レミリアがいた。パチュリーがいた。
「‥‥‥」
妖夢がいた。幽々子がいた。
藍もいた。紫もいた。
「‥‥‥‥‥‥」
輝夜がいて、妹紅もいて。
空がいて、さとりもいて。
文もいれば、聖までいた。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
そして、リビングへ顔を巡らせればアリスがいる。
恐らく弾幕戦に使うであろう人形を、丁寧に作るアリスがいる。
「‥‥‥で?」
私は不機嫌を隠さず、その七色人形遣いを睨んだ。
それなりに同じ時を刻んできて決して浅くない関係なのに、いくらなんでもこれはあんまりだわ。
「へ~、ふ~ん、そう。売られた喧嘩は買うわよ?」
「人のコレクションを勝手に見ておいて、言う言葉がそれとは恐れ入るわ」
手を休めることなくアリスは応対してくる。
私が見ていたのはアリスの人形コレクションだった。
異変で直接ぶつかり合った相手はもとより、そいつらをつてにして、私と知己にある妖怪はアリスもだいたい知っている。そしてコレクションルームとして作られたその部屋には、彼女たちを模したミニチュア人形であふれていた。
2頭身のかわいらしい、あいつらの特徴をよく写した人形だ。アリスの人形作りの腕は確かだし、私の人形なんかも作ってくれたら小躍りしてしまうかもしれない。
が、そのコレクションルームの中に。
私の人形がないのだ。
私の人形、だけ、がないのだ!
「なにこれ、都会で流行りの嫌がらせ?」
「あなたの人形は作りたくないのよ」
「カミングアウトしてくれてありがとう、ちょっと泣きそうだわ」
私、そんなに嫌われることしたかなぁ。思い起こせど思い当たる節は‥‥‥ないわけではないが。うぐぐ。
いやでも、今日はそのアリスに招かれてお茶会に来たのにこの扱いはないでしょう。私が個人的に誘われて来てやることなんて、しかも一応妖怪やってる奴の誘いになんて本当に稀なのよ? それなのにひどいわアリス。薄情者!
「泣くな。それと、思い込みで怒らないで。あなた以外の人形もないわよ」
そうアリスに言われたので、一縷の希望にすがるようによくよく探してみた。
しかし100体を超えようかという人形の山だし、どれだけ探そうとも全員コンプリートされている気がする。
が、一つだけ気付いた点がある。
それは、魔理沙や咲夜、早苗といったあたりの人形には表情がついていないことだった。
表情と言うより、顔そのものだ。頭部はあるのに、目も鼻も口もないのっぺらぼうになっている。それがあいつらだと把握できるアイテムは洋服だけだ。
それの意味することがだいたい予想できたので、私はことさら不機嫌になった。
‥‥‥馬鹿じゃないの。
「いつまでもその部屋にいないで。ほら、お茶が冷めるわよ」
「瓜二つの人形を作ったからって魂吸い取られるわけじゃないわよ。ばっかじゃないの?」
「私がそんな殊勝な事を考えているとでも?」
「あれ? 違うの?」
アリスの向かいの席に腰を下ろしながら、予想外の答えに少々驚く。
のっぺらぼうになっている人形は、いずれも今は人間をやっている奴らばかりだった。ついでに言うとアリスのそいつらは中々の縁だし、そういうことを気にしているのかと思ったが違うらしい。
もちろん全くのゼロと言うわけでもないだろう。何百年先でも顔を突き合わせられる輩と、そこ数十年限定品の私達だから。
「当たらずも遠からずだけどね」
「それならそれで、私の顔なし人形くらい作ってくれてもいいでしょうに。胴体もないってどういう了見よ」
そう拗ねながら彼女の淹れた紅茶に口をつけていると、やっと人形を作る手を止めてアリスはこちらに顔を向けてくれた。
「作らなくても、居るじゃない。ここに」
そして、アリスはにこりと笑う。
他の奴なら人形で足りるけど、私はそうではないと。
うれしいことを言ってくれる魔性の女。
その先にあるかもしれない意味までいろいろ勘ぐって、無駄に期待しちゃったりしちゃうんだから。その綺麗な笑顔をこっちに向けるな。
というか。
「さらっと台詞を言ってくれちゃったけど、恥ずかしくないの?」
「‥‥‥聞かないで」
今度はきまり悪そうに、顔なんかも赤く染めてうつむいてしまった。
頬染めんな。こっちまで恥ずかしくなってくる。
でもまぁ、嫌われてはいないことだけは確認できた。逆に、私の分だけ人形がないというのは、それだけ私の望んでいる方向に向いているということ。まさに「特別」なのだ。
「でも作ってくれてもいいでしょ。せめて顔なしでも」
「あなたの人形を作っちゃったら、なんだろう。会う時の楽しみが減るというか」
「人形遊びで満足できるような安い女とは」
「言ってくれるわね」
「私は見たいなぁ、アリスの作った私の人形」
自分をどんな風に作ってくれるのかはかなり興味がある。自分の家に置いておきたくないという理由なら家に持って帰ってもよい。ていうか、欲しい。
するとアリスは少し悩むそぶりを見せた後、首を小さく横に振った。
「う~ん、ダメ」
「妙なところで意固地になるな」
「霊夢が私の人形を作ってくれたら、考えないでもないわ。裁縫もそこそこはできるんでしょ」
「それはまぁね。でもやめておく」
お互いに作ればアリスとしては許容できるらしい。交換し合うとかそういう意味だろうか。
誕生日とかそういうイベントの時なら吝かではないが、めんどい。作る暇があるなら遊びに行くわ。
結局、アリスもそういう思考で動いているのだろうか。
「ねぇ霊夢」
テーブル越しに身を乗り出して、アリスが私の名を呼んだ。少しだけアリスの顔が近くなる。
ていうか近い。もっと離れろ、ドキッとするから。
「明日、里まで出とうと思うんだけど一緒に行かない?」
今日のお茶会も始まったばかりなのに、もう明日の話か。どれだけ気が早いんだ。
私が断るんじゃないかと、瞳の奥に不安の色を湛える馬鹿な魔法使い。約束する日に用事が入っている時もあるんだけど、それ以外で断る理由がどこにあるかっての。人形よりも私を大切にしてくれる相手よ?
「人形用の材料買い出し?」
「あなたの人形は作らないと言ったはずよ。面白い店があるらしいから霊夢もどうかなと、お誘い」
こういうのは大歓迎だ。神社でのらりくらりと待っていたらほかの奴が先に押しかけてくるもの。先約様優先よ。
私も遊んでいる方が楽しいわ。
「いいわよ」
「うん。じゃあまた明日ここで」
二つ返事で了承するとアリスはうれしそうに目を細めて嫌をよくした。
まぁ人形なんていらないわよね。こいつがいるし。
そして、私たちはテーブルを挟んでしばらく談笑した。
こんな日常が明日も訪れてくれるだろう。
私は、割と幸せなのかもしれない。
やる気が一気に湧いてきました
いいぞもっとやれ
素敵なレイアリ有難うございました!
…さて、この後の話を詳しくお願い致します
間違いなく二人は幸せなわけだ。
良いなぁよいなぁ!
まあどう転んでもレイアリは美味しいのだが