなものを拾ったんだぜ。マツタケだ!」
「まぁ、ありがとう魔理沙!」
「上がったら土瓶蒸し、作ってあげるんだぜ。じゃあ、一っ風呂浴びてくるー」
「ごゆっくりー」
着替えを人形から受け取った魔理沙はいそいそと台所から出てお風呂場を目指す。脱ぎ散らかすとアリスに怒られるので、きちんと畳んで脱衣籠へ。二人で入る事を前提にした大きなお風呂から立ち上る湯気を見た魔理沙は、そのまま飛びこんでしまいたくもなる。
「けど・・・アリスに悪いからな。」
その衝動をグッと堪えて、先に身を清めようとかけ湯をする。一日の疲れが流れるお湯と共に、流れ落ちて行き、魔理沙はご機嫌。長い金色の髪を清め、身体を洗い終え、背中を清めようとした時の事である。
「魔理沙ーちょっといい?」
突然、風呂場のドアが開いた。慌てて振り向くと、澄ました顔のアリスがエプロン姿のまま、ゆっくりとお風呂場に入ってきた。その様子に慌てた魔理沙は素早くタオルを身体に巻き付けた。
「ど、どうしたんだぜ?」
食事の準備をするから、一緒に入れないって言ってたのに此処にいる・・・そんな。予想外の事態に魔理沙も赤面する。見られる事に大分慣れているとはいっても、やっぱり恥じらうのが、魔理沙が乙女だと言われる所以であろうか。
そんな様子にも一切動揺せず、慣れた手つきで石鹸とタオルをこすり合わせるアリスは恥じらう魔理沙に声をかける。
「ご飯の準備があるから、一緒に入るのは無理だけど・・・背中は流してあげるね。」
「おぉ、それは嬉しいんだぜ!じゃあ、お任せするぜ。」
「タオル・・取るね?」
「うん・・・」
タオルの後ろがはだけ、白磁のような美しい背中が露わになる。そこにタオルを滑らせるアリスは背中を預けてくれている事に嬉しさを感じていた。
「今日、チルノが吹っ飛んで行くのを見たけど、何かあった?」
「ちょっかいを出してきたから、お灸を据えてやっただけさ。」
「まぁ、怪我は無い?」
「御覧のとおりさ、アリスの服が護ってくれたんだぜ。」
タオルがすべる肌には、傷一つない。つるつるで年齢相応の美肌と呼ぶに相応しい肌を清めながら、無事に帰って来た最愛の妻のために懸命に奉仕するアリス。
「うひゃひゃうひゃ、こしょばいんだぜー」
「ほぉら、ダメよ。じっとしてなさい。」
「そうやって夜も・・・ひゃん。」
「んもぅ・・・」
時折、くすぐったそうにする魔理沙をなだめながらしっかりと背中を洗うアリス。何度も隅々まで触れた事はあるのではあるが、まぁ、こうやってお世話をするのが最近のアリスの楽しみであるので仕方が無い。
それでも抵抗は無かったので、笑う魔理沙を慈しみながらでも背中を洗い終えるのは対して時間は必要なかった。
「・・・ありがと、アリス。」
「どういたしまして、魔理沙。しっかり暖まっておいで。」
「おう、ゆっくりするんだぜ。」
アリスが脱衣所に戻るのを見計らい、湯船にダイブを敢行する魔理沙。飛び跳ねるお湯がミスリルが変化して出来た床のタイルに当たり、弾ける。立ち上る湯気の向こうに見えるのは、天国に居るようなすっかり蕩け切った表情だ。
「あぁーたまんねぇ~労働のあとのお風呂は格別だぜー」
「お湯加減はどう?」
「完璧、一番良い感じだぜ。」
脱衣場から出るアリスに答える魔理沙、大きく伸びをすれば疲れも何処かに飛んでいきそうなそんな感じが、魔理沙の中に芽生える。
ほうと息を付けば、疲れもカラダの外に出て行って、ちょっとした至福の時だ。
「ったく、チルノの奴、頭脳プレイとは恐れ言ったな・・・いつまでも⑨じゃないってことなのか・・・・」
タオルをお湯につけてぶしゅーとやりながら、見上げる天井に想いを馳せる魔理沙、目を閉じれば今日の戦いの記憶が蘇る。凄まじい氷塊を次々に繰り出して来るチルノを見ていると、今が秋である事を忘れてしまいそうだった。
「まぁ、それでもパワーとブレインの前にはもろくも崩れ去った訳だ。チルノもまだまだだな・・・」
「へっくし!」
「あら?チルノちゃんがくしゃみなんて始めてみたわ。」
「風邪を引くのは馬鹿じゃない証拠だよ!えっへん。」
湖のほとりのチルノの住処で、晩御飯を食べながらチルノがくしゃみをした。魔理沙のスターダストミサイルの直撃で吹っ飛ばされた彼女達であったが、その辺は流石妖精、タフである。
「うーん、作戦Aまでは完璧だったのに。やっぱり魔理沙は、侮れない・・・ぐぬぬ。」
「チルノちゃんも強くなってるじゃない、またあの時のように勝てる時が来るわ。」
「だね、大ちゃん!おかわり!!」
負けてもへこたれない。それもさいきょーの条件である。諦めたら、そこで全てが終わってしまうのだから。何度やられても、立ち上がって、何時かは勝利を収める。さいきょーとはそれで良いのだ。決意を胸に秘め、お代わりにお箸を付けようとした時に
「・・・その話、聞かせてくれないかなぁ?」
閉じた第三の目が突如として二人の間に現れた。それに驚いている暇もなく、第三の目を中心として、徐々に人の形が浮かび上がってくる。その顔には見覚えがあった、宴会の時に何度か会った事のあるその顔を確認したチルノは指を指して。
「あ、お前は!?さとりの妹だなー」
「そうよ、面白そうな無意識が見えたからちょっと寄ってみたんだよー」
「無意識?」
「そう、無意識。さいきょーになりたいっていう無意識が見えたんだー」
こいしの紅魔館のフランドールとは全く異なるその雰囲気。フランドールは徐々に丸くなり、今では良く湖の周りを散歩しては釣りに興じる姿も見られるようになってきたが、こいしはその能力の特性上、何を考えているのやらさっぱりわからない。ココロを読める姉のさとりを持ってしても、理解できないこいしの思考。
「うん、あたい、強くなりたいの!さいきょーになりたいんだー」
それでも、物おじしないのがこのチルノ。こいしに向かって真っすぐな瞳を向けると、ほうほうと唸りながら、こいしは
「じゃあ、ちょっと私の話を聞いて?きっと為になると思うわ。」
「うん、聞く聞く。冷たいお茶で良ければ、すぐ用意してあげるわ。あたいのお家だから、遠慮はいらないよ。大ちゃん、折角だからご飯入れたげて?」
「分かったわ。チルノちゃんが頑張って作ったの、お口に合うかは分からないけど。」
「わーい。」
突然の来客にお茶を出して持て成すチルノ、その目はキラキラと輝いていた。一日を精一杯楽しんでいる目を見たこいしは自分の閉じたままの第三の目をそっと撫でてから話を始めた。
ミ☆
「あーん」
「はむ・・・うん、美味しいわ。魔理沙も味見してみる?」
「おう、じゃあ、あーん。」
「あむ・・・おぉ、流石だなアリス!うーまーいーぞー!!」
「ありがとう。でも、此処までね。味見でお料理が無くなったら笑えないもんね。」
「だなー」
お風呂から上がった魔理沙とエプロン姿のアリスは仲良く肩を並べてキッチンに立っていた。秋の味覚の栗ご飯に、マツタケの土瓶蒸しを中心としたちょっとしたご馳走がどんどん完成に近づいてきている。
「良い匂いねぇ。」
「だろ?長年の勘で良い物を採ってきたんだぜ。」
マツタケをあぶりながら、その横で具を入れた土瓶を用意し魔力で灯した火の上に乗せる。ふつふつと土瓶の水面が揺れるのを見ながら、マツタケをひっくり返す魔理沙であったが、この時、煮物を作っていたアリスと手が触れ合ってしまい・・・・触れたアリスの手が熱した土瓶に軽く当たってしまった。
「・・・あちっ!」
「ごめん、大丈夫か・・・って赤くなってるぜ!」
「うん・・・大丈夫、この位どって事無いわ。」
「ダメだぜ、ちゃんと手当てしなきゃ。」
当てた手から伝わるヒーリングの感触。痛みがどんどん引いて行く・・・魔法使いも、痛みは普通に感じてしまうので、こうやって治療を施さなくてはならないのである。魔力のリンクが自然と繋がり、指輪が9色の輝きを放つ。
増幅された9色の魔力は、アリスの火傷を瞬く間に癒してしまった。
「魔理沙、ヒーリング上手くなったわね。」
「アリスが先生だからな。なんだって上手くなるよ。」
「ありがとう、魔理沙。魔理沙の方は、火傷とかして無い?」
「ああ、大丈夫なんだぜ。」
手を包みあう二人、頬も紅葉のように赤くなる。見つめ合う二人のドキドキが加速し始める。
「マスター、ミノリコ‐」
「お、お招きして!鍵は開けるから・・・」
「イエス、マイマスター」
カチャリという音がして鍵が開く。魔法で音を送り、入っても良い旨もきちんと伝える。程なくして、ざるに色々入れて抱えた穣子が、キッチンの中に入ってきた。
「よ、よう。穣子、こんばんは、だぜ!」
「こんばんは・・・って、顔が紅葉のように赤いけど、大丈夫?」
「大丈夫よ、問題無いわ。」
平静を装うが、隠し切れていない様子の魔理沙とアリス。だが、この二人のアツアツっぷりは幻想郷の住人であれば誰でも知っている、最早常識といっても過言ではない。それ故に、これ以上の詮索はせずに
「しかし、どうして此処に?姉妹喧嘩か?」
「違うわ、凄く遅くなったけど、これ、結婚式誘ってくれたお礼。」
「おぉ、山芋じゃないか。」
「それに果物もどっさり!」
「灰汁は抜いてあるわ、そのまま下ろして食べても美味しいよ。」
「それはそれは・・・ありがとなー」
「お姉さんによろしくね。」
「うん。じゃあ、また。」
玄関先まで一緒に出てふよふよと薄闇の空に消えて行く穣子を見送る魔理沙とアリス、貰った物は人形達に分配させて、氷の魔法のかかった箱に詰めておくのも忘れない。そして、手元に残ったバランの葉でくるまれた山芋をしげしげと眺める。
「立派な山芋だな、これは、さっそく食べなきゃ勿体ないぜ。」
「そうね、でも、栗ご飯にとろろって合うかなー」
「いや、とろろにしなくても、短冊にして醤油で食べると美味しいぞ。」
「それよ、早速やりましょう。そっちは煮物が出来たら私がするから、魔理沙は土瓶蒸しを完成させてねー」
「おう。任しとけ。」
各々の役割分担にそって、夕食の準備を進めて行く二人。パワーとブレインを兼ね備えた二人の息は抜群で、美味しそうな秋の味覚をふんだんに使った食事が次々と出来上がり、人形達によってテーブルに運ばれて行った。
「あとは、こいつに酢橘をと・・・くぅー、良い香りだぜ!!」
「ホント、食欲がどんどん出てくる良い匂いね。」
「それは嬉しい限りだぜ、アリス。作った甲斐があるんだぜ。」
熱々の土瓶蒸しを持つためにふわふわのミトンを装着した魔理沙は、酢橘とマツタケの香りが香ばしい土瓶を様々な料理が並んだテーブルにそっと置いた。彩りも豊かな秋の食卓の完成である。
「うーん、旨そうだ。これだけ秋の味覚が並ぶと壮観だな。」
「秋だからこそ、か。やっぱり、季節を楽しまなきゃねー」
テーブルに向かい合って座ると、人形が持ってきたお茶碗にほかほかの栗ご飯をよそうアリス。魔理沙は土瓶蒸しを汁椀に移し替えて、アリスの方へ差し出した。
「ありがと、魔理沙。」
「どう致しまして、だぜ。こっちもありがとな、アリス。」
「ええ。どう致しまして」
笑い合って、歯を見せて、表情だけでのココロとココロのキャッチボール。言葉なしでも交わせるこの素敵な関係に二人は幸せを噛みしめた。
そして、目の前に並んだご馳走を前にして、きちんと手を合わせる二人。暫く無言のまま、今日の糧を得る事が出来た事に感謝をしてから、声を揃えて
―いただきます。
今日も食事を食べられる事に感謝する魔理沙とアリス。当り前のような婦々団欒の光景だけれども、今日もその当り前を得る事ができる事は、何よりも貴い事なのだ。
「栗ご飯美味しいぜ!」
「ふふ、お代わりあるからねー」
「この栗はお前が採ったのか?」
「うーん、そうだけど、見つけてくれたのはこの子よ。」
魔法の糸を繰り、一体の人形を呼びよせる。その人形は、自分そっくりな人形だった。不思議と、半自立行動の際には自分のマネをするというこの人形の手柄を、魔理沙は素直に褒めた。
「ありがとな、マリサ」
「ダゼー」
自分を模した人形を撫でると、帽子を取って一礼、先に座っていたアリスの人形の横に収まる。人形の方も、仲良しなのは変わらない。その仕草に微笑みを交わしてから、夕食に戻る。
「山芋の短冊も美味しいぜ。」
「あ、ホントだ。美味しい。穣子も良いお芋、くれたわね。」
「ありがたい話だよ。結婚式のお礼がこれなら、何回でも開きたいんだぜ。」
「うーん。次やるとしたら銀婚式だと思うからまだまだ先の話ね。」
「だな。そこまで家族仲良く、元気に暮らして行こうぜ。」
「そうね、魔理沙も身体には十分気を付けないと。私もだけどさ。」
「どういう生き方してるかまだ分かんねぇからなぁ。人間でも、魔法使いでも、家族で末永く仲良く暮らしたいんだぜ。」
「魔理沙・・・」
そんな素敵な未来設計をしながら、食卓を囲んで秋の味覚に舌鼓を打つ二人。幸せな未来の姿を語り合う二人の笑顔は、淡い暖かで優しい魔法の照明に包まれ、その輝きを増していった。
ミ☆
「上がったわよー魔理沙。背中、ありがとね。」
「おーう。こっちに来いよー」
「はいはい。」
食事を終えてしばらくの後、お風呂上りのアリスを迎え入れ、お揃いのパジャマを着て並ぶ二人の魔法使い。身を寄せて冷えないようにするのはオールウエイズ。お互いの体温で、お互いに暖を取る二人であったが、まず、アリスが異変に気が付いた。
「どうしたの、そわそわして?」
「なんか・・・カラダがかっかするんだぜ?」
「あら、熱でも出たのかしら?」
そう言ってアリスは、魔理沙のおでこに自分のおでこをくっつけた。熱は無い、だが顔がどんどん紅くなっていくのはすぐに分かる。
「ヤバい、アリスとくっつくといつも以上にドキドキするんだぜ。」
「あ、あの山芋か・・・なんか、私も・・・・・」
「もっとくっついてみる?」
「そうね・・・あ、なんかドキドキが私も凄い・・・・」
山芋の効果は滋養強壮。しかも秋姉妹が懇切丁寧に育てたとびっきりの山芋だから、効果は抜群だ。山芋パワーが魔理沙を突き動かすが、それでも同じく山芋パワーでドキドキが加速するアリスの様子を見ながらじゃれるのが魔理沙の愛情だ。後ろから抱きついて、顔をすり寄せながら少しずつアリスの耳元へ口を寄せて行き・・・
「今夜は・・・寝かさないぜ。アリス。」
「・・・ちょ、ちょっと魔理沙・・・優しくしてね・・・・・・・・」
「大丈夫なんだぜ・・・さ、今日も素敵な夜にしようぜ。」
「んもう、魔理沙ったら・・・素敵な夜を二人で楽しみましょ?」
こうしていつも通りの幻想の日々が終わって行く・・・
小さく囁かれる愛と秋の虫の音色が、夜の帳が降りた暗い魔法の森にすうっと消えて行った。
「あやややや・・・こ、これは、凄い記事に・・・・・あべしっ!!」
その愛の営みを盗み見ようとした烏天狗が、人形達によりフルボッコにされるのであるが、その事実はまだ、幻想の夜の中・・・・
一日と言うのは、様々な物語の集合体。
色んな人妖と人妖の物語が交錯するのが、この幻想の世界。
これはそんな幻想の一日の記録・・・
霖之助
秋の味覚って感じがとても出てて良かったです