新月の夜、十六夜咲夜は仕事服に身を包みながら何時もより暗い空を眺めていた。
あと数時間で今日は昨日になり明日は今日になる。欠伸を一つ吐いて、紅茶でも淹れようかと立ち上がった瞬間、彼女の部屋の扉が叩かれ、声がかかる。
『咲夜さん、私です、美鈴です』
「どうぞ、カギは開いているわよ」
木製の扉を軋ませて部屋に入って来たのは門番の紅美鈴。服は仕事服では無く私服。
咲夜は少し微笑んで丁度茶を入れる所だったと言って美鈴の来訪を歓迎した。
「はい、お茶」
「ありがとうございます」
暫く月を見ながらの茶会。
ふと何かが空を斬る音が聞こえ、咲夜はそのほうへ顔を向けると美鈴が銀のナイフを握っていた。
カチャン、とカップを置く音が夜空に響き、美鈴は咲夜を見据え、切らせて欲しいと懇願する。
「切るって、何処を?」
その言葉を聞いて美鈴は咲夜のカップを握っていない方の手を掴み、手繰り寄せた。
つまりは左手を切らせて欲しいのだろう。咲夜は溜息を吐いてただ一言。
「良いわよ」
「ありがとう」
言って、美鈴は咲夜の掌に銀の刃を押し付け、引く。
途端咲夜の真っ白い掌に紅い線が引かれてゆく。まるで定規を当てながら引いたかのように、綺麗な程にまっすぐな線。
「痛いですか?」
「えぇ、まぁ」
漸く、刃を滑らせ終わった後、咲夜の掌には横真一文字の紅い線。そこから段々と血が流れて行き、終いには紅い血の筋が何条も咲夜の白く美しい腕を染め上げていた。
「咲夜さんの血、美味しいですね」
「あら、何時の間に舐めたのよ」
自分の血に我を忘れるほど見惚れていた咲夜が自分を取り戻したのは美鈴のそんな気の抜けた声が聞こえてからであった。美鈴は咲夜のナイフに付着した咲夜の血を綺麗になめとりながら恍惚の表情を浮かべ、笑みを漏らす。
「咲夜さん、貴女だけに痛みを与えるんじゃ、不公平ですからね」
そう言って美鈴は今度は自分の右の掌に先程と同じく横真一文字の紅線を描いた。
描き切って、今度は咲夜の左手に自分の右手を重ね、指を絡ませる。
「美鈴」
「何ですか」
ナイフ、返して。と咲夜は言い、美鈴もそれに従いナイフを返却した。
未だに美鈴の血が付着しているナイフをしげしげと眺め、やがて咲夜はナイフの刃に舌を這わせる。
咲夜の舌に広がる血の味、鉄錆を思わせる匂いと味。
「不味い。何が美味しいのかしら、血って」
「人には、分かりませんよ」
「不公平だわ」
そう言って咲夜は美鈴が絡ませている手を、自分から強く絡ませる。重なり合う掌と掌、混ざり合う血。
「確かに、不公平ですね」
美鈴は笑う。
「そんなことより美鈴」
「なんですか?」
「妖怪も人も、血は暖かいのね」
「えぇ、暖かいですよ」
あと数時間で今日は昨日になり明日は今日になる。欠伸を一つ吐いて、紅茶でも淹れようかと立ち上がった瞬間、彼女の部屋の扉が叩かれ、声がかかる。
『咲夜さん、私です、美鈴です』
「どうぞ、カギは開いているわよ」
木製の扉を軋ませて部屋に入って来たのは門番の紅美鈴。服は仕事服では無く私服。
咲夜は少し微笑んで丁度茶を入れる所だったと言って美鈴の来訪を歓迎した。
「はい、お茶」
「ありがとうございます」
暫く月を見ながらの茶会。
ふと何かが空を斬る音が聞こえ、咲夜はそのほうへ顔を向けると美鈴が銀のナイフを握っていた。
カチャン、とカップを置く音が夜空に響き、美鈴は咲夜を見据え、切らせて欲しいと懇願する。
「切るって、何処を?」
その言葉を聞いて美鈴は咲夜のカップを握っていない方の手を掴み、手繰り寄せた。
つまりは左手を切らせて欲しいのだろう。咲夜は溜息を吐いてただ一言。
「良いわよ」
「ありがとう」
言って、美鈴は咲夜の掌に銀の刃を押し付け、引く。
途端咲夜の真っ白い掌に紅い線が引かれてゆく。まるで定規を当てながら引いたかのように、綺麗な程にまっすぐな線。
「痛いですか?」
「えぇ、まぁ」
漸く、刃を滑らせ終わった後、咲夜の掌には横真一文字の紅い線。そこから段々と血が流れて行き、終いには紅い血の筋が何条も咲夜の白く美しい腕を染め上げていた。
「咲夜さんの血、美味しいですね」
「あら、何時の間に舐めたのよ」
自分の血に我を忘れるほど見惚れていた咲夜が自分を取り戻したのは美鈴のそんな気の抜けた声が聞こえてからであった。美鈴は咲夜のナイフに付着した咲夜の血を綺麗になめとりながら恍惚の表情を浮かべ、笑みを漏らす。
「咲夜さん、貴女だけに痛みを与えるんじゃ、不公平ですからね」
そう言って美鈴は今度は自分の右の掌に先程と同じく横真一文字の紅線を描いた。
描き切って、今度は咲夜の左手に自分の右手を重ね、指を絡ませる。
「美鈴」
「何ですか」
ナイフ、返して。と咲夜は言い、美鈴もそれに従いナイフを返却した。
未だに美鈴の血が付着しているナイフをしげしげと眺め、やがて咲夜はナイフの刃に舌を這わせる。
咲夜の舌に広がる血の味、鉄錆を思わせる匂いと味。
「不味い。何が美味しいのかしら、血って」
「人には、分かりませんよ」
「不公平だわ」
そう言って咲夜は美鈴が絡ませている手を、自分から強く絡ませる。重なり合う掌と掌、混ざり合う血。
「確かに、不公平ですね」
美鈴は笑う。
「そんなことより美鈴」
「なんですか?」
「妖怪も人も、血は暖かいのね」
「えぇ、暖かいですよ」
1を見た瞬間爆笑してもうた…