※この物語は甘リアリシリーズの続きになります。
「このフィレオフィッシュと照り焼きバーガー、美味しいわ!」
「こっちのネギ玉牛丼と三種のチーズ牛丼もイケるんだぜ。」
海から帰った私達は、紫が私達たっての希望で用意してくれたファーストフードを食べながら、夜の一時を過ごしていた。伊達に早苗が美味しいですよと言っていただけあり、その味は中々の物で、和食が大好きな私としてはこの牛丼がお気に入り。喉に詰めないように良く噛んで食べていると、紫がフライドポテトが沢山入った箱をすっと差し出して来た。
「この世界では、時間が取れない人の為の食事ですのよ。しかも非常に安いのですわ。」
「でもこの味なら満足だぜ?外の世界の人はいい食事をしてるのが分かるんだぜ。」
「ただ、どうしても味気が無いような気がしますので、私もこっちの世界でお仕事してる時位しか利用しませんのよー」
「ふーん」
紫に差し出されたポテトを齧りながら、目の前に並んだ様々な種類のファーストフードと呼ばれる食事を見まわす。様々な食材が使われており、味付けも様々だ。幻想郷で店出したら確実に連日連夜の大入り満員になるだろう。
この味でも覚えて帰れたらなぁと思いながら、私は目の前のファーストフードを平らげて行く。アリスも負けじと色々食べている、普段からすると食欲は旺盛なようで、何も言わなければ彼女が、実は食事の要らない人間では無い事等を信じて貰え無さそうな位の見事な食べっぷりだ。
「よく食べますわね、アリス。」
「一杯はしゃいだからお腹空いてたのよー」
「あらあら、それは良かったですわ。素敵な海の思い出も出来たみたいで何よりですわー」
「うん、一生忘れたくない素敵な思い出が出来たわ。」
人間であれば年齢相応の若々しい笑みを見せるアリス。これだけ喜んでくれたら、私としても嬉しい限りだ。アリスの色んな表情を見て、ココロを通じ合わせて、まるで夢のような一日を共有できた事は、私も一生忘れはしないだろう。
そんな思い出をココロに仕舞いながら私達は目の前の食事を綺麗に平らげた。お腹一杯になった私達は、大きく伸びをして一息ついた。
「・・・それで、貴女達は明後日の幻想郷への帰還を御望みなのね。」
「ああ。空を自由に飛べないのも不便だしなー」
「それに紫にお世話になりっぱなしもよくないしね。」
「別に良いわよぉ、居たければここにずっといてくれても良いんですのよ?」
「それじゃ、旅行じゃなくなっちゃうんだぜ。」
「それもそうですわね。まぁ、短期間の旅行だからこそ味わえる良さもありますしね・・・」
ピンポーン。と言う音が鳴った、すると紫が何かを思い出したかのように立ち上がり何か機械を操作した。
「はいはーい」
「こんばんわー、宅配ピザのお届けでーす。」
「すぐ行きますわー」
機械を操作した紫は私達の方に向き直り、若々しい微笑みを浮かべながら。玄関の方を指さして。
「宅配ピザ・・・頼んでたのですわ。貴女達に食べて貰おうと思ってねー」
人里の丼物屋でもそれはしてくれるが、あくまでも人里の中限定である。この世界は、妖怪に食われる危険性が全くないから、こう言った事が出来るんだろうなぁ、とも思案する私。
紫が大事に抱えていた3つの箱をテーブルの空いた場所に置き、横からピザを取りだすと焼けたチーズの香ばしい香りが辺りに広がる。大きさも40㎝程あり、普通の人ならこれだけでも満足できそうなピザが三枚姿を現した。
「旨そうだぜ・・・」
「ホント、幻想郷ではこんなの、咲夜くらいしか作ってるの見た事無いからねぇ・・・」
「まま、咲夜の物に及ぶかどうかは分かりませんが、とりあえず召し上がれ?」
「「頂きまーす!」」
大きさには少々焦ったものの、海での魔法人形劇で魔力を消費していた私達の食欲は旺盛で、ゆっくりと味を満喫しながらピザを平らげた。お腹がしっかり膨れた所で、ソファーに並んで腰かけて肩を組む。海から帰ってお風呂に入りはしたがまだ潮の香りが微かにする髪が触れ合って、ドキドキが加速する・・・
そのドキドキが、凄まじい勢いで私の全身を駆け巡るのが分かった。
傍らに居る人への様々な想いが駆け廻っていって、ココロがすっごい勢いで跳ねる。もっと近くに居たいなぁと思った私は、そっとアリスを近くに寄せた。
目を閉じて、海で感じたようにお互いの鼓動を感じあう。潮の香りがする髪を梳きあっていけば、不思議とドキドキが落ち着いて行く、が。
「おぉ、あついあつい。新婚さんだから当たり前といえば当り前かぁー」
「「!!」」
紫が胡散臭い笑みをこっちに向けてきた。横ではTVが真面目そうな声が、国会がどうだとか解散や辞任がどうだなどといった意味の良く分からない事を淡々と読み上げている。
その声と胡散臭い笑みのコンボは折角のムードをぶち壊すのには十分だった。頬をくっつけて、紫を二人揃ってジト目で見つめる私達。すると、紫はパッと扇子を開いて一度謝ってから。
「新婚さん、どうせなら明日は宿を取ってみては如何です。もうこの世界の勝手にも慣れたでしょ?」
「ああ、そうだな。一回外の世界のお宿も見てみたいんだぜ。」
「そうね、幻想郷でも色々あるけど、外の世界のはきっと進んでるんでしょうねー」
そう私達が口々に言うと、紫が香霖の所にあったパソコンに良く似た機械の方へ向かい操作をした後、携帯を片手に自分の部屋に潜ってしまった。
5分程してからホクホクの笑顔で、紫が部屋を飛び出して来るなり、私達にむかってこう言った。
「はい、明日はとびきりの宿を二人の名前で予約しておきました。地図はこれですわ。」
私達の前にそっと地図を置く紫、港の近くにあるかなり凄いホテルのようだ。外観の写真を見たアリスは、綺麗だわと何度も言っている。
「私の家で一通りの機械の使い方は覚えてるでしょ、もう心配はありませんわ。明日うんと楽しんで来て、最後の夜を過ごしてもらってから、幻想郷に帰還しましょう。」
「サンキュー紫、このお礼は必ずするんだぜ。」
「お礼には及びませぬ・・・次代の幻想を担う元気な魔法使いを、お願いしますわ。」
真っ赤になる私達、顔を見合わせてしばらく硬直する。その様子を暫くは微笑ましく見ていた紫は、何かを思い出したかのように表情を変えて、踵を返した。
「・・・幻想郷に戻ります故。今日は藍と橙にフライドチキンとビスケット、買って帰ってあげる約束してましたしね。」
「そ、それもファーストフードか?」
「Exactly、これからこれ持って帰るのよ。」
どこからか取り出したバスケットを二三回振ってから、足元に隙間を出現させてそこに入ると、同じ場所の上に隙間が開いて、いつもの服に着替えた紫が姿を現した。外の世界でこの服でうろつくと確実に視線がそっちに行きそうな独特の意匠の服を身に付けた紫は暫く私達の方を見て、踵を返す。
そんな紫に、私はこんな質問を・・・敢えてしてみた。
「やっぱり、家族って・・・いいもんだよな?」
八雲一家としばしば称される式神達との暮らし。私が知る一つの家庭の形を紫はどう思っているのか・・・私はそれが気になった。隙間を開いた紫は、パッと扇子を閉じて、私の方を見て来た。
「ええ、とっても、とっても楽しいですわ。」
胡散臭さが消えて、まるで母親のような表情をする紫。種族は違うし、親子でも無いけど、藍と橙との暮らしは言う通り楽しい生活なのだろう。隙間に消える紫を見送った私達は、暫くそのままで、色んな事をお喋りしたりして食後の一時を過ごしていたが、満腹感と泳いだ後の独特の倦怠感が私達を容赦なく襲い、睡魔を呼び起こす。
「そろそろ寝ようぜ、海で体力、使っちゃったんだぜー」
「そうね、そろそろ寝ましょうか。」
先に立った私が、アリスの手を引いて立たせてあげる。そして、ゆっくりとした足取りで寝室に向かう。寝室に付いたら、アリスをそっと抱きかかえて寝かせてあげて、それから私もベッドに潜り込む。
「あぁ、心地いいわ。」
「私もだぜ。アリスの傍だと余計にそう感じるんだぜ。」
「もぅ、魔理沙ったらぁ・・・」
目と目が合って、吸い込まれるように寝る前に必ず行ういつものお休みの前のキスを交わす。共に生きている事を確認して、明日も共に生きていく事を誓いあう私達の特別な時間。
でも今日は、なんだか離れたくない。ドキドキが加速していくのを感じる、海であんなにロマンチックになったから・・・このままアリスともっと深く愛を深め合いたいなぁと思う自分が居る。一分ほどしてから唇を放して、ぎゅっと抱きしめあってそっと耳元で
―愛してる。
耳元に山彦のように帰ってくる愛しの人の返事を聞きながら密着して。カラダっていう境界線が邪魔になる位にココロとココロが触れ合うのを感じる。もう一度キスをして、そっとアリスのパジャマのボタンに手を伸ばしてみた。ドキドキの余り手が少し震えてしまっている・・・
服越しに伝わるアリスの鼓動も凄い。背中に回った手が私をしっかりと抱き寄せてくるのが分かる。が、いつもと違うのはある程度の所で、トントンって背中を叩いてきた点。
それに気が付いた私は、すぐに手を止めてアリスの方を見た。
「魔理沙、もしかしたら紫が・・・・・」
その一事で我に帰る私、そうだった。ここは自分の家じゃないんだ。両手を繋いだまま離れて繋いだ手を顎に当てる私、アリスもそれに習って鏡のようにポーズを取る。いつもの冷静な表情に戻ったアリスに、私もいつもの表情に戻してから話を続ける。
「むぅ、やはりアリスもそう思うか。」
「ええ、相手は何時だってこちらの事を見てるだろうし。まして、紫のテリトリーの中よ?ムードは凄く良かったけど・・・」
「場所が悪かったな、ゴメン、アリス。」
「ううん、気にしないで。私も・・・ドキドキしてて、その・・・制御できなくなりそうだった・・・・・」
「アリス・・・」
「だから・・・その、明日、ね。」
「あ、ああ。そ、そうだな・・・・」
そうはにかみながら言い合ってから頬を撫でて、片手だけ繋いでそっと横になる。煌々と灯る電気の光は、ただ静かに私達を見つめている。太陽や、魔法の照明のような独特の温もりが感じられない、その灯りを見つめてココロを沈めた私達は、また顔だけ向かい合わせてニッと笑いあう。
「今日の海の事・・・夢に見れたら良いなぁ。」
「素敵な夢になるだろうなぁ。アリスと一緒に過ごした思い出、一生忘れないぜ。」
「私も、一生忘れないわ。こんなに素敵な思い出を・・・ありがと、魔理沙。」
「どういたしまして、だぜ。よっと」
リモコンを触り、照明を落とす私。照明を落として、また抱き合ってから、目を合わせる。
「じゃあ、今日はおやすみ、だよ。アリス。良い夢を見てね・・・」
「ええ、魔理沙もね。」
そっとおやすみの口づけを交わして、二人で見て、感じて、共有した海の思い出を胸に、私は目を閉じる。
傍らにいる愛しの人の温もりはまるで海のような優しさを湛えている。
時には押し寄せる波のようであり、時には引いて行く波のようなアリスの優しさがとても心地良くって。
この優しさをアリスも感じてくれてたらいいなぁと思いながら、私は目を閉じたまま眠ろうと懸命の努力を続けていたが・・・
ドキドキして・・・眠れない。
普段なら疲れてるので眠れるが、今日はどうにも目が冴える。
「んーむ」
そうひとりごちて私はアリスが横で寝ているのを起こさないようにそっと身を起こした。冷蔵庫に向かい、中にあったお茶を洗って伏せてあったコップに注いでグイッと飲み干した。お茶の冷たさがジワリと全身に広がるが焼け石に水。全身に広がるアリスへの想いとか愛が、未だココロの中で炎のように燃えているのに気が付くのはすぐだった。
「・・・アリス。」
客人であるが故の礼儀もあるし、何より紫が見ている可能性があるとなれば・・・アリスと激しく愛を語り合うのははばかられる。それにそんな状況でそうしても、アリスが絶対嫌がるのはよーく知っている。
欲だけでそんな事をしたら、きっとお互いに傷ついてしまう・・・私だって、だぜだぜ言っては居るが女の子なのでその辺は痛いほど理解しているしね。そっとお茶を仕舞ってから、私は、アリスの横顔だけでも眺めていようと思いまた寝床に戻る。
「良く寝てる・・・」
目だけ閉じていても、傍らに居る時に感じる独特の心地良さは変わらない。寝顔を見ながら、私は身体を休める事に専念した。
~Day.3・最愛の人と、一緒に~
「すごく固そうで・・・大きい・・・・・」
「あぁ、こんなのとは実際に見るまで思わなかったんだぜ・・・すげえな。」
「こんなの入るのかなぁ・・・?」
「入るさ、こうやって屈んだら・・・・ほら」
「あっ、ホントだ・・・・」
「じゃあ、頼むぜ、アリス。」
「うん、じゃあ・・・行くわよ、魔理沙!」
そして、私はシャッターを切った。デジカメの画面の先には、青い色をした独特の風体のゴリアテ人形並の大きさを誇る人形の雄々しい姿と愛しの妻の姿がそこにあった。
此処は長田という神戸の丁度真ん中あたりの町。旅行前にゴリアテ人形並の大きさを誇る鉄の人形があると聞いていたので、ドキドキして寝付きにくかった一夜の後、遅めの朝食を素早くかっこんで至る・・・と言う訳である。
「今度は私も撮って欲しいわ。」
「よしよし、任せるんだぜ。」
駆けてきた魔理沙にカメラを渡して、私は人形の足元に駆ける。大きなおみ足に手を添えて、ちょっとだけお洒落に決めて魔理沙の撮影を待つ。
「はい、バター」
「ってちょっとぉ、いきなりそれは無いでしょー」
「チーズは昨日飽きるほど食べたからなぁ。うん、良い顔だ。自然な笑顔になってる。」
悠然と歩く魔理沙が、ニヤニヤ笑いのままデジカメの画面を見せてくれた。そこには屈託の無い笑みを浮かべる私の姿があった。その笑みを見て私は、自分もこんな顔が出来るようになったんだなぁと実感する。
昔はもっと無表情だったように思うけど、魔理沙とこうやって結ばれる過程で泣いたり、笑ったりする事を知った。そして、それを素直に出せるようになった、素直に出せるようになって、共有できるようになるとそれだけでも幸せになれる不思議な魔法。
「ん、良い顔。今度は二人で取りましょ?」
「ようし、それは名案だな。そしたら、このスタンドの出番なんだぜ。」
簡易スタンドをバックから取り出して、カメラに装着。大きな人形の全体が収まるように、角度を調節して設置する魔理沙。ついでにバッグから頭だけ見せている上海を撫でる。
いざと言う時の防犯対策になるので、忍ばせているのだ。
「よし、タイマーをセットして・・・これで良いんだぜ。アリス、位置を合わせるから人形の近くに行って欲しいんだぜ。」
「うん。」
人形の方へと向かい、魔理沙が指示する場所に立つ私。魔理沙が隣に立てるように、手を横に出すのも忘れない。愛しの人がきちんと準備を終えると、小走りで私の方へやってきてその手の所に収まる。
「タイマーは何秒?」
「30秒だぜ、まだポーズを考える余裕はあるんだぜ。」
「やっぱり、オーソドックスに、これよねー」
Vサイン、ふむと魔理沙はにかっと笑って私にくっついてVサインをする。その笑顔に私のドキドキが加速していくのを感じる。
本当に、好きで好きで。その気持ちが昨日、寝床で暴走しそうになったけど・・・何とか踏みとどまれた、アレでもし二人して暴走してて紫が見ていようものなら末代まで語り継がれよう。それだけはどんな理由があっても避けねばならない。
そんな風にココロの中でモジモジしていると、目の前のカメラのランプが小刻みに点滅するのが見えた、私も魔理沙に負けない笑顔でVサイン。
小気味良い音と共に、この一瞬が切り取られて後世に残るカタチある物になる―
「撮れたみたいね、見てみましょうか。」
「おう、可愛く撮れてるかなぁ・・・」
「ん、魔理沙可愛い。やっぱり笑顔が似合うわー」
「それはアリスだってそうなんだぜー」
じゃれあいながら近くにあったベンチに腰掛けて、写真に対する批評をする私達。夏の日差しは相変わらずだったけど、そんなのも気にならない位に二人の世界に入っているのを感じる。昨日の夜もそうだった、感情を共有するうちに、ドキドキしていって・・・愛する人の気持ちをもっと知りたくなる。
でも、それは紫が見ている可能性を危惧して私は我慢した。勿論自宅なら、そのムードに委ねあったりしながら、愛を分かち合っていたと思う。余談だが、魔理沙はああ見えて、そういう時にだぜだぜ言ってがっつかないのだ・・・寧ろ女の子としての自分をさらけ出している。本当に私の事を信じているからこそ出す、彼女の本当の姿・・・その気持ちに答えてあげたいなぁっていつだって私は思っている。
そんな思考を巡らせていると、急に欠伸がしたくなってきた。と、言うか・・・少し眠い。
「ふぁあ・・・」
「どうしたアリス、寝不足か?」
「うぅん、大丈夫よ、魔理沙。」
微笑んで返す。何度か目をしぱしぱさせて、魔理沙の方を見る。魔理沙も何処となく眠そうだ。昨日の夜、一度何処かに抜けだしたのを知っている・・・そう、私も起きていたのだ。魔法使いの眠らない睡眠を取る事しか出来なかったのだ・・・
「魔理沙の方こそ寝不足じゃないの?昨日、興奮してたんじゃないかなぁって。」
「う、うぐぅ。そ、そんな事は・・・無いんだぜ!」
「電車の中で寝そうになってたし、説得力が無いわよー」
「言ったなぁ、この、うりうり!」
「ちょっと、いきなりほっぺをつつかないでよぉ。へっこんじゃうでしょー」
目には目を、ぽっぺにはぽっぺを。冗談を言いながら魔理沙のぷにっとした頬をつつき返したりする。それを自然に受け入れられるようになったのも、私のココロの変化。普通に接するのも勿論だが、冗談を言い合ったりするのも大好きな一時。ただストレートな愛を投げ合うだけじゃ勿体ない、私達ならではのココロのキャッチボールは、変化球も飛び交う多彩な物。色んなココロを交換できるからこその素敵さ・・・魔法では絶対に得る事の出来ない幸せである。
周囲に人が居なかったので、幻想郷のような調子でじゃれた私達だったが電車の通る大きな音にびっくりして、じゃれあうのを止める。名残惜しかったけど、じゃれてばかりではいけない。びっくりした影響で目も覚めたのか、いつもの元気な眼差しを私に向けてきた。
「今ので目が覚めたんだぜ、今日は彼方此方見て回るから眠いなんて言ってられないんだぜ?」
「そうね。それにお土産も買わないといけないしね。素敵な夜の為には、素敵な昼も必要だし・・・」
「・・・ごもっともだぜ。」
頬を少し赤らめて応える魔理沙。明日の朝には、外の世界から幻想郷に帰ってしまうので今日は実質外の世界で過ごす最終日。だから・・・今日は素敵な一日にしたいなぁって思ってる。
たった一度しかない、今日と言う日。
魔法使いを辞めて、人間に戻る事も視野に入れているので人間に戻った時の有限の時間も意識する今の私。逆に魔理沙は魔法使いになった時の事も意識してるのかなぁ?でも魔理沙は、魔法使いになっても今までと同じように日々を過ごすんじゃないかなって思う私も居る。
ココロはその人だけが持つ根幹、種族の差がココロに影響を与える事はあるかもしれないけど、魔法使いになっても魔理沙は魔理沙だし、人間に戻っても私は私なのだと思う。そのココロ同士が惹かれあって、結ばれている事が・・・とっても尊く思えてくる。
そんな愛しの人が表情を元に戻して、いつもの元気一杯な表情で東の方を指差した。
「じゃあ、そろそろ三ノ宮に行こうか。お土産探しに行こうじゃないか。」
「ええ、魔理沙。皆に良い物、買ってってあげましょ?」
「それもあるが・・・できれば、機械を買って帰りたいんだぜ。紫や早苗のとこにあるようなのがあれば、きっと家事が楽になるんだぜ。」
「うん。作業効率を上げるのは重要だしね。一緒に家事をするのも楽しいけど・・・」
「一緒に機械を使って家事をすれば、また違った楽しみがあると思うんだぜ。なーアリス。」
「そうね、魔理沙。行きましょう。」
「おう」
そして、立ち上がって手を繋ぐ。最初は抵抗があったが、この世界の女の子も仲良しの子同士で繋ぐ習慣はあるようで、それを知るとちょっと恥ずかしくても魔理沙とこうしていたくなる。そんな調子で駅へ向かっていると、魔理沙のお腹が鳴った。
「やべ・・・腹減ったんだぜ。」
「まぁ、もうこんな時間かぁ・・・時間が立つのって早いわね。」
「朝出るの遅かったし、此処に来るまでに商店街もぶらついてたからな。」
「この世界観的に言えば、時間が早く立つのも孔明の罠かな?」
「私達の愛の時間を短くする計略なんて許すまじ、なんだぜ。」
そんな魔理沙を見ていると、私もお腹が空いてきた。この世界でこうしていると、なんだか人間のような感じがする。お腹がすいたらご飯を食べて、眠くなったら眠る・・・私が魔法使いになって棄てた事なのに、それがとっても幸せな事なんだと実感する。
魔理沙と一緒にその感覚をまた味わって生きたいなぁと
「元町にチャイナタウンがあったな、そこでご飯にしようぜ。」
「ええ、名案ね。そこから三ノ宮なら歩いて行けるし、夕飯前の良い運動になるわ。」
「よし、そうと決まればレッツゴーだ!」
「ええ。」
たった一度の人生、愛する人をできるだけ傍で感じていたい。繋いだ魔理沙の左手に輝く9色の愛の証を二人で見つめてから、笑い合って私達は長田を後にした。
ミ☆
元町のチャイナタウン・・・南京街で食事を取った私達は満腹のお腹を引きずりながら徒歩で移動する事15分余り、そこにある紫に教えてもらった大きな電機屋に入った私達。そこは幻想郷では絶対にお目にかかる事の出来ない代物がずらりと並んでいる。
「す、すげー!!」
「ちょっと、魔理沙・・・声が・・・・・」
ついついはしゃいでしまう私だったが、アリスがきっちりブレーキを踏んでくれた。それで我に還った私は、すぐにアリスに謝る。
「すまん、つい・・・凄過ぎてはしゃいじゃったんだぜ。」
「気持ちは分かるわ、私だってはしゃぎたくなる位だし。」
「でも、声には出さねーのな。」
「ええ。ココロの中でだけ、ね。」
きらきらと目を輝かせる最愛の妻は、いつだって自分のペースを崩さない。ともすれば暴走しがちな自分をしっかりとカバーしてくれる。
私はそんなアリスに済まないなぁと言う気持ちを胸に秘め、興奮を抑えながら、沢山並んだ家電製品を二人で吟味していった。
「大きいのは持って帰るのに苦労しそうだぜ。」
「そうねぇ。あと、使い道を知ってるものじゃないとねー」
欲しい物は一杯ある・・・というか、此処に在るのは蒐集家たるものとしては全て欲しいのが事実。が、大きな冷蔵庫だとか、洗濯機などを持って帰るとなると大変である。これからまだまだあちこち回るのにそんな大きな物を持って回れるほどの筋力は流石に無い。
何を買おうか迷っていた私であったが、ふと一つの物に目が行った。
「あ・・・これ?」
それには見覚えがあった。上半分しか無いが、アリスが持っている足踏み式ミシンに酷似している。すぃーと自然と足がそっちに伸びて、その機械に近づいて行く。その機械の前に踊っていた文字を見た私は、やっぱりそうだったかと頷いた。
「魔理沙―、何処行くのー?」
「あ、いやぁ・・・少し面白そうなモノを見つけたもんで。これなんだが。」
手招きするとアリスが小走りでこちらに近づいてくる。私がコレコレと目で合図を送りながら、ミシンのような機械を指差した。
「ふーん、あら、これって・・・」
「そう、外の世界のミシンだ。ほら、ここに全自動式ミシンって書いてあるだろ。」
「あら、それは凄いわ。これは是非使ってみたいわね・・・」
「店員に聞いてみないと分からんけど・・・済みませ~ん」
近くにいる店員を捕まえて、事情を説明する。すると店員は快諾し、ディスプレイされたそのミシンの横に小さな布切れを置いてくれた。
「では、どうぞー」
「よし、じゃあ・・・やってみるわ!まずは足踏み式ミシンと同じようこのペダルを、と・・・」
「はいそうです。ここを足で踏んでスピードを調節するんですよー」
「こ、こうかしら。きゃっ!」
小気味良い可動音がしてミシンが動く。自宅に在る足踏み式ミシンと比較して、急減速等が出来る分、こちらの方が高性能である。そんな高性能なミシンは、瞬く間に布切れを縫い上げてしまった。
「まぁ、凄い!こんなに早く仕上がるなんて!」
「それだけじゃございません、ジグザグ縫いや、ボタンホールの作成等も簡単に出来るんですよ。」
「えっ、えっ!?それってホントなの?」
「ええ、こちらのダイヤルを回して頂ければ・・・」
「わ。こんな事まで・・・これは素晴らしいわ!」
店員の指示に従ってダイヤルや抑えを交換したりしながら色々縫うアリス。元々衣類作りの為にミシンを使いなれたアリスは、早々にコツを掴んだようで、置いてあった布切れを人形用のTシャツに作り変えてしまった。糸絶ち鋏とミシンのみでこんな事が出来るのは私が知り得る限り、アリスしか居ない。
店員が目を白黒させていたが、アリスはすっかりご満悦のようだ。満足な笑みを浮かべてから、私に向かってこう語りかけて来た。
「これ、凄く良いわ。私、欲しい。」
「分かった、アリスのお土産はこれでいこう。」
「嬉しい、これでもっと一杯服を作れるわ!」
喜ぶアリス、これは偶然とはいえ良い物を見つけたなぁと我ながら思う。今までのミシンでも十二分に素晴らしい服を作っていたが、様々な機能のあるこのミシンを使えば、きっと素敵な服をどんどん作ってくれるだろう。そんな期待も寄せながら、私達は物色を再開する。
「今度は魔理沙の機械ねー」
「私は、何にしようかまだ迷ってるんだぜ。欲しい物が一杯在りすぎて困るんだ。」
「そうねぇ、ミシン選んでくれたから、お返しに私が選んであげよっか?」
「おぉ、アリスのオススメか。それもスゲー魅力的なんだぜ。」
「私に任せなさい、魔理沙の気に入りそうなの、選んであげる。」
鼻歌交じりに私の前に立つアリス、彼方此方歩きながらうーんと何かを呟いたり上の案内を見たりしながら行動する。そして、ある物を見つけたアリスは、私の方に向き直って。
「やっと見つけたわ!」
「おっ、どれだ。」
「魔理沙には、これが良いなって思ってたのよ。」
手を引いてくれるアリス、その先に在るのは・・・早苗の所で見た事のある機械だった。主に早苗が室内の掃除をする時に使用していた掃除機である。
「これは・・・掃除機か。」
「片付け、めんどくさいでしょ?これがあれば一発よ。」
「だな、ありがとう、アリス。これは非常に嬉しいんだぜ。」
お掃除が苦手な私の事を想うアリスの優しさ。昔の私ならほっとけと、つっけんどんにあしらっていたのかも知れないが・・・今は違う、お互いに踏み込んでこう言う事を言い合って、それを認めあえるようになった。
愛し合うからこそ、信頼出来るからこその、このやりとり。婦々ならではの会話を交わしながら、私達は機械の会計を済ませた。
「さて、念願の機械も買えた事だし、これからどうする。」
「そうねぇ、色々回ってみたい所はあるけど・・・」
地図を広げるアリス。あちこちに観光名所があるが、全部回っていてはホテルのチェックインの時間に間に合わない。非常に悩ましい選択を迫られる私達であったが、不意にアリスが話を切り出して来た。
「最終目的地が神戸にあるホテルニューオークラだから、このままここの商店街を歩いて渡るのも悪くないんじゃない?一杯お店があるし。」
「それいいな、お土産探しも出来るし、一石二鳥だぜ。」
「そのついでに面白そうな場所があったら寄れば良いのよ。歩いてこそ、分かる物もある筈よ。」
「流石アリス、ナイスな判断だぜ。」
電気屋を出た私達は、それぞれ買った物を持って歩み始める。途中、手ごろな物陰に隠れて、紫を呼び出して買った物をスキマ輸送して貰うのも忘れない。
「あらぁ、良い物買ったじゃない。」
「お互いに選んであげたんだぜ。」
「掃除機もミシンも便利な物だし、幻想郷においても特に問題無いわ。河童に改造してもらって、使うと良いわ。」
掃除機とミシンが入った箱を持った紫が隙間に消えたのを確認してから再び歩み出す。途中、博物館に寄ったり、お土産となる美味しそうなお菓子を買ったりしながら神戸の昼下がりを満喫する。
「ホント何でもあるのねー」
「凄い街だよな。あ、アリス、クリーム付いてるぞ?拭くからこっち向いて?」
「あらやだ、ありがと魔理沙。」
道中で買ったアイスクリームに唇を寄せながら、色んな物に目を輝かせるアリス。最愛の妻には、色んな物を一杯見て欲しいと私は何時でも思っている。私と年齢が変わらないうちに魔法使いになってしまった最愛の妻は、私と出会うまで、色んな物への興味を失ってて、ただ魔法に生きるだけだったのだから。
そんなアリスのパッチリした目が、一点を指したまま動かなくなる。視線を目でなぞっていくと、大きな風車の親玉みたいなのが鎮座しているのが見えた
「魔理沙見て?あそこに変わった建物があるわ。」
「あれは、モザイクガーデン大観覧車って言うんだ・・・展望台になってるらしいんだぜ。」
「興味あるわ、行ってみましょ、魔理沙!」
「おう、あの辺りは遊園地になってるらしいぞ。何か色々あるみたいだぜ。」
「ますます楽しみになってきたわ。宿舎にも近いし、丁度良いじゃない。」
「だな、そこで遊ぼうぜ。」
「うん!」
アリスに手を引いて貰って、観覧車を目指す私達。楽しそうに笑う最愛の嫁さんのその達振る舞いを見ているだけでも幸せになれる、今の私の置かれている状況に感謝しながら、早足にその遊園地へと向かう。幸い、見た目ほどの距離は無く、仲良くお喋りしながらのウォーキングだとあっと言う間の距離だった。
「さってと、着いたんだぜ。」
「さぁ、何から行きましょうか?」
「そうだなぁ・・・お、アレなんてどうだ?」
私は意気揚々とレールの上にトロッコみたいなのが走っている遊具を指差した。アリスが入場口近くに置いてあったパンフレットを見ながら、首をひねった。
「じぇっと・・・こーすたーって言うらしいわよ、アレ。」
「そうか、しかし、此処からでも絶叫が聞こえるとは・・・なんか凄そうなんだぜ。」
そう言うのを見ると、挑戦したくなるのが私の常。うずうずする私を見て、何やら不吉な予感を察知したアリスは、ちょっとだけ顔を引きつらせる。
「魔理沙・・・乗るの?」
「おう、何でも挑戦なんだぜ。」
「すっごく怖そうよ?」
「なぁに、アクロバット飛行いつもやってるから怖くない怖くない。」
弾幕ごっこの時は、急旋回急加速急降下急上昇なんでもありだ。それに比べたら高速で移動するだけのジェットコースターとやらは、まだ可愛い物だ。乗れば多分分かるだろう。
アリスの手を引いて、ジェットコースターのチケットを二枚買う。係員の誘導にしたがってコースターに乗りこみ、安全装置を付けて貰う私達。
「本当に大丈夫かしら。」
「私が傍に居るから、大丈夫だぜ・・・アリス。」
「・・・うーん。心強いけど・・・ねぇ。」
「大丈夫、行けば分かるさ!」
「ちょ、ちょっと魔理沙ぁ!」
動き出すジェットコースター、急な上り坂をゆっくりゆっくり登っていく。カチカチカチという機械音が、すこしだけ怖さを引き立てる。そして、視界が一気に下を向いた。
「魔理沙・・・怖くないのぉおおおおおお!」
「ああ、全然怖くなんて無いんだぜぇええええええ!!」
黄色い声を出して叫ぶアリスを横目に見ながら、前を見ると凄まじい勢いで風景が流れているのが分かる。このジェットコースターというのは、椅子に固定されたままあらぬ動きをするため、空を飛ぶより恐ろしく思う。
「ぎゃあああああ!早い、早いぞ!!」
「魔理沙の普段よりはマシだけど、それでも早いのには変わりないわぁあああああ」
凄まじい勢いでかけるジェットコースターに揺られながら私達は、あらん限りの大声を出して絶叫した。
「・・・あぁ、これはすごかったんだぜ。」
「ええ、予想以上にGがかかってたわ。魔理沙、大丈夫?」
「私は大丈夫だぜ・・・アリスこそ。」
「魔理沙の全開飛行よりは大人しかったから大丈夫よー」
「良く言うぜー」
ジェットコースターから降りた私は、意外とケロッとしているアリスに肩を借りて歩いていた。アリスのいつも使っている香水の匂いが微かにして、ココロが少し跳ねた。
「ねえ、魔理沙、次はアレに乗りましょう。」
「あぁ、観覧車か。行きたいって言ってたもんな。」
「ええ、一緒に乗りたいなって思ってたんだ。」
微笑むアリスに、頷く私。手を繋いだまま私達はさっきまでの絶叫の余韻の残る足でゆっくりと、観覧車の方へ向かって歩いていった。係員の案内に従って、チケットを買って、乗り場に付いたら、アリスを先に観覧車に入れてあげる。
「ありがと、魔理沙。」
「どういたしまして、だぜ。」
「魔理沙もこっちに・・・」
「おう。」
アリスの手を取って観覧車に乗りこむと、独りでにドアが閉まり、徐々に高度が上がって行く。神戸の街が徐々に小さくなっていき、ある程度の高さに達した所で。
「まぁ、此処まで私達が歩いてたとこが一目了然だわ。」
「こうやって見ると、結構な距離を歩いてきたんだな。」
観覧車のゴンドラから眼下を眺めると、雄大な海とこれまで歩いてきた魔天楼が一望できた。普段もこれ位の高度で飛んでるけど、幻想郷は殆どが緑の世界なのに対して、色んな色で構成されたこの外の世界の上空からの眺めは、幻想郷とはまた違う良さがあった。
「不思議ね・・・この世界では空を飛ぶ事が出来ない代わりに、高くまで行ける手段を一杯持ってるんだね。」
「おお、言われてみればそうだな。建物も凄く高いし、紫の別荘も高い所にあったよな。」
私も、幼い頃空に憧れた物だ。あの空を自由に飛べたら良いなって思って、空を飛ぶ魔法を覚えた時は、凄く嬉しかったっけ。空へのあこがれは幻想郷も外の世界も共通なのかなぁと思いながら、周囲を見回して行く。
途中、アリスとみた物に付いて意見を交わしながら過ごしていると、観覧車が天辺に差し掛かろうとしていた。
「てっぺんに差し掛かるわ・・・」
「うん。」
「ねえ、魔理沙。折角だから・・・ね。」
「アリス、今日は・・・・積極的だな。」
「良いじゃない、魔理沙も言ってたじゃない一度きりの人生。後悔しないようにしないと。」
「そうか・・・じゃあ、アリス。」
手を広げておいでって目で合図を送るとアリスは、ゆっくりと立ち上がって私の方へ歩み寄り、そして膝の上に座る。瞳を閉じて、お互いのカラダにしがみつく。目が見えなくても、もう慣れたこの感覚に身を委ねてアリスの唇を探す私の頬にちゅ、と先にアリスの唇が触れた。
「あ、せ、先制攻撃とは卑怯だぞ!」
「ん、魔理沙のほっぺ、柔らかいな・・・」
「くそー、私もお返しだ!」
「きゃっ・・・もぅ、魔理沙ったらぁ。」
頬にキスをしたらキスでお返しだ。愛し合うからこそできる、この素敵な感情の交換。今度は目を開けて、ゆっくりと顔を近付けて、ある程度近づいたら目を閉じて後はココロとココロが惹かれあうままに、私達は行動する。
「「・・・ん。」」
唇と唇が触れた、幸せな気持ちがお互いに交換されていく私達の愛の口づけ。抱きしめあう力が少し強くなる。息がちょっとしにくかったけど、アリスの愛に勝るものは無いので、私は唇を重ね続ける。
―好き・・・大好き。
重ねた唇が動いて、言葉を紡ぎ出す。オウム返しのようにこの言葉を繰り返しながら、私達は愛を無言で語り合う。言葉とか、そんなのでは表現できないモノが私達の間を駆け巡る、愛の口づけ。
時間が停止したような錯覚に陥ってしまう、私達だけの恋色の愛の世界に二人ぼっち。
長い長い口づけを交わしながら私達だけの空間で、愛を育んでいたのだが、ここで最大の失態をやらかしてしまった。
「あ・・・あのー、お客様、降りて下さーい!」
「「!?」」
知らない間に下まで降りて来てしまったようだ。恋色の愛の空間、恐るべし・・・!ではない、キスをしていた所を係員にばっちり見られてしまった私達の羞恥心は一発で振りきってしまった。
「「ご、ごめんなさーい!!」」
気恥ずかしさの余りダッシュで素早くその場を離れた私達は、その足で宿舎に向かった。チェックイン予定時刻の10分前に到着出来たあたり、ある意味今回のブラブラの時間配分は成功だったと言えよう。
「よ、よし着いたわよ!」
「アリスったら・・・大胆だぜ。」
女の子っぽい潤んだ目で、さっきのアリスの一連の行動を評する私。そんなアリスは顔を真っ赤にしてしまう。やった、狙い通りだ。恥じらうアリスの顔を見ながら、ココロの中で可愛いなぁと思いながら私は息を整える。
「と、とにかく、チェックインを済ませない事には行けないわね。」
「だな。受付はそこにあるみたいだぜ?」
アリスが混乱している間に私はあざとく周りを見渡して受付を見つけていた。たまには役割が逆転しても良かろう。アリスを落ち着かせてから、私達は受付の方へと進んでいく。
「いらっしゃいませ。」
「あのー、昨日予約させて頂きました、霧雨と言う者なんですが・・・」
「はい承っております。ロイヤルスイート二名様ですね。」
普段だぜだぜ言ってるけど、ちゃんとTPOはわきまえる。敬語もちゃんと話せるんだぜ。その辺を厳しく指導してくれたお父様に感謝してもしきれないんだぜ。身元を告げられた受付のボーイさんは、机の下から一枚の紙を取り出して、私達の前に差し出した。
「こちらにお名前をご記入下さい。」
「ええと、此処ね。」
「アリスの方が字綺麗から、お願いできるかな?」
「魔理沙だって十分綺麗なのに・・・まぁいいわ、名前だけは自筆でよろしく。」
「了解なんだぜ。」
アリスがサラサラサラっと英語の筆記体で自分の名前を書きあげた。霧雨アリス・マーガトロイドと記されたその欄の下に私も英語の筆記体で自分の名前を記す。霧雨魔理沙・マーガトロイド、と。そして、アリスは紫の別荘の住所をさらさらっと書いて、ボーイさんに差し出した
ボーイさんはその書類を受け取ると二三何かを書きこんでから、そっと後ろの棚から豪華な装飾の鍵を私達の前に置いた。
「33階のロイヤルスイートルームのカギになります。ごゆっくりどうぞ・・・」
恭しくお礼をするボーイにお礼をして、鍵をハンドバックの中に入れる。外を見れば既に夜の帳が降りかけており、夕飯には丁度良い時間である。
「さて、アリス。ここで飯にするんだが・・・」
「ええ、ここで是非食べておきたいものがあるわ。そこに行くんでしょ?」
「流石我が愛しのアリス、分かってるんだぜ。」
アリスの二歩程前に出て私は、案内板で紹介されていたあるお店を指差した。
「神戸牛、食べて帰るんでしょ。」
「その通りなんだぜ。しかも、目の前で焼いてくれるらしいしな!」
「幻想郷ではそんな店無いもんねぇ。貴重な経験が出来そうだわ。」
「ふふ、今からでも楽しみなんだぜ。」
「はしゃぎすぎちゃダメよ。」
「わかってるぜっ」
私はアリスに笑顔で答える。その様子をみて安心してくれたのか、アリスの表情もフッと緩む。私の横にやってきたアリスと腕を組んで、意気揚々と鉄板焼き屋に入って行った。
ミ☆
「神戸牛・・・最高だったんだぜ。」
「あんなに脂が甘いお肉は初めてだったわ。幻想郷ではまだ食べられないような味ねー」
レストランで神戸牛の鉄板焼きを楽しんだ私達は、バーに詰めかけていた。ロマンチックな夜に二人でこうやってお洒落に晩酌する・・・一度やってみたかったんだけど、幻想郷には無い雰囲気を感じられるこの町でこのような機会が持てたのは実に幸運な事だ。
「美味しいんだぜー」
「でも、少し視線が気になるわ・・・」
「良いじゃないかー。最期の夜なんだし・・・・」
一つのカクテルにストローを二本差して、顔を並べて味わう美酒。とっても甘いその美酒を、二人で仲良く呑んで行く。
「とっても甘いわ、ジュースみたい。」
「アリスと一緒に飲んでるから、その甘さもプラスされてるんだぜ。」
「どおりで。」
ムードの良い音楽と共に、過ごす愛しの人との時間。少しずつ減っていくカクテルの様子を見ながら、飲む量を調節する。それに合わせて魔理沙もゆっくりと加減しながらお酒を飲んでいる。
「アリスとこうやって余所で飲むのって、あんまり無いから新鮮なんだぜ。いつも家で、寛げるからかな・・・」
「かも知れないわね。でも、余所で飲むっていったらミスティアのトコとか位しかないわ。」
「あそこじゃこんなムードになれないんだぜ。」
ミスティアの屋台も非常に良い店ではあるのだが、今、私達が感じているようなムーディーな空気は得られない。カクテルを飲みほした私達は、そっと見つめ合う。
「サービスです・・・素敵なお嬢様達に。」
「ありがとな、マスター!」
「ごゆっくり。」
目の前に置かれたのは、九層九色のカクテル。偶然にも、私達の色と同じ色でグラデーションされたそれは、バーの薄暗いライトでぼんやりと照らされて幻想的な雰囲気を醸し出している。
「綺麗・・・」
「私達の色じゃないか・・・」
グラデーションを崩さぬように、そろりそろりとストローを入れてそっと唇を寄せる。9つの色んな味が口の中に広がっていく・・・
「うまい!」
純粋に嬉しそうな顔をする魔理沙を、目尻を下げて見守る私。その表情に気が付いた魔理沙は少し照れくさそうに頭を掻いた。掻いた手をそっとテーブルに置いたのを見計らって、私はそっと手を重ねる。
「今、こうしてるのが・・・夢みたい。」
「これは夢じゃないよ。アリス、私達が共有している現実を・・・一緒に生きてるだけ。」
「でも、毎日が夢のように幸せよ・・・魔理沙と結ばれて、結婚して・・・・・恋色の愛に彩られた毎日をこうやって魔理沙と過ごせる事。こんなに幸せでいいのかなって。」
「良いんだぜ・・・アリスと一緒に色んな物を見て、感じて、共に生きていける事はこの世界のどんな物よりも幸せな事なんだぜ。」
「魔理沙・・・」
堂々と言い切る魔理沙は、暫く窓の外を眺めてから私の方を真っすぐ見てくる。それは彼女の代名詞とも言えるマスタースパークのように純粋で力強かった。
「これからも・・・二人、いやもしかしたら増えるかも知れないけどさ、もっと一杯幸せに二人でなろうな。」
「うん。」
ムードが高まり、ココロが凄まじい勢いで跳ねまわる。家ならキスを交わして、愛を囁きながらお風呂入ったりしそうな流れだけど、ここはホテルのバー。
昨日の誰も居ない海ならいさ知らず、私達以外のお客が居るこの場所で愛を語り合うのは品が無いし、ムードもへったくれもない。
同じくドキドキしているのか、手が震えている魔理沙が私の手を握りしめた。そして、顔を近付ける。でも、唇の方には行かない・・・・そっと、近寄って私だけに聞こえる魔力通信の回線を開いてきた。
≪そろそろ、部屋に行こうか・・・≫
≪うん・・・≫
魔理沙の通信に短い返事で応対して、ほろ酔いの良い気分でバーを後にした私達は、自然と寄り添っていく。周囲の視線ももう怖くない。最悪は酔っぱらったとでも言えば良いだろう。そんな事以上に、今傍に居る最愛の人を感じていたいムードにココロが包まれている。
「33階・・・だったよね?」
「そうだぜ、私に届くかなっ、と!」
「押してあげるわよ、魔理沙。」
「大丈夫だぜ、私だって背も伸びた・・・っと、ほれ。」
手を伸ばしてボタンを押した魔理沙のカラダがぐらりと揺れた。私は慌てて、そのカラダを抱きとめてあげた。
ドアが閉まるのを確認してから、そっと立たせてあげる私。心臓の鼓動だけはお互いに聞こえそうな位ドキドキ言ってる。エレベーターが33階を示し、ドアが開く。紅魔館みたいな豪華な装飾が施された廊下を歩く私達の歩みは、実に緩やかで。繋いだ手を固く握って、気をやってしまわないように気を付けながら、私達が泊る部屋へと一歩一歩進んでいった。
「アリス、鍵を・・・」
「分かってる、ちょっと待って。」
ドキドキの余り手が震えてしまう。何とか鍵穴に鍵を入れてそっと捻ると、かちゃりと言う小気味よい音を立てて、鍵が開いた。ドアノブに手をかける魔理沙の手にそっと手を添えて、二人でドアを開けて部屋に入った。
「まぁ・・・素敵ね。」
「紅魔館の寝室よりすごい・・・」
灯りを付けると、そこには凄い装飾が施された見事な部屋があった。程良い室温に調整されたその部屋の広さに少しだけ落ち着かなかった私だったのだが・・・
「おお、これだけ広いと二人じゃ勿体ない気もするな!」
先ほどまでのムードとは変わって、相変わらずの調子ではしゃぐ魔理沙。電機屋では注意したけど、屈託のない目で色んな物を見るその姿はホントは大好きである。
好奇心に満ち満ちた彼女の提案で、こうして外の世界に新婚旅行に来る事も出来た・・・感謝しても感謝しきれない。魔理沙に静かな感謝の気持ちを送りながら、色んな物を見てすげーすげー言ってた彼女を見ていたのだが、ある程度この部屋の事を調べ終わったのか、そっと、私の耳元で囁いてきた。
「シャワー、浴びてきていいかな?アリス・・・・」
「あ、あれ、今日は一緒じゃないの?」
「・・・きょ、今日一緒に入ったら、ドキドキしすぎて心臓が爆発するかも知れないんだぜ・・・・・・」
「そ、そう・・・じゃあ、いってらっしゃいな。」
「お、おう。」
内心ホッとする私、こんなシチュエーションで一緒にお風呂なんて入ったら気恥ずかしさの余り気絶してしまうだろう。きっと魔理沙もそうだったに違いない。
しかし、独りでいると凄く寂しいのも事実だったので、偶然視界に入ったリモコンを操作してTVを付けてみた。
此処まで色々回ってきた神戸の風景がどんどん映し出されて行く。二人で色んな思い出を育む事ができたこの町は、幻想郷に負けず劣らず素敵な町だった。海と大きな空と魔天楼に囲まれたこの町から、明日には帰ってしまうと思うととても名残惜しい。
この世界で二人で生活するとしたらどんな感じなのかなぁと想像もできないような壮大な想像をしながら、独り、魔理沙を待つ。どれ位の時間、色んな想像をしながら待っていたかを忘れそうになった時、待ち焦がれていた声が部屋を満たした。
「あぁー良い湯だったんだぜー」
愛しの人の声がした、振り向くとバスローブ姿の魔理沙がそこに居た。恐らくこのホテルの備品なのだろう。魔理沙はしずしずと歩いて、私の横に座ると幸せそうな顔をする。
「外の世界のソファーはフカフカだなぁ。心地いいんだぜ。」
「紫、とっても良い部屋を用意してくれたみたいね。」
「だなぁ。室内のレイアウトや装飾も良いもんだってすぐに分かるんだぜ。」
すっかり落ち着いているように見える魔理沙。いざと言う時は肝が据わっている印象があるのがこの最愛の人の凄い所。いつも余裕を見せるようにしてるけど、追い込まれてしまうと逆に弱さを見せてしまう私とのこの違い。
そんな一面を愛おしく感じてしまった私は、魔理沙の胸に頭を埋めた。洗いたての良い匂いがして、とっても落ち着く感じがする。魔理沙がそれに合わせて、私の髪を梳いてくれた。よく歩いたために、汗の香りが少ししたけど滑る魔理沙の手がとっても心地よい。
「でも、どんな物よりも・・・アリス、お前の方が綺麗で美しいんだぜ。」
「魔理沙・・・」
真っすぐ、力強く、マスタースパークのように伝わる魔理沙の言葉。傍から聞くと陳腐な言葉かしれないけど、その一言が嬉しくって嬉しくって仕方が無い。幸せな気持ちで満たされた所で、穏やかで優しい表情を浮かべてくれる魔理沙と視線を交差させる。
それだけでもココロが一杯になるような感じがするけど、まだこれは前哨戦。愛のスペルカードはまだ発動していないのだ。
「・・・アリスも入って来いよ、さっぱりするぞ。」
「そうね、じゃあ行ってくるわ。」
「おう、のぼせちゃダメなんだぜー」
魔理沙から離れて、バスルームに入る私。これまた豪華な装飾の施された部屋である。すっかりなじんだ外の世界の服に手をかけて、綺麗に畳まれた魔理沙の服が入った脱衣かごの隣に合った脱衣カゴにそっと置いた。
そして、鏡を見る。頬は紅くなり、ドキドキしてる事がわかる。でも、魔理沙もそのドキドキを一生懸命感じているのにも関わらず平静を失わないように精一杯の努力をしてくれている。それなのに私がこれじゃあ、対等じゃ無いなぁとココロに刻み込んで、シャワーを浴びる。
流れる水の心地良さに身を委ねながら、ココロを静めて行く。外で魔理沙がどんな心境で私を待っているのかなって想像したりしながら、のんびりとシャワーを浴びて身体を清めていった。
「どうだ、アリスー。紫の家よりも凄いバスルームだよなぁ。」
良く通るソプラノの大きな声。だぜだぜ言ってるから気が付かない人も多いけど、魔理沙の声は女の子らしくって、とっても可愛い。そんな声に私も負けじと大きな声で。
「これなら余裕で二人で入れそうだわー!」
とても大きな浴槽を見ながら、そう答える私。まぁ、お湯を張っても良かったんだけど、今日の今の雰囲気で一緒にお風呂入ったら確実にどちらかが気をやってしまい、残った方に迷惑をかけてしまいそうな気がしたから避けたんだけど・・・それを知ってか知らずか魔理沙は、元気な声をもう一度バスルームに届かせた。
「じゃあ朝風呂と行こうじゃないか!朝風呂はとっても気持ちいいんだぜー」
「それは名案ねー。明日朝は絶対に入りましょ?」
「おーう。」
魔理沙の返事と共に、私はシャワーを止めた。バスタオルで身体を拭き、髪を乾かしながらそっと魔理沙の事を考える。バレンタインデーの時に結ばれて、結婚して、色んな事があった・・・その思い出が一瞬のうちに思い出されてゆく。幸せに彩られた、思い出が・・・過ぎ去った日々の9色に輝く色んな出来事が。
そうなる前までは、真っ暗でただそこに在るだけのモノでしか無かったように思うこの私に、色んなものをくれた魔理沙。感情を通じ合わせ、笑いあったり、喜びを分かち合ったり・・・愛し合ったりして、一緒に生きて行く最高のパートナーへの気持ちがまた大きくなっていく。
そんな最愛の人の最高の愛をこれから享受する私・・・幸せすぎて、どうかしちゃいそうだったけど・・・・・バスローブに身を包んで身支度を整えた私は、そっと浴室のドアを開けた。
「上がったわよー」
「おお、アリス。上がって早々申し訳ないんだが、こっちに来いよ。」
「どうしたの魔理沙。」
「夜景がやけに綺麗なんだぜ・・・!」
その冗談は面白くなかったが、魔理沙が指差す先に広がる夜景は今まで見たどんな夜景よりも色とりどりに輝いていた。見渡す限りの黒に、色んな色の光がちりばめられたその光景に私はただ息を飲んだ。
「綺麗・・・まるで星空みたい。」
「すげぇよな、幻想郷じゃこんなに明るい事はあんまり無いんだぜ?」
「そうね、弾幕でも使わないと無理かも」
「こんな空、アリスと一緒に飛べたら素敵だったろうな・・・・」
「そうね、相乗りして飛べたら素敵だろうと思うけど・・・」
「だな、箒が無いんだぜ。光の羽を出して飛んでも良いけど・・・バレたら大惨事になるんだぜ。」
「だよねー」
そう言ってクスクスと笑いあう私達、魔理沙の横に立って夜景を眺めていると、魔理沙の手と私の手が重なった。
「アリスと・・・・此処に来れて良かった。」
「うん。」
「この海のある町で、アリスと思い出を紡ぐ事が出来て・・・私、幸せ。」
「魔理沙・・・」
重なった手をゆっくりと包む。そして、私も魔理沙に想いを告げる。
私の為にこんな素敵な場所に・・・新婚旅行に連れて行ってくれた愛しの人に・・・純粋な感謝の気持ちを。
「私も、魔理沙と一緒に此処に来れて良かった・・・始めて一緒に海を見れた事、外の世界に来れた事、私、一生忘れないわ。」
「アリス・・・」
自然と視線が合った。昨日の夜のようなドキドキが全身が駆け巡る。昨日との決定的な差は、ここに紫の目が及んでいないと言う事。私達二人だけの、恋色の世界にどっぷりとつかる事が出来る・・・もう、何も迷いは無かった。
・・・目の前にいる最愛の人と愛を育んで、素敵な夜にしようって。
「アリス・・・」
「魔理沙・・・」
吸い寄せられるように唇が触れた、それは、どんな物よりも美しいキス。幸せな気持ちと目の前の人への愛情が、触れた唇から交換されて、私達のカラダを駆け巡っていく。ドキドキが加速していって、バスローブ越しでも魔理沙の鼓動を感じる位にまでになっていく。
離れるのが勿体ない、大好きな人を感じていたい。そんな気持ちが言葉にしなくても伝わってくる。唇を放した私達は、深い抱擁を交わしてお互いを強く感じようと努める。
甘いキスの余韻に浸りながら、頬と頬をすり寄せていると、魔理沙がそっと耳元でこんな事を囁いてきた。
「アリス・・・お願い、私を・・・・・・・」
消え入るような声での私へのお願い。それを聞いた私は、魔理沙の方を見つめる。少女からようやく大人になろうかというような顔立ちの魔理沙。目の端に涙を浮かべる彼女は、私以外の人妖が誰も知らない、本当の魔理沙。
誰よりも女の子で、乙女で、最愛の妻。そんな魔理沙に私も耳元でそっとこう言い返す
「魔理沙・・・私も、ね。」
その答えを聞いた魔理沙は目を閉じて私をギュっと抱き締めてきた、私もそれに答えてあげる。膨らむココロがそっと優しく触れ合った。目の前の最愛の妻への愛情が凄まじい勢いで加速していく・・・
「アリス・・・二人でお母さんになろうね。」
「ええ。立派な魔法使いのお母さんに、二人で・・・なりましょ?」
「もし、二人ともお母さんになっちゃったらどうしょ・・・」
「何とかなるわよ・・・恋色の魔法に不可能は無いんだから・・・・・」
「うん。そうだね、アリス。昨日、私の言ってた事・・・覚えててくれたんだ。」
「忘れる訳なんて無いわ。世界で一番愛してる妻の言葉だもの。」
二人ならどんな困難も乗り越えて行ける。いや、行こう。これも、魔理沙と付き合ううちに起きた私のココロの変化だ。この人と、数多の困難を乗り越えて・・・家庭を作って、家族になりたい。そう願うようになった私の夢は、もうすぐ叶うような気がする。
最愛の妻と二人で叶える最高の夢・・・恋色の魔法家族になること。
ドキドキを感じながら、魔理沙を見つめる私。滲む視線の先にある潤んだ双瞳には私の顔が映っているのが歪んで見える。でも、ココロは真っすぐ伝わってくる。その思いは、やがて言葉となって、お互いの口から、そっと零れた。
・・・世界で一番愛してるよ、アリス。
・・・うん、私も世界で一番愛してるわ、魔理沙。
その一言で、左手をからませ合う。息を整えて、ドキドキを静めてからそっと口づけを交わす。長い長い口づけの後、そっと一度離れて抱きしめあう。
バスローブにお互いに手をかけた所で、魔理沙が恥じらいながら私に震える声で言ってきた。
「灯り・・・消そ?」
「そうね、魔理沙。消しましょうか・・・」
魔理沙がベッドサイドにあったスイッチを押すと、照明が落ちた。視界ははっきりしなかったけど、抱きしめた最愛の人はちゃんと私の前に居る事が感じられる。キスをして、手を繋ぐと、自然と魔力のリンクが繋がった。
お互いのカラダを流れ増幅される魔力に乗せて愛し合う気持ちがお互いの愛の炎を燃やし、優しく包んでいく。
―共鳴する眩い恋色の魔法の光に包まれながら、私達は、愛を深めて行った。
ミ☆
遮るものも何も無い肌からアリスの温もりが伝わってくる。
触れた唇、繋いだ手、流れる魔力を感じながら、私はアリスと愛を紡ぐ。
私達のカラダとココロの境界線が愛によって溶けて、徐々に一つになっていく。
世界で一番愛する人と全てを共有できる事、それは一番素敵な事・・・。
海のように優しく、満ちては引き、満ちては引くアリスの愛。
それを、私は全身全霊をもって、受け入れ、送りあう。
何度名前を呼んだか・・・何度愛してるって言いあったか分かんなくなってくる。
愛しの人に愛されながら感じる九色に照らされた世界、お互いの愛で満たされた二人だけの世界で、私達は愛を深め合う・・・
何度も何度も愛を深めていって・・・・・アリスの全てに私の愛が満ちて、私の全てをアリスの愛が満たした時、九色に照らされた世界が遠ざかって行く・・・
ふわふわってした海のような優しさと幸福感に満たされて、意識が溶けて行く。
心地良い愛しの人の腕に抱かれたまま感じる夢見心地。その中で私は、うわごとのように、アリスに呟いた。
「海に・・・居る時みたいね・・・・ふわふわしてる・・・・」
「え・・・?」
「何でもないわ、アリス・・・ありがとう、素敵だったよ・・・・・・」
「ありがとう、魔理沙。可愛かったわ・・・・」
最愛の人が私の胸に全てを預けているのがふわふわした感じの中でも何となく分かる。繋いだ手から感じるのは、さっきまでのドキドキじゃなくて穏やかな鼓動。愛を育んで、お互いに満たされた時に感じる心地良さ。
とろんとした目でアリスを見る。同じくとろんとした目のアリスと目が合った。魔法のように、吸い込まれて行きそうなアリスの目を見ながら、私はその愛してくれた最愛の人の名前を呼ぶ。
・・・アリス
うわごとのように。でも、ちゃんとアリスには聞こえていたみたいで。私の乱れた髪を掬いながら、アリスは静かな声を出す。
魔理沙・・・
引きこまれるように顔が近付いて行く。また私達の距離がゼロになる。ゼロになりかけて、一瞬だけ、アリスが動きを止める。何度も口づけを交わした唇が動いて、夢見心地の私に、そっと囁きかけるように。
―愛してるわ。
その言葉と共に交わしたキスと同時に意識が溶けて行くのを感じる・・・でも怖くは無かった。溶けた意識の先にちゃんとアリスが居て、今日という素敵な世界から明日って言うもっと素晴らしい世界に一緒に旅立てるこの喜び。
全てを分かち合い、共有して、共に幸せに生きる事の出来る、明日と言う日を、また一緒に迎える事が出来る。
・・・これが・・・真に愛し合う人だけが辿りつける境地なのかな。
・・・結晶のように透き通った、愛に満ちた私達はそっと、無意識のうちに寄り添った。
深い、深い恋色の愛に包まれて、私達の、外の世界での最後の一夜が更けて行く・・・
ミ☆
外の世界の夏の日差しが、私達の眠る寝室に差し込む。その光が、魔理沙との愛に包まれていた心地良い眠りから私を覚醒させていく。
「・・・朝、か。」
傍らで眠る魔理沙はとっても幸せそう。その柔らかい頬に唇を一回落としてから私は、魔理沙が希望していた朝風呂を沸かしてあげようと思い、ベッドから身を起してバスローブに袖を通した。紐をしっかりと締めて大きく伸びをした所で、私はバスローブを引っ張る手の存在に気が付いた。
「魔理沙・・・?」
「独りにしないで欲しいな・・・寂しいんだぜ。」
最愛の妻のなんと愛らしい姿か。シーツで胸元を隠すその姿にキュンとしてしまったが、本来の目的を忘れてはいけない。魔理沙を撫でながら上海人形に命じて、お風呂を操作してお湯を張る。
「朝風呂を入れてあげようと思ったのよ。」
「そっか、ありがとな。アリス。」
身を起こした魔理沙とおはようのキスを交わす。いつものように、そっと優しく。今日と言うまた新しい日を迎える事が出来た事を、二人でそっと分かち合う。
「夢・・・見てるみたいだ。幸せすぎるんだぜ。」
「夢じゃないわ・・・これは現実に起きてる事だもの。今のキスは、その証・・・・」
「うん・・・」
どこか大人な雰囲気を漂わせる魔理沙。それに少しだけドキッとする。昨日の夜のような激しいドキドキじゃなくて、心地良いドキドキ。燦々と差し込む朝日がそっと私達を包みこむ穏やかな時間。そっとバスローブを差し出してあげると、恥ずかしそうに袖を通す魔理沙。
「なんだよ・・・まだ見足りないのかー?」
「そうじゃなくて、可愛いなって思っただけよ。」
「そう言ってくれると、本当に嬉しいんだぜ。」
お揃いのバスローブ姿になって、ソファーに座る。昨日の愛の余韻が残ってはいたけど、ココロはとっても落ち着いていた。乱れたまま眠った所為でちょっと癖がついてしまった魔理沙の髪を手櫛で梳いてあげると、嬉しそうに身を寄せてくる。
「アリスの手・・・気持ちいい。」
「そう?」
「暖かくて優しい感じがするんだぜ・・・」
朝の静かな一時、二人で過ごすとこんなにも穏やかな時間になる。
「アリスーマリサー、ハイッタヨー」
「お、ご苦労さん上海。」
上海を撫でてくれる魔理沙。暫く二人で上海をまだ見ぬ我が子のように愛でた私達は、二人で顔を赤らめる。そう遠くない将来、本当にこうする事が出来るかもしれない・・・それは本当に素敵な事だなぁと思いを馳せていると、魔理沙が立ち上がっていつもの凛々しい表情になる。
「さぁて、朝風呂朝風呂!行こうぜ、アリス。」
「昨日のように独りじゃないのね?」
「今日はアリスに髪を流して欲しいんだぜーよろしくなぁー」
「はいはい、じゃあ私は背中をお願いできるかしら。」
「勿論だぜ、たっぷりすりすりさせて貰うぞー」
「んもぅ、魔理沙ったらぁ。」
いつものように軽口のキャッチボールをして、魔理沙の手を取った。朝風呂の心地良さを共有する私達はしっかりと結ばれていた・・・
ミ☆
ミ☆
「食べたな・・・アリス。」
「ええ、魔理沙だってそうじゃない。」
朝食のバイキングを楽しんだ私達は紫の車に揺られて、幻想郷への帰り途を辿る。食べ放題と言うのは、元々沢山食べる私にとってはまたとない嬉しいサービスだ。が、ここでもう一人喜んでいる人がいる。
「ご飯とお味噌汁も美味しかったわ、一杯食べたから魔力も早く回復する筈よ。」
アリスである。食事を必要としない魔法使いではあるのだが、こうして大量の魔力を消費した時には私並・・・いやそれ以上にご飯を平らげる事がある。身体にエネルギーを与えてあげることで魔力の回復効率を高めるのである。
アリスの為に魔法使いになるにあたり、こう言う事もちゃんと勉強している。お腹が空きにくくなると言うが、食事は毎日の楽しみであるので・・・魔法使いになっても今まで通り三食食べてそうな感じもする。
「うーむ、やっぱりあの魔法の連続使用は危険だな。幻想郷でやったら食費が追いつかないんだぜ・・・」
「うーん、でも昨日はココロの昂りには勝てなかったから・・・・ごめんね、魔理沙。」
「謝る必要なんてない、アリス。お前が一杯愛してくれたの・・・嬉しかったから。」
「魔理沙。」
肩をくっつけて、手を繋いで。静かに体温を分け合う私達。そんな私達を静かに見守っていた紫であったが、やがて前を見たままで静かにこう聞いてきた。
「・・・昨日は素敵な思い出を紡げましたか?」
「ああ、一生の思い出が出来たんだぜ。」
「素敵な一日だったわ。ずっと・・・ココロの中にしまっておきたい位のね・・・・・」
結構、昨日何をしたかを必要以上に詮索する事も無く静かに運転に集中する紫。車窓から高速で流れる風景を見やりながら、アリスとこの旅行最期のドライブを楽しむ。忙しなく走る自動車の間から見える、海と山と、少しくすんだ夏の蒼空は幻想郷のように空を飛びたくなるような素敵な光景だった。
「また・・・絶対来ような。今度は・・・家族で。」
「うん。絶対にその夢を叶えましょ。いや、叶えるのね、魔理沙。」
「分かってるじゃないか、アリス。流石だぜ。」
「貴女の妻だもの、当然よ。」
そして、傍に居る愛しのアリス。この旅行で、もっともっと愛と絆を深める事の出来た最愛の妻。このアリスとなら、どんな夢でも叶えて行けそう・・・いや、叶えられる。そんな気がする。そんな私達に紫は、頷きながら年上の風格を漂わせた喋り方で。
「良いですわね、若いって。もし実現できたなら、私は目を瞑ってあげますけど・・・博麗大結界をスキマ無しで通過するのは至難の業ですわよ。失敗すれば幻想郷に影響も出ますし・・・」
「あら、やってみないと分からないわ。幻想郷に害なく、抜け出す魔法を見出して見せる。」
「そうなんだぜ、どんな困難な事でも私達はやって見せる。なんたって・・・」
―不可能を可能にする、恋色の魔法使いなのだから。
「楽しみにしていますわ・・・・恋色の魔法使いさん。」
紫の期待を込めたセリフを聞いた私達は車を降りて、紫の別荘に入る。別荘の紫の自室にあった隙間をくぐり抜け、現実から幻想への帰還を果たす。
めまぐるしく変化する世界は、実に気味の悪い物であったが、アリスと一緒なら何も怖くない。
変化する世界は、やがて見慣れた光景に変わっていく・・・
そこは幻想郷・・・魔法の森、私達の還る場所だ。
ミ☆
見慣れた青々と茂る森の中、ひときわ大きな存在感を示す私達の新居。数日幻想郷から離れていただけなのに、どこか懐かしく感じる。
「帰ってきたな。」
「ええ、私達の新婚旅行も終わっちゃうのね。」
・・・最愛の妻と色んな思い出と愛を紡いだ旅の終着点。家に還るまでが旅行であるが、物凄く後ろ髪を引かれてしまう。しかし、外の世界と此処を繋ぐ隙間は消失してしまっているので後戻りは出来ない。
「旅行は終わってしまうかも知れないけど、私達の生活はこれからも続いて行くんだぜ。」
「そうね、一杯、一杯楽しい思い出を作りましょ。ね、魔理沙。」
「そうだな。沢山、素敵な思い出・・・作ろうな。アリス。」
そう言って笑い合ってから魔力施錠に私達の魔力を通して、玄関のカギを解除する。魔理沙がドアノブに手をかけるのに合わせて私も添えて、私達が還る場所のドアを仲良く開ける。
ドアを開け放ったら、手を繋いで目を合わせて頷いて、そっと一歩を踏み出して、幻想の世界に帰ってきた事を聞く者の無い空間に向けて告げた。
「「ただいま!!!」」
数日ぶりの新居に帰ってきた私達は、荷物とかを整理しながら、人形を総動員して家の掃除と旅行の後の洗濯などをする。
その際にテーブルの上に置かれた、誰にも見せられない位に寄り添う私達の外の世界の思い出の記念写真が幻想の真夏の太陽に照らされていた・・・
Summer marisa and alice love story was over.
But story is never over…
…To be next
一言?
もうすげぇとしか言えませんwこの先も楽しみにしています
此方もマリアリ分満タンまで回復させてもらって、甘リアリでニヤニヤが止まりませんわー
ボリュームもすごいです
これからもいろいろ期待してますので!
旅行シリーズだけでマリアリ6か月ぶんはむはむした気がする。