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目を覚ませばそこに、メイドさんが。
「飲む?」
「......、飲む」
目の前にはゆらりと湯気立つ紅茶。
「んむ.......」
「行儀悪いわねぇ.......」
未だにテーブルに突っ伏したままでカップを啜る。
「寝起きなのよね、私」
「ええ、よく知ってるわ」
ぺちりと一つ、頭を叩かれた。
「だからこそ温もりを求めます」
「それで我慢なさい」
「百度近い高温なんて贅沢は言わないわ。欲しいのはそう、丁度人肌くらいね」
まぁ謙虚ねとか言って微妙に距離を取るメイドさん。
「だから今、此処に在る者で我慢するわ、私はね」
「見上げた精神ね、神様だって涙するわよきっと」
「と言う事で、ちょっとこちらにおいでなさいよ」
「却下」
「なにゆえか」
「カップがまだ空ではないからかしら」
「全てを飲んだら温まってしまうじゃない」
「そうねぇ」
「それでは駄目よ、私には人肌以外の温もりを受け付けないわ」
「そう、なら要らないのね紅茶。下げてきますわ」
「待って、紅茶を否定する訳ではないの。温くなれば人肌よね」
「淹れた人間に対する冒涜ね」
嘆かわしい、と芝居臭く目許を伏せられる。
「違うの、人肌になるまでつい我を忘れてしまう温もりが欲しいのよ」
「紅茶、要る?」
「要るけどそんなに高く掲げないで、降ってきそうだわ」
「温まるわよ」
「冒涜じゃないの」
「いい勝負よね」
「負けないわよ」
「やっぱり要らないのね」
「待って、ごめんなさい、要ります飲み干したいです」
「あら嬉しい」
空になったばかりのカップが二度、満たされてゆく。
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「ねぇ。だから、飲み干した私の言う事を一つ聞いてご覧なさいな」
「なぁに」
「腕を貸して」
「腕?」
「そう、腕よ」
「てっきり抱きつかせろ、とか言うものかと」
「私は謙虚なのよ、神様の涙のお陰でね」
「そうみたいね」
しょうがない、と言った顔で差し出された腕に間髪を入れずしがみつく。
「恩に着るわ」
「大仰だ事」
「恩を切るわ」
「恥知らずね」
これは罰が必要かしらと、絡んだ腕ごと引き寄せられてしまい思いがけず身が竦む。
「......嫌なんじゃなかったの」
「言ったかしらそんな事」
「逃げたじゃないさっき」
「淹れ終えたから下がったまでよ」
「むぅ......」
何故だか体よく遊ばれている気がする。
しかし、やはりと言うか。
「丁度いいわ、とても」
そう言って自らもそろり、と抱き寄せる。
「本当、謙虚ね」
「謙虚は駄目かしら」
「いいえ、とても奥ゆかしいわ」
「でしょう」
「このくらいで照れている様だからね」
胸が温かいわ、と。
「......人肌なのよ」
「ええ......とても、丁度いいわ」
そっと、音を立てずに頭を撫でられる。
このままもう一度寝てしまおうか、しかしまた迷惑を掛ける事になってしまうなぁと。
だから。
「......もう、ぬるくなってしまったかしら」
「ええ、きっとさめてしまっているわ」
抱く力を緩められ、その腕でカップを取ると、
「......あ」
「うん、見事に丁度いいんじゃないかしら」
そう言って、してやったりと笑みを向けられる。
「また暇が出来たら淹れに来るわ」
「......ええ」
じゃあ、とティーセット一式を両手に部屋を後にする、しゃんと張った背筋
を見送った。
「......」
残されたカップを一口。
「人肌、ね......」
丁度いい、けど。
「紅茶は温かい方がおいしいわ、咲夜」
彼女が私の為に淹れてくれた紅茶は、特に。
「おかわり」
温い満たし欠けを、また一つ
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やたらと短いこの作品にコメントをありがとうございます
やはり会話メインと言うより会話しかない有様なのでコメントそのものが非常にありがたいです
どうもでした
どちらがどちらの立ち位置に立ってもおかしくないほど似てるんですよね。雰囲気も行動も台詞回しもこの二人は。
最初の一文が額面通り現職を指しているのか、元職が復職しているのか、きっと最後に解答が用意されてるんだろうと。
コメントありがとうございます
最後まで明確な名前を出さずに書いた訳ですが、やはり大した理由は無かったと言う......ええ、雰囲気ですはい
正直長編かもっと練りこんだ話でやったらいい塩梅なんでねかと......ぐちぐちしまする
ともかく、コメントどうもでした
この二人はなんというか、見た目はドライなんだけども内面では濃厚に付き合ってる感じ。大人な雰囲気でイチャイチャされてるともうたまらんのです…
良い咲アリをありがとうございました、続きを期待期待ィ!
あとコメ返しはありがたいのですがなるべく纏めて返すかあとがきに書いた方が良いと思いますよー