Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

恋色新婚旅行日記~Day.2~

2011/09/23 16:14:56
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 ※ この作品は、甘リアリシリーズの続き物となります。




















 優しい海のような鼓動が私を覚醒させる。
 本来睡眠を必要としない私であったが、眠る事ができて・・・しかも夢を見た。
 今、傍らで私を抱きかかえて眠る愛しの人と、昨日見たお魚達と一緒に泳ぐ夢。
 お風呂に潜った時のような独特の感覚に包まれて、私達が寄り添って共に泳ぐ夢。
 今日は夢の続きを魔理沙と共有出来たらいいなって思いながら、そっと目を開ける。

 ―外の世界にも幻想郷と変わらない夜明けの眩い光が、愛しの人の背中を照らしていた。


           ~花菓子念報特別号に寄稿されたアリス=マーガトロイドのコラムより一部抜粋



 Day.2 ~最愛の人と見る海~

 

 真夏の太陽が燦々と輝いている。外の世界も幻想郷も、暑いのは変わらない。でも、自動車や建物の中に居る時はエアコン等があり暑さは感じないんだけど・・・

「貴女達、車酔いしますわよ?そんなに身を寄せちゃって。」
「いや、だって・・・右手にあんなに綺麗な海があるから・・・・・ねぇ」
「だぜ。こんなに綺麗な海は、たまんないんだぜ。」

 右手に広がる海を見るために私達は、身を寄せている。故に、魔理沙の体温を感じているのである。その温もりは、どんな物にも代えがたい温かさがある。
 真夏の不快な暑さとは違う人の温もりは、傍にいる事を実感させてくれる大切な感触なのだ。

「天気も良いですし、今日は平日で人も少ないと思うので、十分に海を満喫できるはずですわ。」
「ただ、日焼けが怖いけどねー」
「その点は大丈夫なんだぜ。魔法の森のキノコから抽出した特製サンオイルを・・・」
「ええっ、アレ?持ってきたの?!」
「あぁ、私は別に気にならないんだが・・・アリスは焼け過ぎたら折角の白い陶器のような肌が台無しになっちゃうんだぜ。だからと思ってー」
 
 魔理沙の気遣いは嬉しかったが、キノコ制である事に私はまず抵抗を覚える。何故なら、魔法の森のキノコは魔力で変質した物も多く、精製したりすると予測のつかない効果が出るケースが多い。しかも、魔力への依存度が高い私がそれを使った時に、私の魔力と精製したキノコの魔力が相互に干渉し悪影響を与える可能性もある。
 もちろん、魔理沙が魔法の森のキノコに非常に詳しい事は知っているし、私が魔法使いである事を考えて精製はしてくれているだろうが、それでもリスクの事を考えると素直には首を縦に振って喜ぶわけにはいかない。

「まぁ、私が用意した日焼け止めを塗っておけば安心ですわ。私もコレ使って友達と海に行きましたのよ?日差しは乙女の天敵ですわ。」
「お、紫も海水浴行くんだ・・・って、友達?」
「別に妖怪がこっちの世界で友達を作っちゃいけないという決まりはありませんわ。」

 友達、と聞いて少し驚いた。この隙間妖怪は、こっちの世界にも友人がいると言うのだ。まぁ、人間である霊夢とかと(非常に怪しいが)普通につるんだりしてるので、居ても不思議では無いなと思う。まぁ、霊廟の異変の後に魔理沙と弾幕勝負をしたという大妖怪のマミゾウも外の世界で、フツーに暮らしていたのを聞いているので、妖怪自体の性格に依るものなのかなぁという結論に至るのはすぐの事であった。

「紫とかってどんな水着着てるんだろう?」
「そうだなぁ。私達よりスタイル良いし、絶対私達より選択肢多いよなー」
「至って普通ですわねぇ。世の男共を悩殺しても仕方ないですしー」

 まぁ、ぶっちゃけた話紫は(黙っていれば)うら若き乙女にしか見えないので、水着なんて着て海に飛びだせばほぼ確実に男性が声をかけて来るに違いない。悩殺しても仕方ないとは言っているが、悩殺した男性を攫い、食べてしまえば食料に困る事も無いと思われるのだが・・・

「他者との縁がある人を攫ったりは出来ませんわ・・・私が攫うのは幻想の存在となりつつある者のみ・・・」

 私の疑問を察したのか、私にだけ聞こえるように紫がぽつりと呟いた。そして車は昨日行った水族館の近くにある駅のロータリーに止まった。今の事に付いて質問を返そうかと思ったが、車が止まって降りて海に行けると分かった最愛のお嫁さんが、意気揚々と私の手を取った。

「行こうぜ、アリス。海はもう目と鼻の先なんだぜ。」
「うん!」

 私もそんなお嫁さんの元気な返事に元気な返事で答えて、車を降りる。紫はそんな様子を微笑みながら見ているが、私達が荷物を持ち終わった所で。

「楽しんだら連絡下さいな。すぐにお迎えに上がります故に。」
「ありがとう、紫。」
「じゃあ、行ってくるぜー。」
「着替えるのは海の家ですると良いわ、後、柔軟体操はしっかりするのよー。」
「あぁ、食事もそこで出来るって言ってたな。」

 海の近くにこうした食堂件更衣室があるのも外の世界ならではと言ったところか。


「水着の着せあいっことかあとサンオイルの塗りあいっこは絶対にしちゃダメよー」
「「誰がする(もんです)か!!」」
「うん、分かってたら大丈夫ね。じゃぁ、ごゆるりと・・・」

 にたぁと笑って車を出す紫を見送る。向き直ればすぐそこには、黄色い砂浜と輝く蒼が眩しい海があった。昨日見た海には無かった砂浜とその独特の塩の香り、そして相変わらずの都会の喧騒が耳に残る。都会派を自称してはいるものの、このやかましさは好きになれそうにない。

「なぁなぁ、そこから海に抜ける事が出来そうじゃないか?」
「あら、ホント。流石魔理沙、見つけるのが早いわ。」
「普通だぜ!」

 魔理沙のやかましさにはもう慣れたし、これが魔理沙なりの愛情表現だとも良く知っている。だから自然と顔が緩むのを感じる、付き合い始めて暫くの頃、買い出しに里に言った時、アリスちゃんの顔が柔らかくなったと言われた事を今でも覚えている。
 目尻も下がったし、頬もすっかり緩んでしまった。それも、魔理沙のおかげ。

「じゃあ、行きましょうか。海へ・・・」
「ああ。行こう。」

 私達は、舗装された道を歩いて海へ向けて歩み出す。細い路地に入って視線の無い事を確認して、そっと魔理沙の手に私の手を重ねると、しっかりとした感覚が帰ってくる。

 ―さざ波のように引いては満ちる魔理沙の鼓動を感じながら、私達は憧れた海への距離を縮めて行った。


ミ☆


「よし、おにゅーの水着もばっちりなんだぜ。」
「魔理沙、すっごく似合ってる。」
「アリスだって似合ってるぞー」

 海の家の中にある更衣室から出た私達は水着に着替えたお互いの姿を見て似合ってる事を伝えあう。まぁ、アリスの水着は先日の水浴びの時と変化は無いけど、やっぱり似合ってるし可愛いから言っちゃうわけで。
 私より格段にスタイルが良いので、こういったビキニスタイルの水着が良く似合う。私もアリス位発育が良ければなぁ・・・女としての魅力の無さは嫁さんとしてどうなのかとすっごく悩む。それでもアリスは何時だって綺麗だよとか言ってくれるけど、アリスの可愛さには敵わないんだぜ。

「日焼け止めは塗ったか?」
「ええ、魔理沙も塗った?」
「おう、問題無し、だぜ。」

 この日差しの強さをまともに受けたら、流石に私達のお肌も荒れてしまうし日焼けしすぎて、火照ってしまうと寝にくいし、寝床でひりひりする肌を庇いながらアリスと一夜を明かすのは流石に愛しの人が傍に居ても堪える物だ。
 だから、紫のアドバイスに従って、こっちの世界の日焼け止めを塗っておいたのだ。これなら、今日の夜も問題無くアリスと一緒に眠る事が出来るだろう。
 そして、私達はどちらからともなく海へと歩き出す。海の家を出ると、自然と足が速くなっていき、砂浜がサンダル履きの足を捕えているのにも関わらず私は懸命に黄色い砂浜を蹴り、海の方へとかけて行く。

「海だ!!イヤッほぅー」

 多分、人生に置いてこれ以上無い良い顔をしていたと思う。結婚式の時のような弾ける笑顔だったように思う。横で少し遅れて同じように駆けるアリスの表情も弾けており、きっと初めて見る海が嬉しいんだと思う。アリスは普段大人しいから、はしゃぐなんて珍しいなぁと感じながら、私は海へと足を踏み入れた。

「おぉ、波があるんだぜぇ。本物の海だぜ!!」

 月に行った時に見た海では、こんなにはしゃぐ事は出来なかった。ただ霊夢と遠くを眺めてただけで、それどころの騒ぎじゃ無かったもんな。今回は、侵攻ではなく観光目的、しかも新婚旅行と来ている。最愛の人と憧れの光景を共有するために来ているのだ。

「凄く良い音、涼しげな感じがするわ。」
「そうだなぁ。この音だけでも、とっても気持ちいいんだぜ。」

 ふと見上げた空には鳥が数羽舞っており、今まで聞いた事も無いような声で鳴いている。ザザァと言う波の音と、みゃうみゃうと言う鳥の声が織りなす演奏会。幻想郷では聞いた事の無い、素敵な音色のコンサートにしばし、目を閉じる。
 ・・・私だって、こういうのに感激したりする乙女な一面は持ってるんだぜ。普段の振る舞いからでは想像できんかも知れんが、こういうのを感じたりするのは大好きなんだ。

「あら、徐々に深くなって行くのは、湖と共通なのね。」
「あんまり遠くに行くんじゃないぞー、危ないらしいぞ。」
「最悪はバレない程度に飛んで帰るわ、それに少々息が出来なくても私は大丈夫だし。」
「それでも、だ。アリスに何かあったら・・・・私。」

 アリスに不安な眼差しを向ける。アリスはいつも私を心配してくれるように、私だってアリスの身に何かあって欲しくは無いと心配をいつもしている。種族魔法使いであるが故に、無茶はしないと言う割には私が真似できない危険な真似を平気でする事がある。
 私との無茶の基準が違うのは百も承知の上だが、それでも大切な人に何かあった時は私だって黙っては居られない。その気持ちが通じたのか、アリスは私にウインクをしてから、優しい笑みを浮かべる。

「いつもと、立場が逆になったわね。」
「私だって、いつだってアリスの事心配してるんだぜ?主に私が迷惑かけてばっかだけど・・・」
「でも、その気持ちとっても嬉しいわ。」

 そう言いながら、さらに数歩歩いて完全にお腹の高さまで浸かる所まで歩くアリス。そして、本当に嬉しそうな顔をして、私の方に向き直ってから、冗談めかした口調でこう言ってきた。
 
「まぁ、魔理沙に心配される日がくるなんて、夢にも思って無かったしぃ~。」
「言ったな、このぉ!」

 にやにや笑いのアリスに思いっきり海水をかけてみた。美しい金色の髪が揺れ、手で身を守ろうとする。そして表情も嫌がって無かったので暫く攻撃を続けてみた所、私が放った放水の向こうから勢いの良い水がこちら目がけて飛んでくるのが見えた。

「お返しよ!頭でも冷やしなさいっ!!」
「うわっぷ、やったなぁ。このー」

 無我夢中で水の掛け合いっこをする。年甲斐がないかも知れないが私としては一度やってみたかったんだよなぁ。爆ぜる水が顔にかかるがお構いなく、私はアリスへの反撃を敢行する。冷たい海水が日差しで温まった肌に当たる度に冷えて凄く気持ちいい、爆ぜた水が水面を打つ音と爆ぜる音も手伝って真夏の暑さが少しだけ和らいでいくそんな感じ。
 ある程度アリスと水を掛け合ってから心地良い疲れを覚えた私は、攻撃の手を止めて、その場に背中から倒れ込んだ。見ている風景がめまぐるしく変化し、快晴の空と真夏の太陽が水のたゆたう音と共に私の目に映る。

「あら、魔理沙。どうしたの?」
「いやー、綺麗な空だなって思ってね。アリスもやってみろよ。」
「そう、じゃあ早速・・・」

 私を近くに引き寄せてから、横で同じように背中から海に倒れ込むアリス。跳ねる水が真夏の太陽に照らされた頬を滑り、再び海に還って行くのが感じられる。

「綺麗な空ね・・・幻想郷とはまた違う空模様だわ。」
「でも、この空は幻想郷と繋がってるんだぜ。結界はあるけど、同じ空を結界で囲っただけなんじゃないか・・・って思うからなんだが。」
「そうねぇ、でも・・・そう考えるとロマンチック。幻想郷にいる皆もこの空の下で生きているのよね。」
「そうだな。」

 ちらと横を見たら、アリスが微笑んでいた。そして、不意に海水を掬った手を自分の口元に持って行った。暫く何かを考えてから、アリスはふーむと言いながら私に。

「塩の味がする・・・」
「ん・・・どれどれ?」

 アリスの発見に興味を持った私は、アリスのマネをしてみる。口の中に広がる味は、何とも言えない味・・・幻想郷で食事に使う塩とは似ても似つかない味が広がっていく。
 だが・・・どこかとても懐かしいような味がして。人間の祖先・・・生命は海からやってきたという風に昔寺子屋で習ったが、その事を想起していたのであろうか。

「不思議だな・・・此処から命は誕生して・・・この地上にやってきたのか」
「想像もつかないような話ね。」
「そう考えると、今、私達がこうして結ばれて、此処に並んでいられるのは・・・凄い奇跡だよな。」
「うん・・・」

 そんな海からやってきた生命のずうっとずうっと襷を受け継いできた存在である私達。いろんな運命、偶然が折り重なって、好きになって、愛し合うようになって、そして生涯を共にしようと約束した最愛の人と並んで海に浮かんでいる何気ない事も、この地球で起きた一つの奇跡に近い素敵な出来事。

「アリスと、此処に来れて良かった。」
「魔理沙・・・」
「この大海原を見て欲しかったし・・・綺麗な砂浜も見て欲しかった。私が月で少しの間見ただけでも・・・綺麗だって思ったこの光景を。」
「うん、ありがとう。でも・・・魔理沙が見たより、とっても素敵な光景を見たような気がするわ。
「お?」

 アリスが真夏の太陽のような笑顔を見せる。私と付き合い、同棲を始めた辺りからアリスは本当に良く喜怒哀楽を見せるようになった。一緒に笑い、喜ぶ度にココロとココロが触れ合って、とっても幸せな気分になるのだが・・・次の一言が、私のココロを震わせた。
 
「・・・魔理沙と、大好きな人と、愛する人と・・・・一緒に見るこの光景は、どんな物よりも素敵だと思ったの!だから・・・連れて来てくれてありがとう、魔理沙。」

 私の視界が潤んだ。ただ、嬉しかった・・・それだけで表現できるけど、表現しきるには言葉が足りないような感情がココロの中で一気に膨れ上がる。
 自然と手が動いて、アリスの手を握った。水の中だし、見てる人も少ないし・・・っていうか、手を繋ぐ位なら女同士でもやってる奴は結構いるから見られるのは別に構わないんだけど、とにかく、大好きで愛してる人・・・アリスの手を繋いでおきたかった。
 たゆたう水の中で波の動きに身体が動いても、その手だけは放さないようにしながら私はアリスと肩をくっつけて、波の揺らめきを共有する。

「私と変わらない位に背も大きくなったわね。」
「そうか?でも・・・その、胸とかはそんなに・・・・・」
「でも、この水着だと無いなんて言わせないわ。言った人妖は全員私が・・・・・」
「気持ちは嬉しいが、お手柔らかにな。」

 そっと私の水着の真ん中に手を置くアリス。その仕草に、一瞬ドキッとしてしまったが、その手を拒む筈は無く、何をするのかと見守っていると、心臓の辺りで手が止まる。

「こうやって、見てる物を共有して、いまこうして一緒に生きてる事って素敵だなって。」
「そうだな。」

 私もアリスの胸元に手をやって心臓の鼓動を掌で感じる。魔法使いという種族であるが、その心臓は私と同じように脈を打ち続けている。確かにお互いのお互いに愛するココロの容れ物は人間か、魔法使いかで違うかもしれないけど、私とアリスのココロは今、此処で、母なる海でまた一つになって、お互いの絆をもっと強くしていく。
 
私はアリスと一緒に、ここで生命を燃やして生きている事を感じながら、その事実に感謝した。
 
そんな感じで暫く海で漂いながらアリスの鼓動を感じていると、不意にアリスが胸元を軽く突っついてきた。くすぐったさと気恥ずかしさが、私の全身を駆け巡る。

「ひゃうっ!!な、何だよ。アリス・・・」
「一回上がって、休憩しましょうか。お腹も空いたしね。」

 浜辺にそびえる海の家の方を指さして、白い歯を見せる。私に似て来たとアリスは言うが、その表情は似せた物とは到底思えない、とっても自然な物だ。私も負けじと笑みを見せて、アリスに答える。

「そうしようか。ご飯も食べたいが、しっかり小麦色の肌にしておきたいんだぜー」
「日焼けしすぎないようにしないと・・・一緒に寝れないわよ。」
「むぅ・・・それはヤだな。日焼けして火傷みたいになるのは勘弁だぜ。」

 立ち上がるアリスに抱かれるような形で立ち上がる私、海水で濡れた背中が真夏の太陽に再び照らされる。手だけは繋いだままで、私達はゆっくりと海を歩いて水から上がっていく。

 海水の雫が私達の愛の証の指輪を滑り、砂浜に落ちて、刹那のうちに空に還っていった。


ミ☆


 紫曰く、海の近くに併設されている事が多い海の家。そこで、私達は少し早目の昼食を取る事にした。小さなテーブルに向かい合って座って、目の前に置かれた美味しそうな焼きそばとお好み焼き、そして良く冷えたビールを見据える。

「あぁ・・・海の家にご馳走の匂いが満ちる・・・・・」

 そんな様子に目を輝かせている魔理沙。何処かの尼さんのようなセリフを呟いているが、それは気にしてはいけない。

「そこで焼いてくれた出来たてだしね。すっごく美味しそう・・・」
「だなだな、じゃあ、頂こうじゃないか。」
「うん、たっぷり食べましょ。」

 ―いただきます。

 幻想郷と変わることなく二人で挨拶をして、割り箸を割って目の前のお好み焼きを切っていく。その仕草を見ていた魔理沙は、お好み焼きを切らずに豪快にかぶりつくのを止めて、こちらを見てきた。

「あれ、豪快にかぶりつかないのか?
「私のはすじ肉入り、魔理沙のはシーフードだから、半分こしたら二つの味が・・・」
「おぉ、アリス流石だぜ・・・!私も半分あげるんだぜ、ちょっと待てよー」

 魔理沙は喜び勇んで、お好み焼きに箸を入れる。美しい半月の形に斬ったシーフードたっぷりのお好み焼きを私のすじ肉入りとそっと交換する。交換が終わると、私は焼きそば、魔理沙はお好み焼きに箸を付けて口に運んだ。

「お好み焼きうめぇー!」
「焼きそばも美味しいわ!」

 非常に美味しい。ただ美味しいだけじゃない、幻想郷でも外でご飯を食べた方が美味しい事があるが、この海の傍で食べるこれらの料理には、海からの潮の香りが+されており不思議と美味しく感じてしまう。

「美味しそうに食べるアリスの顔かわいいぜ・・・」
「もぅ、魔理沙ったらぁ。」

 そしてビールを口にする。暑い中、浜風の抜ける海の家で飲むお酒の味は格別である。ジワリと全身に染みるような美味しさだ。後はいつものように、仲良く店員の目を気にしながら食べさせあったりとかしながら、お好み焼きと焼きそばを堪能する。その余りの美味しさに、目の前に置かれたお好み焼きと焼きそばが無くなるのはすぐの事だった。

「あぁ、美味しかったぁ。」
「そうだな、しかし、こう言う味は幻想郷では珍しいんだぜ。」
「この上にかかってるソースが幻想郷じゃ手に入らないわ。」
「後で紫に聞いてみようぜ。」
「ええ。」

 何と言ってもこの黒いソースの味がとても美味しかった。これがもし買えるのなら、幻想郷へのお土産にしたいくらいだ。ハンカチで口の周りを拭きながら、ふうと一息。回りにお客さんの姿は殆どなく、今日は人が少ないと言っていた紫の予想は当たっている。
 だが、こんな所でじっとしているのは今日は特に勿体ない。しばらくその様子を眺め、ビールを飲みほした私達は、また真夏の太陽の元へと戻る。
でも、海には行かない。食べていきなり泳いだら、流石に危ない事はちゃんと知っているからだ。

「アリスー、ここが綺麗だぜ。」
「そうね、海がよく見渡せる・・・ここにしましょ。」
「よし、じゃあパラソルを仕掛けるんだぜ。」
「あ、それなら私が。」
「良いんだぜ、嫁さんには苦労をかけたくないんだぜ。」

 ウインクして、海の家の荷物預かり所から持ってきたパラソルを差す魔理沙、自分の身の丈ほどあるパラソルを器用に開き、砂浜に出ていた固定するシャフトに取り付ける。後ろで束ねた長い髪を浜風になびかせる魔理沙の印象は、普段とはちょっと違ってて魅力的だ。

「んしょ、良い感じにパラソルも設置出来たぞ。」
「ありがとう、魔理沙。」

私はパラソルを設置した魔理沙を横に寝そべらせる。長く水に浸かるのも体力を使う物で、私もなんとなく心地良いだるさを感じていた。

「サンオイル、塗るか?」
「うーん、今は良いわ。魔理沙はどう?」
「私は塗っておくんだぜ。」

 バッグの中からサンオイルを取りだして魔理沙に渡す、魔理沙は意気揚々と鼻歌交じりにサンオイルを塗っていく、まずは腕、次に足、そして引きしまったお腹へと手が伸びる。
 魔理沙本人にはコンプレックスがあるようだが、その無駄のないスタイルはとっても羨ましい。よく鍛えられていて、私一人くらいなら簡単に抱きかかえてしまう・・・あの小さかった魔理沙も、今では私とほぼ同じ身長であり、その全てを持って私の事を本当に大切にしてくれる・・・

「アリス・・・悪い、背中だけはちょっと届かなかったんだぜー」
「!?」

 サンオイルを一通り塗り終えた魔理沙が安心しきった顔でうつぶせで転がっていた。そしてそのまま、サンオイルの入った瓶を私に手渡した。
 塗ってくれという意思表示であり、喜んで塗ってあげたかったのではあるが、やはり魔法の森のキノコ製である事が、頭の中でひっかかる。

「ホントに大丈夫かしら・・・」
「大丈夫だ、肌に良いキノコの成分だけを抽出して、アリスの魔力と干渉しないように調整してある。アリスの魔力は、私とのリンクの際にどんなのかちゃんと把握してるから、信用して欲しいんだぜ。」

 その一言でハッとした、私達は魔力を通じ合わせる事が出来る。今は結婚指輪がキーアイテムとなり、リンクが容易にできるようになってはいるが、永夜事変の時なんかは偶然撃った弾が魔理沙のと反応して威力が上がった程度の事だったので偶然と思っていたのだが・・・

 魔理沙との生活を続けるうちに、その魔力が非常に相性の良い物であると気が付いた。

 そしてそのリンクを実用化してからと言う物、私達はお互いの魔力に付いて熟知する事になった。私は、魔理沙の魔力の性質を知り、今ではマスタースパーク並みの威力を持つ上海人形の一撃を披露できるし、逆に魔理沙は、私の魔力の性質を知って人形躁術や魔法の糸の使い方を覚えた。お互いの事をよく分かっている・・・って言うのはまんざら嘘では無い。
 そんな魔理沙がちゃんと私の事を想って準備してくれた物なのだ、信じないわけにはいかない。私は、サンオイルの蓋を開けて、魔理沙の背中のホックをそっと外してあげた。

「分かった・・・じゃあ、塗るね。」
「あぁ、頼むんだぜ。」

 サンオイルを魔理沙の大きくなった背中に塗りながら、私は彼女の成長を実感していた。肉体的な意味でもそうだが、今私が言いたいのは精神的な意味での成長の方だ。
魔理沙は、私との出会い、交流を経て徐々に大人になっては居たが、私と交際を始め、同棲生活を経るうちに物凄く成長した。まず、気遣いが出来るようになった事。なんでも力押しで、だぜだぜいって強引にやるように見えるけど、私の前ではちゃんと意見を聞いたりしてくれてるし、何より私が楽しくなるように、嬉しくなるようによーく考えてくれているのがすっごく分かる。

「アリスの手、気持ちいいんだぜ・・・」
「何言ってんのよ。」

 嫌み等の負の感情の無い何気ない応答に魔理沙は小さく震える。私は背中にまんべんなくオイルを塗り終わると魔理沙の水着のホックを止め直してあげる。その事に気が付いた魔理沙は自分で微調整を行ってから、私の膝に頭を乗せて来た。

「アリスの膝枕、最高だぜー」
「ふふ、ホント・・・子供みたいね。」
「失礼な、こう見えても美人の妻が居るんだぜ?」
「はいはい、分かってるわよー」

 ふにゃぁとなる魔理沙の髪を撫でる。視線を海の方へ戻すと、子供が何人か、元気にはしゃぎ回っているのが見える。

「はは、よく走り回るんだぜ。よし、そこだー!」
「・・・あら、こけちゃった。でも偉いわ、泣かずにちゃんと立ち上がった。」
「ここの砂はフカフカだからな、こけても痛くないと思うんだぜ。」
「うん、それは確かに思うわ。」

 ボール遊びに興じる無邪気な子供達。その姿は、湖や川で水遊びを楽しむ幻想郷の子供達となんら変わりは無い。そこに大地があればその足で駆け、そこに空があれば想いを馳せる。その目で見た物を、ココロで感じた物を思い出として大人になっていくのだ。
 その姿に私達の目尻も下がっていく。

「・・・可愛いわ。ね」
「だなぁ。」
「いつかは、私達の子供もこうやって走り回る日が来るのかなぁ」
「アリスに似て大人しくなるかも知れないぜ?」
「魔理沙に似れば、きっと元気に走り回るわ。」

 ここでやんちゃな人形使いの子供を想像をする。だぜだぜ言いながら走り回っては、人形を操る姿を想像するだけでも自然と顔が綻ぶ。

「あ、なんか想像してただろ?」
「やんちゃな人形使いが、遊んでる姿をねー。そういう魔理沙も何か考えてたんじゃないの?」
「私はお淑やかな魔法使いが、海を静かに眺めてる姿を想い浮かべたんだぜ。」

 魔理沙は丁度逆の想像をしていたらしく、静かに風景を眺める魔法使いの事を考えていたらしい。それはそれで非常に愛らしいと思うが、魔理沙との子供はやっぱり魔理沙に似て欲しいなぁと思うの私なりのワガママと言う所か。

「でも、凄いよね・・・あの魔法、ホントに実現するとは思わなかった。」
「あぁ。私も出来るかは不安だったけど・・・アリスとだから形に出来たんだぜ。」
「んもぅ・・・魔理沙のエッチ!」
「む、むっ。そんな事言うなよぉ・・・アリスだって・・・・・すっごく嬉しそうな顔・・・・してたじゃないかぁ・・・・・・」

 ・・・パチュリーの秘蔵の魔術書であるこの生命創造の魔法。元は魔女狩りに対抗するため、迫害される魔女同士でも子を成せるように編み出された悲しい歴史のある魔法・・・・・だったのだが、幻想郷では、愛し合う魔法使いの女性同士が子供を授かりたい時に使用されるのである。ただ、魔法の性質上、女の子しか生まれないと言う制約がある上に使用する時に凄まじい体力と魔力を消費してしまうという問題が絶対に付いて回る・・・
 
でも、これのおかげで私達は、同性のカップルでありながら子供を授かれるのだ。

 ―魔理沙と私の全てを受け継ぐ・・・恋色の魔法を受け継ぐ私達の子供を。

 目の前が生命を育み、この大地に生命を送りだした海と言う事もあって、その事を考えると凄く尊くなる。かつて・・・今もだけど私はお母さんに習って、自立する人形・・・命を作ろうと考え、その実現のために莫大な魔力を扱える魔法使いになった。
 でも、実際にはそんなに上手くは行かなかった。何も無い所から生命を作りだすのは余りにも難しい行為で・・・そんな難しい事をこのお腹はやってのけるのだと思うと、人の身体って本当に凄いと思う。
 チラと横を見ると魔理沙は完全にオーバーヒート。まぁ、思い出すと、私もオーバーヒートしかねない思い出が頭をよぎる。どっちの頭から先に煙がでるかなぁと程々に平静を装っていると先に頭の天辺から煙を吹きださんとせんばかりの勢いで、魔理沙が訴えて来た。

「で、でもなぁ・・・私が先にお母さんになりたいんだぜ!」
「んもぅ、私が先よ!それだけは、譲れないわー」

 売り言葉に買い言葉。その言葉を言いながら、私の頭も一気にオーバーヒート、大きくなったお腹をさすりながら、子供の誕生を待つ私の姿を想像してしまう。幸せの最高潮の風景が私の思考回路を焼き切ってしまいそうだが、ここは魔理沙に主導権を取らせる訳には行かないので、ギリギリの所で踏みとどまる。
 ・・・私だって、魔理沙の子供が欲しい。勿論、私がお父さん役で魔理沙を支える役割が嫌な訳じゃない。むしろ、そんな事なら喜んでやる。人形作りの時間や魔法の研究に取られる時間が減っても別に構うものか。魔理沙と結婚する時にそう・・・決めたから。
 でも、やっぱり夢見る乙女な私のココロは抑える事は出来ず、私の頭は魔理沙を思いとどまらせる言葉を紡いでしまう。

「お腹に赤ちゃんがいたら弾幕なんて論外よ、それでも良いの?」
「あぁ、そん時は赤ちゃんの事に専念するぜ。弾幕や魔法なんて二の次だ。愛するアリスとの子供だから・・・大切に大切に育てたいんだぜ。」

 なんと、魔理沙も相応の覚悟を決めているようだ。でも、同時に安心した。大好きな弾幕や魔法よりも、新しい生命を大切にすると言ってくれた事が嬉しかった。ちゃんと家庭を築くにあたり、ちゃんと協議はしてきてはいたが・・・こうやって咄嗟の時に出る一言の方が、その人の本心を正確に映し出すのは経験則上知っている。

「じゃあ、アリスはどうなんだよ・・・人形作りとかにかまけては居られなくなるぞー」
「それも考えてるわ、魔理沙との子供なのよ・・・子供以上に大切な物は無いわ。」

 またしても平行線を辿る議論。でも、お互いが子供の事を思っている事に気が付いてまた幸せになる二人のココロ。真っ赤になった顔を背けて、また見合わせて、合わせ鏡のように動く私達。心臓が凄まじい勢いで跳ねる、そして口の中が渇く。私が言葉を探していると、魔理沙が。

「う、うーむ、寝床の上下とか箒の前か後ろみたいに二人とも得する折衷案を取ると・・・色んな意味で大変だからなぁ。二人で人形操って家事に勤しまないといけないんだぜ」
「そうなると、二人で人形劇ができそうね。魔理沙も随分上手くなってきたし、不可能ではないプランの一つではあるわ。」
「それも楽しそうだけど、動けなくなったら本当に恐ろしいんだぜ・・・私が産気づいて、そのショックでアリスまで産気づいたら、笑い事では済まされないと思うんだ。」
「そうね・・・やっぱり、生命を授かるのって文字通り命懸けだもの・・・・・」
「だぜー」

 真剣な瞳で話す魔理沙。普段はニコニコして私に甘えてくるけど、やはりそういう事は真剣に考えてくれている。だからこそ、全てを預けようと思ったんだけどね。そんな魔理沙は再び私の膝枕で幸せそうな顔をする。しかし、膝に乗せていた頭を私のお腹に寄せて来るのは先ほどとの大きな違い。私もそっと、魔理沙のお腹に左手をやった。

「まぁ、それもその内に、な。今は新婚気分を楽しもうぜ。」
「そうね。人生に一度しかない・・・素敵な時間だものね。」

 そうやって絆を深めた私達の視界の先に、ころころとビーチボールが転がってくるのが見えた。右手でボールを掴んで弄んでいると、子供のうちの一人が私の方に向かってくるのが見える。すると魔理沙が身を起して、立ちあがって私の左手を取る。

「そろそろお腹もこなれたんだぜ、また泳がないか?」
「賛成よ。でも。その前に・・・」
「ああ、持ち主に物は返さないとなー」
 
 私は手を上げてすみませんと言っている子供に、ビーチボールを投げ返した。人形を投げているのに慣れているのも手伝って、投げられたボールは綺麗な弧を描いて子供の所へただいまだ。
 ありがとうと叫ぶ子供達に手を振って、私と魔理沙は立ち上がって海へと足取り軽く向かって行った。


ミ☆


「なぁ・・・アリス。」
「なぁに、魔理沙。」
「上海と蓬莱に・・・荷物番させて大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。私と視覚を共有してるし、何かあったらすぐ行ける距離だし。」
「むぅ。念のために私も蓬莱の操作の準備、しておいた方がいいかな。」
「マリサーアリスー、イチャツクナヨー」
「大丈夫だ蓬莱、お前も水着だからって水の中に入るなよ?」
「イエスマム!デーストローイ」
「お願いね上海。」
「イエス、マイマスター」


 何故か砂遊びに興じている(恐らく命令だろう)上海と蓬莱を遠目で見ながら、私はアリスとの海水浴を楽しんでいた。
ちなみに、上海と蓬莱にはお留守番をさせていたのだが、昨日の風呂場でヒーリング・・・というか魔法が使える事に気が付いたアリスが、私の大切なこの子達も連れてってあげたいと紫に頼み、それを受け入れた紫の計らいにより、彼女達も外の世界入りを果たしたのだ。


気の赴くままに泳いで、アリスに泳ぎ方を伝授したり、一緒に海の中を見たりしながら、幸せな一時を過ごす。
 
「流石だぜ、教えた事どんどんモノにしていくな。」
「当然よ、コーチも最高だしね。」

 嬉しくって照れ隠しをする私を横目に練習したばかりの平泳ぎを披露するアリス、優雅に泳ぐその姿を眺めていると、自然と頬が綻ぶ。

「なにニヤケてんの?」
「いやぁ、お前が可愛いなぁって。」
「んもぅ・・・ブクブクブク」

 口元でブクブクと数秒間泡を立ててから頭を沈めるアリス。覚えたてなので、まだまだ姿勢が安定していない。さとりはうろ覚えでも散々文を悩ませたそうだが、流石に身体を動かす事はココロのコントロールとはまた違う難しさがあると言うことだろうか。
 キックの度に浮き沈みするお尻に視線がたまに行く。勿論そのラインは美しく、魅力的であるんだが、そこばかりを重点的に見ている訳ではない。徐々にキックの勢いが無くなっている事を、ちゃんと見ているんだぜ。

「ほら、足が水底に沈みかけてる。もっとしっかり姿勢を保つんだ。」
「・・・ぷはっ、結構体力使うのねぇ。足が安定しないわ。」
「でも、随分よくなってきてるじゃないか。でもここをこうすると・・・ほら。」
「・・・まぁ、一掻き一蹴りで遠くに行けるようになったわ!」


 永夜異変の時は、澄ましているだけでこんな風に顔をくしゃくしゃにして笑う事なんて無かった。七色のように表情豊かな最愛の嫁は、真夏の太陽に負けない位輝いている。
 そして見ててよ、と一言告げで泳ごうとしたが、泳ぐ姿勢に入った所ですぐに後ろを振り向いて、気持ち悪そうな顔をしていた。

「やだぁ、何か足にからみついてる~」
「む、海藻か何かかな。すぐに助けてやるんだぜ。」

 アリスの方へ泳いで行って、足にからみつく物をすぐに払ってあげる。払った物を海水から水揚げして、目の前に持ってくる。つんとくる慣れない磯の香りに顔をしかめてしまったが、その物には見覚えがあった。

「アリス、これはわかめだぜ。外の世界では普通に生えてるんだな。」
「あらホント。でもサンダルと足の指の間にはさかってヤな感じ・・・あぁ、もぅ。」
「肩貸すから、片足づつ取り除くと良いんだぜ。ホレ。」
「ありがと、魔理沙。」

 アリスの長い指と温かな掌がしっかりと私の肩を捕えた。せっせとわかめを取り除くアリスの腰を持って倒れないようにしてあげながら、揺れる水面の向こうにおぼろげながら見える、わかめへと視線を落とした。
 青菜に塩と言う言葉はあるけど、この海藻は野菜もしおれてしまうような状況でたくましく育っている。これも、海の神秘って所なのかなぁ。
 興味深いなぁと思いながら視線を上に戻すとわかめの処理を終えたアリスが、顎に手を当てて何かを考えていた。

「どうしたんだ、アリス?」
「ん・・・さっきから上海と蓬莱を観察してる子が居るのよねぇ。」

 そう言ってそっとアリスが私のおでこに手をかざすと、魔力のリンクが繋がり感覚が共有されて蓬莱のビジョンを知覚できるようになった。視線の先には何人かの子供・・・チルノや三妖精位の大きさの子供が、上海人形と蓬莱人形を眺めている。

「こいつ・・・動くぞ!」
「あんた馬鹿ぁ?人形が動く訳無いでしょ、何かの見間違えでしょー」

 砂遊びをしていたのをしっかり観察されたようで、興味を引いてしまったようだ。荷物に手出しをする気配は無く、純粋に上海と蓬莱に興味があるだけといった所か。
 その証拠に、遠巻きに仲良く砂遊びに興じる上海と蓬莱を遠巻きに見ているだけで、近づいてこようとはしない。はて、と私は考えて同じように何かを考えているアリスにどうするか訪ねてみた。
 
「どうする?」
「そうねぇ、折角だから脅かしてみましょうか?」
「でも、魔法は・・・不味いんじゃないか?」
「それは思ったけど、早苗の話によれば、こっちの世界でも喋る人形劇があるって言ってたし、多分大丈夫だと思うわ。」
「確かにな、早苗が好きな特撮の要素も含むアレか。そうだな、アレが向こうで皆が見る事が出来たと言うなら、人形が喋っても問題は無いか。」
「ふふ・・・腕が鳴るわね。人形劇を外の世界の子供に披露できるなんて思ってもみなかったわ。」

 人形劇をする時のような凛々しい顔になる。そして、上海人形に指輪から魔法の糸を出して、リンクを繋ぐ。この魔法はよく知っている魔法で、アリスの声を上海人形から再生させる・・・魔力通信の応用だ。糸を繋ぎ終えたアリスは、何度か発生練習をしていつものソプラノとはまた違う声を上海に喋らせるように魔法で命令をする。

「こんにちは、私、上海!」
「しゃべったぁあああああああああああああああああ!!」

 なんかはっちゃけてる子が一人居るが、魔法の性質を理解した私は、アリスの人形劇に参加したくなったので、上海の作った砂の椅子に座ってふんぞり返っている蓬莱に私はこっそり魔法の糸を繋いだ。リンクも可能だし自分での詠唱も出来る事から、この世界でもちゃんと魔法が使える事が分かり、私は少しニヤリとした。
 その勢いのまま、私も普段の声色から少しだけトーンを高めて指輪に向かって話をする

「ようっ、子供達、私は蓬莱って言うんだぜ。」

 子供達が二三歩下がるのが見えた、脅かすという目的は十分果たせたようだ。アリスが私の方を見て、そっと問いかける。

「やるじゃない。この子達に劇を披露しましょうか。」
「ああ、私の人形捌きも見て欲しいんだぜ。」
「まずは手を繋いでみましょうか。」
「おう、そしたら・・・こうだっ!」

 蓬莱とビジョンを共有しながら、アリスの繰る動きに合わせて上海とのコンビを披露する。ぎこちなさはあったものの、アリスが的確にフォローしてくれるから特に問題は起きずに、昨日見たテレビでやってたようなツッコミのリアクションを入れてみたりなど独自のモーションもやってみた。
 合わせるアリスも楽しそうに、両手を上げて怒る上海の仕草を素早く返してくれる。普段の会話のように、ノリの良い会話をしながら小さな屋外のステージを動く人形達に子供達もただただ驚くばかり。

「これ、凄いねー」
「おもちゃにしてはすごいねー」
「電池か何かで動くのかしら?確かめてみようか。」

 上海と蓬莱に子供の手が伸びる。それを見ていたアリスの操作する上海は軽やかなステップでその手を交わしたが、そんなことまでは流石に出来ない私の操る蓬莱に子供の手が触れてしまい、掴まれてしまう。仕方ないので、悪態だけは付いておこう・・・可愛く。

「やめろー子供達ー乱暴する奴はぶっとばすぞぉー」
「私が持ってるお人形さんとは似て無い・・・わねぇ。この水着の中に電池カバーがあったりとかするのかなぁ」

 なんと蓬莱の水着を脱がしにかかる子供達。相手が人間なら確実にヤバい光景である。だが、そうした意識の無い子供に罪は無い・・・あくまでも玩具の人形の着せかえをするような、そんな感じなのだから。
 だが愛しのアリスの大切な人形が乱暴されるとあっては、私も黙っては居られない。だからアリスに、提案を持ちかける

「いかん、このままだと蓬莱が乱暴されてしまう。早く戻って何とかしようぜ。」
「ええ、急ぎましょ、魔理沙。」

 海を猛烈な勢いで泳ぎながら、魔法のリンクを駆使して人形への命令を送り続ける私達。アリスは上海を操作し蓬莱を捕えた子供の手にぶら下がって抗議する。

「やめてー、蓬莱ちゃんを苛めないでー」

 なんか囚われのお姫様を助けて貰うような構図だ。今囚われている蓬莱が私で、アリスが助けに来てくれるような展開を、独身の頃に夢想した事はあったが・・・まぁ、先日実際に助けに来てくれた時は、お姫様な気分になれてヒヤヒヤ物の異変の中にあった素敵な出来事として脳裏に焼き付いている。

「助けて、上海ちゃん!お嫁にいけなくなっちゃうよぉ。」

 まぁ、そんなセリフを言いながらもがかせる私。普段の私ならそんな目に合っても何とか自力で脱出する術を考えて実行してしまうのではあるが、やっぱり愛する人に颯爽と助けて貰うのには、女の子なので憧れるシチュエーションだ。

「よいではないかーよいではないかー」
 
そんな事を言いながら脱がせにかかる子供をなんとか二人で阻止しつつ海から大急ぎで上がった私達は、ずぶぬれであるのにも関わらず、砂浜を駆けて急ぎ、荷物の所へ戻った。泳いだのと走ったのもあって息が切れてしまった私は言葉を紡ぐ事すらできない。
そんな私に変わって、顔色一つ変えて無いアリスがそっと一言、子供達に言った。

「だぁめ、私達の人形に勝手に触ったら。」

アリスの存在に気が付いた子供は慌てて蓬莱を放した、放された蓬莱は上海によってお姫様キャッチされた。魔法の糸を何とか維持しながら、私はアリスの様子を窺う。アリスは自分の大切な人形達をそっと座らせると、優しい声を出した。

「貴方達。この子に興味があるの?」
「うん、喋ったし動いたから・・・」
「それはね・・・私達がこれで動かしたの。喋ってるのは・・・私達が腹話術を使ってるからで、この子が喋ってる訳じゃないのよ。」

 そう言ってアリスは、指から出ている魔法の糸を実体化させる。成程、普通に糸で動かしていたと説明する訳だ。私は安心して子供達の前に出る。アリスの子供に対する慈愛の目は里で人形劇をする時となんら変わりない。里でも子供達に好かれているアリスが、目の前の子供に懐かれるのは私の息切れが治ったのとほぼ同時だった。

「お姉ちゃん達凄ーい!」
「ありがとなぁ。」
「お姉ちゃん達、魔法使いみたいやねぇ。」
「ふふふ、そうかもね。」

 前かがみになって子供達と視線を合わせて笑うアリス。こんなアリスに育てて貰える子供達は本当に幸せだろうなぁと今からでも、嫁馬鹿を差し引いても堂々と言える自信がある。
子供達がうずうずしながら、動きを止めている上海と蓬莱を見ているのに気が付いたアリスは、糸を操り上海を動かして座っている蓬莱を立たせてあげた。

「折角だからもう少し見て行きなさいな。」
「そうだ
ぜ、これも何かの縁なんだぜ。」
「嬉しいわぁー」
「お姉ちゃん達ありがとう!」

 アリスと目を合わせて、私達は人形劇を再開した。子供達が正座して、真剣に見ている様を見ていると、さっきアリスと話した子供の話が頭によぎる。私達の娘にこうやりながら、魔法を教える日が来るのかなぁと思うとすっごく嬉しい。
 
「じゃあ、折角だから人形劇やるわね。魔理沙、合わせられる?」
「ああ、頑張るんだぜ、アリス。」

 
 目を輝かせて私達のショーを見つめる子供達に、私はアリス譲りの人形捌きを見せてあげた。


ミ☆


 人形劇から始まった子供達との交流を終えた私達、別れた時には日もすっかり傾いていた。真っ赤に染まる海、大きな太陽が海にその姿を沈めようとしている。すでに人の姿は帰ってしまったのか殆ど無く、この海水浴場が私達のプライベートビーチになったかのような感じがする。

 そんなプライベートビーチと化した海水浴場で私達が何をしていたかと言うと・・・

「こらーアリスー、待てよぉー」
「ふふーん、追いつけるなら追いついてみなさーい」

 追いかけっこだ。紅く染まる空をバックに、魔理沙が私が追うと言う展開だ。こらーとは言っているが別に私が魔理沙に対して、セクハラまがいの行為をしたわけでもないし、悪口を言った訳でも無い。単に、魔理沙に追いかけられてる、それだけの話。


 ―どうしてこうなったか、それはこんな会話に由来する。


「さて・・・やっと二人っきりになれたんだぜー」
「うん・・・」

 浅瀬を並んで歩きながら、二人になった事を実感する。幻想郷では二人になる事も多いけど、この外の世界は人が物凄く多いから、なかなかそんな風になれない。昨日のプリクラの中とかみたいな感じにはそう上手く行かないけど、今こうして居られるのはラッキーだなって思う。

「そうだ、アリス・・・」
「なぁに、魔理沙。」
「お前と・・・やりたい事がある。耳を貸してくれ」
「え・・・」

 魔理沙の口が私の耳元に備えられる、息が耳たぶにかかるだけでも少しドキッとする。既に慣れた感覚ではある物の、このドキドキはとっても素敵な物。さぁ、愛しの魔理沙は何を言ってくるのだろうか・・・期待やら不安やら色んな感情に胸を膨らませる私の耳に、魔理沙の声がそっと蝶のように耳に止まった。


「こっこまでおいでぇ、とぉ」
「ようし、行ってやるんだぜ!」

とまぁ、こんな感じで始まった追いかけっこ。夕焼けで紅く染まる砂浜についた二つの足跡、砂を巻き上げながらの追いかけっこに興じる私達。普段の魔理沙の足はまま早く、実際に走った場合は霊夢なんかよりも早い。でも、今は砂浜に足を取られている関係もあるので、私との距離を少しずつしか。
やがて私の腕に魔理沙の手が触れる。私は足を止めて、そっと魔理沙に向き直った。

「捕まったわー」
「じゃあ、次はアリスな!こっこまでおいでー」
「言ったわねー、待ちなさーい。」
 
 傍目で見ればバカバカしい事をしているのは間違いは無い。でも、これが凄く楽しいと思う私が居る。魔理沙とつるむ前なら、バカバカしいと一蹴しそうだけど・・・こうやって色んな事を楽しいって思えるのは、とっても素敵な事だと思う。
私は踵を返して、逃げる魔理沙の背中を追って、砂浜を蹴り駆ける。少し本気を出して走ると、魔理沙との距離が縮まっていく。
 でも、簡単には捕まってはくれないようだ。魔理沙は私の手の動きをしっかりと見ていたようだ。

「あらっ?」
「ははは、アリスの動きはお見通しだ!」
「もぅ、魔理沙ったらぁ。」

 何度か距離を詰めては、魔理沙の腕に私の手を伸ばす。しかし、なかなかそう簡単には掴ませてはくれない。

「ほーれほれ、私の動きに付いて来れるかな?」
「付いて行くわよ、どこまでもねー。」
「そう簡単には行かないぞ、って、うわっ!」
「魔理沙!?」

 こけた魔理沙を助けようと私が手を差し伸べたが、昨日の魔理沙のようには行かず、柔らかな砂浜に魔理沙は突っ伏してしまう。私は慌てて魔理沙の方へ向かい、突っ伏したままの魔理沙に声をかけた。

「魔理沙、大丈夫・・・?」

 返事は無い、実に間抜けなポーズで突っ伏しているなぁと思っていた矢先の事である。

「かかったなー」
「キャッ!」

 素早く体制を変えた魔理沙が私を抱きしめた。そして、砂浜を何度か横に転がる、大地と空がめまぐるしく回り、嬉しそうな魔理沙の顔が視界に入る。愛情表現なのだと思うと何故か許せてしまうのは・・・やっぱり愛なのかなぁとココロの中で思いながら転がり続ける、やがて私が砂浜に背中を預けた所で回転が止まった。
 
「アリス・・・」
「魔理沙・・・」

 見つめ合う私達の距離はあんまり無い。心臓に凄まじい勢いで血液が送られ、全身に魔理沙への気持ちや熱い想いが拡散していくのが分かる。潤んだ瞳にココロの底から吸い寄せられるような気がして、そっと目を閉じた。
 色んな気持ちが私達の距離を徐々に0にしていくのが目を閉じても分かる、これは外の世界の海の所為だと、ひと夏のアバンチュールの所為なんだって建前では思いながら、私達の惹かれあう気持ちに、正直に私は行動した。魔理沙も私と同じ気持ちだったのかな・・・吐息が重なるのが分かったので私は、そっと魔理沙へと顔を寄せる。




「「ん・・・」」




 触れ合う唇、重なるカラダ。太陽の光から私を護るように覆いかぶさる魔理沙と何度も口づけを交わす。手がお互いの背中に回って抱きしめると、徐々にココロも一つになっていき、目の前にいる最愛の人で私の全てが満たされて行くのを感じる。

 そして、ココロが満ちる潮のようにやってくる幸せで満たされる。

 波の音だけが、私達の耳に聞こえる。誰も居ない砂浜で、確かに私達は愛を語り合っている。気持ちを通じ合わせている。黄色い海の砂のベッドは、少し背中にはチクチクしたけれども・・・触れあっている魔理沙の方に気持ちが行っちゃってて全然気にならない。
 波のように押し寄せる魔理沙に砂浜のように応える私・・・そして砂浜に辿りついて再び海へと戻る時のように引く魔理沙に私が押し寄せたりする海のようなサイクルで愛を確かめ合う。

 少し、波の音が近くなった所で、私達は身を放した。お互いに潤んだ目で見つめ合い、抱きしめあう。海鳥の鳴き声がBGMの甘いロマンスに私達のココロはどっぷりとつかって、幸せな気持ちが目から溢れ出る。人魚の涙のように美しいそれは、私の頬を伝って砂浜に落ちて、微かな跡を残した・・・

「アリス・・・」
「魔理沙ぁ・・・」

 離れた魔理沙が私との愛の余韻に浸って、砂浜のベッドに倒れ込んだ。私の傍に転がってから、手を繋ぐ。視線を合わせて、夏の夕暮れに染められた愛する人の顔をしっかりと焼きつけあっていると、魔理沙が流した涙をぬぐってくれる。私は魔理沙の頬に繋いでないもう片方の手を当てて、言葉を紡ぎ出す。
 
「・・・幸せ。魔理沙がこうやって連れて来てくれた海で、こんなに素敵な愛を育めるのって・・・ホント、幸せ。」
「そうね・・・私もすっごく幸せだよ。アリスがこんなにも嬉しそうにはしゃいでるのを一杯見れたから、一緒にはしゃぐ事ができて、幸せよ。」

 砂浜に寝そべる私達の顔は真っ赤に見えたのは、お日様だけの仕業じゃ無かったはずだ。

 私達は、海に見守られながら、もう一度だけ口づけを交わした。

 唇の触れる音は波の音にかき消されちゃったけど・・・魔理沙への想いは、そんな物では消せはしないと思いながら、息を吸うのも勿体ないと言わんばかりに口づけを交わして・・・魔理沙と愛を深め合った。


ミ☆


 アリスと愛を深め合った私は、携帯で紫と連絡を取った。紫の別荘から此処までは20分位の距離があるので、海の家で着替えを済ませてから、海を二人で眺める事にした。

「昼の暑さが嘘みたい。涼しい風が抜けて行くわ・・・」
「水着のままじゃ、寒かったかもなぁ。」

 穏やかな浜風が私達を撫でる。今までの暑さを吹き飛ばすまでには至らないが、涼しいその風はとても心地良かった。

「こうして、また一日が終わるのね。」
「ああ、私達の一度しかない人生の、大切な一日が・・・終わるんだぜ。」

 美しい薄闇の夏の空に照らされた、最愛の妻の笑顔をしっかりと私は記憶に焼き付ける。もうすぐ紫が迎えに来るけど、それまではこの光景を・・・もしかしたら一生で一回だけの光景を、記憶に焼きつける。もし人間として生涯を終えても、魂がその事を忘れないように。魔法使いになって、悠久の時を生きる事になっても色あせぬように。

「また・・・来れるかな?」

 アリスが肩に頬を押しつけて来ながら、か細い声を出す。私はそんなアリスに対する答えをどうしようかと思案する。
 勿論行きたいが、紫にまた頼めるかは微妙な話だし、私達だけそんなに優遇される道理も無いだろう。だから、結界を安全に超えて帰ってこれる手段をまだ確保出来て無い私には来れる、という確約をする確証は無い。
 でも、私「達」なら話は変わる。私達の魔力は困難を乗り越え、不可能を可能にしてきたのだ・・・アリスが諦めかけていたゴリアテ人形も、難易度が非常に高い生命創造だって、私達は形にしてきた。

 確証が無いなら、私達のこの恋色の魔法で確証にしてやろう。

 そう思った私は、ココロを奮い立たせてアリスに言う。

「来れるさ・・・いや、行くんだ。今度は紫の力を借りなくても、私達だけで行けるようにな・・・私達なら出来るかもしれないんだぜ。」
「かもじゃない、出来るようにするんでしょ、魔理沙。」
「だぜ。流石アリス、分かってるぜ。」
「私は貴女の妻よ・・・全部分かってるわ。協力してくれるのは、もしかしたら私達だけじゃ無いかもよ?海に行くって言ったら、私達の子供達も力を貸してくれると思うわ。」
「かもしれないな、アリス・・・恋色の魔法は不可能を可能にするんだぜ。」
「ねっ。」

 ウインクをするアリスに頬ずりをして、今度来る時は・・・私とアリスだけじゃなくて、一緒に遊んだ子供達のような・・・・私達の子供を連れて来て、一緒に遊ばせてあげたいなぁと、ココロに誓った。
 
すると、空気の読めない携帯が鳴った。携帯はすぐに鳴りやんだが、折角の良いムードがちょっと残念な事になってしまった。

「あぁ、もぅ。紫はムードってのを分かって無いんだぜー」
「でも、今の様子を分かって無いからこそ、こんなタイミングでなんじゃないかしら?」
「紫ならスキマで見えるだろってのに・・・見られても困るけどー」

 文句を言いながら携帯を開けると、手紙のマークが画面に出ていたのでそこをマニュアル通りに選択し、開く。

 ―今朝来た所で待ってるわ、十分に愛を語り合ってから来て下さいな(*^_^*)

 との一文が画面に表示された。最期の顔みたいな文字が少し可愛かったと思いつつ、私は携帯を閉めて、そっとポケットにしまう。

「到着だとさ・・・こうしてたいけど、紫を待たせるのは良くないんだぜ。」
「そうね、何言われるか分かんないしねー」

 荷物を半分こで持つ。アリスの荷物からは上海と蓬莱が頭だけ覗かせているのが実に微笑ましい。出発の準備を整えた私達は、お互いの顔を見て、笑顔でそっと決意を述べあった。


「絶対、また・・・来ような。」
「うん、また、ここに来ましょう。」

 手を繋いで、歩幅を揃えて、私達は紫の待つ駅の方へと戻る。後ろ髪を引かれるような気持ちになって何度か一緒に振り返りながら、海への別れの挨拶を告げる。明日明後日と旅行は残っているが、多分、次に遊びに来るのは・・・ずっと先の話だと思ったから、私達は、またね、とココロの中で何度も何度も言い続ける。

 
 夜になっても変わらず音を立てるさざ波が海を後にする私達に、そっと語りかけて来た・・・

 
 また此処に、還っておいでよ・・・と。

 


 ―還ってくるよ、今度は私達の愛しの子供達を連れて・・・ね。

 


 そう誓って歩む私達の後ろには二つの足跡だけが、仲良く残っていた。
・・・待ってるよ、いつまでも。

 台風やらなんやらが通過してるのに海水浴とはこれ如何に!?なシーズンですがお許しを。そろそろ食欲の秋ですが、節制もしないと健康的に暮らせない事を実感し始めたマリアリストのタナバンどえす。
 
 前作が予想に反して長くなったので、冗長だったかなぁと思い今回はその辺の兼ね合いも連作の課題に加えて書かせて頂きました。まぁ、日記形式で二人の事を追うと、問答無用で長くなるのはまぁ止むを得ない事でwこの二人が海に行って、こんな事をするのだろうなぁとか色んな想像をしましたが・・・全部書いたらまたとんでもない事になりそうなので、一番良いシチュエーションを抽出して表現してみました。

 また、子供に関する話が出てきましたが・・・この二人ほど子煩悩な母親になりそうな人は居ないと思うのは俺だけであろうか?ただ、家庭と家族が根柢の連作なのでやはり結婚後の家族計画については力を入れて描写しています。

 ここからは私事ですが、紅楼夢に付いてです。紅楼夢当日は、4号館ハー24a・アトリエ=ダルサラームにてお待ちしています。頒布予定物は、これまで連載していた冬のマリアリ連作の総集編(実際には既存作品には加筆して有る上書き下ろしもあるし、ゲストのイラストにSSもある豪華仕様!)

『恋色MagicalLife』~Vol.1・恋色Lovers~(頒布価格800円・108P予定) となります。

 それと、会場限定の突発コピ本(12p程度・200円)を出す予定です。両方お買い上げの方には今年のコミトレの既刊の余りを無料進呈いたします! 

 次回は連作の最後を飾る作品になりますが、再び市内を観光して、色んなものを見て、そして・・・神戸での紫の干渉の無い二人っきりの最後の夜をいつも通り激烈な甘さで描いてみようと思います(もちろん良い子の読める範囲内で)まぁ、深読みの余地は遺しておきますけど(ぇ

 では、次回作でお会いしましょう!!

2011 9/25修正・6の名無しさんのご指摘通り、上海は置いてきたとの描写があるのに上海が海にいるという矛盾を修正するための加筆を行いました。脚本の段階では連れて行く事になっては居たのですが前話でその事への説明がなかったのでその点についても修正を行っています。6の名無しさん、ご指摘本当にありがとうございました。        
タナバン=ダルサラーム
http://atelierdarussalam.blog24.fc2.com/
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
い、愛おしい!
なんだこの可愛すぎる乙女婦婦は、あんたらがキュンキュンしてるとこっちまでキュンキュンしちまうよ、末永く爆発しろや!!
2.奇声を発する程度の能力削除
何このバカップル…
海のイメージがし易かったです
3.名前が無い程度の能力削除
激甘でしたw
楽しそうにはしゃぎ回るマリアリを思い浮かべてあたたかい気持ちになりました。
「恋色の魔法は不可能を可能にするんだぜ」っていいセリフですね!
4.名前が無い程度の能力削除
いつものバカップルで安心した
こっちも幸せに気分になりました!
5.名前が無い程度の能力削除
マリアリもたまにはいいかも
6.名前が無い程度の能力削除
いい話だ。
ただ一つ気になったのは、確か前回の話では、上海は幻想郷に置いてきた、とあったような気がするけど…
きのせいかな? 
7.名前が(以下同文)削除
幸せそうな二人で良かったです。なんだか神戸に海を見に行きたくなりました。あとキノコ制のせいは製かと