「暑い~~~」
薄暗い地下室。そこで私は、うな垂れながら小さく唸った。
季節は夏。太陽はその力を誇示するかのようにサンサンと輝き、幻想郷の気温を上げる。
その結果、窓も無いこの地下室は最早ちょっとしたサウナ状態だ。
「咲夜に、何か冷たい飲み物でももらおうかな」
「それには及びませんわ」
呟くと同時に、地下室の扉が開く。視線を向けると、そこにはグラスが載ったトレイを持った咲夜が立っていた。
「冷たいアイスティーをお持ち致しましたわ」
「さすが咲夜、まるで盗聴してるみたいなタイミングだね♪」
「乙女の感ですわ」
ニコっと微笑む咲夜から、私はグラスを受け取る。中の氷がはぜて、カランと涼しい音を立てた。
「うん、冷たい」
グラスを傾けると、よく冷えたアイスティーが喉を潤してくれる。私が笑顔を浮かべると、咲夜は嬉しそうに頷いた。
「それは良かったですわ。やはり夏には、冷たい物が一番だと思いまして」
「うん、確かにそうだね」
同意して、再び私はグラスを傾ける。喉が渇いていたせいもあって、冷えたグラスはすぐに空になった。
「あ……なくなっちゃった」
「お代わりをお持ち致しましょうか?」
「うん……あ、でも」
空になったグラスを渡した所で、私の脳裏に一つの考えが浮かぶ。
冷たいお茶は、確かに暑さを忘れさせてくれる。しかしそれは、一瞬のことだ。
この夏の暑さを紛らわすには、これだけでは頼りない気がする。
「ねぇ咲夜、他にも何か涼しくなる方法って無いかな?」
「他に、ですか?」
問われて、咲夜は首を捻る。
「うん。冷たくなる方法を沢山集めたら、きっとこんな暑さも吹き飛ばせると思うの」
「涼しくなる方法……夏特有の、納涼ですか?」
「そう、納涼! 咲夜にとって、夏って言えば何がある?」
「そうですね……」
その場で腕組みして、咲夜は考え込む。しかしすぐに何か気付いたように小さく声を上げると、両手をポンっと合わせた。
「あ、一つ思い付きましたわ」
「なになに?」
興味津々に咲夜の顔を覗き込むと、彼女は楽しそうに頬を緩ませた。
「そうですね、少々準備に時間がかかりますが、よろしいですか?」
「時間がかかる物なの?」
「ええ、ちょっと機械を探してこなければならないので。たぶん、キッチンの戸棚にしまってあると思うのですが」
機械? 何だろう?
訳が分からないが、ここで答えを聞いてしまうのも少しもったいない気がする。
どこか楽しそうな咲夜を見る限り、準備が出来るまで知らない方が面白そうだ。
「それじゃあ私は、その間に他の人にも色々聞いてみるね!」
色々な人に聞けば、沢山の涼しくなる物が集まるはずだ。
どんな物が集まるのか考えたら、何だか楽しくなってきた。
「ええ、準備が出来たらお呼び致しますわ」
私の言葉に、咲夜は笑顔で頷く。それを受けて、私は熱気の篭った地下室から元気良く飛び出した。
ケース1 パチュリー・ノーレッジの夏
「ねぇパチェ、夏といえばなぁんだ?」
紅魔館の地下にあるのは、私の部屋だけではない。
私の部屋からすぐ上に、広いスペースがある。そこには幻想郷最大を誇る大きさの図書館が存在している。
「……なぞなぞかしら?」
その図書館で、主であるパチュリー・ノーレッジは読んでいた本から視線を上げると、首を傾げた。
「違うよー。あのね、夏特有の、暑さを紛らわす方法を探してるの!」
「ああ、納涼ね」
「納涼ですか~、色々ありますね~」
納得するパチェの隣に立つ小悪魔が、口を開く。そして二人は、考え込むように顎に手を当てた。
「納涼って言っても、この図書館は本の為に、魔法で温度を年中一定になるように調整してるし……」
言われてみると、確かにこの図書館は涼しい。虚弱体質なパチェがこの暑さの中でも涼しい顔をしているのも、このおかげだろう。
「いいな~。ねぇパチェ、私の部屋にもその魔法かけてよ?」
「あのね妹様、そのお願いは去年もされたわよ?」
苦笑しながら、パチェは口を開く。
「さすがに、それは少し無理があるわ。これ以上範囲を広げちゃったら、私の体が持たないの」
「そうですね~。この図書館だけでも、結構魔力を消費しちゃってますから」
パチェの言葉に、小悪魔は苦笑しながら頷く。
ちぇ、残念だ。この魔法が館全体に広がれば、みんな快適に過ごせるのに。
「納涼、ねぇ……」
呟いて、パチェは小悪魔の顔をじっと見つめる。
そして、
「そうね……魔法なんかに頼らなくても涼しくなる方法に、一つ心当たりがあったわ」
「…………?」
ニヤリと頬を吊り上げ、笑みを浮かべる。それに小悪魔は、訳も分からずに首を傾げていた。
――☆――
「これはね、里で噂されている話なんだけど」
冷たい風が吹く、地下の図書館。そこにある椅子に腰掛けて、パチェは静かに口を開いた。
「ある日、里にある骨董屋の主が一枚の絵を手に入れたの。それは、古めかしい井戸の絵。
誰が描いたのかも分からない絵だったけど、不思議と主はその絵が気に入ってしまった」
いつもよりも低くて、さらに呟くような小さいパチェの声。それを私は、黙って聞く。
「主はその絵を自分の物にして、店に並べずに地下にある書斎に飾ったの。しかし次の日、その絵に変化が起きた。絵の中にある井戸から、一本の手が伸びていたの」
「きゃああああああああ!!!!」
突然、隣から叫び声が上がる。驚いて視線を向けると、そこには両手で耳を塞ぐ小悪魔の姿。
「小悪魔、どうしたの?」
首を傾げて問うが、彼女はガタガタと震えるだけだ。まぁ、耳を塞いでいるのだから当然と言えば当然だが。
「何よ小悪魔、ここからが面白い所よ?」
話を邪魔されたのが気に食わなかったのか、パチェは「まだ手しか出てきてないじゃない」と面白くなさそうに呟く。
私が問うた、《夏と言えば?》。その問いに対するパチェの答えは、怪談だった。
ということで、先程までパチェが知ってる怖い話を聞かせてもらっていた訳だが、どうやら小悪魔はその手の話が苦手らしい。
「無理ですこんなの嫌です聞きたくないですもうお家に帰りたいです~~~~!!!!」
体を恐怖で震わせながら、小悪魔は叫ぶ。
それを見て、パチェは深く溜息を付いた。
「まったく……これじゃあ納涼どころじゃないわね」
「そうだよ小悪魔、全然涼しくなれないよー?」
「こんな怖い話聞くくらいなら、熱中症で死んだ方がマシですよ~!」
「アンタ、曲がりなりにも悪魔でしょうが」
涙目で訴えてくる小悪魔を見て、パチェは呆れたように口を開く。そして、
「仕方ないわね……話を進める為にも、まずはこのヘタレ悪魔を何とかしましょうか」
ニヤリと、いやらしい笑みを浮かべたかと思うと、腕を伸ばし小悪魔の口を塞ぐ。
「むがッ!?」
小悪魔は驚いて声を上げるが、それはパチェによって塞がれている為に言葉にならない。
「妹様は両手をお願い。耳を塞がれちゃったら意味が無いわ」
「りょーかい♪」
頼まれて、私は小悪魔の両手を掴む。
「むががッ!?」
口と両手を封じられて、小悪魔は困惑した表情で私達を交互に見る。
「それじゃあ、続きを語ろうかしら……しっかりと聞くのよ、小悪魔?」
「楽しみだねー、きっと涼しくなれるよー♪」
私達が浮かべた笑みを見た小悪魔は、首をぶんぶんと振る。
そして、
「むががががーーーーー!!!!」
小悪魔の声にならない叫びが、涼しい図書館に木霊した……。
ケース2 紅 美鈴の夏
「夏と言えば、ですか?」
私が続いて訪れたのは、館の外だった。日傘を差してはいるが、それでも頭上から照り付けてくる太陽の熱を感じる。
先程まで涼しい図書館にいたせいで、いつもより外の気温が高く感じる。そんな暑い中、門の前に立つ紅 美鈴は、私の問いに考え込むように腕を組む。
「そうですねぇ……花火とかどうでしょう?」
「花火! 見たい見たい!」
美鈴の言葉に、私はその場で飛び跳ねる。そうか、確かに夏と言えば花火だ。
「おや、妹様も花火は好きですか?」
「うん! 綺麗だし、楽しいもん」
「ですよねー」
私の言葉を聞いて、美鈴はうんうんと頷く。
「やっぱり夏と言えば、浴衣を着て縁側に座り、祭りの花火を見るのが風流ってヤツですよ。遠くから聞こえる祭囃子に耳を傾けながら、屋台で買った焼きトウモロコシ頬張っちゃたりなんかしたら、もう最高ですね」
「美鈴! あのねあのね、私たこ焼きがいい!」
「おっと妹様、デザートにリンゴ飴さんも忘れちゃ駄目ですよ?」
「当然だよ♪」
いいなぁ、お祭り。こうやって話してるだけで、楽しくなってくる。
しかしそこで、私は重要なことに気付いてしまった。
「ん~~……でも美鈴?」
「はい、何ですか?」
「花火見ても、涼しくならないよ?」
確かに花火は綺麗だ。縁日の出店も素敵だ。
しかしそれじゃあ、特に涼しくはならない。と言うより、花火は夜やるものなのだから、昼より涼しいのは当然だ。
「あ……」
美鈴の笑顔が引きつる。どうやら彼女も、それに気付いたようだ。
「さらにね美鈴、ウチは館だから縁側なんて無いよ?」
「う……」
「あとねあとね、ウチに浴衣なんてあったかなぁ?」
「うぅ……」
言えば言うほどに、美鈴の言う夏は、この紅魔館とは無縁のような気がしてくる。
「だいたい美鈴はいつも中国人みたいな格好をしてるくせに、何が風流?」
「中国人じゃないですよぉ!!」
私の言葉に、美鈴はガーっと吠える。その目は余程悔しかったのか、少し涙が浮かんでいる。
「いいんですよぉ。どーせ私は、学も力も無いB級門番妖怪なんですよぅ」
吠えたかと思いきや、美鈴はすぐにその場で座り込んで、地面にのの字を書く。
相変わらず、コロコロと表情が変わって面白い。
「大丈夫だよ、美鈴!」
落ち込んでいる美鈴の肩を、私はポンっと叩く。そして、
「そんなこと、もうみんな分かってるから!」
「うわーーーーん!!!!」
美鈴は一人、その場で号泣した。
ケース3 十六夜 咲夜の夏
「さーくや♪」
美鈴を苛めて楽しんだ私は、再び館の中へと戻った。
そろそろ咲夜の準備とやらも終わった頃だろうかと思いながらキッチンに顔を出すと、そこには予想通りに彼女の姿がある。
「ああ、妹様。丁度今からお呼び致そうとした所ですわ」
「じゃあ、準備っていうのは終わったの?」
「ええ、お待たせして申し訳ございませんでした」
そう言って、咲夜は頭を深々と下げる。しかしその顔には、どこか楽しそうな笑みが浮かんでいた。
「それでそれで? 咲夜にとって、夏といえばなぁに?」
「それはですね……コレですよ」
咲夜は笑顔を浮かべて、こちらへ小さな硝子製の器を差し出す。
その中には、
「カキ氷だ!」
細かい氷の粒が重なって出来た山があった。そのてっぺんから、甘そうな赤いシロップもかかっている。
なるほど、機械を探すと言っていたのはコレを作る為だったのか。
「昔に香霖堂で見つけた物ですが、まだ使えてよかったですわ」
そう言って笑う咲夜の胸には、何やら可愛らしい青色の鳥のような絵が付いたカキ氷機が抱かれていた。
「さらにかかっているこのシロップは、妹様用に私がお作りした希少種入りの特製品です」
「おーー!!」
さすがは咲夜だ。伊達に瀟洒と呼ばれていない。
私は瞳を輝かせながら、器に入ったカキ氷を見つめる。光に反射して、その姿は白銀にキラキラと輝いていた。
「ねぇねぇ咲夜、食べてもいーい?」
「ええ、どうぞ」
差し出されたスプーンを受け取り、カキ氷を口へと運ぶ。氷の冷たさとシロップの甘みが、口に広がる。
「うん、冷たくて美味しい~!」
「それは良かったですわ」
カキ氷を頬張る私を見て、咲夜は嬉しそうに微笑む。
確かに、夏と言えばカキ氷だ。冷たいし美味しいし、一口食べれば暑さなど吹き飛んでしまう。
「それでは私は、機械を片付けてきますわ」
「あ、ちょっと待って咲夜!」
キッチンの奥へと下がろうと踵を返す咲夜を、私は慌てて呼び止める。
そして器を持ったまま立ち上がると、彼女の元へと駆け寄る。
「どうかなさいましたか、妹様?」
近づいてきた私を見て、咲夜は不思議そうに首を傾げる。
そんな彼女に、私は
「はい、咲夜」
カキ氷を乗せたスプーンを、彼女に差し出す。
「あの……はい?」
「だから咲夜、あーん♪」
「ええっと……」
カキ氷を差し出す私を見て、困惑する咲夜。続いて辺りをキョロキョロと見渡すと、再びこちらに向きなおした。
「……私に、ですか?」
「うん! 冷たくって美味しいよ?」
私の言葉に、咲夜の顔に笑顔が戻る。そして少し照れたようにはにかんで、頷いた。
「それでは、お言葉に甘えて」
差し出したスプーンを、咲夜は口へと運ぶ。そして、ニッコリと笑った。
「本当ですわ。冷たくて、美味しいです」
「えへへ~、そうでしょ?」
咲夜の笑顔を見て、私も笑う。
こんなにも美味しく出来たのだから、咲夜も食べなきゃ損だ。
「咲夜、ありがとね」
「ええ、こちらこそありがとうございますわ」
お互いに笑い合って、私は再びカキ氷を口へと運ぶ。
口の中に広がるシロップの甘い味は、先程よりも少し濃いような気がした。
ケース4 フランドール・スカーレット
「う~ん……」
カキ氷を平らげてキッチンを後にした私は、館の廊下を歩きながら一人首を傾げていた。
頭に浮かぶのは、カキ氷を食べていた時に咲夜から訊かれた言葉。
『そう言えば妹様?』
『ん~~、なぁに?』
こめかみを押さえながら、私は返事をする。美味しいからと言って、少々カキ氷をがっつき過ぎたようだ。先程から、キンキンと頭が痛む。
そんな私の姿に苦笑しながら、咲夜は言葉を続ける。
『先程から色々な方の意見を聞いているようですが、妹様にとっての夏は何ですか?』
『私にとって?』
『ええ、そうですわ。人それぞれに夏特有の過ごし方があるようなので、妹様にも何か思い当たるものがあるのではないかと思いまして』
『う~~ん……夏、かぁ』
腕を組んで考えるが、特に何も思い浮かばない。
私にとっての、夏……。
それは、いったい何だろう?
『何だろう……でも、何かあったような気がする』
何かが、喉の奥に突っ掛かっている感じがする。
私の夏……確か、何かある気がする。
『……よし!』
私は残ったカキ氷を、口へと流し込む。
そして空になった器をテーブルの上に置くと、椅子から立ち上がった。
『ちょっと、探してくる! 私の、忘れた夏!』
『そうですか。見つかったら、是非とも教えて下さいね』
『うん! それじゃあ咲夜、ご馳走様でした』
『はい、お粗末様でした』
と言う訳で、私は先程から館の中をウロウロとしている。私は普段から屋敷から出ることが無い。だからきっと、私の夏は屋敷の中にあるはずだ。
「何かあったと思うんだけど……何だっけなぁ」
考えながら歩いていると、目の前に扉が現れる。この先は、先程行ったヴワル図書館だ。
もしかしたら、去年の私がどんな風に過ごしていたかパチェは知っているかもしれない。そう思った私は、再びその扉を開いた。
――☆――
「パチェ、あのねあのね!」
図書館の奥にある、少しだけ開けた場所。そこには、いつもパチェが使っている椅子と机がある。
その椅子に腰掛けて本を読んでいるパチェの後姿を見つけて、私は声をかける。しかしその声に振り返ったパチュリーは、静かにしろと言わんばかりに、人差し指をピンと立てて口元へ当てた。
「……どうしたの?」
訳が分からずに、私は首を傾げる。すると彼女は、ニコっと優しい笑みを浮かべてこちらへ手招きをした。
招かれるまま、私は彼女の元へと近づいていく。そして、
「あ……」
そこには、一人の少女が机に突っ伏して眠っていた。肩まで伸びるウェーブがかった髪に、背中にある一対のコウモリの羽――私の姉である、レミリア・スカーレットだ。
「お姉さま、こんな所で寝ちゃってどうしたの?」
「暑いから、ここに涼みに来たのよ。でも気持ちよくなって、すぐに寝ちゃったわ」
小声で訊ねる私に、パチェは同じように小さく呟くように答える。
「まったく……ここは本を読む場所であって、昼寝をする所ではないっていうのに」
不満気に言うが、パチェの顔は優しい笑みが浮かんでいる。
それを見て、私の中で一つの記憶が蘇った。
「あ……そうだった」
それは、去年の夏。確か私は、時々涼しいこの図書館で過ごしていた。そしてその隣には、いつも私と同じように涼みに来たお姉さまの姿もあったのだ。
「お姉さまってば、読書にきたって言うくせに、すぐにお昼寝ちゃうんだよね」
「そうね。妹様が絵本を一冊読み終わる頃には、いつもすぅすぅ寝息を立ててたわ」
私の言葉に、パチェは苦笑しながら頷く。
思い出した……忘れていた、私の夏。
「ねぇパチェ、絵本読んでもいーい?」
私が訊くと、パチェは優しい笑みを浮かべて頷く。
「ええ、勿論。ちゃんとした利用者は、喜んで受け入れるわよ」
「ありがと」
礼を言い、私は近くの本棚から適当に一冊の絵本を取り出した。
――☆――
「パチュリー様、アイスティーをお持ちいたしましたわ」
心地よく冷たい風が吹く、ヴワル図書館。グラスを乗せたトレイを持ってそこを訪れた十六夜 咲夜に、図書館の主であるパチュリー・ノーレッジは人差し指をピンと伸ばして口元へ当てた。
「…………?」
訳が分からずに、咲夜は首を傾げる。しかしその疑問は、パチュリーがいるテーブルに近づくと簡単に解消された。
「ああ、なるほど……」
彼女が座る椅子の対面に、二人の少女がいた。
二人は仲良く隣り合って、机に突っ伏したまま気持ち良さそうにすぅすぅと寝息を立てている。
「なんだか、懐かしいですわね」
「ええ。去年も確か、こうして二人で仲良くお昼寝してたわ。まったく、困った姉妹ね」
「そうは言いますが、どこか嬉しそうですね」
「あら、それは咲夜もでしょ? 口元、思いっきり緩んでるわよ?」
「ふふっ……何だかこれも、夏らしい光景ですね」
「ええ、そうね」
互いに笑い合いながら、二人は姉妹へと優しい瞳を向ける。
そんなことを知らない姉妹は、相も変わらずに気持ち良さそうに寝息を立て続けていた……。
思い出した……。
グラスに入った氷がはぜる、綺麗な音や……
パチュリーが本のページを捲る、乾いた音も……
咲夜がかけてくれる、タオルケットの優しい感触とか……。
すぐ隣から聞こえる、お姉さまの気持ち良さそうな寝息が……。
その全部が、私の大好きな《夏》です。
フランドール・スカーレット
――FIN――
フランちゃん可愛いよ
それが上手く表現されている 読んでいて心落ち着く作品でした。
フランちゃんの羽のように綺麗なお話でした。