Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

神のパースペクティブ

2011/10/16 03:04:42
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(神よ彼らをお許しください。彼らは何をしているのか分からずにいるのです)


 旅立ちの準備は出来ましたか? 
 
 結構。見せて御覧なさい。全く碌な物が詰ってやしないではないですか。がらくたばかり。貴方はこの旅立ちをなんだと思ってらっしゃる。神聖な長い長い、貴方の為の大いなる旅なのですよ。貴方の全てが試されるというのに。全く。この本は何でしょうか。漫画本。全く。いい加減だ。ただ読んでみるだけ読んでみましょう……成程、面白い。結構。それもおつめなさい。ほかには何か持っていた方がいいでしょうね。何が良いでしょうね。貴方、どんな本が好きですか。私はこんなのが好きですけどね。これ、聖書ね。でも何でそんな顔をするんです。戸惑いを滲ませた相貌でこちらを見ないで下さい。まぁ兎に角持っていきなさい。中々良いことが書いてある。生きていくには、きっとそれなりに大切なことが。ただ、こうしたものを読む為の、一番重要なことは何だと思いますか? 判らない。結構。お教えしましょう。

 こういったものは、あまり信じすぎないことです。適度な距離を保つのが肝要なのです。

 他には何を持っていくんですか。そもそも鞄は? 鞄は大きくてしっかりしたものを持っていくのが良いですよ。合成皮なんてみっともないから、こちらのトランクでも持って行きなさい。このトランクは頑丈だが軽くてちょっとした旅行にはうってつけですよ。私も旅行に使っていたのです。え、貰っていいのかって? 構いません。持っていきなさいな。長い長い旅になるんですから。それに私は自分の鞄を沢山持っていますから。一つくらい差し上げますよ。
 衣類は大丈夫ですか。シャツはちゃんとアイロンが掛っていますか。しっかり畳まないと。下着は汚れていませんか。カフスやカラーは持ちましたか。ハンカチーフは? 貴方、これはハンカチーフではありません。風呂敷です。まったく。これを持っていきなさい。いい素材です。良いですか、女性が泣いていたらこれで拭いて上げなさい。ハンカチーフとはそういう風に使うものです。ほら、どうぞ。あげますから。

 ところで、貴方、お腹は空いていませんか。空いていない。嘘仰い。お腹の虫が泣いておりますよ。私の夕餉でよければ差し上げますよ。これ、小町が見よう見まねで拵えたのです。ハンバーガー。下衆な喰い物などと侮ってはいけません。ほら、美味しいでしょう。口の中に広がる脂っぽい感じが素晴らしいでしょう。何百年も同じような仕事をしているとね、こうした下卑た喰い物が時々欲しくなるのです。フライドチキンとか。外の世界にはこうした下卑たものが溢れているようですね。直接見たわけではありませんが。きっと、楽しいところなんでしょうね。
 一回小町と行ってみようかなぁと思っています。遊園地とかいうところ。しかしごちゃごちゃしていて、どちらかというと私は行きたくないんです。遊園地は小町の意見でして。私は映画というものが見てみたいですね。貴方、映画見てみたいですか。私はオードリーヘップバーンとか見てみたいですね。でも、オードリーヘップバーンって何でしょうかね。映画のタイトルでしょうかね。

 そんなことは無い。私は映画なんか興味が無い。ハンバーガーも、何もかも外の世界には興味が無い。と言うのですね。ここの生活に慣れているから、と。気持ちは判ります。成程。

 でも残念ながら、私に貴方の終着点を決める資格は無くて、結局これから貴方が辿る旅によって決まるわけです。貴方の居場所が、この世界の内側か、それとも外側になるのか。だから言ったでしょう。この旅路は重要であると。この旅路は重要です。貴方はこの次、人間か、動物か、万の神か、あるいは妖精か、それとも私達が知りえない化け物か。誰にも判りません。

 では、そろそろ、出発ですね。何、まだ行きたくない? ここにいたい? 成程。確かに貴方にとって、この旅は不安に溢れているのでしょう。結構。面白いお話をしてあげましょう。貴方の不安を取り除く素晴らしいお話を。

 その昔、大きなお屋敷がありました。そのお屋敷には屋敷の主と、可愛らしい子供が沢山ありました。ある日、そのお屋敷が炎につつまれました。そのお屋敷の主は、自分の子供を助ける為、屋敷の外から早く逃げるように声を張り上げます。しかし子供達は遊びだと思ってまったく意に介しません。そこで男は宝石や金銀ちりばめた車を用意して……なんです、小町? 何? これはそういうときに話す話ではない。そんなことは無いでしょう。一回の死神に下らない注意をされるとは冗談ではない、え、いいから話を聞けって……。ふむ、成程。

 結構。
 旅立つ前に、もう一度お話をしましょう。
 ある日男がいました。
 その男はある日銀行強盗をしました。
 貧しい銀行強盗にはどうしてもお金が必要でした。そのお金を強盗した男は、遠くへ逃げました。お金で裕福になった男は、逃げて、顔を変えて、名前も捨てて、自分の何かもを捨てて新しい、生活を手に入れました。
 妻を娶り、やがて子供が二人、生まれました。男は幸せでしたが、ある日子供が男にある言葉を投げかけました。そこで男は言葉を失いました。それは何故か……。小町、これでいいのでしょうか。その答えを考えるのは貴方ですよ。貴方。


 まぁ兎に角、いってらっしゃい。私もちょっと寂しいけれども、それでも誰も辿る道だから。貴方が、またこの幻想郷に生れ落ちるか、それとも映画とか遊園地とか、ハンバーガーで溢れている世界に堕ちるのか、この旅で決まるのですよ。気をつけて。元気で。もし、こちら側の世界に生まれたら、絶対に遊びに来てくださいね。絶対に。貴方はいい魂を持っている。何度も姿を変えたって、変わらない性根というものを、持っているから。きっと大丈夫。
 きっと、どこに生まれたって、幸せになれると思うの。だから余計な事を忘れて、新しくすっきりと、生まれた場所で生きればいいんじゃないかと思っているの。
 私達が交わす言葉は、「はじめまして」に違い無いのだけれども、きっとそれには深い意味が篭っているのだから。

 トランクは持ちましたか。上着も着てください。寒いかもしれないから。大丈夫ですか、長い長い旅になりますから。切符は持ちましたか。結構。

 それに、貴方に持たせた本の、そう、そのしおりが挟んである所。書いてあるでしょう、『私を地上に送りつけやがったバカヤロウは、、いっつも私の近くで恰もストーカーのように纏わり付いており、その偉大なマザーファッカーはどんな悪行を犯しても私のようなクズをお見捨てにならない』って。何故かその言葉が大好きなの。だから、大丈夫。私達は絶対に忘れないから。これは小町が訳してくれたのだけれども。私、意味がイマイチ判らないのだけれども。でも、忘れないでくださいね。絶対。

 だから、いってらっしゃい。怖くないよ。もし生まれ変わっても、絶対にここに遊びに来てね。貴方がどんな形でも、きっと私には判る気がするの。その時は、はじめましてだけれども。でも、普通のはじめましてでは無い気がするの。

 でも、いってらっしゃい。そのゲートを潜れば、長い長い、旅の始まりだから……。気をつけて、良い人生を。
初ジェネリック。
ご感想など頂けたらと思います。
佐藤厚志
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
ふむぅ…
2.名前が無い程度の能力削除
熟成が足りない。
3.名前が無い程度の能力削除
作者様の擬古文の様な、翻訳調の文体が好みでしたので、今作に対して驚いています。
非常にあっさりした印象でした。
作者様の濃厚な次作が楽しみです。ではでは。
4.deso削除
世話焼き映姫様たまらんですね!
ところどころの小ネタが良い感じです。私もこんな風に送り出されたいなあ。
5.名前がない程度の能力削除
こんな旅立ちもある。
6.名前が無い程度の能力削除
いいなあうらやましいなあ
7.名前が無い程度の能力削除
ほのかに暖かい雰囲気が素晴らしかったです。
”トランクは持ちましたか。上着も着てください。寒いかもしれないから。大丈夫ですか、長い長い旅になりますから。切符は持ちましたか。結構。”
特にこの部分が好きです。あと小町の翻訳も。
8.削除
小町の翻訳に惚れたのと、文章の温かさに電車内だというのに泣きそうになりました。
良いお話をありがとうございます。
9.名前が無い程度の能力削除
タグ見てなくて、題名も流し読みしてて、少し読み進めた所で「あれ、俺は何を普通に読んでるんだ?」と場がジェネリックなのを確認して、題名見て、神奈子とかの話かな、と薄ぼんやりあたりを付けて、そして小町の名が出て来たところで映姫様だと気付いたわけですが。
何やら不思議な気分になりますね。なにやら三人が会話をしているのだろうという事以外全く不明瞭。輪郭が見えてこない。
そして旅の概念が、これまたどんな物なのか分からない。大切な事で、誰もが通る事で、でもきっと人生とイコールではない。描写が食い違いますものね。
だからでしょうか、三度ほど読み返して、最終的に映姫様のお優しい事だけは分かりました。
この主人公のそれは良い奴だったであろう事も。
良い奴と良い奴が集まって前向きな事やってるんだから、そりゃほんわかしない筈がないでしょう。
10.保冷剤削除
四季さまっつーのは敵に回すとえらく厄介だけど味方に回れば世話焼き女房に様変わりするもんなんですね。にしても"旅立ち"に聖書とは。距離感の成せる業ですかね。送り出す側から読んでも送り出される側から読んでも、爽やかでもなく、悲壮でもない別離というのは不思議です。ちょっと四季さまが執着しすぎてて可愛らしいけれど。
この別れを小町の側から見たら、どうなるのか。ふとそんな考えが過りました。四季さまのお話はいったいなんの暗示なんだろう……?
ともかくも、この旅立ちに幸アレ。
11.名前が無い程度の能力削除
ぼんやりといい感じ。
12.紳士的ロリコン削除
いつもとちょっと違う作風ですね
このふいんきでもっと長いの読んでみたいかも
楽しそう
13.名前が無い程度の能力削除
なんだろうこれ
14.名前が無い程度の能力削除
自身の最期もこう温かく送られたいものです
15.名前が無い程度の能力削除
旅立ちと再会、祝福の物語といった印象。
とても面白かったです。
16.名前が無い程度の能力削除
何回も読んでしまう