「天子高く、⑨(馬鹿)肥える秋」
秋空が綺麗に広がる昼下がり。
雲の上。天界で私は一人大の字になって寝転がっていた。
天界といわれると、歩ける場所が限られているため割と人気の少ない場所は無い様にに思われるかもしれないが、これが割とそんな事もなく。
地上に比べて人の数自体が少ないのと、天界人は下々人間を好かない為、天界の中でも地上に近い場所には人が寄り付かない。
よってこのように何一つ気にする事無く地面に寝転がることができる。
だがしかし。
「暇……」
ぎりぎり雲の上に位置するこの場所は、頭上をいくら見上げようと青い空しか見えない。
時間が早ければ白みがかった空が見えたり、逆に遅ければ綺麗な茜色を見ることも可能だが、少なくとも今は無理だ。
そして、暇だと思ってしまうと途端に時の流れを遅く感じてしまいなおさら時間を持て余してしまう。
私は起き上がり、立ち上がると背中に付いているであろう草を叩き落とした。
ぐぐっと背筋を伸ばし体をほぐす。
天界の端まで歩いてくと雲の隙間から地上を見下ろすことができる。
流石に人を見ることはできないが、私はここから見る地上が好きだ。
元々いた場所だから?
居るべきはずだった世界?
いいや、そんな理由じゃない。
あそこには時間がある。
有限の時間、それに追われる人々。
時間を失ってしまえばそれがどれだけ人の活力を生み出すものかということを気づかされる。
天界とは違う。輝いているのだ、人が、物が。
それを見るのがたまらなく好きだった。
「久々に降りてみようかしら……」
最近は暑かったこともあり地上に降りる頻度が減っていたのだが、最近は随分すごしやすい気候になってきている。
「よし、そうしよう」
そう決めると、私は何の躊躇いもなく天界の地面を蹴り宙へと踊りだす。
帰ったら衣玖に怒られるだろうなぁ。
天界に戻った時、勝手に地上に降りたことを怒るであろう人の顔を思いながら風に乗り空を泳ぐ。
すいすい~っと滑るように滑空し、スピードが出過ぎないように調節する。
雲に飛び込み、その中を高速で過ぎ去り、纏う雲を蹴散らし一気に抜け出すと地上はもう目と鼻の先だ。
☆★☆
「よっと」
地面寸前で体勢を立て直し、風をつかんで勢いを殺す。
そっと、それこそ果物を割らないように優しく降りると、ふわりと髪が踊りスカートがはためいた。
久々に降り立つ地上はすっかり空気そのものが変わっており、少し前の嫌気がさすような暑さはどこかへ消え去ってしまっている。
面白いことに地上は季節で空気すら変わってしまう。
春の陽気、夏の暑さ、秋の静けさ、冬の鋭さ。
天界はいつでも過ごしやすい気候をしているので、それに慣れてしまえば元いた世界の変化すら斬新に感じる。
「さてと、どこに行こうかな~」
道端は黄色く染まり太陽の光を受け、その色を濃くうつす。
綺麗な色に挟まれるように田舎道に棒立ちしていると、もう少しこの景色に囲まれているのもいいのではないかと思えてきた。
柔らかな暖かさに包まれ道を当てもなく適当に進む。
「お? なんかいい匂いがするぞっ!」
横合いから間延びした叫び声が聞こえたかと思うと次の瞬間にはなぜか空が見えた。
どうやら突き飛ばされたらしい。
沿道の草むらに倒れこんだのか、風に揺れる草が頬をくすぐる。
「ちょっと、なにするのよ」
「ふんふん、そこだっ!」
押し倒した本人は私のことなどお構い無しに体をよじ登っていく。
見えていた空すらも相手の体に隠れてしまった。
「ちょ、ちょっといい加減にしなさいよ」
「おお、これか! 桃だな! もらっていいか?」
「何で人を押し倒した相手に無償で物をあげなきゃいけないのよ、とにかくどけっ!」
上下入れ替わるように横に転がり脱出する。
立ち上がり、押し倒した犯人を見るとそれはいつかの氷精だった。
「あんた、え~っと確か……チルノ、だっけ?」
「あたい!」
「え? あたい?」
「そうだよ?」
「あんたはチルノじゃなくてあたい?」
「チルノがあたい」
「え?」
あれ、なんだこれ、よくわけがわからなくなってきた。
相手はなぜか暢気に座りながら空を眺めている。
「え~っと? あんた名前は?」
「チルノ! あたいさいきょー!」
「ああ、やっぱりチルノであっているのね……」
「そう、あたい」
なるほどそういうことか。
何だかどっと疲れを感じる。
「それで、この私に何かよう?」
「いい匂いがした」
「はい?」
「桃、おいしそう」
「これか……」
私は帽子を手に取り目の前に下ろす。
そこには桃が二つくくり付けらている。
一見作り物の飾りだと思われるかもしれないが、正真正銘天界の桃だ。
天界の桃は特別な物で、ちょっとやそっとじゃ腐らない。
ついでに言うと成長速度が異常なまでに速く、採っても一晩たてば元通り実が生っている。
「これがほしいの?」
「うん。大ちゃんが食欲の秋だからいっぱい食べろって言ってた」
「大ちゃん? 食欲の秋……?」
そういえばそんな言葉もあったかもしれない。
「だから頂戴!」
屈託のない笑みを浮かべ、私が持っている帽子をきらきらとした瞳で見つめている。
だがしかしこの普通ではない桃、食べると当然ながらいろいろな副作用があるわけで。
そんなものをほいほいあげるわけにはいかない。
「いい? これは普通の桃じゃないの。だからだめよ」
「腐ってるのか?」
「腐っているわけではないわ。第一天界の桃は腐らないの」
「そうか、腐っているなら仕方ないな、大ちゃんが腐っているのはいろいろだめだって言ってたし」
「だ、だから腐ってないってば!」
「ならどうしてだめなんだ?」
「それは……その、これはすごい桃だから高いのよ! そうよ、貴方じゃ買えないわ」
「買えないなら奪えばいいって魔理沙が言ってた」
あの魔法使い、妖精になんて事を吹き込んでいるんだ……
そういえば体の弱そうな魔法使いがいろいろ困っているといっていた気もするな、人づてだったと思うけど。
「じゃあ私と勝負する?」
「いいのか!? あたいさいきょーだからむちゃむちゃ強いぞ!」
「ふふふっ、この私に勝てると思っているのかしら? いいわ、勝てたらこの桃譲ってあげる!」
「よし! ならいくぞ――」
「ちょっとチルノちゃん! 何してるの!!」
「あ、大ちゃん」
宙に浮き、臨戦態勢を取ったところで横槍が入る。
草むらをかき分けるようにして姿を現したそいつも妖精だ。
ただ、チルノと比べると一回り体が大きく、羽も大きい。
なるほど、大妖精で大ちゃんか。
「ごめんなさいごめんなさい、チルノちゃんが迷惑かけませんでしたか?」
「え? あ、いや、大丈夫。押し倒されたけど」
「お、押し倒された!?」
「いや大丈夫よ? 草むらだったし」
「く、草むらで……」
草むらという言葉を聴くなり、めまいに倒れそうになる大妖精。
いったい何を勘違いしているのだか。
「怪我もないし、それにやり返したから大丈夫」
「や、やり返したって……」
彼女の顔は青くなったり赤くなったりとせわしない。
いつの間にか下の世界には面白い子が増えたのだろうか?
「それよりチルノちゃん、何でこんなことを……」
「食欲の秋」
「え? う、うんそうだね」
「桃」
「え? な、何で桃なの? チルノちゃん」
そう聞かれると、チルノはスッと私の帽子を指差す。
そこには当然桃がくくりつけられている。
「あ、あれはだめだよチルノちゃん! 人のものでしょ?」
「う~ん、でもあたいお腹空いた」
「だったら私が何か作ってあげるよ、だからあれはあきらめて、ね?」
「え~桃ぐらいいいじゃんか~」
困ったようにチルノと私の顔をかわるがわるに見る大妖精。
なんとも同情してしまいたくなる状況だ。
だがしかし、何が桃ぐらいだ。これでも天界人にとっては大事な生命線なのだが?
「二人で半分こするならあげてもいいよ」
「本当か!?」
「え、良いんですか?」
「半分ならいいよ、いろいろ大丈夫だと思うし」
そして私は帽子についた桃をひとつむしりとるとチルノに向かって投げてやる。
起用に寝転がりながらそれをキャッチすると、鋭く尖らせた氷でそれを割った。
「あれ、大きさちがくなっちゃった。んじゃこっち」
少し、いや、かなり小さくなってしまったほうを咥えると、大きめなほうを大妖精のほうへ投げる。
落としそうになりながらも、それを手に取ると彼女は複雑そうな顔をしていた。
「でもチルノちゃんお腹すいたって……」
「あたいはだいじょーぶ! それよりお姉さん桃ありがとう!」
「気にしなくていいわよ」
よく熟した桃は皮が手でむける。
もうひとつの桃を手に取ると、少し齧って皮を千切りそこから手で皮を向いて見せた。
天界の桃だからいつでもこうなるのだが、やはり皮がベロリと綺麗にむけると気持ちのいいものがある。
「おいしいね」
「うん」
それにしても予定が大幅に変わってしまった。
元々その辺で誰かをからかって遊んでやろうと思っていたというのに、これではすっかりからかわれている側になってしまっている。
まぁ、氷精は少し抜けていて退屈しないから構わないといえばそうなのだが。
ん? 待てよ?
こいつ天界につれて帰れば少しは退屈しのぎになるんじゃないか?
確か妖精は砕けようが切られようが再生できると聞くし、もし天界から落ちてもたぶん平気だろう。
何より飛べるのだろうし。
「チルノ?」
「ん? なんだ」
「私と一緒に天界に来ない?」
「てんかい?」
「そう、雲の上。そうすれば桃も食べ放題だよ」
「チルノちゃん……」
無意識に隣に立つ大妖精がチルノの服の裾をキュと握り締めている。
「ん~。いいや、あたい桃食べたし」
一瞬食いつこうかとも思ったが大妖精の寂しげな瞳に、結局それはあきらめることにした。
なんというか罪悪感のほうが強くなる。
(ただの気まぐれだったんだけどなぁ、あそこまで悲しい目をされたら引き離せないか)
ふと衣玖の顔が脳裏に浮かび、それに後ろ髪を引かれたというのが事実なのだが、悔しいので彼女らの友情に負けたということにしておこう。
「それじゃああたいかえるね! ありがとう!」
「あ、チルノちゃん待ってよ! 私まだ食べてるのに……。ああ、ありがとうございました! チルノちゃんってばー!」
せわしなく私に頭を下げると彼女らはどこかへ飛び去って言ってしまう。
さてまたやる事が無くなってしまったがもう十分に暇はつぶせた気もする。
「総領娘様」
どうしたものかと思案していると、頭上から聞きなれた声が私の名前を呼ぶ。
落ち着き払った冷静沈着。
かといって感情を感じさせないわけでもない不思議な響きを持った声。
「衣玖」
「迎えに来ました、天界に戻りましょう」
「……そうね、帰りましょうか」
素直に従う私に衣玖が若干目を見開く。
スッと手を差し出すと、それを不思議そうに見つめ、ハッとしてから衣玖が私の手を取った。
「何かあったのですか?」
「そうね、もう少し衣玖を大切にしようかなって思っただけよ」
秋空が綺麗に広がる昼下がり。
雲の上。天界で私は一人大の字になって寝転がっていた。
天界といわれると、歩ける場所が限られているため割と人気の少ない場所は無い様にに思われるかもしれないが、これが割とそんな事もなく。
地上に比べて人の数自体が少ないのと、天界人は下々人間を好かない為、天界の中でも地上に近い場所には人が寄り付かない。
よってこのように何一つ気にする事無く地面に寝転がることができる。
だがしかし。
「暇……」
ぎりぎり雲の上に位置するこの場所は、頭上をいくら見上げようと青い空しか見えない。
時間が早ければ白みがかった空が見えたり、逆に遅ければ綺麗な茜色を見ることも可能だが、少なくとも今は無理だ。
そして、暇だと思ってしまうと途端に時の流れを遅く感じてしまいなおさら時間を持て余してしまう。
私は起き上がり、立ち上がると背中に付いているであろう草を叩き落とした。
ぐぐっと背筋を伸ばし体をほぐす。
天界の端まで歩いてくと雲の隙間から地上を見下ろすことができる。
流石に人を見ることはできないが、私はここから見る地上が好きだ。
元々いた場所だから?
居るべきはずだった世界?
いいや、そんな理由じゃない。
あそこには時間がある。
有限の時間、それに追われる人々。
時間を失ってしまえばそれがどれだけ人の活力を生み出すものかということを気づかされる。
天界とは違う。輝いているのだ、人が、物が。
それを見るのがたまらなく好きだった。
「久々に降りてみようかしら……」
最近は暑かったこともあり地上に降りる頻度が減っていたのだが、最近は随分すごしやすい気候になってきている。
「よし、そうしよう」
そう決めると、私は何の躊躇いもなく天界の地面を蹴り宙へと踊りだす。
帰ったら衣玖に怒られるだろうなぁ。
天界に戻った時、勝手に地上に降りたことを怒るであろう人の顔を思いながら風に乗り空を泳ぐ。
すいすい~っと滑るように滑空し、スピードが出過ぎないように調節する。
雲に飛び込み、その中を高速で過ぎ去り、纏う雲を蹴散らし一気に抜け出すと地上はもう目と鼻の先だ。
☆★☆
「よっと」
地面寸前で体勢を立て直し、風をつかんで勢いを殺す。
そっと、それこそ果物を割らないように優しく降りると、ふわりと髪が踊りスカートがはためいた。
久々に降り立つ地上はすっかり空気そのものが変わっており、少し前の嫌気がさすような暑さはどこかへ消え去ってしまっている。
面白いことに地上は季節で空気すら変わってしまう。
春の陽気、夏の暑さ、秋の静けさ、冬の鋭さ。
天界はいつでも過ごしやすい気候をしているので、それに慣れてしまえば元いた世界の変化すら斬新に感じる。
「さてと、どこに行こうかな~」
道端は黄色く染まり太陽の光を受け、その色を濃くうつす。
綺麗な色に挟まれるように田舎道に棒立ちしていると、もう少しこの景色に囲まれているのもいいのではないかと思えてきた。
柔らかな暖かさに包まれ道を当てもなく適当に進む。
「お? なんかいい匂いがするぞっ!」
横合いから間延びした叫び声が聞こえたかと思うと次の瞬間にはなぜか空が見えた。
どうやら突き飛ばされたらしい。
沿道の草むらに倒れこんだのか、風に揺れる草が頬をくすぐる。
「ちょっと、なにするのよ」
「ふんふん、そこだっ!」
押し倒した本人は私のことなどお構い無しに体をよじ登っていく。
見えていた空すらも相手の体に隠れてしまった。
「ちょ、ちょっといい加減にしなさいよ」
「おお、これか! 桃だな! もらっていいか?」
「何で人を押し倒した相手に無償で物をあげなきゃいけないのよ、とにかくどけっ!」
上下入れ替わるように横に転がり脱出する。
立ち上がり、押し倒した犯人を見るとそれはいつかの氷精だった。
「あんた、え~っと確か……チルノ、だっけ?」
「あたい!」
「え? あたい?」
「そうだよ?」
「あんたはチルノじゃなくてあたい?」
「チルノがあたい」
「え?」
あれ、なんだこれ、よくわけがわからなくなってきた。
相手はなぜか暢気に座りながら空を眺めている。
「え~っと? あんた名前は?」
「チルノ! あたいさいきょー!」
「ああ、やっぱりチルノであっているのね……」
「そう、あたい」
なるほどそういうことか。
何だかどっと疲れを感じる。
「それで、この私に何かよう?」
「いい匂いがした」
「はい?」
「桃、おいしそう」
「これか……」
私は帽子を手に取り目の前に下ろす。
そこには桃が二つくくり付けらている。
一見作り物の飾りだと思われるかもしれないが、正真正銘天界の桃だ。
天界の桃は特別な物で、ちょっとやそっとじゃ腐らない。
ついでに言うと成長速度が異常なまでに速く、採っても一晩たてば元通り実が生っている。
「これがほしいの?」
「うん。大ちゃんが食欲の秋だからいっぱい食べろって言ってた」
「大ちゃん? 食欲の秋……?」
そういえばそんな言葉もあったかもしれない。
「だから頂戴!」
屈託のない笑みを浮かべ、私が持っている帽子をきらきらとした瞳で見つめている。
だがしかしこの普通ではない桃、食べると当然ながらいろいろな副作用があるわけで。
そんなものをほいほいあげるわけにはいかない。
「いい? これは普通の桃じゃないの。だからだめよ」
「腐ってるのか?」
「腐っているわけではないわ。第一天界の桃は腐らないの」
「そうか、腐っているなら仕方ないな、大ちゃんが腐っているのはいろいろだめだって言ってたし」
「だ、だから腐ってないってば!」
「ならどうしてだめなんだ?」
「それは……その、これはすごい桃だから高いのよ! そうよ、貴方じゃ買えないわ」
「買えないなら奪えばいいって魔理沙が言ってた」
あの魔法使い、妖精になんて事を吹き込んでいるんだ……
そういえば体の弱そうな魔法使いがいろいろ困っているといっていた気もするな、人づてだったと思うけど。
「じゃあ私と勝負する?」
「いいのか!? あたいさいきょーだからむちゃむちゃ強いぞ!」
「ふふふっ、この私に勝てると思っているのかしら? いいわ、勝てたらこの桃譲ってあげる!」
「よし! ならいくぞ――」
「ちょっとチルノちゃん! 何してるの!!」
「あ、大ちゃん」
宙に浮き、臨戦態勢を取ったところで横槍が入る。
草むらをかき分けるようにして姿を現したそいつも妖精だ。
ただ、チルノと比べると一回り体が大きく、羽も大きい。
なるほど、大妖精で大ちゃんか。
「ごめんなさいごめんなさい、チルノちゃんが迷惑かけませんでしたか?」
「え? あ、いや、大丈夫。押し倒されたけど」
「お、押し倒された!?」
「いや大丈夫よ? 草むらだったし」
「く、草むらで……」
草むらという言葉を聴くなり、めまいに倒れそうになる大妖精。
いったい何を勘違いしているのだか。
「怪我もないし、それにやり返したから大丈夫」
「や、やり返したって……」
彼女の顔は青くなったり赤くなったりとせわしない。
いつの間にか下の世界には面白い子が増えたのだろうか?
「それよりチルノちゃん、何でこんなことを……」
「食欲の秋」
「え? う、うんそうだね」
「桃」
「え? な、何で桃なの? チルノちゃん」
そう聞かれると、チルノはスッと私の帽子を指差す。
そこには当然桃がくくりつけられている。
「あ、あれはだめだよチルノちゃん! 人のものでしょ?」
「う~ん、でもあたいお腹空いた」
「だったら私が何か作ってあげるよ、だからあれはあきらめて、ね?」
「え~桃ぐらいいいじゃんか~」
困ったようにチルノと私の顔をかわるがわるに見る大妖精。
なんとも同情してしまいたくなる状況だ。
だがしかし、何が桃ぐらいだ。これでも天界人にとっては大事な生命線なのだが?
「二人で半分こするならあげてもいいよ」
「本当か!?」
「え、良いんですか?」
「半分ならいいよ、いろいろ大丈夫だと思うし」
そして私は帽子についた桃をひとつむしりとるとチルノに向かって投げてやる。
起用に寝転がりながらそれをキャッチすると、鋭く尖らせた氷でそれを割った。
「あれ、大きさちがくなっちゃった。んじゃこっち」
少し、いや、かなり小さくなってしまったほうを咥えると、大きめなほうを大妖精のほうへ投げる。
落としそうになりながらも、それを手に取ると彼女は複雑そうな顔をしていた。
「でもチルノちゃんお腹すいたって……」
「あたいはだいじょーぶ! それよりお姉さん桃ありがとう!」
「気にしなくていいわよ」
よく熟した桃は皮が手でむける。
もうひとつの桃を手に取ると、少し齧って皮を千切りそこから手で皮を向いて見せた。
天界の桃だからいつでもこうなるのだが、やはり皮がベロリと綺麗にむけると気持ちのいいものがある。
「おいしいね」
「うん」
それにしても予定が大幅に変わってしまった。
元々その辺で誰かをからかって遊んでやろうと思っていたというのに、これではすっかりからかわれている側になってしまっている。
まぁ、氷精は少し抜けていて退屈しないから構わないといえばそうなのだが。
ん? 待てよ?
こいつ天界につれて帰れば少しは退屈しのぎになるんじゃないか?
確か妖精は砕けようが切られようが再生できると聞くし、もし天界から落ちてもたぶん平気だろう。
何より飛べるのだろうし。
「チルノ?」
「ん? なんだ」
「私と一緒に天界に来ない?」
「てんかい?」
「そう、雲の上。そうすれば桃も食べ放題だよ」
「チルノちゃん……」
無意識に隣に立つ大妖精がチルノの服の裾をキュと握り締めている。
「ん~。いいや、あたい桃食べたし」
一瞬食いつこうかとも思ったが大妖精の寂しげな瞳に、結局それはあきらめることにした。
なんというか罪悪感のほうが強くなる。
(ただの気まぐれだったんだけどなぁ、あそこまで悲しい目をされたら引き離せないか)
ふと衣玖の顔が脳裏に浮かび、それに後ろ髪を引かれたというのが事実なのだが、悔しいので彼女らの友情に負けたということにしておこう。
「それじゃああたいかえるね! ありがとう!」
「あ、チルノちゃん待ってよ! 私まだ食べてるのに……。ああ、ありがとうございました! チルノちゃんってばー!」
せわしなく私に頭を下げると彼女らはどこかへ飛び去って言ってしまう。
さてまたやる事が無くなってしまったがもう十分に暇はつぶせた気もする。
「総領娘様」
どうしたものかと思案していると、頭上から聞きなれた声が私の名前を呼ぶ。
落ち着き払った冷静沈着。
かといって感情を感じさせないわけでもない不思議な響きを持った声。
「衣玖」
「迎えに来ました、天界に戻りましょう」
「……そうね、帰りましょうか」
素直に従う私に衣玖が若干目を見開く。
スッと手を差し出すと、それを不思議そうに見つめ、ハッとしてから衣玖が私の手を取った。
「何かあったのですか?」
「そうね、もう少し衣玖を大切にしようかなって思っただけよ」
後、タイトルが上手いなと感じました
次回作も頑張って下さいな。
毎度毎度コメントありがとう御座います!
タイトルはコメ2に颯爽と現れた超絶マリアリストタナバン氏のものです。
いいですか?タナバン氏のものですよ、タナバン氏の。大切すぎるので3回言いました。
チルノはチルノ道を歩いていればよいのですよ、いや本当に。
>>タナバンさん
チルノはわがままでやんちゃなぐらいが丁度いい。
そして天才風で奇抜さを狙うもいいがやはりまるきゅーだろうjk
といった感じでしょうか?w
そして大ちゃんもやはり大ちゃん。大ちゃんマジ大ちゃん状態でヘヴン。
「だれかこいつらをとめてぇー!!」
そんなわけでコメントありがとう御座いました!
>>3さん
わーい!あたい3のとこいくー!
待ってよチルノちゃん!知らない人についていっちゃ駄目だって美鈴さんがいってたでしょ!?
コメントありがとう御座いました。心行くまでお芋をお楽しみください。