ルーミアは、ふと考えた。
私には人気が無い、と。
主人公のような華々しいキャラは考えることの無い。
こういうキャラにありがちな、普通の悩みだ。
そして。
その悩みは、すぐにこう直結する。
別にいいか、と。
元々そういうキャラ設定だ、と。
自分を愛してくれる人だってそれなりにいるんだし、と。
普通だったら、そう繋がる。
そう、普通だったら。
しかし、ルーミアは少し違った。
彼女は、人気が欲しかった。
そういう常識を押しのけてまでも。
どうしても欲しい、人気。
それには、はっきりとした理由が一つあった。
それは……主役である魔理沙と仲が良いことだ。
偶然のことでしかないにせよ。
主役。
自分とはあまり縁の無い言葉。
もちろん人気も半端じゃない。
そんな魔理沙と何故か仲がいいのだ。
魔理沙には人気があって、私には無い。
ひょっとして、嫌われるんではないのだろうか。
そう、気付いてしまった。
もちろん、彼女は普段あまり考え事をしない。
元々お気楽主義者で、能天気な性格をしている。
でも。
ここは少し考えなければいけない。
彼女は危機感を持った。
どうしても彼女は嫌われたくなかった。
だが実際、そんな理由で魔理沙はルーミアを嫌ったりはしないだろう。
人気が無いことは悪いことではない。
しかし。
ルーミアは、普段から頭を使わないせいか。
人気が無い=マイナスと決め付け。
マイナス=ダメキャラ。
よって、嫌われると決め付けてしまった。
もはや、この発想自体がマイナスである。
水江○島子や大○マに謝れ!という感じである。
毛玉にだって100人以上の人気投票があったりするのだ。
どんなキャラにでもいい所があって、悪いところでさえもプラスにしている。
それが幻想郷であり、常識なのであり。
結果どんなキャラであっても、多少のファンはつくのである。
しかし。
ルーミアは、そう思い込んでしまった。
思い込んでしまったのだ。
……だが。
それは仕方がない。
思ってしまったことだ。
それを責めても仕方がない。
後は、ルーミアが人気を得るための手段を考えるという現実だけだ。
そう。
それだけ。
しかし。
コレがやっぱり、難しい。
人気は簡単には取れないのである。
簡単に取れたら秋姉妹なんかも苦労しないのである。
ルーミアは考えた。
三日三晩、ひたすら考えた。
妖精たちのお誘いも断った。
嫌われるのが怖くて魔理沙にも会えなかった。
闇にこもって。
ひたすら、ひたすら考え続けた。
そして。
とある晴れた朝。
日光が燦々と辺りを照らす中。
暗い洞窟の中で闇をまといながらルーミアが得た答え。
あなたには、あなたの長所がある―――
魔理沙には無い、長所が―――
突然、神の声が舞い降りてきたようだった。
ルーミアただ一人しかいない洞窟の中に。
もちろん、いきなり声なんか聞こえたら、誰だって不可解だと思うだろう。
しかし、ここはルーミアだ。
何かのお告げだと思ったのだろうか。
何も考えていないのか。
急にその長所について考え込むようになった。
そうなれば、ひたすら考え込む。
ただ、ひたすらに。
思い込みとはいえ、魔理沙との関係がかかっているのだ。
ルーミア自身も、ここまで本気になったのは久しぶりだろう。
だから。
だからなのか。
それがルーミアを後押ししたのだろうか。
一つ、思いついたことがあった。
ルーミアにあって。
魔理沙にないもの。
それは……可愛さ。
ルーミアは思い出したのだろう。
よく魔理沙には可愛いと言われるが。
こちらから言うと魔理沙は否定することを。
つまり、そういうことなのだ。
ここで忘れてはいけないことが一つ。
魔理沙の方が人気者であること。
ルーミアを可愛いと思う人よりも、魔理沙を可愛いという人の方が多い。
それが当たり前のことであり。
常識である。
しかし。
ここはルーミアである。
魔理沙の言ったこと。
それをまったくと言っていいほど疑わない。
それがルーミアなのだ。
仕方が無いことなのだ。
自分=可愛い、を思いつくこと自体もどうかとは思うだろうが。
コレはルーミアが魔理沙に執着しているだけなのだ。
何も悪いことではない。
そして。
ルーミアはまたまた考える。
どうすればこの可愛さを有効に使えるか。
人気に繋げることが出来るか。
ルーミア自身、自分のことについて深く考えたことが無かった。
出てきたのは口癖の「そーなのかー」と。
両手を両横に伸ばした「あのポーズ」だった。
そう、出てきたのはその二つだけ。
たった二つ。
……いや、「たった」二つだろうか。
贅沢を言っているわけではない。
それで十分過ぎる。
要は、ルーミアという可愛いキャラに。
ほんのちょっとしたスパイスを加えるだけなのだ。
これ以上なんて、何が必要だろう。
後は、その二つをどう活用していくか。
コレが、一番の難題である。
ルーミアは考えた。
三日三晩、ひたすら考えた。
闇にこもって。
ひたすら、ひたすら考え続けた。
そして。
いくつもの偶然と。
ルーミアの必死さにより。
くるっと可愛くまわって笑顔で「そーなのかー」という。
斬新な。
最高で。
とても可愛い。
そんなものが出来た。
出来てしまったからには。
残るところ、実行だけである。
そこで、普段は絶対に行かない、人間の里に踏み込んだ。
魔理沙に最初に見せるのは、気恥ずかしかったらしい。
普通なら、この行動だけで大騒ぎである。
妖怪が単身乗り込んだわけなのだから。
ルーミアは、そのことを知っていたのか。
知らなかったわけは無いだろう。
騒がれ。
逃げられ。
あるものには追いかけられたりもした。
しかしルーミアは、くるっとまわって「そーなのかー」を見せたいだけである。
ならば見せるほか無い。
里の中心まで行き。
人々の注目を受ける中で。
くるっと一回転。
両手を横に伸ばし。
とびっきりの笑顔で。
「そーなのかー」
その日、幻想郷が沸いた。
ルーミアがあまりにも可愛かったせいか。
斬新なポーズのおかげか。
その場にいた人々は我を忘れ。
里の中心にいるその少女が妖怪だということも忘れ。
一気にその場に殺到した。
そしてその日から、空前の「そーなのかー」ブームがまきおこった。
たった一日で、ルーミアは幻想郷内での人気者になったのである。
そう。
全てが上手くいった。
そして、それからというもの。
里にあった寺子屋が「郷立そーなのかー小学校」になったり。
ルーミアグッズ専門店「SO-NANOKA-」が出来たり。
「そーなのかー教」なんてものが生まれたり。
人間の里だけではない。
幻想郷が、ルーミアを中心に。
幻想郷が、「そーなのかー」を中心に回り始めた。
神社に行っても、そーなのかー。
天界に行っても、そーなのかー。
地底に行っても、そーなのかー。
そーなのかーは幻想郷共通。
この言葉を知らないものは誰もいない。
そんな言葉にさえ、なった。
そして。
後は、最初に悩んでいた意味での「人気」である。
そして、魔理沙に嫌われないかどうかである。
実は、ここのところルーミアは人気になりすぎていた。
つまり、魔理沙に会うことが出来ていなかった。
人気投票はともかく。
幻想郷内では人気になってしまった。
もちろん、魔理沙よりも。
ルーミアにとってコレは、複雑な気分だった。
そのこと自体が、逆に魔理沙に嫌われないかと心配しているからだ。
幻想郷がおかしくなっているような気もする。
もちろん、私のせいで。
今では里に行けばみんなくるくる回っている。
両手は横に突き出している。
そして聞こえてくるのは「そーなのかー」だけ。
本当にコレでよかったのだろうか。
私は何も間違っていなかったのだろうか。
ルーミアはずっとそんなことを考えるばかりである。
しかし。
何があったのか。
ルーミアは、それを現実に見ることになる。
とある晴れた日の夜。
人間の里から出た。
そのとき。
異変に気付いた。
町の様子が一変した。
今までの謎の流行。
そーなのかー。
それが、何も無かったかのように戻ってしまったのだ。
何故だろう。
どこぞの吸血鬼が運命でも操ったのだろうか。
どこぞの妖怪が歴史を無かったことにしてしまったのだろうか。
いや、違う。
ルーミアには、分かっている。
妖怪なら、誰もが知っているあの妖怪。
あの妖怪が、人々の認識の境界を弄くったのだ。
普段は考え事をしないルーミアでも。
それくらいは簡単に分かった。
分かってしまったのだ。
なぜなら。
今、彼女の目の前には。
そう、「あの」妖怪、八雲紫が悠然と存在していたのだ。
ルーミアには、自分がこれからどうなるのかも分かっている。
なにしろ、形はどうであれ、幻想郷の秩序を乱した張本人なのだ。
粛清されるのは当たり前。
簡単に、分かってしまった。
ルーミアの周囲がざわめく。
そんな、気配がする。
ルーミアには分かる。
直感的なもので分かる。
これから、自分は消えてしまうのだと。
私には、そんなつもりはなかった。
私は、ただ単に魔理沙に嫌われたくないだけだった。
私は……
しかし。
なんの弁解をする余地もなく。
最強の隙間妖怪は、弾幕を放つ。
避けはしない。
避ける気すら起きない。
せめても。
最後に。
唯一つだけ。
魔理沙に会えれば……
そう、願えたのか。
願う間もなかったのか。
宵闇の妖怪ルーミアは、跡形も無く消滅した。
筈だった。
はたから見てみればそうだろう。
弾幕はルーミアの元へ着弾し。
その場には何も残らなかったのだから。
いや。
しかし。
それは、常識的な話。
紫には全てが分かっている。
紫はゆっくりと、後ろを振り向いた。
そこには、ルーミアを脇に抱えた、霧雨魔理沙が存在していた。
紫は気付く。
私はこの立場としてこの二人を殲滅しなければならない。
しかし、相手は人間だ。
妖怪にはほとんど見られない、厄介な、友情と言うものが存在している。
一筋縄ではいかないな、と。
魔理沙は考える。
何があったのか分からない。
何が起きたのかも分からない。
ただ目の前で友が窮地に陥っていたら。
たとえ敵がどんなものであろうと助けるのが道理ではないか。
そもそも、そんなことを考える暇さえなかったけどな、と。
そして、ルーミアは……笑っていた。
友を信じなくてどうする。
私が馬鹿みたいじゃないか。
……いや、馬鹿なんだろう。
大馬鹿者だ。
だから……こんな状況でも、笑っていられるんだ。
どうしてだろう。
ここにいるのは、幻想郷最強の妖怪。
でも、不思議と恐怖を感じない。
これから、魔理沙とルーミアによる。
幻想郷最強の隙間妖怪との戦いが始まる。
しかしそれはまた別のお話―――――
私には人気が無い、と。
主人公のような華々しいキャラは考えることの無い。
こういうキャラにありがちな、普通の悩みだ。
そして。
その悩みは、すぐにこう直結する。
別にいいか、と。
元々そういうキャラ設定だ、と。
自分を愛してくれる人だってそれなりにいるんだし、と。
普通だったら、そう繋がる。
そう、普通だったら。
しかし、ルーミアは少し違った。
彼女は、人気が欲しかった。
そういう常識を押しのけてまでも。
どうしても欲しい、人気。
それには、はっきりとした理由が一つあった。
それは……主役である魔理沙と仲が良いことだ。
偶然のことでしかないにせよ。
主役。
自分とはあまり縁の無い言葉。
もちろん人気も半端じゃない。
そんな魔理沙と何故か仲がいいのだ。
魔理沙には人気があって、私には無い。
ひょっとして、嫌われるんではないのだろうか。
そう、気付いてしまった。
もちろん、彼女は普段あまり考え事をしない。
元々お気楽主義者で、能天気な性格をしている。
でも。
ここは少し考えなければいけない。
彼女は危機感を持った。
どうしても彼女は嫌われたくなかった。
だが実際、そんな理由で魔理沙はルーミアを嫌ったりはしないだろう。
人気が無いことは悪いことではない。
しかし。
ルーミアは、普段から頭を使わないせいか。
人気が無い=マイナスと決め付け。
マイナス=ダメキャラ。
よって、嫌われると決め付けてしまった。
もはや、この発想自体がマイナスである。
水江○島子や大○マに謝れ!という感じである。
毛玉にだって100人以上の人気投票があったりするのだ。
どんなキャラにでもいい所があって、悪いところでさえもプラスにしている。
それが幻想郷であり、常識なのであり。
結果どんなキャラであっても、多少のファンはつくのである。
しかし。
ルーミアは、そう思い込んでしまった。
思い込んでしまったのだ。
……だが。
それは仕方がない。
思ってしまったことだ。
それを責めても仕方がない。
後は、ルーミアが人気を得るための手段を考えるという現実だけだ。
そう。
それだけ。
しかし。
コレがやっぱり、難しい。
人気は簡単には取れないのである。
簡単に取れたら秋姉妹なんかも苦労しないのである。
ルーミアは考えた。
三日三晩、ひたすら考えた。
妖精たちのお誘いも断った。
嫌われるのが怖くて魔理沙にも会えなかった。
闇にこもって。
ひたすら、ひたすら考え続けた。
そして。
とある晴れた朝。
日光が燦々と辺りを照らす中。
暗い洞窟の中で闇をまといながらルーミアが得た答え。
あなたには、あなたの長所がある―――
魔理沙には無い、長所が―――
突然、神の声が舞い降りてきたようだった。
ルーミアただ一人しかいない洞窟の中に。
もちろん、いきなり声なんか聞こえたら、誰だって不可解だと思うだろう。
しかし、ここはルーミアだ。
何かのお告げだと思ったのだろうか。
何も考えていないのか。
急にその長所について考え込むようになった。
そうなれば、ひたすら考え込む。
ただ、ひたすらに。
思い込みとはいえ、魔理沙との関係がかかっているのだ。
ルーミア自身も、ここまで本気になったのは久しぶりだろう。
だから。
だからなのか。
それがルーミアを後押ししたのだろうか。
一つ、思いついたことがあった。
ルーミアにあって。
魔理沙にないもの。
それは……可愛さ。
ルーミアは思い出したのだろう。
よく魔理沙には可愛いと言われるが。
こちらから言うと魔理沙は否定することを。
つまり、そういうことなのだ。
ここで忘れてはいけないことが一つ。
魔理沙の方が人気者であること。
ルーミアを可愛いと思う人よりも、魔理沙を可愛いという人の方が多い。
それが当たり前のことであり。
常識である。
しかし。
ここはルーミアである。
魔理沙の言ったこと。
それをまったくと言っていいほど疑わない。
それがルーミアなのだ。
仕方が無いことなのだ。
自分=可愛い、を思いつくこと自体もどうかとは思うだろうが。
コレはルーミアが魔理沙に執着しているだけなのだ。
何も悪いことではない。
そして。
ルーミアはまたまた考える。
どうすればこの可愛さを有効に使えるか。
人気に繋げることが出来るか。
ルーミア自身、自分のことについて深く考えたことが無かった。
出てきたのは口癖の「そーなのかー」と。
両手を両横に伸ばした「あのポーズ」だった。
そう、出てきたのはその二つだけ。
たった二つ。
……いや、「たった」二つだろうか。
贅沢を言っているわけではない。
それで十分過ぎる。
要は、ルーミアという可愛いキャラに。
ほんのちょっとしたスパイスを加えるだけなのだ。
これ以上なんて、何が必要だろう。
後は、その二つをどう活用していくか。
コレが、一番の難題である。
ルーミアは考えた。
三日三晩、ひたすら考えた。
闇にこもって。
ひたすら、ひたすら考え続けた。
そして。
いくつもの偶然と。
ルーミアの必死さにより。
くるっと可愛くまわって笑顔で「そーなのかー」という。
斬新な。
最高で。
とても可愛い。
そんなものが出来た。
出来てしまったからには。
残るところ、実行だけである。
そこで、普段は絶対に行かない、人間の里に踏み込んだ。
魔理沙に最初に見せるのは、気恥ずかしかったらしい。
普通なら、この行動だけで大騒ぎである。
妖怪が単身乗り込んだわけなのだから。
ルーミアは、そのことを知っていたのか。
知らなかったわけは無いだろう。
騒がれ。
逃げられ。
あるものには追いかけられたりもした。
しかしルーミアは、くるっとまわって「そーなのかー」を見せたいだけである。
ならば見せるほか無い。
里の中心まで行き。
人々の注目を受ける中で。
くるっと一回転。
両手を横に伸ばし。
とびっきりの笑顔で。
「そーなのかー」
その日、幻想郷が沸いた。
ルーミアがあまりにも可愛かったせいか。
斬新なポーズのおかげか。
その場にいた人々は我を忘れ。
里の中心にいるその少女が妖怪だということも忘れ。
一気にその場に殺到した。
そしてその日から、空前の「そーなのかー」ブームがまきおこった。
たった一日で、ルーミアは幻想郷内での人気者になったのである。
そう。
全てが上手くいった。
そして、それからというもの。
里にあった寺子屋が「郷立そーなのかー小学校」になったり。
ルーミアグッズ専門店「SO-NANOKA-」が出来たり。
「そーなのかー教」なんてものが生まれたり。
人間の里だけではない。
幻想郷が、ルーミアを中心に。
幻想郷が、「そーなのかー」を中心に回り始めた。
神社に行っても、そーなのかー。
天界に行っても、そーなのかー。
地底に行っても、そーなのかー。
そーなのかーは幻想郷共通。
この言葉を知らないものは誰もいない。
そんな言葉にさえ、なった。
そして。
後は、最初に悩んでいた意味での「人気」である。
そして、魔理沙に嫌われないかどうかである。
実は、ここのところルーミアは人気になりすぎていた。
つまり、魔理沙に会うことが出来ていなかった。
人気投票はともかく。
幻想郷内では人気になってしまった。
もちろん、魔理沙よりも。
ルーミアにとってコレは、複雑な気分だった。
そのこと自体が、逆に魔理沙に嫌われないかと心配しているからだ。
幻想郷がおかしくなっているような気もする。
もちろん、私のせいで。
今では里に行けばみんなくるくる回っている。
両手は横に突き出している。
そして聞こえてくるのは「そーなのかー」だけ。
本当にコレでよかったのだろうか。
私は何も間違っていなかったのだろうか。
ルーミアはずっとそんなことを考えるばかりである。
しかし。
何があったのか。
ルーミアは、それを現実に見ることになる。
とある晴れた日の夜。
人間の里から出た。
そのとき。
異変に気付いた。
町の様子が一変した。
今までの謎の流行。
そーなのかー。
それが、何も無かったかのように戻ってしまったのだ。
何故だろう。
どこぞの吸血鬼が運命でも操ったのだろうか。
どこぞの妖怪が歴史を無かったことにしてしまったのだろうか。
いや、違う。
ルーミアには、分かっている。
妖怪なら、誰もが知っているあの妖怪。
あの妖怪が、人々の認識の境界を弄くったのだ。
普段は考え事をしないルーミアでも。
それくらいは簡単に分かった。
分かってしまったのだ。
なぜなら。
今、彼女の目の前には。
そう、「あの」妖怪、八雲紫が悠然と存在していたのだ。
ルーミアには、自分がこれからどうなるのかも分かっている。
なにしろ、形はどうであれ、幻想郷の秩序を乱した張本人なのだ。
粛清されるのは当たり前。
簡単に、分かってしまった。
ルーミアの周囲がざわめく。
そんな、気配がする。
ルーミアには分かる。
直感的なもので分かる。
これから、自分は消えてしまうのだと。
私には、そんなつもりはなかった。
私は、ただ単に魔理沙に嫌われたくないだけだった。
私は……
しかし。
なんの弁解をする余地もなく。
最強の隙間妖怪は、弾幕を放つ。
避けはしない。
避ける気すら起きない。
せめても。
最後に。
唯一つだけ。
魔理沙に会えれば……
そう、願えたのか。
願う間もなかったのか。
宵闇の妖怪ルーミアは、跡形も無く消滅した。
筈だった。
はたから見てみればそうだろう。
弾幕はルーミアの元へ着弾し。
その場には何も残らなかったのだから。
いや。
しかし。
それは、常識的な話。
紫には全てが分かっている。
紫はゆっくりと、後ろを振り向いた。
そこには、ルーミアを脇に抱えた、霧雨魔理沙が存在していた。
紫は気付く。
私はこの立場としてこの二人を殲滅しなければならない。
しかし、相手は人間だ。
妖怪にはほとんど見られない、厄介な、友情と言うものが存在している。
一筋縄ではいかないな、と。
魔理沙は考える。
何があったのか分からない。
何が起きたのかも分からない。
ただ目の前で友が窮地に陥っていたら。
たとえ敵がどんなものであろうと助けるのが道理ではないか。
そもそも、そんなことを考える暇さえなかったけどな、と。
そして、ルーミアは……笑っていた。
友を信じなくてどうする。
私が馬鹿みたいじゃないか。
……いや、馬鹿なんだろう。
大馬鹿者だ。
だから……こんな状況でも、笑っていられるんだ。
どうしてだろう。
ここにいるのは、幻想郷最強の妖怪。
でも、不思議と恐怖を感じない。
これから、魔理沙とルーミアによる。
幻想郷最強の隙間妖怪との戦いが始まる。
しかしそれはまた別のお話―――――
でも許す(*´∇`*)