――おいで、屠自古。
貴女のお言葉は何時だって急だ。
空を飛んでいる時、書を読んでいる時、目を閉じている時。
ご飯を食べている時、湯を浴びている時、布団に身を横たえている時。
それは、死後も生前も変わらない。いや、前者の方が割合が増えただろうか。
構いはしない。
以前の身体も今の霊体も、貴女のもの。
言うまでもなく、私を私とたらしめる、この心さえも貴女のもの。
構いはしない。そう、構いはしない。
太子様、屠自古は貴女のお気に召すまま――。
「常々そう思い、お傍にいる訳ですが……」
季節は春。
太子様をはじめとした我々が復活して、まだ間もない。
とは言え、通過儀礼云々と称される宴会にも参加し、ほどほどに知人も増えた頃。
「はしたのうございます」
言いつつ、背後から伸ばされた太子様の手を、私はやんわりとはたいた。
「良いじゃありませんか」
いえ、良くないです。
言葉の代わりと目を半眼にし、その行いを諌める。
一拍後、ぽんと太子様がご自身の手を叩かれた。
笑みが浮かべられる。
「良いではないか良いではないか」
なんですかその手つきは。
「そも、これは布都の物です」
「十八に曰く、人の物は私の物、私の物も私の物」
「太子様は先に召しあがったでしょうに」
「突っ込みもなしとは、屠自古ったらつれない」
「はいはい」
因みに、私が手に持ち、太子様が手を伸ばされた物とは、某所から差し入れされたキャロットグラッセだ。
原料の人参は、生前、余り身体が強くなかった布都の好物である。
勿論、当時はそんな食し方ではなかったのだが。
わざとらしく背を丸め「の」の字を書く太子様を残し、私は布都の元に件の菓子を届けた。
「……どうでもよいが屠自古、我が生前口にしていたのは薬用の高麗人参だぞ」
「知っているわ。だから、これも、そう」
「えらく豪気だな!」
面喰いつつもグラッセに齧りつく布都。
次の瞬間には美味い美味いと連呼していた。
彼女が幸せそうで何よりだ。いやいや。
味わって物を食べるのには時間がかかる。
小動物のように啄ばみ始めた布都を残し、私は部屋を出た。
ふと、外から伝わる陽気を感じ、窓の方へと身を寄せる。
柔らかい風に運ばれ、数枚の桜の花が愉快気に踊っていた。
流石に今年は散り始めてしまっているが、来年には満開の桜を見られるだろう。
そう、七分咲きや散り際が良いと言われるが、やはり最も美しいのは満開時だ。
力強くそう思うのは、私が幼いからだろうか。或いは、娘子の頃を引きずっているのか。
――屠自古、屠自古。
ぼぅとしている頭に、太子様の呼び声が響いた。
「太子様、屠自古は此処に」
「時間はありますか?」
「いえ、そろそろ夕餉の準備を……」
「少し外に出ましょう」
「話をお聞きくださいませ、豊聡耳様」
言うと、太子様はにこりと笑みを浮かべられた。
同時に片手を伸ばし、耳を塞ぐ。
もう片手は胸に。
前者はご自身の、後者は私の。
「つまり、その表情はろくでもないことをされる準備動作と捉えて宜しいのですね」
先と同様にはたこうとした手は、しかし、しっかりと掴まれた。
「お気に召すまま」
「……他者に迷惑がかからない範囲でございます」
「ツンツンした屠自古も可愛いですね。寝所に行きましょうか」
なんだこの聖人。
力が抜けた私の手を取り、太子様は外へと歩き出した。
まぁ、そも私たちに栄養を取ると言う意味での食事は必要ないのだけれど。
生前の慣習を忘れられないのか単に食べることが好きなのか、太子様も布都もよく食べる。
この方はともかく布都の場合は完全に後者だろう、などと先の様子を思い出し、微かに微苦笑を浮かべた。
となれば、やはり『少し』程度の外出で控えるべきだろう――引かれる手に否応なく弾む心を感じ、私は自身に無理やり折り合いをつけた。
どうやら、道場を幻想郷に繋いでいたようだ。
誘い出されたと言うことは、太子様には何処か目当ての場所があるのだろう。
太子様がいるならば、何処だろうと構いはしない。
私は太子様についていくだけだ。
尤も、今回に限れば時間に限度はあるのだが。
「ねぇ屠自古」
呼びかけに、視線を向ける。
「さっき、私を『はしたない』と叱ったけれど、屠自古もそうそう言えたものではないでしょう?」
これはどうしたことだろう。
唐突な蒸し返しに、私は目をぱちくりとさせた。
ことの真偽はさておいて、何故今更そのようなことを言い出すのか。
まさか言葉の通り――その先にある真意、と言う意味だが――『だから言えたものじゃないぞ』と揚げ足を取るつもりでもあるまいに。
「違いますか?」
ともかく、返さずにはおられまい。
「私が? 御冗談を」
少なくとも、太子様の御前でそう言う態度を取った覚えはない。
「やってやんよ!」
んがっ。
「あ、あれは! わ、若気の至りと言いますか目覚めたてではしゃいでいたと言いますか……」
「生前に笛の音を無心されたりもしましたね。あの時もはしゃいでいました」
「だって、太子様が笛を吹くと三重の虹が見えたんですもの」
『ホレ早く』とか、けしかけた。
「あぁそう言えば、娘子の頃には泥にまみれて戦遊びをしていたと」
「な!? 何故それを太子様が! あぁいえそれこそ若気の!」
「石上の七支刀を振り回すのはやり過ぎでしょうに」
「布都めぇぇぇぇぇ!?」
「ふふふ」
石上とは物部氏が担っていた神宮で、布都は一時期そこに世話になっていた。
母方が物部の出だったこともあり、私も何度か足を寄せたことがある。
とは言え幼い私に神事が云々などと解る筈もなく、斯様な逸話が残された。
だからって太子様に言うことはないじゃないか。
「あん畜生め、夕餉のおかずを一品減らしてやる……!」
片手を強く握り、私は宣言した。
途端、もう片手を握る手の力が少し強くなった。
太子様が、注意を向けさせようとしている。
そう、道場を出る前からずっと、こうして握って頂いていたのだ。
なんだろう――思い、視線をあげる。
太子様は、柔らかく、けれどほんの少し拗ねたように、言う。
「本当に、布都を慕っているんですね」
私は、口を開き、閉じる。
言葉を返せない。
否定の言葉が浮かんでは消える。
その声が、その瞳が、私を射抜いた。
「一見、邪険に接しているように見えるけどね。
その実、屠自古は布都に甘えているんでしょう。
そう、まるで本当の姉のように彼女を慕っている」
――つまりは、図星だった。
「それを厭う訳ではありません。
勿論、甘えていることを非難するつもりも。
……ただ、私にもそう言う一面を、えぇ、甘えて欲しいのですよ」
目を細め口に笑みを湛え、太子様が、しめた。
あぁ、なるほど。
蒸し返しの理由はそれを伝えたかったのか。
太子様にすれば、その言葉を導くのは容易いことだったのだろう。
しかし、しかし、ならばこの返答も思いの内なのだろうか。
「お言葉ですが。
私をこうしたのは貴女です。
屠自古を童から女にしたのは、太子様です」
確かに私は『はしたない』郎女(いらつめ)だった。
男子のように馬に乗り、父兄と共に戦場に立つことを願った。
しかし、それも太子様の傍に、いや、太子様と出会った時より、霧散した。
今も昔も聖人君子と謳われる貴女の傍にいたいからこそ、今の私がある。
「……酷い殺し文句ですね」
奪った時間は一瞬で、太子様がそう切り返してきた。
どだい、童が大人になると言うことはおしなべてそう言うことなのだ。
小波で少しずつ、大波ですぐさま、何らかの事柄を経緯にして変わっていく。
憧れ、好意を抱き、愛を育む――特別なことではなく、私の場合、それが太子様だったと言うこと。
想いを言葉以上に伝えようと、私は、繋いだままの手を強く握り返した。
「……今の屠自古は私のもの。
これから先も、きっと。
では、過去は?」
それは――応えようとした矢先、手が離された。
すぅと道の先を示される。
「見て御覧、郎子(いらつこ)」
何故の男子扱いか。
問うよりも早く、促された視界を薄桃色が埋める。
それは、桜だった。
満開の桜だ。
呆けたように口を空け、次の瞬間には、駆け出していた。
「凄い、凄い!
速く速く神子様!
見てください、こんな時期に、こんな――!」
あ、と声を零し、顔を下向かせる。
なんとはしたない。
見ても何も、促されたのは私ではないか。
大体『駆ける』ってなんだ、足がないんだから『翔ける』でしょう!
失態を詰る言葉が頭の中でぐるぐると暴れまわり、なに一つ纏まらない。
あぁだけど、あぁ。
つまりはこういうことなのだろう。
今も先も、過去も、私の全てはこの方のもの。
「神子様――」
「おいで、屠自古」
顔をあげると同時、腰を抱かれ、額が合わせられた。
「以前に散策をしていた時、遅咲きのこれを見つけていたんですよ。
屠自古は満開の桜が好きでしょう?
きっと、喜ぶと思って」
結局、全ては掌の上。
「まぁ! どうして屠自古も共に連れて行ってはくれなんだのですか、酷いですわ」
構いはしない。そう、構いはしない。
「おや、これは存外に怒らせてしまった。
どうすれば、どうすればいいでしょう。
応えておくれ、可愛い屠自古。
想っておくれ、愛しい屠自古。
それで私には十分です」
――神子様、私は、貴女のお気に召すまま。
「――屠自古、私は、貴女のお気に召すまま」
そうして、閉じた唇が、長く長く、塞がれた――。
<了>
《名前呼びが婦々婦のサイン》
「ん……。とは言えですね、日中、しかもお外でできるのはここまでです」
「趣があるではないですか」
「……あと、夜中でもお家でも、そこまで激しいことはできません」
「そんな! 折角霊体になって壊れ難くなったと言うに!」
「屠自古!! 幾らなんでもはしたなさ過ぎます! あ、白い脚を絡みつかせないで!?」
「大根足とか言うな。――やってやんよ!」
《末永く爆発しろ》
貴女のお言葉は何時だって急だ。
空を飛んでいる時、書を読んでいる時、目を閉じている時。
ご飯を食べている時、湯を浴びている時、布団に身を横たえている時。
それは、死後も生前も変わらない。いや、前者の方が割合が増えただろうか。
構いはしない。
以前の身体も今の霊体も、貴女のもの。
言うまでもなく、私を私とたらしめる、この心さえも貴女のもの。
構いはしない。そう、構いはしない。
太子様、屠自古は貴女のお気に召すまま――。
「常々そう思い、お傍にいる訳ですが……」
季節は春。
太子様をはじめとした我々が復活して、まだ間もない。
とは言え、通過儀礼云々と称される宴会にも参加し、ほどほどに知人も増えた頃。
「はしたのうございます」
言いつつ、背後から伸ばされた太子様の手を、私はやんわりとはたいた。
「良いじゃありませんか」
いえ、良くないです。
言葉の代わりと目を半眼にし、その行いを諌める。
一拍後、ぽんと太子様がご自身の手を叩かれた。
笑みが浮かべられる。
「良いではないか良いではないか」
なんですかその手つきは。
「そも、これは布都の物です」
「十八に曰く、人の物は私の物、私の物も私の物」
「太子様は先に召しあがったでしょうに」
「突っ込みもなしとは、屠自古ったらつれない」
「はいはい」
因みに、私が手に持ち、太子様が手を伸ばされた物とは、某所から差し入れされたキャロットグラッセだ。
原料の人参は、生前、余り身体が強くなかった布都の好物である。
勿論、当時はそんな食し方ではなかったのだが。
わざとらしく背を丸め「の」の字を書く太子様を残し、私は布都の元に件の菓子を届けた。
「……どうでもよいが屠自古、我が生前口にしていたのは薬用の高麗人参だぞ」
「知っているわ。だから、これも、そう」
「えらく豪気だな!」
面喰いつつもグラッセに齧りつく布都。
次の瞬間には美味い美味いと連呼していた。
彼女が幸せそうで何よりだ。いやいや。
味わって物を食べるのには時間がかかる。
小動物のように啄ばみ始めた布都を残し、私は部屋を出た。
ふと、外から伝わる陽気を感じ、窓の方へと身を寄せる。
柔らかい風に運ばれ、数枚の桜の花が愉快気に踊っていた。
流石に今年は散り始めてしまっているが、来年には満開の桜を見られるだろう。
そう、七分咲きや散り際が良いと言われるが、やはり最も美しいのは満開時だ。
力強くそう思うのは、私が幼いからだろうか。或いは、娘子の頃を引きずっているのか。
――屠自古、屠自古。
ぼぅとしている頭に、太子様の呼び声が響いた。
「太子様、屠自古は此処に」
「時間はありますか?」
「いえ、そろそろ夕餉の準備を……」
「少し外に出ましょう」
「話をお聞きくださいませ、豊聡耳様」
言うと、太子様はにこりと笑みを浮かべられた。
同時に片手を伸ばし、耳を塞ぐ。
もう片手は胸に。
前者はご自身の、後者は私の。
「つまり、その表情はろくでもないことをされる準備動作と捉えて宜しいのですね」
先と同様にはたこうとした手は、しかし、しっかりと掴まれた。
「お気に召すまま」
「……他者に迷惑がかからない範囲でございます」
「ツンツンした屠自古も可愛いですね。寝所に行きましょうか」
なんだこの聖人。
力が抜けた私の手を取り、太子様は外へと歩き出した。
まぁ、そも私たちに栄養を取ると言う意味での食事は必要ないのだけれど。
生前の慣習を忘れられないのか単に食べることが好きなのか、太子様も布都もよく食べる。
この方はともかく布都の場合は完全に後者だろう、などと先の様子を思い出し、微かに微苦笑を浮かべた。
となれば、やはり『少し』程度の外出で控えるべきだろう――引かれる手に否応なく弾む心を感じ、私は自身に無理やり折り合いをつけた。
どうやら、道場を幻想郷に繋いでいたようだ。
誘い出されたと言うことは、太子様には何処か目当ての場所があるのだろう。
太子様がいるならば、何処だろうと構いはしない。
私は太子様についていくだけだ。
尤も、今回に限れば時間に限度はあるのだが。
「ねぇ屠自古」
呼びかけに、視線を向ける。
「さっき、私を『はしたない』と叱ったけれど、屠自古もそうそう言えたものではないでしょう?」
これはどうしたことだろう。
唐突な蒸し返しに、私は目をぱちくりとさせた。
ことの真偽はさておいて、何故今更そのようなことを言い出すのか。
まさか言葉の通り――その先にある真意、と言う意味だが――『だから言えたものじゃないぞ』と揚げ足を取るつもりでもあるまいに。
「違いますか?」
ともかく、返さずにはおられまい。
「私が? 御冗談を」
少なくとも、太子様の御前でそう言う態度を取った覚えはない。
「やってやんよ!」
んがっ。
「あ、あれは! わ、若気の至りと言いますか目覚めたてではしゃいでいたと言いますか……」
「生前に笛の音を無心されたりもしましたね。あの時もはしゃいでいました」
「だって、太子様が笛を吹くと三重の虹が見えたんですもの」
『ホレ早く』とか、けしかけた。
「あぁそう言えば、娘子の頃には泥にまみれて戦遊びをしていたと」
「な!? 何故それを太子様が! あぁいえそれこそ若気の!」
「石上の七支刀を振り回すのはやり過ぎでしょうに」
「布都めぇぇぇぇぇ!?」
「ふふふ」
石上とは物部氏が担っていた神宮で、布都は一時期そこに世話になっていた。
母方が物部の出だったこともあり、私も何度か足を寄せたことがある。
とは言え幼い私に神事が云々などと解る筈もなく、斯様な逸話が残された。
だからって太子様に言うことはないじゃないか。
「あん畜生め、夕餉のおかずを一品減らしてやる……!」
片手を強く握り、私は宣言した。
途端、もう片手を握る手の力が少し強くなった。
太子様が、注意を向けさせようとしている。
そう、道場を出る前からずっと、こうして握って頂いていたのだ。
なんだろう――思い、視線をあげる。
太子様は、柔らかく、けれどほんの少し拗ねたように、言う。
「本当に、布都を慕っているんですね」
私は、口を開き、閉じる。
言葉を返せない。
否定の言葉が浮かんでは消える。
その声が、その瞳が、私を射抜いた。
「一見、邪険に接しているように見えるけどね。
その実、屠自古は布都に甘えているんでしょう。
そう、まるで本当の姉のように彼女を慕っている」
――つまりは、図星だった。
「それを厭う訳ではありません。
勿論、甘えていることを非難するつもりも。
……ただ、私にもそう言う一面を、えぇ、甘えて欲しいのですよ」
目を細め口に笑みを湛え、太子様が、しめた。
あぁ、なるほど。
蒸し返しの理由はそれを伝えたかったのか。
太子様にすれば、その言葉を導くのは容易いことだったのだろう。
しかし、しかし、ならばこの返答も思いの内なのだろうか。
「お言葉ですが。
私をこうしたのは貴女です。
屠自古を童から女にしたのは、太子様です」
確かに私は『はしたない』郎女(いらつめ)だった。
男子のように馬に乗り、父兄と共に戦場に立つことを願った。
しかし、それも太子様の傍に、いや、太子様と出会った時より、霧散した。
今も昔も聖人君子と謳われる貴女の傍にいたいからこそ、今の私がある。
「……酷い殺し文句ですね」
奪った時間は一瞬で、太子様がそう切り返してきた。
どだい、童が大人になると言うことはおしなべてそう言うことなのだ。
小波で少しずつ、大波ですぐさま、何らかの事柄を経緯にして変わっていく。
憧れ、好意を抱き、愛を育む――特別なことではなく、私の場合、それが太子様だったと言うこと。
想いを言葉以上に伝えようと、私は、繋いだままの手を強く握り返した。
「……今の屠自古は私のもの。
これから先も、きっと。
では、過去は?」
それは――応えようとした矢先、手が離された。
すぅと道の先を示される。
「見て御覧、郎子(いらつこ)」
何故の男子扱いか。
問うよりも早く、促された視界を薄桃色が埋める。
それは、桜だった。
満開の桜だ。
呆けたように口を空け、次の瞬間には、駆け出していた。
「凄い、凄い!
速く速く神子様!
見てください、こんな時期に、こんな――!」
あ、と声を零し、顔を下向かせる。
なんとはしたない。
見ても何も、促されたのは私ではないか。
大体『駆ける』ってなんだ、足がないんだから『翔ける』でしょう!
失態を詰る言葉が頭の中でぐるぐると暴れまわり、なに一つ纏まらない。
あぁだけど、あぁ。
つまりはこういうことなのだろう。
今も先も、過去も、私の全てはこの方のもの。
「神子様――」
「おいで、屠自古」
顔をあげると同時、腰を抱かれ、額が合わせられた。
「以前に散策をしていた時、遅咲きのこれを見つけていたんですよ。
屠自古は満開の桜が好きでしょう?
きっと、喜ぶと思って」
結局、全ては掌の上。
「まぁ! どうして屠自古も共に連れて行ってはくれなんだのですか、酷いですわ」
構いはしない。そう、構いはしない。
「おや、これは存外に怒らせてしまった。
どうすれば、どうすればいいでしょう。
応えておくれ、可愛い屠自古。
想っておくれ、愛しい屠自古。
それで私には十分です」
――神子様、私は、貴女のお気に召すまま。
「――屠自古、私は、貴女のお気に召すまま」
そうして、閉じた唇が、長く長く、塞がれた――。
<了>
《名前呼びが婦々婦のサイン》
「ん……。とは言えですね、日中、しかもお外でできるのはここまでです」
「趣があるではないですか」
「……あと、夜中でもお家でも、そこまで激しいことはできません」
「そんな! 折角霊体になって壊れ難くなったと言うに!」
「屠自古!! 幾らなんでもはしたなさ過ぎます! あ、白い脚を絡みつかせないで!?」
「大根足とか言うな。――やってやんよ!」
《末永く爆発しろ》
某漫画一発で分かりました
権力抗争時の3人の話ですか?!楽しみにしてます!