霧の湖の周辺の森。
その茂み中や木の上を探る影が4つ。
「たぶんこの辺からピィとか聞こえたんだけどなぁ…」
ガサガサと茂みを掻き分けながら言うチルノ。
「いませんねぇ…」
同じく別の茂みを探りながら美鈴が言う。
「見当たらないです…」
「あまり元気な鳴き声では無かったから…」
木の枝の木の葉を掻き分けて探す小悪魔と
心配そうな顔で辺りを見回す大妖精。
「居ました!」
他の全員が手を止め声を上げた美鈴の元へと
駆け寄ってきた。
「2人が聞いたのは多分この子の鳴き声ですかね。」
美鈴の手の上には小さな鳥の雛がいた。
「ぜんぜんなかないよ?死んでないよね?」
「弱っているみたいですけど大丈夫ですよね?」
心配に問いかけるチルノと大妖精。
「あまり大丈夫じゃないかも知れないわね…
とにかく、まずはパチュリー様診てもらいましょう。」
言うが早いか手の中の雛を揺らさないようにそれでいて
速く紅魔館へと駆けていく美鈴。
それを追う形で3人も続いた。
今日は夏の日にしては涼しくチルノと大妖精の2人は
湖の畔できれいな石を探していた。
夢中で探していたチルノの耳に鳥の鳴き声が聞こえた。
鳥の声など別段珍しくも無いが普段とは違った
聞きなれない鳴き声だった為、チルノは手を止めて辺りを見回した。
「大ちゃん大ちゃん。」
チルノはこちらに背を向けてしゃがみこんでいた
大妖精に声をかけながら服の裾を引っ張る。
「きれいなのがあった?」
振り向いた大妖精の耳にも鳥の声が聞こえる。
「大ちゃんも聞こえた?」
大妖精はチルノの問いに首を縦に振る。
「なんだろう…多分、何か雛の声だと思うけど
なんていうか…」
小さい雛の声だとしても弱々しい。
というより寧ろ鳥の雛ならばうるさいくらい鳴くのが普通である。
それにはっきりと場所はわからないが木の上ではなく
木の根元にある茂みの何処かしらから聞こえたような感じがする。
もし雛が巣から落ちたならば放っておいては死んでしまうだろう。
空を見回したが親鳥の姿も居る気配もない。
「木から落ちた雛かもしれないから探してみよう。」
「うん!」
2人で茂みを探すが声はしても中々、姿が見当たらない。
探しているうちにも途切れ途切れに聞こえていた声が
更に弱い物へと変わりやがて聞こえなくなる。
「あたい誰かよんでくる!」
「うん!おねがい!」
数分と待たずに探し続ける大妖精の所へ戻ってきたチルノに
美鈴と小悪魔も加わり雛を探し続けた。
「とりあえず。」
心配そうにしている4人にパチュリーは言う。
「私も専門ではないんだけれど、これで大丈夫だと思うわ。」
パチュリーの言葉にそれぞれ喜ぶチルノと大妖精と
ほっと胸を撫で下ろす美鈴と小悪魔。
「でも。」
少し間を置いてパチュリーは続ける。
「右の羽が折れるまではいかずとも痛めているみたい。」
雛の右側の羽には包帯らしき物が巻かれていた。
「魔法薬を塗っておいたから数日で治ると思うわ。
小さな動物には使ったことはないけれど
副作用の無い物だから問題ない筈。」
「ありがとう!ぱちゅりー!」
「ありがとうございます。パチュリーさん。」
「「ありがとうございます。パチュリー様」」
チルノと大妖精がそれぞれと美鈴と小悪魔が異口同音にハモらせて
パチュリーにお礼を言う。
「大した事ないわよ。」
ほんの少し頬を赤く染め、誰とも視線を合わせないように雛の方へと
向けるパチュリー。
雛は眠っているようで規則的に小さく動いている。
「しかし、治ったらこの子どうしましょうか?
探したのですが巣や親鳥も見当たらなくて…」
「大丈夫よ!」
小悪魔の言葉にチルノが胸を張って答える。
「あたいがおかーさんになる!とびかたとかも教えるのよ!」
「まぁ、親鳥がいないなら治ってすぐに自然に返すわけにも
いかないですしね。」
「私も手伝いますよ。」とチルノの背中を軽く叩きながら美鈴が言う。
「私も出来る事は手伝ってあげるわ。主に知識面でね。」
パチュリーは小悪魔に鳥に関する本を探しておくように指示する。
「早く元気になるといいね。」
「うん!」
眠る雛を見守りながら言う大妖精にチルノは頷いた。
チルノによって「ぴーちゃん」と名付けられた雛は数日で元気になった。
パチュリーが調べて解ったのだが雛は外の世界の種類の鳥だったらしく
普通の育て方とは勝手が違ってくる事が懸念された。
しかし幻想郷という土地に適応したのだろうか
気候や食べ物に関しても特別な事をする事なく
チルノ達や紅魔館の面々の愛情を受けすくすくと育っていった。
「ぴーちゃん、大分大きくなりましたね。」
図書館でチルノと大妖精、フランドールと戯れる元雛を見て
お茶を持ってきた咲夜が言う。
「そろそろ飛ぶ訓練をしてもいい頃かも知れないわね。」
そう言ってパチュリーは咲夜の持ってきたお茶に口をつける。
「もうぴーちゃんとべるの?」
「寧ろ遅いくらいかも知れないわ。
普通の鳥ならとうに飛んでいてもおかしくないくらいよ。」
チルノの問いにそう答えるパチュリー。
「よしっ!」
チルノは頭上高くぴーちゃんを抱き上げる。
「あたいがすぐにとべるようにしてあげるわ!」
自信満々に言うチルノにぴーちゃんは首をかしげるような仕草で返した。
次の日、紅魔館の主要メンバーと大妖精が見守る中で
チルノによる飛び方講座が始まった。
「それで、あなたはなんでいるのかしら?」
「あ、お邪魔してます。」
同じテーブルを囲む席に座っている風祝こと、東風谷早苗に
レミリアは問いかける。
「今日からぴーちゃんが空に羽ばたくことになるというのを
先日、咲夜さんから聞きまして是非とも私の奇跡でその手伝いをと。」
両手をグッと握り期待した目をぴーちゃんに向けて言う。
「残念だけど、奇跡なんて起こらないわ。
だって我が紅魔の一員であるぴーちゃんが空を飛ぶ事なんて
必然なのだから。」
チルノと同じくらい自信満々に言うレミリア。
それを聞いてニヤニヤしながらレミリアを見る早苗。
「優しいんですね、レミリアさん。
部下思いというか家族思いですかね?」
「う、うるさいわね!黙って見てなさいよ!」
後ろに控えていた咲夜も2人のやり取りを見てくすりと笑う。
チルノは両手をパタパタと前後させ「はい。」とぴーちゃんへ振る。
始めは首をかしげていたが何度かチルノがやっているのを見て
真似るように羽をパタパタとさせるぴーちゃん。
何度かやっている内に少し足が地面から離れ始めた。
しかし後一歩の所で飛ぶまでは至らない。
見守る周りも少し浮く度にまるで自分の事のように
拳を握り締め力を込める。
「チルノちゃん一度休憩にしませんか?」
休み無しに続けるチルノとぴーちゃんに美鈴が提案する。
「うーん、もう少しなんだけどなぁ…」
チルノはテーブルの方へと近づいてくる。
歩いてではなく何の気無しに飛びながら。
その飛んでいる姿をじっとを見つめるぴーちゃん。
そして
「チルノ!後ろ後ろ!」
「え?」
振り向くと自分の後ろを飛びながら付いてくるぴーちゃんの姿があった。
「ぴーちゃん!」
思わず抱きつくチルノ。
「実際に飛ぶ姿を見せたのが良かったんですかねぇ。」
他の面々が駆け寄っていく中でテーブルに座ったままの
パチュリーに声をかける咲夜。
「さぁ?チルノに親としての才能があったのかも知れないわよ?」
咲夜とパチュリーは視線を合わせお互いにくすりと笑う。
チルノが雲を目指すかのように高く上がっていく。
それを追ってぴーちゃんも空高く飛ぶ。
その姿はまるで空に舞っているようであった。
幻想郷
良いおはなs…あれ?
流石幻想郷。全くブレない
おめでとーございます!!
( д ) ゚ ゚
どうでもいいけど、鳥の「雛」が途中から「鍵山雛」に見えて悶えてました