午後十時四十六分。蓮子から私にメールが届いた。境界探しのための気候と月齢、そして場所が見つかったというのだ。
見つかったというよりは、ぶつかった、という方が正しいのかもしれない。
今日の只今の天気は雨、時期は梅雨雨、雲に隠れた月は満ち煌々と太陽の光を雲の背中に刺している。
場所は裏山。魔を寄せ集める深く暗い森。光の届かぬ陰の森。
清き光が魔を地上に追い払い、魔が森に潜み気を汚す、いまこのときはまさに好条件が揃っていることに蓮子がついさっき気づいたのだ。
人ならざる気が集まれば、人ならざる魔が集えば、そこに現世と幻想の境目が生まれる。
それを視るのが、私たち秘封倶楽部。
常人ならざる者たちの、この世に非ざる物を視る集い。
それが私たち秘封倶楽部。
視るだけでは物足りない。満たされる物の足りない集いが私たち秘封倶楽部。
☆
私たちの活動に道具はいらない。非常用の方位磁針と非常用の少しの飲料を持ち、非常時は携帯を使いその場から逃げる。非常事態には慣れている。
常非ざる活動こそが、私たち秘封倶楽部の活動だ。
その中でも力を入れている(力学的な観点からは非難を浴びる表現だろう)活動は、境界を探すことだ。
この世と異世を隔てる不確かな脆い橋。 この世と異世を架ける断絶された確かな強い力。
普段は誰の目にも見えないその境目が何かの拍子に見えるほんの僅かな瞬間を探し、私たち秘封倶楽部は日々活動している。
もちろん、探して終わりというわけではない。私たちの目的はその先にあるのだから。
合成物が素晴らしくスタンダードなこの世界で、精神を教科書から学ぶこの世界で、自然物を疑うこの世界で、蓮子と私、秘封倶楽部は境界を探し続けているのだ。
午後十一時五十分。蓮子に私が自宅を出発した旨のメールを送る。夜の森で、蓮子と夜空の下でデート出来る喜びも文字にして添えておいた。
蓮子が見たらときめくように、私をもっと好きになって愛してくれるように。
秘封倶楽部である私たちもまた、他のそれに非ざる関係なのだ。
☆☆
メリーからメールが届いた。メリー自作の(市販のアプリケーションによる)とても可愛らしい手書きフォントで、
待ち合わせ場所に向かって家を出始めたこと、私とふたりきりになれる喜びを恥ずかしい程の愛の言葉で表現している。
なんだかこういうのは……、何度見ても聞いても嬉しくなってしまうものだ。体の胸の心臓の右心室あたりが、バクッと広がってしまう感触だ。
私はメリーを愛している。蓮子も私を愛してくれている。この気持ちの強さは互いに競い合うことのない、平和なものだ。
互いを求め、互いを与える。一対一の釣り合いの関係。倶楽部活動のメインは境界についてのこと。私たちの目的はお互いのこと。
倶楽部の存在と私たちの目的、物に非ざるものも一対一のトレードオフ。足りて満たされるのが常なのだ。
そろそろ私も出発しよう。待ち合わせ場所はいつものカフェ。今から出れば時間もたぶんちょうどいいハズだ。
私たちは秘封倶楽部。常世の恋仲に非ざる関係を笑顔で抱く、平和な平和な二人組。
小洒落たカフェで深夜の密会をする、恋する普通の二人組。
☆☆☆
私たちは境界を探す。この世に非ざる秘めたる謎を。異世に封せし常世に非ざる怪の謎を。この世が秘めたる常なる謎を。異世が封せし魔の謎を。
それら全てを視るために。
私たちは秘封倶楽部。合成品という名の偽物が蔓延り精神の在り方を世の流れが決め、自然物を排斥する世界で、私たちは日々活動している。
私たちは境界を探す。常世が忘れし魔の怪を。封せし魔が棲む異世の秘を。怪を封せし魔に非ざる世を。常世と異世と魔と怪を。
それら全ての秘を封ずるために。
偽物が世界を犯し、精神の道に自由を失い、管理された自然の中で私たちが生きるために。秘封倶楽部は秘を封ずる。
秘を嫌い、封ずる。
この世に神秘は必要ない。
常世に謎は必要ない。
異世の魔を寄せ付けたくない。
魔の怪に怯えたくない。
私たちは秘封倶楽部。
平和な世を望んで活動を続ける、秘を封ずる二人だけの倶楽部。
普通でありたい二人の女の子の倶楽部。
作られた物だらけの世に、これ以上平和に非ざるものを入れたくない。
そう願うのが私たち秘封倶楽部。
私とあの子の、二人だけの倶楽部。
★★★
「まさか境界の先に私たちがいるとはね……」
蓮子は帽子の鍔を指で掴み、口を曲げて微笑している。その表情はタレ目の猫が欠伸し終わった瞬間に口が歪んでしまったときのようで、つまりは凄く変だった。
「境界を無理矢理閉じようとしてきたからついあの子たちを飛ばしちゃったわ。無事に生きていればいいけど……」
「飛ばしたって言っても、何処にさ。メリー、あの境界、何処に繋がってたの?」
「前に私が話したことあるでしょう、紅い館に素敵なまほうつかいがいる、あの世界よ」
私がそう応えると、蓮子は口を半開きにしたまま止まってしまった。これは少し悩んでいるな、と私は感じた。
それはそうだろう、あの子たちが飛ばされた世界は、竹林に赤い化物(女の子かもしれない)(妖怪とか魔物?)がいる世界なのだ。無事で済むとは思えない。
「帰りましょうか蓮子。どうやらここは私たちがもといた世界とほぼ同じだわ」 私たちの世界とこことを隔てる境界を作り、蓮子に言った。
この世に非ざるものでなければ、私たちは満たされない。魔を、怪を、常世と異世が封せし秘を。それらを繋ぎ隔てる境界を暴く。それが私たち秘封倶楽部。
私とこの子の――
「もう元の世界と繋げられたの? そんなに境界を簡単に弄るなんて、メリーったらまるで妖怪みたいね」
二人だけの倶楽部。
★
「博麗の巫女、私に協力して。この世界を外の実体の世と切り離すための境界を作るわ」
「そうしてこの世界を幻想に沈めるの。ヒトの手が届かないように。ヒトが持つ魔に絡み取られないように。魔を望むヒトから視えないように――」
見つかったというよりは、ぶつかった、という方が正しいのかもしれない。
今日の只今の天気は雨、時期は梅雨雨、雲に隠れた月は満ち煌々と太陽の光を雲の背中に刺している。
場所は裏山。魔を寄せ集める深く暗い森。光の届かぬ陰の森。
清き光が魔を地上に追い払い、魔が森に潜み気を汚す、いまこのときはまさに好条件が揃っていることに蓮子がついさっき気づいたのだ。
人ならざる気が集まれば、人ならざる魔が集えば、そこに現世と幻想の境目が生まれる。
それを視るのが、私たち秘封倶楽部。
常人ならざる者たちの、この世に非ざる物を視る集い。
それが私たち秘封倶楽部。
視るだけでは物足りない。満たされる物の足りない集いが私たち秘封倶楽部。
☆
私たちの活動に道具はいらない。非常用の方位磁針と非常用の少しの飲料を持ち、非常時は携帯を使いその場から逃げる。非常事態には慣れている。
常非ざる活動こそが、私たち秘封倶楽部の活動だ。
その中でも力を入れている(力学的な観点からは非難を浴びる表現だろう)活動は、境界を探すことだ。
この世と異世を隔てる不確かな脆い橋。 この世と異世を架ける断絶された確かな強い力。
普段は誰の目にも見えないその境目が何かの拍子に見えるほんの僅かな瞬間を探し、私たち秘封倶楽部は日々活動している。
もちろん、探して終わりというわけではない。私たちの目的はその先にあるのだから。
合成物が素晴らしくスタンダードなこの世界で、精神を教科書から学ぶこの世界で、自然物を疑うこの世界で、蓮子と私、秘封倶楽部は境界を探し続けているのだ。
午後十一時五十分。蓮子に私が自宅を出発した旨のメールを送る。夜の森で、蓮子と夜空の下でデート出来る喜びも文字にして添えておいた。
蓮子が見たらときめくように、私をもっと好きになって愛してくれるように。
秘封倶楽部である私たちもまた、他のそれに非ざる関係なのだ。
☆☆
メリーからメールが届いた。メリー自作の(市販のアプリケーションによる)とても可愛らしい手書きフォントで、
待ち合わせ場所に向かって家を出始めたこと、私とふたりきりになれる喜びを恥ずかしい程の愛の言葉で表現している。
なんだかこういうのは……、何度見ても聞いても嬉しくなってしまうものだ。体の胸の心臓の右心室あたりが、バクッと広がってしまう感触だ。
私はメリーを愛している。蓮子も私を愛してくれている。この気持ちの強さは互いに競い合うことのない、平和なものだ。
互いを求め、互いを与える。一対一の釣り合いの関係。倶楽部活動のメインは境界についてのこと。私たちの目的はお互いのこと。
倶楽部の存在と私たちの目的、物に非ざるものも一対一のトレードオフ。足りて満たされるのが常なのだ。
そろそろ私も出発しよう。待ち合わせ場所はいつものカフェ。今から出れば時間もたぶんちょうどいいハズだ。
私たちは秘封倶楽部。常世の恋仲に非ざる関係を笑顔で抱く、平和な平和な二人組。
小洒落たカフェで深夜の密会をする、恋する普通の二人組。
☆☆☆
私たちは境界を探す。この世に非ざる秘めたる謎を。異世に封せし常世に非ざる怪の謎を。この世が秘めたる常なる謎を。異世が封せし魔の謎を。
それら全てを視るために。
私たちは秘封倶楽部。合成品という名の偽物が蔓延り精神の在り方を世の流れが決め、自然物を排斥する世界で、私たちは日々活動している。
私たちは境界を探す。常世が忘れし魔の怪を。封せし魔が棲む異世の秘を。怪を封せし魔に非ざる世を。常世と異世と魔と怪を。
それら全ての秘を封ずるために。
偽物が世界を犯し、精神の道に自由を失い、管理された自然の中で私たちが生きるために。秘封倶楽部は秘を封ずる。
秘を嫌い、封ずる。
この世に神秘は必要ない。
常世に謎は必要ない。
異世の魔を寄せ付けたくない。
魔の怪に怯えたくない。
私たちは秘封倶楽部。
平和な世を望んで活動を続ける、秘を封ずる二人だけの倶楽部。
普通でありたい二人の女の子の倶楽部。
作られた物だらけの世に、これ以上平和に非ざるものを入れたくない。
そう願うのが私たち秘封倶楽部。
私とあの子の、二人だけの倶楽部。
★★★
「まさか境界の先に私たちがいるとはね……」
蓮子は帽子の鍔を指で掴み、口を曲げて微笑している。その表情はタレ目の猫が欠伸し終わった瞬間に口が歪んでしまったときのようで、つまりは凄く変だった。
「境界を無理矢理閉じようとしてきたからついあの子たちを飛ばしちゃったわ。無事に生きていればいいけど……」
「飛ばしたって言っても、何処にさ。メリー、あの境界、何処に繋がってたの?」
「前に私が話したことあるでしょう、紅い館に素敵なまほうつかいがいる、あの世界よ」
私がそう応えると、蓮子は口を半開きにしたまま止まってしまった。これは少し悩んでいるな、と私は感じた。
それはそうだろう、あの子たちが飛ばされた世界は、竹林に赤い化物(女の子かもしれない)(妖怪とか魔物?)がいる世界なのだ。無事で済むとは思えない。
「帰りましょうか蓮子。どうやらここは私たちがもといた世界とほぼ同じだわ」 私たちの世界とこことを隔てる境界を作り、蓮子に言った。
この世に非ざるものでなければ、私たちは満たされない。魔を、怪を、常世と異世が封せし秘を。それらを繋ぎ隔てる境界を暴く。それが私たち秘封倶楽部。
私とこの子の――
「もう元の世界と繋げられたの? そんなに境界を簡単に弄るなんて、メリーったらまるで妖怪みたいね」
二人だけの倶楽部。
★
「博麗の巫女、私に協力して。この世界を外の実体の世と切り離すための境界を作るわ」
「そうしてこの世界を幻想に沈めるの。ヒトの手が届かないように。ヒトが持つ魔に絡み取られないように。魔を望むヒトから視えないように――」
蓮子とメリーの言動、話の流れ、良かったと思います。
ただ正直、前半に対して後半があっさりしすぎている気がしました。
起承転、で終わってしまったというか。
それから、ジェネとはいえ「推敲もせず」というのはちょっと残念かなと。
一カ所誤字?もありました。
(「私はメリーを愛している。蓮子も私を愛してくれている」:蓮子→メリー?)
是非とも、推敲もした上で、もう少し長い話を読みたいと思います。