森近霖之助は、店であり自宅でもある香霖堂の縁側で、景色を肴に酒を楽しんでいた。
香霖堂がある魔法の森は、幻想郷が秋に入った事もあって夏の緑色と違った色をその身に纏っていた。秋の色、即ち紅葉である。
香霖堂が立っているのは魔法の森の入り口付近であり、里の方から歩いてくると店側の入り口がある。その為そことは反対に位置する縁側からは、森の紅葉が視界一杯に楽しめるのだ。
その紅葉を全身で感じながら、霖之助は余計な思考を止め、感覚に身を任せる。そうすると、周りにある狂った命をより感じる事が出来る。
右を見れば、茜色に染まった葉がその存在を示し、左に目をやれば、秋風が散った葉を何処かへと運んでゆく。そして正面を見れば、そこにあるのは香霖堂の白桜。今は花一つ咲いていないが、春には他の景色を押し潰さんとばかりに咲き誇る桜だ。その桜も今は葉が褐色に染まり、その命を狂わせている。
視界で秋を楽しみ、続いて霖之助は目を閉じる。風の音と、それに揺れる木の葉の音を楽しむためだ。
先ほどよりも少しだけ大きく感じるその音を聞きながら、霖之助は思った。
「…………あぁ」
何故、こんなにも無駄に騒がしいのだろうか、と。
思い、霖之助はゆっくりと瞼を開ける。色も光も無かった先ほどまでの彼の世界に、色彩と月光が戻ってくる。
色と光を取り戻した彼が初めに見たのは、香霖堂の裏で行われている宴会という名の乱痴気騒ぎだった。
「……はぁ」
どうしてこうなったのだろうか。彼は考えを巡らせる。確か、最初に来たのは霊夢と魔理沙だったか。それで急に「宴会する」と言い出したんだ。何時も通り断ろうとしたら「会場はここ」と一言。宴会に行かなかったら宴会が来たんだった。迷惑極まりない。
宴の開催理由は「本格的に秋になってきたから」だったか。確かに妖怪の山も赤く染まってきたし、それは分からないでもない。だが、それなら山で紅葉狩りでもしていればいいものを。何故ここなのだと心底思う。狂った命を肴に静かな酒宴を楽しむという僕の考えは、ここで脆くも崩れ去ったのだ。
それで他の連中も続々と押し寄せて来て……大人しく居間で本でも読もうと思っていたら、萃香に無理矢理連れ出されたんだったな。「一緒に飲もう」と言っていたが、彼女らと飲むと言う事は僕が呑まれるという事だ。天狗より酒が強い鬼と飲み比べなんて死んでも御免だ。というか飲んだら僕は彼岸行きだろう。とりあえずその場は近くに居た霊夢をけしかけて、逃げてきたんだ。
その後は……せめて静かに飲みたいと思って、ここに来たんだったな。
「…………ハァ」
考えて自然と、ごく自然と霖之助の口から溜息が漏れる。理不尽な話である。
唯一の救いといえば、ここへ逃げて来る際適当に選んだ酒が結構な上物だった事くらいだろうか。
「今更言った所で収まるわけでもないしな……」
宴会場と化した香霖堂の裏庭を眺めながら、霖之助の口からそんな言葉が零れ出る。あちこちで飲み比べが始まっており、今も賢将と風祝が競い合い、それを周りが騒ぎ立てている。彼女達から紅葉を楽しもうという気配は微塵も感じられない。騒げれば何でもいいのだろうな。
せめてこちらに飛び火しませんように。そんな事を思いながら、霖之助は盃に口をつけた。目で紅葉を肴に楽しみながら、上手い酒を飲む。酒で少し熱くなった顔を夜風が撫でた。周りとは違う、落ち着いた雰囲気。
嗚呼、矢張り秋はこうでなくては。
◇ ◇ ◇
十六夜咲夜は、主人であるレミリア=スカーレットと共に香霖堂で開催されている宴会に参加していた。参加する、と言っても、主に酒を飲んで騒いでいるのは主人であるレミリアであり、咲夜自身は余り騒いだりはしない。常に主人を気にしているからであろう。
「……そういえばさ」
不意に、毘沙門天代理と妖狐の飲み比べを観戦していたレミリアが声を上げた。その目線は、彼女の後ろで控えていた咲夜に向けられている。
「何でしょうか? お嬢様」
「咲夜って、あんまりお酒飲まないわよね」
「そうでしょうか」
「そうよ。いつも私の後ろにいて、時々誰かと話して……時々ほんのちょびっと、舐めるみたいに飲むだけじゃない」
言われてみればそうかもしれない。咲夜はそう思った。
「そうかもしれません」
「でしょ?」
レミリアはそう言って、手にしたワイングラスをくっと空けた。それを見て、咲夜はすかさずワインをグラスへと流し込む。血の様な紅い色をした液体が、透明なグラスを満たしていく。
「こうやって、ずっと私の傍にいるから?」
「そうでしょうね」
その答えに興味も特に沸かないのか、レミリアは「ふぅん」と一言呟くと、手の中にある真紅の液体を少し減らした。
「……そうね、うん」
「お嬢様?」
「咲夜、今日はもう仕えなくていいわ」
「へっ?」
突然の事に、思わず声が裏返った。
「ど、どういう事ですか?」
「どういう事も何も、言葉通りよ。たまには私の事は忘れて、パーっと楽しんできなさい」
パーっと、の所でグラスを持っていない方の手を円を描く様に動かして、レミリアはそう言った。
「し、しかし……」
「もう、しかしも案山子もないの! これは命令よ!」
「う」
命令。そう聞いて咲夜は口を閉じた。主人の命令であれば、それがどんなものであれ従うのがメイドという者。咲夜はそう考えていた。その考えに沿って動くのなら、どうやら今日は遊び倒すしか無いようだ。フィーバーである。
「それに、折角店主が宴会に来てる……って言うのは違うわね。店主の所の宴会なんだから、ちょっとは距離縮めてきなさいな」
「ち、縮めるって……お嬢様ったら、な、何言ってるんですか? もうっ」
レミリアの言葉に、誰が見てもわかるくらい咲夜は動揺する。
咲夜は気付かれてないと思っているが、咲夜が香霖堂の店主に惚れているという事は、実は妖精メイド含め紅魔館の全員が知っている。香霖堂への用事の際は必ず咲夜が赴き、買い物にしては随分と長い時間帰ってこず、帰って来たと思ったらベッドに飛び込んで頬を桜色に染めてキャーキャー言ってるのだ。気付くなという方が無理である。
「とにかく、今日は私の事は忘れて宴会を楽しみなさいな。いいわね?」
「う……わ、分かりました」
「ん、それでいいのよ」
満足そうにレミリアが頷いた。そして、その顔に張り付いていたのは……
「じゃあ始めに、私と飲み比べでもしましょうか」
……悪戯を思いついた妖精の笑みと、全く同じそれだった。
◇ ◇ ◇
話は変わるが、咲夜は余り宴会で酒を飲まない。その理由は三つ程ある。
まず一つ。それはレミリアの存在である。存在、というよりも、彼女の言葉が理由としては近いかもしれない。レミリアに給仕する咲夜は、常に主人の言葉に耳を傾けなければならない。その為、酒が入っていると言葉を聞き間違えたり、聞き損じたりする可能性があるのだ。
二つ。咲夜自身、自分が騒ぐのが余り好きではないからである。酒の力とその場のノリというのは中々のものであり、普段物静かな者も宴会でははっちゃけるなんて事はざらである。現にこの前、宴会に出席していたパチュリー=ノーレッジが、お酒が入って弾幕ごっこに興じた挙句、喘息の発作を起こして咲夜に連れられて帰ったのは記憶に新しい。
そして三つ。実の所、この理由が一番ウェイトを占めていたりする。その理由とは……
「あら?」
「うぅ……」
単純に、咲夜はお酒が弱いのである。
「ちょっと咲夜、大丈夫?」
「んー……」
他の飲み比べをしている面子に比べれば雀の涙程しか飲んでいないレミリアが、同じくそれ程しか飲んでいないのにも関わらず地面に突っ伏している己の従者の顔を覗き込む。
「弱い事は知ってたけど、こんなに弱かったのねー」
「うー……」
「駄目ねー咲夜は。もっと飲んで耐性つけないと」
けたけたと笑いながら、レミリアは悪魔の様な言葉を口にする。実際悪魔だから、様なでも何でもないのだが。
因みにこれは蛇足であるが、弱い人が酒を飲み続けても強くなったりしない。肝臓の寿命がストレスでマッハなだけである。お酒を飲む場ではお気をつけ下さい。時には断る事も正しい選択です。
「んぅ…………」
「……咲夜?」
むくりという擬音が聞こえてきそうな動きで咲夜が起き上がり、レミリアを見つめた。
「………………」
「さ、咲夜?」
レミリアを見つめる目が、完全に据わっている。ほんのりと赤く染まった頬が、彼女の白い肌に映えている。
「……駄目ね。ちょっと風に当たってくるといいわ」
「そーしまふ……」
呂律の回ってない言葉でそう言うと、咲夜はふらふらと千鳥足で歩き出した。どう見ても泥酔である。
「そういえば、咲夜って酔ったらどうなるのかしら……」
弱いという事は本人から聞いていたので知っていた。それ故無理に酒に誘う事もしなかった為、レミリアは咲夜が酔うとどうなるのかを知らなかった。
「……大丈夫かしらねー」
少しだけ飲ませるつもりだったが、あの子の酒の弱さを舐めていた。霊夢基準で考えた私が馬鹿だった。と、レミリアは一人思った。
ちょっぴり心配だが、楽しめと言ったのは自分である。楽しんでいるかどうかは疑問だが、宴会は酒を飲んで呑まれるのが醍醐味。そういう意味では、楽しんでいるのだろう。……楽しんでいるのだろうか。いや、楽しんでいるに違いない! レミリアはそう思い込む事にした。
「さぁ、次は誰だ! 鬼か、天狗か!?」
強引に自分を納得させ、レミリアは自分も宴会を楽しむ事にした。
「じゃあ私が行きましょう」
群集の中から、一人が声を上げた。上等だ、酔い潰してくれる!
「それじゃあグラスで飲むのも何だし、樽で飲みましょうか。ンフフ……」
なん……だと……!?
◇ ◇ ◇
宴会の様子を見ながら、霖之助は盃を中身を少し減らす。ふぅ、と息を吐くと、白い息が秋の空へと消えた。
逃げ出してから数刻経つが、誰かがやって来る気配は無い。静かに酒を楽しめるのだから、平和なものだ。できればこのまま終わってくれれば良いのだが。
「ん」
しかしそんな彼の小さな願いは、秋の冷たい風に耐え切れなかった木の葉の様に儚く散る事になる。
ざり、と土を踏む音が聞こえ振り返ると、そこには人影があった。やれやれ、遂に捕まってしまったか。鬼や天狗でないことを祈るかね。
そう思って影の正体をしっかりと見る。
「………………」
「ん……あぁ、咲夜か」
そこには紅魔館のメイド長、十六夜咲夜の姿があった。彼女なら無理に飲ませたりはしないだろう。他の少女達と比べても大人しいし、まだ暫くは静かな酒宴を続けられそうだ。
しかしそんな霖之助の淡い期待は、矢張り無謀にも鬼に飲み比べを挑んだ氷精の様に無残に散る事になる。
「……咲夜?」
「……ふふっ」
咲夜は霖之助を見てくすりと笑うと、そのままつかつかと霖之助の方へ歩み寄る。その目は、獲物を狙う鷹の様に霖之助を捉えていた。
そして咲夜は、そのまま霖之助の隣りに腰掛け……
「……んっ♪」
「ッ!?」
霖之助に、抱きついた。
霖之助の首に腕を回し、ぎゅーっと抱きしめる。
レミリアも霖之助も知らない事だが、咲夜は酔うとべったり甘えるタイプだったのだ。
それも、好きな人限定で。
「さ、咲夜? 何を……」
突然の事に、大概の事には冷静に当たれる霖之助も動揺し、声が裏返る。
「ふふー……霖のしゅけしゃあん……」
呂律の回っていない声と、少し酒精を帯びた息。霖之助は脳内で冷静だった部分で即座に理解した。
酔っているな、と。
「……とりあえず、離れてくれないか」
「んー?」
今だ霖之助に抱きついたままの咲夜の肩を掴み、霖之助は訴えかける。というか、抱き疲れている事で色々と拙いのだ。
周りからは旗折職人、朴念仁、果ては色欲を胎内に忘れてきたとまで蔭で言われている霖之助だが、少し少ないだけで別に色欲が無い訳ではない。ただ、彼に好意を寄せる少女(主に霊夢と魔理沙、妖夢がこれに該当する)が、彼にとっては女性というより妹の様な存在であり、恋愛対象としては見れないのだ。
では、咲夜はどうだろうか。大人しく淑やかで容姿端麗、仕事も出来る才色兼備。そんな女性が、ほんのりと頬を染めて自分に抱きついているのだ。流石に少ないとはいえ色々と意識してしまうのは、男の性(さが)というものである。
実際、霖之助は口調こそ冷静だが、頭の中はやわらかいとかいい匂いだなとかで一杯一杯である。
この状況ではまともに話が出来るかどうかも怪しい。そんな思いから出た言葉だった。
「やー♪」
「ちょ……」
しかしそんな思いは矢張り散ってしまう。咲夜は腕の力を強め、更に霖之助に密着する。
「ふふ……♪ ぎゅー……」
「……ハァ。頼むから退いてくれ」
「……んぅー」
諦めが混じった声で霖之助がそう言うと、咲夜は案外簡単に離れてくれた。まだドキドキしている霖之助の思考に、冷静さが戻ってくる。
「……珍しいね。随分と飲んでいるじゃないか」
「そんにゃに飲んでなんてないれすよ……?」
「飲んでるだろう」
咲夜は嘘を吐いてはいない。彼女が酒に弱いだけである。しかし霊夢や魔理沙を基準として考えている霖之助にそんな事が通じる筈も無い。
「んぅ……」
「ん?」
こてん、と、霖之助の肩に重さが掛かる。そして、それと同時に左腕が拘束された。
「ふふー」
「……ハァ」
何て事は無い。拘束場所が首から腕に変わっただけだ。むにゅん、と腕に柔らかいものが辺り、霖之助の冷静さは帰館途中に減速する。更にそこへ流し目も加わって、霖之助の冷静さは帰館一歩手前で完全に止まってしまった。
「……放してくれないか」
「やー」
「やー、じゃないよ。全く……」
溜息を吐きながら、霖之助は視線を逸らした。騒いでいる少女達と狂った命が、彼の視界一杯に広がる。
「んー」
「ん……くっ」
しかしそれも今は頭に入ってこない。猫の様に頬を摺り寄せる咲夜にそれどころではないのだ。
誤魔化すように、霖之助は残った酒を飲み干そうと盃を傾ける。
「ん……にゃに飲んでりゅんれふか?」
「ん? 焼酎だよ」
「わたひもー」
「あぁ、飲むのかい?」
呂律の回っていない言葉ではあるが、大体は分かる。霖之助はそう言うと、視線を動かす。
少しして、目的の物は見つかった。視線の先には纏めて置かれた盃があった。近くに酒瓶も転がっているから、大方誰かが持ってきたのだろう。そして瓶ごと飲んでそのまま……という訳だ。ってよく見れば、この盃は店の商品じゃないか。誰が持ち出したのかは知らないが、やめてほしいな。
「ん……」
盃を取ろうとして、先にこっちを空にしてしまおうとでも思ったのだろうか。霖之助は盃をくっと呷り、中身を空にした。
そして盃を取ろうとした所で、咲夜が凭れ掛かっている方とは反対側の肩に力が掛かった。上から何かが置かれるような、ぽすんという力の掛かり方だ。
「ん?」
何事かと思い霖之助が肩を見ると、咲夜の左手に肩が掴まれていた。
何があったのかと咲夜の方を見る。
「ふふー♪」
「ッ……!」
振り返った霖之助の顔のすぐ近くに、咲夜の顔があった。まぁ体制を考えれば当然である。左腕を右腕で拘束したまま、咲夜は霖之助の右肩に手を伸ばしているのだ。そこに霖之助が振り返れば、顔は自然と近くなる。
しかし、咄嗟の事でそこまで考えが回らない霖之助は、予想外の出来事に一瞬固まってしまう。
そしてその一瞬の隙を突いて、咲夜が動いた。
「んっ……」
「――――」
……霖之助は、一瞬、何をされたのか分からなかった。視界が紅葉ではなく咲夜の顔で一杯になる。閉じられた目から覗く長い睫毛、ほんのりと桜色に染まる頬、そして、唇に感じる柔らかいもの……。
少しして霖之助は、今自分が咲夜とキスをしているのだと理解した。
「~~~~~~~~ッッッ!!?」
その事を理解した途端、彼の冷静さは頭の中から鬼も吃驚の怪力で跳ね飛ばされてしまった。
すぐに引き離そうとしたが時既に遅く、咲夜は右肩を掴んでいた手を霖之助の腋の下から背中へと回し、逃げられなくしていた。そうすると、必然的に体が密着する。
「んむ……」
「むぐっ」
動揺している霖之助を、咲夜は更に動揺させる。霖之助の口内に舌を入れたのだ。
「んぅ……」
「ぐ……んッ」
口の中は狭い。案の定霖之助の舌はすぐに咲夜の舌に捕まってしまい、くちくちと絡み合う。
更に咲夜はそれだけで終わらず、霖之助の口腔を、まるで掃除でもするかのように舌を這わせる。舌は勿論の事、歯茎や歯の裏まで、咲夜はじっくり丁寧に舌を滑らせる。
口から漏れるくちゅくちゅ、にちにちという音も、宴会の中では掻き消されてしまう。しかし、霖之助の頭の中には宴会の音など無くなってしまったかの様に、その粘り気のある水音しか響かない。
つう、と二人の口の間から、どちらのものともとれぬ唾液が霖之助の顎を伝って流れ落ちた。
「んむ……くちゅ、はぁ……ん、りんのふけふぁん……んっ、ちゅく」
「んっ……ぐっ……さく、や……んぅっ、むぐっ……ふ、く……」
舌を絡め、貪る様に唇を動かす。霖之助の口内が咲夜という存在で満たされていく。
「ん……ぷはあ……ぁ」
たっぷり十五秒程のキスを終え、咲夜は霖之助から唇を離した。互いの舌先から唾液の橋が掛かり、二人の間に広がった。
「……いきなり、何……を」
肩で息をしながら、霖之助が問う。それにより唾液の橋が途切れ、互いの顎へとかかる。
「……ふふっ」
それに対し咲夜は、顎についた唾液を右手一指し指で拭うと、それをぺろりと一舐めし、にっこりと笑った。
「美味しかったれふよ? おしゃけ……」
そして、目をとろんとさせて、そう言った。
「……な」
何なんだ……。
霖之助は心の底からそう思ったが、口には出なかった。この一分弱の間に色々な事がありすぎた。咲夜が来たと思ったら抱きつかれて、腕を抱きしめられて、キスされて……誰だって混乱する。無理も無いだろう。
思い出すと顔が自然と赤くなる。霖之助の頬は、酒とは違った理由で赤く染まっていた。赤い、というよりは桜色だ。
「ふふー♪」
「ッ!?」
困惑する霖之助だが、咲夜はそんな事を意にも介さず、再び霖之助に抱きついた。背中に腕を回してぎゅうと抱き締める抱き方だ。
「りんのすけさーん♪」
「さ、咲夜……っ」
再び抱きつかれ、霖之助は固まってしまった。普段の冷静な態度は何処へやら、相当な慌てぶりである。
しかしそんな霖之助とは対象的に、咲夜は霖之助に抱きついたまま動かない。
「……咲夜?」
「……くぅ、くぅ、くぅ……」
咲夜は霖之助に抱きつき、胸に顔をうずめて動かなくなってしまった。酔って眠ってしまったのだろう、規則正しい寝息が聞こえてくる。
「何なんだ……全く……」
視線を動かして、自分に抱きついて眠っている咲夜に霖之助は目を向けた。普段の彼女からは想像もつかない振る舞いだった。どれほどの量を飲めばこうなるのだろうか。
はぁ、と口から溜息が漏れる。息が掛かり、咲夜の銀髪がふわふわと揺れる。
「んぅ」
それに反応するかの様に、咲夜が腕の力を強めた。無意識なのだろうが、霖之助を動揺させるには十分だった。
慌てて口を閉じると、くちゅりという粘り気のある水音が霖之助の頭の中で響いた。
「ッ……!」
ほぼ無意識に、霖之助は手で口を押さえた。先ほどの事が頭の中で映像となって再び流れる。
口の中に残った、咲夜という存在。駄目だ。意識するだけで、顔が熱くなる。
「……はぁっ」
溜まらず、咲夜に掛からないようにして霖之助は息を吐き出した。そうして顔を背けた先には、すっかり秋の色に染まってしまった白桜があった。
……そういえば、この宴会の開催理由は「本格的に秋になってきたから」だった。秋になる、それは命が狂うという事だ。人の心を操る桜が、ましてや力のある白桜が狂えばどうなるか。想像に難くない。
「……ハァ……あぁ」
……どうやら、秋が狂わせるのは命だけではないらしい。
やっと戻ってきた冷静な部分で、咲夜と自分を見つめながら、霖之助はそんな事を考えていた。
砂糖で口の中が一杯です。ご馳走様でした!
そしてレミリアは……ww
それはそうと早苗さんって公式でお酒が弱かったような・・・
>>1 様
お酒弱いって一種の萌え要素だと思うんです。
>>奇声を発する程度の能力 様
咲夜さん可愛いですよね!
>>3 様
おぜうは宴会場の隅で潰れてました。
>>淡色 様
そんなに甘かったですかw
>>!! 様
あー女子高生ですしね。すっかり忘れてました。
>>6 様
咲霖っていいものだと思うんです。
読んでくれた全ての方に感謝!