Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

「シクラメンの花」

2011/09/22 22:33:22
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1

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久々の投稿になります。
タグの通り、ちょっとドロドロしたお話で微グロ有りです。
ご注意ください。
何番煎じか分からない文章ですが、お読み頂けると幸いです。
※09/25、加筆修正しました

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相も変わらずドンチャン騒ぎな博麗神社の宴会の最中、
周りに座る人妖らと適度に会話しつつ、
私はチラりと、気づかれない程度にある妖怪の姿を眺めた。

その妖怪はもう一人の妖怪と仲良く愉しげに会話をしており、
隙あらば私も会話を・・・と虎視眈々と狙っている処なのだが、
残念ながら私が入る隙は全くと言っていい程無かった。

一つため息をつくと、突然隣から幼い声がする。

「どうした、ゆうかー?」
「ん、何でもないわ。そこの小皿、取ってくださる?」
「りょうかいなのかー」

(分かってた事だけど、つまらないわね・・・)

冷たい料理の小皿を受け取り、
仕方無しにドンチャン騒ぎをやらかしている連中の輪に視線を移す。

でもやはり気になるので、
不自然ではない程度に気になる妖怪の存在を視野に入れる。

でもあまり見過ぎると気づかれかねないので、
ドンチャン騒ぎをやらかしている連中の輪に視線を移す。

でもやはり気にry
「ゆうかー?やっぱりへん、すきなひとでもいるのかー?」
「ブフーッ!!っそ、そんな事あるわけないでしょう。一体何を考えてるのかしらこの幼女は」

確信を突く突然の攻撃に、勢い余って呑んでいた酒を幼女にぶちまけてしまった。
向かいから、景気いいなあ、とからかいの声が聞こえる。

「・・・きたないのかー」
「あー、悪かったわ。ちょっとこっちへ来なさい」

他の連中にはバレてないけど、何故かこの幼女にはバレたようだ。
おかしいわね・・・
隣の部屋のふすまを開け、いそいそと二人移動する。
ドロドロになった幼女の髪の毛やら服やらを、借りたタオルでゴシゴシ拭いてやる。
すると幼女はなにやら思いついた様子でニタっと笑い、
顔を近づけて耳元でこしょこしょと内緒話を始めた。

「(すきなひと、わたしはいるー)」
「(そ、そう・・・。上手くいってるの?)」
「(んー。よくわからない。でも、)」

すこし間を置き、ニカっととてもいい笑顔で、
「(しあわせなのかー!)」
「(そう、よかったわね)」

何だか可愛かったので、頭をくしゃくしゃと撫でてやった。
そして背中をポンポンと叩き、拭き終わりの合図を送る。
幼女は何がそんなに嬉しかったのか、終始ニコニコでお礼を言ってきた。

「ありがと、ゆうかー*^^*」

変なの。私のせいなのに。
幼女の事はよく分からないわ。

よく分からないと同時に、何だか少し羨ましくも思う。

元の席に戻る時に、両の手を左右に広げて歩く幼女の後ろ姿が
あの妖怪の幼い頃の事と重なって、私は神妙な気持ちになった。


アリス。

貴女とここで再会した当初はお互いイガミ合ってたわね。
それが、いつの間にか仲良くなって。

昔は貴女があの幼女のようにまだ子供で、あんなに背が小さかったのに、
いつの間にか私より大きくなっちゃって。

それでもまだ幼さは残るけど、時たま見せる"女性の顔"を見た時には、
何だか新しい花を見つけた時の感覚にひどく似ていて、心が躍るの。


この事実は、何度色んな事を試しても、とうとう消す事ができなかった。

私は、貴女の事が、どうやら本当に好きみたい。


しかし、いつになく内気なこの気持ちに気付いた頃には、時既に遅し。

"アリスと、もう一人の妖怪・・・紫が付き合っている"
そういう噂を耳にした事は今までに何度もあった。

現にあのお喋りを交わす二人は、見るからに仲が良く見えて
公私公認の仲のようだ。

私がもたもたしている間に
彼女はいつの間にか高嶺の花になってしまった。


実に、残念ね。

けれど、花と言うものは例え手が届かなくとも、
遠くの方から眺めてみてもとても綺麗なもので、
私の心を癒やしてくれる事にさほど違いは無かった。


これで、いいのよ幽香。

何かあったら、私はあの子を助ける。

だけども、それ以上の事はしない。

彼女の瞳には、私は映っていないのだから。


「…なんてね」

一つ溜め息を吐き、代わりにコップに並々注がれた焼酎を、間髪入れず一気に仰いだ。

「ひょー!相変わらず良い呑みっぷりだなあ、幽香ぁ!!」
「っっ!?」

バンバンと背中を思いっきり叩いてくる怖い者知らずの黒白魔法使いに絡まれ、
私は脳天チョップを叩き込みながら少し咳き込んだ。
また盛大に吹くところだったでしょうが。

「いっでええっっ!!」
「私に掛かればどうって事ない量よ」
「おっ、強気に出たな!じゃあこれで呑み比べしようぜ!!」

三連タンコブの出来た頭を擦りつつ、一体どこから出してきたのか。
見ると、畳にずらりと並ぶ焼酎一升瓶(未開封)のオンパレード。

そして暇を持て余した連中が何本か抱えてジャグリングとかやり始めたりしてる。
つか危ねえ。力持ちにも程があるわ。

「誰かに当たったりしたら弾幕勝負に成りかねないから、その辺で止めときなさい」
「私は構わんぜ!どんどん回せ~!!」
「あーもう、面倒起こしたらつまみ出すわよ」
「やれるもんならやってみろ!」
「もう…霊夢、何とか言ってやってよ」
「面倒臭い。余所でやるなら良いわよ別に」
「すげー!あたいもやる!!」
「こんなのこのあたしに掛かればちょちょいのチョイだよ、ヘマしないから安心して見てな!」
「って既に危ないから!!」
「チルノちゃん、持てるの?」
「ふぎー!めちゃ重えぇ!!」

私の周りに座る連中が一斉にギャーギャー喚きだしたものだから、
途端に皆の注目の的になってしまった。

さっきの件もあるから、あまり目立ちたくなかったのに。
こうなっては収集がつかないのも目に見えて分かる。

私はやれやれとため息を一つ吹かして元の位置に座る事にした。
色んな人妖の視線が飛び交う中、
私はふと、気になった。

例に漏れず、彼女もこちらを見ている。
酔ってほんのり赤くなった頬。
そして楽しそうな彼女のとろんとした笑顔を見て、
嬉しいような、切ないような、
きゅっと胸を締め付けられたような気持ちに私は満たされた。

ああ、風見幽香。らしくないわ。

「あっ幽香危なー!」

ゴッ

誰かが投げて取り損ねた一升瓶がニヤけた私の頭をかち割り、
怒りで会場を火の海にしたのは良い思い出。


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彼女とは、宴会でしか会えない訳でもなかった。

「こんにちは、幽香」
「あら、ごきげんよう。アリス」

こうして至極たまに、私の向日葵畑にやってくる事がある。
その時は内心ドギマギしてしまうのを押さえ込み
悟られないように平静を装うのに必死だけれど。

嬉しい事に違いは無かった。

「今、いいかしら。お邪魔にならない?」
「いいわよ。作業も大方終わったし丁度休憩しようと思ってた処よ。お茶を入れるわ」
「忙しい中ごめんなさい。お詫びにならないかもしれないけど、クッキー焼いてきたの」
「あら、お茶受けにぴったりね。遠慮せずお上がりなさいな」
「有難う、助かるわ」

アリスの用件は、主に花の事について。
私が四季のフラワーマスターということもあって、
花に関しては私に聞けばいいと踏んでの事らしい。

「この花は、どう手入れをしてあげたら良いかしら?」
「あの花は、水をあげすぎたからこうなってしまったの?」
「そのお菓子には、どのジャムが合うと思う?」

「ああ、そうね…これなんかどうかしら」

花に関する?ありとあらゆる質問に対して、
私は己の知識を紐解く。


熱心に話を聞く彼女。
一体、何の為に。
聞かずとも答えは解っているのに、何故か聞かずには居られなかった。

「…紫の、為?」
「ええ、そうよ。彼女の喜んでる顔が見たいから」

そうはにかんで笑う彼女の顔…
その顔が見たいが為に、
私はつい力を入れて話をしてしまう。

彼女は、紫の為に。
私は…彼女の為に。

いえ、自分の為ね、これは。

毎日毎日張り裂けそうな程の気持ちを奥底に押し込み、
その傷をこうしてたまにやってきてくれるこの瞬間に…
少しでも癒やそうとしてるのだから。

でも、顔には出さない。
柄じゃないから。

「有難う、今日も色々と勉強になったわ」

いつの間にかすっかり日の暮れ掛かった夕焼け空を背に、
彼女は帰宅の準備を始めた。
その後ろ姿を見るのはいつもの事ながら、慣れない。

出来る事なら、もう少し、傍に居て欲しい。

「あの、アリス…」
「何かしら?」

私の遠慮がちな声に反応して、くるりとこちらを振り返る。

はらはらと揺れるふわりとした金髪と、
赤い長リボンが私のどうしようもない目を奪っていった。
…そのせいで、今は顔を、見る事が出来ない。

ひらひらと手を振り、こちらからさよならの合図を送る。

「…んーん、何でもないわ。気をつけて帰って頂戴」
「ええ、有り難う」

また、来るわ。

そう言い残して、ふわりと彼女が飛んで行く。
その小さな背中が遥か遠くになって消えても、私は空を見つめた。
部屋に戻り、彼女から貰った残りのお菓子を口に入れる。
泣きたくなる程、それは美味しくて甘かった。


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「紫さま、アリスさんがお見えになられましたよ」
「きゃーアリスっ♪」
「ちょ、ちょっと紫・・・」

マヨヒガに来たアリスに抱きつくのはゆかりんことこの私。
頬ずりして盛大に迎えるのもお決まりのパターンである。

ふんわり甘いアリスの匂いを堪能するのだけれど、
その鼻を掠める、淡い、花の匂い・・・

「何処かへお出かけしてたのかしら?」
「ええ、ちょっとね・・・これを」

そういうと、ガサガサと大きなカゴの中から
花の植木鉢を取り出した。
シクラメンの花だ。

「見て、紫。綺麗でしょう?」

赤い、淡い、魅了されるような色。
むしり取ってしまいたいほどに、色づいてる。

「とても綺麗ね」
「良かった、幽香に育て方を教えて貰ったの」

幽香…?

「ええ、この前向日葵畑に行って…」

そう話ながら、楽しそうに笑う。
ソファに座り、
アリスが持ってきてくれたクッキーを頬張り、
藍の入れてくれたお茶を飲みながら、
小さくて可愛らしい唇から紡がれる話は、私にとって面白くない話だった。

花の話。
アドバイスをもらったこと。
この自前のクッキーに添え付けたジャムも、
幽香に教えてもらったそう。

「そう、それは良かったわね」

扇子を取り出し、口元を隠す。
歪みきって、とても見せられたものではない。
まさしく妖怪のそれだった。

今の私を覆い尽くすものは、
目の前に居る恋人との幸せではなかった。

言いようのない怒り。
疑い。
嫉妬。
幻想郷の賢者が、聞いて飽きれるわ…

幽香がアリスに好意を抱いていたのは前々から気づいていた。
ただ、あの花の妖怪は弁えを大切にする事も知っているから、
アリスに手を出す事はしないという事も分かっていた。

けれど…
アリスは別だ。

普段クールな装いをしつつも、色んな人妖に分け隔てなく接する。
そんなアリスに、好意を抱く者も多い。
私自身そういう所に惹かれた訳だけれど、
アリスがいつしか…別の者の所に行ってしまうのではないか。
そう思うと気が気ではなかった。

私のアリス…
私の、アリス。

不思議そうな顔をして、
こちらを見ているアリス。

誰にも、ワタサナイ・・・

アリスハ、ワタシノ、モノ。
誰にも、渡さない。

「ねえ、アリス」
「何かしら」
「アリスは、幽香の事・・・どう思ってるの?」
「え、どうして?」
「さて、どうしてでしょう」
「幽香の事は、色々な事を教えて貰える友達だと思ってるわ」
「・・・ふーん」
「今日持ってきた花もクッキーも聞きに行ったのは・・・紫の為に」
「そう」
「紫が喜んでくれるかなあ、と思って・・・」

頬を赤く染めながら、上目遣いで私を見るお人形さん。

「紫…?んっ…!」

両手で頬を包み込み、強引に引き寄せキスをする。
最初は啄ばむように、次第に深みへと舌を伸ばす。
涙ぐんだ瞳を見ると、ゾクっと背筋が焦れた。

「んっ・・・ふ・・・っど、どうしたの・・・?」
「・・ふふ。アリスの事が可愛いくて仕方が無いの」

私は、ペロリと舌なめずりをした。
本当に、可愛いくて仕方が無い。
今すぐに食べてしまいたい。

我慢できなくなった私は、
奥の間へその白くて細い手を引き込む。

「藍。誰も入れないで」
「畏まりました」


「さあ、いらっしゃい・・・いい子ね」

暗がりの寝室に招待し、私はアリスに跡を残す。

ひとつ、また、ひとつ。
彼女は、とろけてかわいい声をあげた。

それがやがて、
ふたつ、みっつ。
よっつ、いつつ。

よがる、顔。
声。
耳。
温度。

ふふ、かわいい。
たまらず、首筋にキスをおとす。

ふいに、花の匂いが私を包んだ。

赤い、シクラメンの花。

・・・何故、こんなときに
あいつが出てくるの。

煮え切らない思いが、
身体中で暴れまわる。

苦しい。
吐きたくなった。

私は勢いよく噛んだ。
ぽろぽろと、身がこぼれた。

笑顔で溢れた彼女の顔は、
いつしか次第に暗くなった。

ぽたぽたと何かが落ちる音がする。
それを、無我夢中ですする。
かむ。
赤で歪んだ顔。
苦しむ表情が、たまらず、ほしくなる。

ほしくなるごとに、
アリスが私から離れていく。
そんな気がした。

だんだんと大きく、反比例していく"何か"。

この黒くて重い心は、
私の中で大きくふくらみ
入り乱れ、掻き毟っても、
とうとう消える事はなかった。


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「あら、アリス」
「こんにちは、幽香。・・・お邪魔しても良いかしら」
「ええ、いいわよ」

「・・・いつ見ても、綺麗な向日葵ね」
「でしょう。気に入った?」

「ええ、見てるとあたたかいわね、とても」
「そうね、太陽の花と呼ばれる所以ね」

「太陽の、花・・」

「・・・どうしたの、最近元気ないわね」
「え、ううん。大丈夫よ、ほら^^」

「そう。何かあったら、いつでも言いなさい。私は貴女の味方だから」
「・・・うん、有難う」

「あ、丁度良かったわ。紅茶入れる処だったの。い、一緒にどうかしら?」
「ええ。お邪魔でなければ、頂くわ」


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「ねえ、何処へ行ってたの?」
「・・・」

「アリス。黙っていてはわからないわ」
「幽香の、ところ・・・、っきゃああ!!」
「ねえ、アリス」

どこへいってたの?


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空がずしりとどこまでも重く、嵐が来る前の静けさが
幻想郷を覆っていた。

私はこの日、嫌な予感がした。
花の知らせ、というものだった。

草花がざわつき、導かれるままに私は紫の住むマヨヒガへ足を運んでいた。

その時だった。

弾幕が飛び交って、次第にその光が減っていく。
誰かと誰かが、弾幕勝負をして決着が着いた処だ。

誰かと誰か。
それは一目で分かってしまった。

紫は彼女の命までをも奪おうとしているところだった。

「・・・げほっ・・・」
「アリス!!」

血まみれになったアリスが虫の息で倒れていた。

「これはこれは・・・幽香じゃない。一体何の用かしら」
「紫!あんた・・・これは弾幕勝負の域を超えてるわよ」
「私たちの邪魔をしないでくださる?」
「却下。マスタースパーク!!」
「ぐっ・・・!」

あらかじめ準備しておいた大技を盛大に叩き込み、
ボロボロになったアリスを担ぐと、
一目散にその場を離れた。

「・・・っ」

マスタースパークを打ったと同時に
相手も隙間から弾幕を打ち込んできていて、右手をやられた。
流石、紫と言ったところか。

あまり時間はかけられない。
まずは傷の手当が先だ。
適度な木の木陰にアリスを寝かせ、状態の確認を急ぐ。

「ちょっと、しっかりしなさいよ」

赤に塗れた白すぎる頬をぺちっと叩きながら、
私は眠れる森の人形遣い演じる彼女にハッパをかけた。

「…」
「…アリス」

冗談めかしてる場合では無い、か。
彼女の口元に耳を近付けると、微かに息の音がする。
首元を手でそっと触れた。

元々冷たい体温が、更に冷たくなっている。
脈は、かろうじて規則正しく動いていた。
気を失ってしまっているようだが、まだ命は灯っているようだ。

しかし、出血が酷い。いくら妖怪と言えども、
血を流し続けるのは生命危機に関わってくる。

「…止血しないと…」

ビリッ
失敬したアリスのポンチョを破りそれを包帯代わりにして、
彼女の折れた腕に、転がってる板キレと一緒に巻き付ける。
そういえば、人形が一体も見当たらないわね・・・どこに行ったのかしら。

「あら?どこに隠れたのかと思えば…こんな所に」

突如目の前の景色が歪み、
禍々しい空間と共に、例の恋敵が現れた。
思わず舌打ちをする。
私の手加減無しの結構な得意技だったのに、
よくもまあ涼しい顔しちゃって。

「思ったより早く来たわね」
「そろそろ返してくれないかしら、その子」
「紫…。本当にアリスが好きなら、傷つけるのは止めなさい」
「だって…その子が悪いのよ?」

ワタシの手を意図も容易く手放すのだから。

「そう…なら、貴女には渡さないわ」
「聞こえないわ。もう一度仰って頂けないかしら?」

はいはい。
息を大きく吸い込み、腹の底からありったけの声を出してやった。

「耳が遠いのかしら!!このばばry」
「そこまでよ!命を消し飛ばされたくなければね」

パチンと勢い良く扇子を閉じ、キッと物凄い形相で睨み付けてきた。
良かった、聞こえたのね。

「…ふふ、年を気にするようじゃ、貴女もまだまだね…」
言う事を聞かない腕を奮い起こし、私はボロボロの日笠を構えた。


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脚の骨は三重に折れた。
腕はとうの昔に吹き飛んだ。
切り傷が酷く、腫れぼったくなり、血ダマリが所々増えてきた。

どうやっても勝ち目が見えなかった。
紫が強い事は知っていたが、やはりこの事実は覆せそうになかった。

それでも、私はこの子の側にいたい。

守りたい。
私がアリスを守るの。

削られる意識の中にあるのは、ただただ、アリスの事だけ。
それ以外に、何もなかった。

アリス…
アリ…ス

助けてやりたいが、自分も酷くボロボロだった。
ひとつ大きく息を吸い込み、そしてゆっくりと吐く。
自然の流れにそって、ゆったりと目を瞑った。


「…いきとし生きる…幻想郷の草花よ…。私に力を、貸して頂戴…」

この子を守る力を…
どうか、貸して頂戴…

私は、祈った。
私には、もうそれしかなかった。
私の祈りは一つの音となって空気に触れ、そして目に見えない波長となってその姿を消した。

暫くして帰ってきたのは、この世に生きるありとあらゆる草花の生命・・・温かい光。
目に映る景色から、はたまた遠くにいるまだ見た事もない植物までもが、
私に力を貸してくれようとしている。
とても、有り難かった。
その泣きそうな程に温かい光が四方八方から集まってきて、徐に触れた。

アリスを優しく包み込んで、微速ではあるが
体中の痛みが徐々に和らいでいくのを隣で感じながら。
アリスが次第に穏やかな顔になっていくのを見届けた。


「…」

そこで、私の意識はなくなった。


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幽香が倒れた数秒後。
入れ替わるようにしてアリスが目を覚ました。

「…う…」
「あらアリス、ごきげんよう」


「?…」

何かが私の上に居る。
見るとボロボロになった幽香だった。

「ゆうか・・・?」

幽香は動かなかった。
彼女は、アリスを庇うようにして覆い被さっていた。

「よく目が覚めたわね。さあ、帰りましょう?」

紫は先程とは打って変わってヒトが変わったように
ニコリと微笑を浮かべ、アリスに近づいてくる。

「私の可愛いアリス…痛かったでしょう?」
「・・・や…」
「私もこんな事をしたくないのよ。」

隙間を使い突如目の前に現れた紫は
邪魔だといわんばかりに幽香をぽいと跳ね除けた。

「ゆうか…!」
「っ、…その女の名前を口にしないで。ねえ、アリス」
「や…」
「私の名前を呼んで…」
「ゆか…り」
「ふふ、そうよ、良い子ね…。もっと、私の名前を」

「嫌い…」

「えっ」
「嫌い、紫なん、か、大嫌い!!」

「あ、アリ…ス?」
「嫌い」
「うそ…、そんな…」
「来ないで」
「ア…リス…、私…」

「…来ないで、お願い」

来ないで。
こないで。

コナイデ。

「あ…あ…あぁ、う…そ」

キライ、ダイキライ。
ユカリ、ナンカ、ダイキライ。

キライ、キライ、ダイキライ!!

「いやああああっ!!アリス!!私を見て、お願い…!!嫌いにならないで!!っ!」

心臓が張り裂ける。
頭がおかしくなる。
全身が縛り付けられているような感覚。
虫唾が走る。

吐いた。からっぽだった。

何故、何故、何故。

アリス?
どうして?

どんなに叫んでも、どんなにお願いをしても、
アリスは紫の方を見る事なく、
仰向けになった幽香の元へ掛けていった。


「あ・・・あ・・・」

グラリ

幻想郷の賢者は、自ら生み出した境界にボトリと消えた。



「ゆ、紫様…!」

隙間から落ち出てきた紫は、
この世のものとは思えない顔で、寝室に入っていった。

「…少し眠るわ…疲れた…」
「畏まりました」

そのまま布団の上へ倒れるようにして、紫は落ちた。

「紫様…」
死んだようにして眠るその主人の髪に触れ、

「私では、駄目なのですか…?」
一筋の涙が、式の頬から零れて落ちていった。


--------------------------------------------


チチチ、と鳥の鳴く声がする。
明るくてあたたかい何かに包まれている、ような気がする。
私はその何かに呼ばれたような気がして、とても重い瞼を開けた。

普段と違う天井や風景に、はてここは何処かしらと
首を傾げる。

体を起こすとすぐ傍には、
私の座っているベッドの端で持たれかかってすやすやと眠るアリスの姿があった。

アリス・・・良かった。

「あ、目が覚めたんですね!良かったあ」

声がするほうに目をやると、
ウサギの耳がぴょこっと生えた人間のような妖怪・・・えっと

「私はれいせんウドンゲインいなばです!!」
「ああ、あの竹林の・・・という事は、ここは永遠亭?」
「そうです。アリスさんが、瀕死の状態の幽香さんを担いでこの近くまで来られたんです」

「・・・この子、無事だった?」
「ええ。怪我されてましたけど、傷自体は浅かったです」

良かった。
改めてほっとした瞬間、一気に力が抜け、もう一眠りできそうだった。

「ふわあ・・・」
「ゆっくりしてくださいね、まだ完全に治ってないんですから」

「そう、じゃあお言葉に甘えて・・・。あと、あの」
「紫さんですか?」
「・・・ええ、よく分かったわね」
「んー、私は詳しい事は分からないのですが」

ここ最近、姿を見た人妖は居ないそうですよ。
式さん曰く、永い冬眠をされるのだとか・・・。

「・・・そう」
「皆、色々あるんですよ」
「そうね」

何故そんな悟りきった顔してるのよ。
私も色々あるんですよ。

何故かお互いドヤ顔で見つめ合った。

それじゃ、とくるりとスカートを翻した兎耳さんは
ドアの方へ向かって歩き出した。
自分の仕事へ戻るそうだ。


「あ、そうそう。師匠が言ってましたよ」
「何かしら。悪口?」

「幽香さんは顔に似合わず清純だったのね、って」
「えっ、ちょっと待ちなさい。それどういう事?」

「寝言うわごと何とやら!ではごゆっくり」
「?!ち、ちょっと待ちなさ、いっ!?ったたたっ・・・」


追いかけようと体を前のめりにした途端、ズキズキと全身に電気が走った。
兎耳さんの言う通り、まだ完全には治ってないようだ。

いつもならすぐ治るのにおかしいわねえ、と首を捻っていると、
トタタタ、と跳ねるようにして遠ざかっていった足音が返ってきた。
見ると、ドアの隙間から、例の兎耳がひょこっと2つ揺れている。

「(誰かさんの看病につきっきりだったアリスさんが起きちゃいますから、お静かに・・・!)」

しー、と人差し指を口元にあて、また楽しそうに去って行った。

・・・。
そっか、アリスが。

あー、恥ずかしい。
寝言うわごとで何を口走ってしまったのかしら・・・。
聞かれてなきゃいいけど。

傍で眠るアリスはむにゃむにゃと動きはしたが、
起きる気配は無かった。

幽香は苦笑しながら、アリスの髪をそっと撫でた。
お読み頂き、どうも有難うございました。
終盤、某漫画の元気○か?と思いながらも、
他に思いつく表現が無かった為
あのような形になりました。

紫、嫌いではないです。
歪んだ表現になってしまいましたが、
幸せになって欲しいです本当は。


最後に、題名の花言葉を。
『シクラメン』
・内気
・はにかみ
・遠慮がち
・疑いを持つ
・嫉妬(赤)
・清純(白)
KTKT。
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
>相も変わらずドンチャン騒ぎな博霊神社の宴会の最中、
博麗神社
2.KTKT。削除
>1さん。申し訳ありません、有難うございます。修正しました。
3.名前が無い程度の能力削除
なんというドロッドロ。だがそれがいい。

ちょい展開が早いと感じましたが、面白かったです。
4.名前が無い程度の能力削除
このまますっぱり紫様が諦めるような気がしない…
5.KTKT。削除
>3さん。前半~中盤まで少し肉付けしてみました。
が、後半がどうにも触れてないのとまだ全体的に早いと思います、すいません。
お読み頂き、どうも有難うございます。

>4さん。どうも有難うございます。傷が癒えたらまた顔を出すかもしれませんね。
いつになるかは、分からないですが。紫様・・・。
6.名前が無い程度の能力削除
うがhjyぴおhjぎおjgな@rぎお!!すばらしすぎる!WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!
もう、悶えて死んでしまいます!アリス無双!ヤンデレは大好き!普段、ひょうひょうとしている妖怪たちが、ドロッドロッに傷つきあっていく
様は読んでいて、最高でした。このss、4倍以上長くても僕は読みますよ!!
7.KTKT。削除
>6さん。年が変わって早数ヶ月、びっくりです。見てらっしゃらないと思いますがレスお返し致します。お読み頂き、どうも有難うございました。振り返って読んでみると何とも恥ずかしいものですが、当時は書きたいものを書いて満足といった感じでした。ドロドロ、良いですよね、うまく書けないですが…。大変有難いお言葉頂き嬉しいです。また書いたものがお目にかかる時があれば、宜しくお願いいたします。重ね重ねになりますが、どうも有難うございました。