Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

薄明光線

2011/10/05 14:01:02
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 朝起きれば沈むような灰白色の空が窓の外から見えていた。気付けば既に桜は散り、曇りだと言うのに気温は高い、夏が近いのか。
 夏が近いのであれば、この天気は仕方ない。どうせ外へ出る用事もないのだから、一人静かに家で過ごそう。

「さて、何するか」

 言いつつ本を読もうとした瞬間、店の呼び鈴が唐突に鳴った。

「お邪魔するわよ」

 其処に居たのは蒼い髪を長くのばし桃の飾りがついた帽子を被った少女。
 確かは名は………

「初めまして、比名那居天子と申します」

 そうだ、以前霊夢の神社を面白半分で潰し、撃退された天人だ。しかしいきなりここに来たのはどういう事だろう、考えつつ

「ようこそ香霖堂へ。当店は客以外の相手は致しません、お帰りは後ろの玄関から」

 言うと、目の前の少女は僅かに微笑んだ。

「何かおかしい事は言ったかな」

「ふふ、霊夢に聞いた通りだわ、辺鄙な所に住んでいる辺鄙な人がいるって聞いたの」

 彼女は一頻り笑うと帽子を脱いでそこらの商品に断りも無しに腰掛けた。遠慮が無いのは幻想郷の少女共通のものなんだろうか、無駄だとは分かりつつも、注意した。

「あぁ、それもそうね」

 意外や意外、目の前の少女、天子は素直に降りてくれる。
 やはりこれが天人は格が違うのだろうか。

「これに座ると良いよ」

 言って、パイプいすを差し出す。
 来客に向かって相応しいものとは言えないけれども、如何せんここには僕が座っている椅子以外これしかないのだ。

「ありがとう」

 しかし良く文句も無く座るもんだ、これが魔理沙なら

『お前の膝の上に座らせて貰うぜ』

 とか言うのに……これはもう何年も前か。

「居心地良いわ、ここ」

 暫く物思いにふけっていると、彼女は唐突にそんな事を呟いた。

「居心地良い?ここが」

 そう言えば、ここに来た人妖は必ずと言っていい程何も買わず、また『居心地が良い』と言っていく。
 何かあるのだろうかこの自分で言うのもなんだが辺鄙な店に。

「えぇ、妙に埃っぽいし黴臭いけど、なんかこの雑多とした店の雰囲気、良いわ」

 聞いた感想が、これである。

「誉められているのか貶されているのか分からないな」

「誉めてるわよ、十分に」

「十分に、ねぇ……まぁ良いや」

 気を持ち直し、茶を淹れる。

「どうぞ、久しぶりに良いお茶が入ったんだ」

「あら、頼んでも無いのにありがとう……本当に美味しいわね」

「それは良かった」

 多分この客―――と言えるかは分からないが―――はこの店の商品を買っていく事なんて無いだろう。
 諦めて本を読もうとすると、それよりも早くに手元の本は彼女に奪われていた。

「面白そうな本読んでるのねぇ……『伊予水軍物語』ちょっと貸して」

「あ、あぁ……」

 いきなり何なんだ、全く。
 しかし読み始めて数分、彼女は本を静かに置き

「……分からない」

 と言ってきた。まぁ、当然だろうな。
 帰ってきた本を読みはじめようとすると、扉が騒がしく鳴る。

『すいません、何方かいらっしゃいますか?』

「衣玖だ、ごめん、匿って」

 彼女は心底驚いたように目を丸くして僕の答えを聞く前にするりと番台の小さい隙間へ潜り込もうとした。
 外からの来訪者と因縁があるのだろうか、彼女は番台のスキマ、つまりは僕の下半身の部分に上手く収まり身を隠す。
と同時に扉が開かれ、黒髪を肩まで切りそろえた女性が入店してきた。

「突然申し訳ありません、私は永江衣玖と申します」

「あぁ、ようこそ香霖堂へ」

 衣玖と名乗った女性は袖から一枚の写真を取り出し僕に見せる。

「こんな女の子が来ませんでした?」

 写真に写っていたのは隠れている少女、比名那居天子の顔。僕は頭を抱えるふりをして下を見る。

「(喋らないで、お願い)」

 目で語りかける彼女に僕は顔を上げ口を開く。

「来なかったよ、うん」

「………そうですか」

 背を向け、外へ出て行く。
 扉のしまる音が聞こえると、彼女、天子は僕の足の間から顔をのぞかせた。

「ふぅ、匿ってくれてありがとね」

 彼女は僕の足の間からその体を抜け出させ、番台の天板に腰掛ける。

「君はあの女性から逃げているのかい?」

「そんなとこ、口五月蠅いんだ、衣玖ったら。私に地上へ行くなって、自分は何時も行ってる癖にさ」

 口を尖らせ言う彼女からは見た目相応の子供っぽさが出ていた。暫くして、彼女は来ている服の中から桃を取り出した。

「これお礼に、天界の桃」

「これはこれは……どうもありがとう」

 良く熟れた桃を彼女は僕に渡す。物珍しさにしばらく見つめていると

「ちゃんと食べられるわよ?」

 と言ってくる。

「有り難くいただくよ、比名那居さん」

「天子で良いわ」

「ありがとう、天子」

 僕の言葉を聞くと、天子は天板から降り、扉へと歩いて行く。

「帰るのかい?」

「うん。でも気に入っちゃった、ここ」

 また来る、そう言って天子は笑って店から出て行った。どうやら、厄介な知り合いが、また増えるようだ。



 ふと気付き外を見やると、灰色に淀んだ空からこの地上へ天使の梯子が架かっていた。
10月5日だからって久しぶりに天子と霖之助で書いたんだが、こりゃなんだね一体、自分で言うのもなんだけど。
口調とかなぁ……違和感が………。

それでは南アに行きたい投げ槍がお送りしました。
投げ槍
コメント



1.K-999削除
これはいいてんこ。
猫被ってるのかな。まー可愛いから良し。

つーかてんこが家に帰るとき、曇ってたら絶対薄明光線でるんですか?
このタイミングでラダー出てたら衣玖さんにバレバレw